回転する尻尾。一瞬で周囲を凍らせる瘴気。振り下ろされる巨腕。地を抉る
クランベリーを正気へ戻す事に成功したわたしは、ようやくコキュードスとルージュが対峙している場へ意識を集中する事が出来た。パラソルを失ったルージュは魔力の
「射貫け――
ルージュが掌へ顕現して放った
「殲滅せよ――
コキュードスの上空から降り注ぐ臙脂色の雨。それは、
「無駄だ」
「そうであろうな」
刹那、氷魔神の尾を両手で掴んだルージュが、そのままコキュードスを投げ飛ばそうとする。ルージュの手には濃い臙脂色の
この時ルージュは両手で尾を掴んでいたため、一瞬、反応が遅れてしまった。咄嗟に彼女が創った血による障壁を易々と打ち破った氷塊はルージュを呑み込もうとし……。
「――
「
ルージュの身体を
「アップル様!」
「お待たせ! ルージュ。もう大丈夫よ」
「お役に立てず申し訳ございません」
「そんなことはないわ。それより、あそこ。バルコニーで余裕ぶっこいてるマロン司祭を捕らえておいて。コキュードスの件が終わったら彼と話したい事がいっぱいあるから」
「畏まりました。我が責任持って奴を捕らえます」
わたしが促した先は、神殿のバルコニーの上。こちらの様子を見て楽しんで居る様子。彼が油断している今が絶好のチャンス。片膝をついて軽く頭を下げたルージュは姿がその場から消失する。これでマロン司祭が逃亡する最悪の事態は阻止出来た。あとは眼前のコキュードスへ集中するのみ。
「
いつの間にかクランベリーの攻撃が、桃色の短刀から桃色の爆発へと変わっていた。瘴気に護られた氷魔神の体躯を貫く事は出来ないが、留まる事を知らない連続攻撃に、流石のコキュードスも嫌気がさしたのだろう。ルージュへ先程放った氷塊をクランベリーへ向け連続で放っていた。
しかし、高速移動で旋回するクランベリーは氷塊を回避し、被弾しそうになった際はわたしが
「なん……だと!?」
「
コキュードスの体躯が初めて揺れる。初めて翼を広げた氷魔神がクランベリー目掛け突進するも、
「やったわねクランベリー。無事?」
「アップル様流石ですわ。愛の力で負ける気がしません。どんどん力が
そう、姿が変わったとはいえ、彼女の全身はわたしの魔力で出来た
わたしが
つまり、
いまのわたしとクランベリーは戦闘に於いても最強の
「……嘗めるな小童共」
コキュードスが上空へと舞い上がり、そのまま翼をはためかせる!
周囲を一瞬にして凍らせてしまう吹雪。わたしは両手を広げ、
普段見えることのない
「
クランベリーが放ったのは桃色の光に包まれた輝く三本の矢。わたしの聖なる魔力とクランベリーの愛の力を併せて創ったものらしく、
「煩わしい羽虫め」
結界が軋み、大地が揺れる。
あろうことか、コキュードスは絶対防御の結界へ向けて腕を振るい、爪をたてたのだ!
くっ、なんて力なの……!?
「
「無駄だ!」
その時わたしの脳裏にはコキュードスの巨大な爪によって身体が引き裂かれ、そのままバラバラになって氷漬けにされる映像が浮かんだ。
ソーシャルディスタンスは保たれている。今のは……殺気による威圧だ。わたしが見たものは、強烈な死のイメージ。
きっとクランベリーも同じ映像を見たんだろう。連続で攻撃を放っていたクランベリーが一瞬
「クランベリー大丈夫よ。この結界はあの魔王グレイスでも打ち破られなかった結界だから」
「はい……、ちょっと油断しました。もう大丈夫です」
わたしの手を取り、立ち上がるクランベリー。このくらいでわたしたちが負ける訳ないもの。
「魔王だと!? 彼奴を……知っているのか!?」
「え?」
開かれた
「彼奴はどこだ!」
「なっ! 待って!」
凍っていた
――激しく揺れる大地と共に
「……嘘でしょう?」
「言う気がないのなら……そのまま死ね」
「クランベリー逃げて!」
わたしはクランベリーの前へ立ち、両手を広げて魔力による結界を創り出す。迫る巨大な氷塊。長い歳月、魔王に封印された事による絶望と憎しみと怒り。様々な負の感情が籠もった氷塊はわたしの眼前に迫っている。
だいじょうぶ。クランベリーは、わたしが護るもの――
「アップル様ぁあああああ!」
わたしの視界は白い光に包まれて……。
周囲は静寂に包まれる。もしかしてわたし、凍ってしまったのだろうか?
「間一髪だったな。間に合ってよかった」
「え?」
そんな事を考えて居たわたしの脳裏に甘く低い声が響き、わたしはゆっくり眼を開けた。漆黒の
「グ、グレイス!」
「待たせたな、アップル。此処からは蹂躙の時間だ」