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推理少女は死を追った
推理少女は死を追った
ReMiRiA
ミステリー警察・探偵
2024年10月25日
公開日
6.7万字
連載中
【ミステリー部門「人気・更新」週間1位】【不定期更新(遅くなることも)】 高校で根暗な生活を送る水野弘乙の前に、高嶺の華であり天才と呼ばれる霧切推理が訪れる 「どうやら、君はこの私を御要望のようだね」 その言葉と共に探偵の助手に指名され思わず疑う弘乙だが段々と隠された世界の真実を知って行き… 各々の感情が交差するラブコメ含みの感覚探偵小説(サスペンスも忍んでおります)

1章 探偵と「 」の相対 編

#1 探偵は推理と名乗る

『探偵』と聞けばどんな人物を想像するだろうか?

凄惨な事件現場に残された痕跡を冷静に分析し犯人の仕掛けた様々なトリックを見破る。そして最後に集めた証拠を元に犯人に対してカッコ良く推理を決める。何とも夢のある話だがあくまで空想であって現実ではまず有り得ない。

(正確には居るかもしれないが事件を解決するような本格派ではないはずだ)

それは今の世界情勢を考えれば当然のことだと俺自身も思っていたし『探偵になりたいのか?』と言われてみれば別にそうじゃない。探偵小説は読んでも別に探偵志望な訳でもなければ助手志望でもないのだ。

ただ、この目で「本物」見てみたい…それだけだった。でも、それはあくまでも空想でその願いは叶わないものだと分かっていた。


緋纓高校へと入学し…本当の彼女を知ったあの日までは…。


 ※ ※ ※ ※ ※ 


「君はどうやらを御要望のようだね」


夏も明けた放課後、教室に残った俺は先日、近くの書店で買った探偵モノのラノベを読もうとしていた。好きな作家が書く探偵小説の最新刊だし楽しみにしていたのだが…中へと入ってきた彼女は俺の幸せな時間を無下にするような発言を言い放つと席に座る俺の目の前で立ち止まった。念の為、辺りを見回してみたが俺と彼女以外、既に帰宅していた。

「…どうやら、その言葉は俺に向けられた発言のようだな」

「君以外に言ってないように見えるんだけどね。弘乙くん」

「…見えないけど。後、名前で呼ぶのは止めてくれないか?霧切さん」

そもそも俺と彼女は入学してから喋ったこともなければ関係性もない。正に赤の他人だ。

「それで?氷姫がこの凡人に何の用なんだ?用がなければさっさと其処を退いてくれないか?流石に目の前に立たれると読書に集中出来ないんだ」

「氷姫ってのは昔の渾名だけど…君は凡人が渾名なの?」

「別にそう呼ばれてねぇよ。あくまで自称だ」

「何で凡人って自称するの?」

「特筆すべき要素もなければ友達も片手で数える程度。クラスで目立つキャラでもなければ前に立って行動することもないんだ。凡人って言葉が正確で的を射ているだろ?」

「ふーん」

俺の説明に彼女は目を細める。別に俺自身はそうだと思ってるしそれが自分の生きてきた人生観で最も適切だと思った。だが彼女は違う。紅く輝く瞳に淡い銀髪を靡かせた彼女、霧切推理は入学初日から容姿に惹かれた数々の男子の屍を築き上げたことで『撃墜姫』だの振り方が余りに冷酷なことから『氷姫』だのと揶揄されていた。

(まぁ、実際は男女分け隔てなく喋るから次第に『姫』と呼ばれるようになったって神野が言ってたな。…そんなこと俺には関係ないと思ってたんだがな)

「それにしても俺の名前を覚えてるなんてな。こんな奴に興味なんてないと思ってた」

「私は探偵だからね。同じクラスの顔と名前、いやこの学校の全員の名前を暗記しているんだよ」

「それはまた随分な記憶力をお持ちなことで」

彼女の天才ぶりに呆れたが『探偵』と言う言葉に惹かれた俺は少しの間、彼女に向き合うことにした。

「どうやら様子を見る限り、私を探偵だと信じてないね。君も心外だなぁ」

「…自称で天才だとか馬鹿だとか言うことはあるが探偵を名乗るようにもなったのか。最近は何が流行るか分からないものだな」

君は私を何だと思ってるの?と呆れたような表情を浮かべたかと思えば前の席に座ると笑みを溢した。

「それでも、探偵小説をわざわざ読んでる辺り、探偵自体は別に好きなんでしょ?」

「それは…そうだな。最も、探偵モノが好きなだけであって別に君は好きじゃない」

「それはそれは…随分と心にないことを言ってくれるんだね」

「…はぁ。で、俺に何の用なんだ?先に言うが、揶揄うのなら他に当たりなよ?こんな奴を煽ったところで得るのは時間を無駄に浪費した功績だけだぞ」

「別に揶揄いに来た訳じゃないよ?それに…」

一応、提案したものの霧切はその提案にキッパリと断ると


「私はただ、君に呼ばれたから来たんだ」


などと言うものだから思わず『は?』と本音を漏らしてしまった。

「…どうしてそんな結論に至ったんだ?凡人の俺には全く理解が出来ないんだが?」

別に俺が霧切同様に天才だとは思ったこともないから彼女の言う言葉の真意を全て理解出来るとは到底思ってない…が今の彼女の言葉には本当に理解が出来なかった。

「因みに凡人の俺が理解出来るような説明は出来るか?」

「簡単だよ…私の推理でそう導いたんだ」

…この女は本当にふざけてるのだろうか?そんな理由で信用出来る訳もないし逆に不信感が上がった。

「俺は暇じゃないんだ。それが例え霧切さんであっても付き合う時間はない」

「…弘乙くん。今日は探偵小説の本を3冊持って来てるでしょ?」

どうやら、名前に乗じて勝手に推理を始めたらしい。…聞くだけ聞くか。

「今、読んでたのは19世紀後半に発表された『四つの署名』でしょ?」

「…そうだな。じゃあ、何に掲載される形で発表された?」

『リピンコット・マガジン』と簡単に答える辺り知識だけは伊達じゃないようだ。

「勿論。で、後の2冊は最近になって発売されてる探偵小説だよね?」

「そうだ。最も…雰囲気に惹かれただけで変な趣味はない」

「私も片方は読んだよ。探偵に推理させたら駄目ってタイトルの方をね」

表紙に載ってるイラストの指摘を懸念しつつ俺はそう述べたが杞憂だったようだ。

「…斬新だよな。タイトルで探偵なのに推理することを否定させるって」

その後も色々な人のを暴露されたことで俺の良心は折れた。

「…どうやら、自称探偵で生きる馬鹿だと思ったがそうじゃないようだな」

「じゃあ、自称探偵って言ったことを撤回してくれる?」

「別に其処に拘る理由はないと思うが…撤回はする」

「うんうん。それで良いんだよ。それで最初に戻るけど…君の要望は?」

どうやら原点回帰したようだ…探偵風に語るなら伏線回収とやらだ。

とはいえ、別に探偵を要望してる訳じゃない。さて、どうするべきだろう?

「…要望は特にないが敢えて言うのなら事件はに解決するべきだな」

事件は起きる前に解決するのが本当の探偵と何処ぞの本で学んだしな。

「じゃあ、その要望を飲んであげる代わりに私の要望を聞いてくれるかな?」

「…探偵を要望してるのだの何だの言ってた癖に等価交換を求めるんだな」

「本音と建前って言うでしょ?さっきのは本音へ差し込む建前なんだよ」

「…強情な理論だと思うが_。まぁ…聞くだけ聞くさ」

彼氏役は遠慮するが…他のことならやってみても…そう思った時だった。

「うん。やっぱり、君は私に相応しいね。よし、決めた。私の助手になってよ」

…前言撤回だ。どうやら彼女も、そして期待して聞いた俺も立派な馬鹿なようだった。

「助手って…何を言ってるんだ?」

「私は探偵だよ?その相方…相棒と言えば助手に決まってるでしょ?」

どうやら、探偵風に語っているもののやはり彼氏役を要望するらしい。

「俺に彼氏役を選ぶなんてな見る目ないと思うぞ?流石にその選択は止めときな」

「別に彼氏役を要望してる訳じゃないんだけど…って待ってよ!」

此処で無駄に議論をしても時間の無駄だしさっさと帰ることにした。

断る理由は簡単だ。彼女が探偵に焦がれても中身は男子の屍を築き上げた少女。

「公に…仮の彼氏役であっても知られたら男たちに殺される展開が目に見えてるしな」


「随分と厄介だったな」

そう呟きながら俺は暗くなった帰路を歩いた。

霧切さんに話し掛けられて実は少し期待した_のも束の間…俺は弄ばれた。

勿論、今後の霧切さんとの関係性を考慮した上で俺は早々に退場することにしたのもある。

「ヤケに疲れたな_」

取り敢えず、家に帰って本の続きでも読もう。そう思った時だった。

「ど、泥棒よぉ!」

そう大きな声を聞き振り返ると道の脇場にお婆さんが倒れ込んでいた。

状況を把握するに引ったくりに遭ったようだ。

「怪我はありますか?」

「ないけど…鞄を、財布の入った鞄を盗られたの。あっちに逃げて行ったのよ!」

指差した方を見ると走って逃げ去る人物を見掛けた。

「あれよ!あの服の色…。あの男こそ犯人よ!」

目視で確認してみたが俺が全速力で走ってギリギリ間に合う距離だ。

「ちょっと待っててね。お婆さん」

そういうと俺は鞄をその場に置いて走り出した。

「(それにしても引ったくりだなんて…)」

まぁ、する分には好都合な条件だ。暗くなって視界も悪くお婆さんは1人。

服の色や顔も見えにくく犯人を追い詰める証拠も少なくなりやすい。

結構な知能犯だ。そう思いながらふと気付いた。


「(…何で服の色を見えたんだ?)」


暗くなってる上、仮に見えたとしても環境の所為で正確な色の判断がしにくい。

にもお婆さんの視力が良かったとしても可能性としては考えにくい。

にみ関わらず何故、服の色を簡単に判断のか?

「…マズイ」

その時になって俺はようやく気付いた。自分が騙されていたことに_。


「最近の若者はすぐ騙される…。本当に駄目だねぇ」

そう呟き、少年の落とした鞄を拾い上げ運ぼうとした時だった。

「お婆さん。それ、貴方の物じゃないでしょ?」

「えっ?」

振り返るとそれまで居なかった少女が立っていた。

「…何者、なんだい?アンタは」

「流石に名前は名乗れないんだけどね。うーん、名乗るなら探偵…ってことで!」

そう少女が名乗った時、さっきの少年が走って戻ってきた。

「おい、婆さん。俺を騙しやがったな!って…霧切?」

「よっ!また会ったね。あ、もう君の鞄は取り戻してるあるから。感謝してよ?」

そう笑った少女の手元を見ると鞄をしっかりと抱いていた。

「もう警察は呼んでるし、勘弁してよね。お婆ちゃん」

「随分と容赦ねぇな、お前」

そうして遠くから鳴り響くサイレンにお婆さんは肩を落としたようだった。

「まさか、霧切さんに本当に助けられるなんてな」

俺は霧切さんから鞄を受け取るとお礼を述べた。

「あくまで私は君の要望に応じただけだよ?」

俺の要望…そういえば、に事件を解決して欲しいと言ってたな。

「それで、私は君の要望に応えてあげたけど…君はどうするつもり?」

俺は溜息を吐頷く。

「…助手になってやるよ。助けてくれた、お礼としてな」

やった!とそう嬉々として喜ぶ彼女の隣で改めて溜息を吐くのだった。


「で、何で家にまで来てるんだ?」

「え?助手の家に探偵が来るのは当然のことじゃないの?」

「じゃないの?って知らないんだけど、そんな規則」

俺を何だと思ってるんだ。霧切は探偵かもしれないが俺は学生なんだぞ。

鞄を置くと俺はベッドに倒れ込んだ。時刻は8時を過ぎていた。

「ねぇ、弘乙以外誰も住んでないけど…家族は居るの?」

「8年前に両親は事故で死んだ。姉は居るけど…大阪に住んでる」

「じゃあ、1人暮らしって訳なんだ?」

「期待してるところ悪いがお前と同棲するつもりはない」

期待してるのは弘乙でしょ?とニヤニヤしている…腹立つな。

「はぁ。先に風呂入ってくるから何もするなよ」

「風呂沸かしてたんだね。案外、計画的なんだ」

勝手に納得している霧切さんを放って俺は服を取った。

「あ、そうだ。助手になった記念で背中を流してあげる」

「其処までの仲じゃないしそうじゃなくても流されるのは却下」

素直じゃないなぁ。と不満気な霧切さんを結局、無視することにした。

「(何でこうなったんだろう…)」

湯船に浸かりながら俺はゆっくりと目を閉じた。

今日までは普通…の学校生活を送っていた。

なのに、今日の放課後に教室で読書をしていた。それだけで変わってしまった。

霧切さんの素性を知り、助けられ、助手となり…彼女は俺の部屋に居る。

「(訳…分かんねぇ…)」

考えてもどうしてそうなったのかが分からない。

どうせなら、彼女に聞いてみるのはどうだろう?何せ、彼女は腐っても探偵だ。

例え、それが本物の探偵じゃなくても…だ。

探偵らしく明確な答えを持っているかもしれない。そう思って尋ね…

「簡単だよ。君と私が出会った時からそういう風に決まってたことなんだ」

「…俺が期待したのが馬鹿だったよ」

彼女はちゃんと探偵だった。最も探偵ではなく探偵の方だけど。

「じゃあ、君がこうやって私の助手になっていることを君はどう説明するの?」

「…それは出来ないけど_。後、話は変わるが何で俺の服を着てるんだ?」

何時の間に着替えたのだろう。俺の部屋着を勝手にパクって寛いでいた。

「え?だって、ずっと制服なのはちょっと嫌じゃない?汗ばむし」

俺の服は霧切さんの体型から考えると流石に大き過ぎたようだ。

袖をぷらぷらさせ攻撃しながらも笑みを浮かべる彼女は少しだけ…可愛かった。

最も、そんなことで発情しないし堕ちる訳もない。俺は冷静キャラなのだから。

「同棲中の彼女みたいだね。こんなことをしてると」

「自分から言うような発言には到底思えないんだがな?」

「私が言うことに需要があるんだよ。あ、弘乙って料理出来るの?」

「そりゃ、出来るけど…。後、名前で呼ぶな。そして話題をすり替えるな」

注文多過ぎる。と俺の意見を両断すると冷蔵庫を開けた。おい、止めろ。

「助手と探偵だよ?名前で呼んで当然だよ。だから、私も推理で良いよ」

「霧…推理も食べるなんて言わないよな?」

素直なのは高評価だ。そう彼女は満足そうに頷くと冷蔵庫を閉めた。

「勿論、食べるよ?探偵をもてなすのも助手の立派な仕事だしね」

随分と権力を乱用する人だと俺は霧切を改めて再評価するのだった。

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