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#15-2 その2枚目に題なしや

「放課後なのに随分と賑わってるんだね」

私はそう助手に言いながら私はポップコーンを購入した。味は塩。

私はシンプルな物が好きだって前に言ったと思うんだよね。

今は助手と映画館へ来ていた。理由は…そうだね。

「放課後映画をしてみたい」でどうかな?君は納得したようだけど。

「ほら、もうすぐ上映されるよ」

「あぁ。それにしても…お前が恋愛映画を観るなんてな」

「私も立派な乙女だからね。恋愛を楽しむのも醍醐味だと思うよ?」

なんて変な理屈にも君は黙って頷いてくれる。其処が良いところだよ。

だから、私はその気持ちに沿うようにあげたでしょ?ほら_。

「助手として特別に食べさせてあげるよ」

久々に素直に言ってみたのに「何時、買ったんだ」って返したでしょ。

君もまだまだだね。探偵を追えないと助手失格だぞ?

とは言っても映画の上映中に私の方だけを見るのは反則だと思う。

流石に照れちゃうじゃん。まぁ、君の前ではそんなこと言わないけどね。

「映画を選んだのは私だろうって?」…君も反対しないのが悪いと思う。

「大分良かったね。弘乙もそう思うでしょ?」

そう私は悪戯っぽく聞いたら返答に困ったでしょ?バレバレなんだよっ!

「本当は映画は余り興味なかったんじゃない?」

って突っ込んだら黙っちゃったのは可愛かったよ。あ、怒られるかな?

「それに、映画じゃなくてずっと私の方を見てたでしょ?」

って追い討ち掛けたら黙り込んじゃってさ。私に弱過ぎると思うんだけど。

「別に見てた訳じゃなく色々と考えててそうなったんだ」

って苦し紛れの言い訳をしてたけど私の中では7点の解答だね。残念!

君は知らないだろうけど放課後映画も初めてなんだ。

どう、高嶺の華の初めての放課後映画を奪えた気分は?気にしないけど。

だって、気にしたら君も返答に困るでしょ?大目に見てあげる。


その後は、どうしたっけ?あ、そうそう。本屋に行ったんだね。

君の好きな本なんて私の頭に叩き込まれてるんだよ。

だから、見付けるなんて朝飯前。どう?得意の本で私に負けた気分は。

「ほら、あったよ。君の買う予定だった本」

って渡したらちょっとだけ悔しそうにしてたのは気の所為だった?

「どうも。で、どうせ俺に金を払わせてお前も読むんだろ?」

ってジト目で返しても私が言うのは定型分だけだよ。当たり前ってね。

その後も色々と新刊を調べたりしたっけ?印象深かったのは_。

「生存探偵・霊堂紅葉」の新刊が残ってなくて絶望してたことかな?

私が持ってるって言おうと思ったけど流石に言えなかったのは秘密だよ。

「君は読書することが本当に好きだよね」

「読書は心を落ち着かせるのに有効な行為だからな。当たり前だ」

そう君が言った時にはちょっと笑っちゃった。

だって、知能的過ぎるのにまだ知能系キャラを演出するんだよ?

「…無理に知能系キャラを演出しなくても良いんだよ」

って私も思わず突っ込んじゃった。

その後は…そうだね。君に説得して貰ったんだった。


「囮になるのは止めるべきだ」って。


私はその言葉が凄く嬉しかった。

私が君のことを心配するように君も私のことを心配してくれてるって。

あ、ちょっと重くなっちゃった?ごめん。だけど、私は_。

「…急に作戦を折りに来たね。君の度胸がある姿は私も好きだよ」

そうはぐらかした。何でなんだろうって思ったけど。

今、考えたら分かるんだ。君とこの話題を話したくなかったってね。

君にも自分にも嘘を吐くのは嫌だったんだ。

幾度なく嘘を吐いてて何を言ってるんだって思うかもしれないけどね。

でも、君はそれで退く選択をしなかった。

「冗談だと思ってる風だが俺が言ってるのは本当のことなんだ」

そう真剣に説得してくれたのに…私は首を縦に振らなかった。

「…それは作戦に対しての心配じゃなくて私に対しての心配なんでしょ?」

私はそう冷たく当たった。勿論、これは彼を傷付ける為じゃない。

でも…彼は何も返してくれなかった。答えてくれなかった。

その時になって、私は理解した。

「あぁ、また彼を拒絶してしまったのだ」と。

私はじくじくと痛む心に気付かないフリをしながら

「図星…とは言えない顔だけど_何方にせよ理由が同じようなら私はするよ」

とこの話題を締めに掛かった。このまま話しても私が君を傷付けるだけだから。

「君の心配はとても光栄だけど…でも大丈夫だって前にも言ったでしょ?」

心配性な助手も十分に可愛いけどと頭を撫でて弘乙を宥めた。

助手の扱い方は私の基本だからね。実際に彼は不満を抱えながらも黙ってくれた。


その後、私は少しでも自分の罪悪感を和らげる為に彼を家に呼んだ。

勿論、罪滅ぼしだけで家に呼ぶようなヤワじゃないけどね。

「話題に振るのも癪だけど…傑さんに色々と言われたらしいね」

先輩から聞いていた情報を頼りに私はそう切り込んだ。

「ー流石に知ってるとは思ってたけど…先輩から話を聞いたんだろ?」

その言葉に私は頷くと少しの間を挟んで俺は諦めたような口調で答えた。

「瑛都を責めないでね。私が瑛都に問い糺したことなんだから」

彼奴が口を割った訳じゃないよ?先輩を庇いながらも彼の言葉を待った。

だけど、彼は口を割らなかった。珈琲を啜りながら私は考える。

傑さんに脅迫されたのか。はたまた、事件性があるのか。

「大丈夫、何も心配することはないよ。危害は加えさせないって誓うから」

それは私が保証する。そう彼の安全を保障してようやく彼は口を開いた。

彼の口から聞かされた情報は私の知る情報の補足となっていた。

そのお陰で私は傑さんが何を言いたいのか理解出来たんだ。


その日の夜が私の中で1番の思い出。だって、君とお泊まりしたんだよ?

「お前から泊まって欲しいなんて言った暁には珍しい冗談だと思った」

時刻は0時過ぎ。既に日付も超えている中、小説を片手に君は私に尋ねてきた。

「助手が寂しそうにしてたからね。私なりの配慮だと思って欲しいな」

私は寝転びながら答える。信じてなさそうだったけど仕方ないよね。

夜御飯はなしにして貰った。バレなくて良かったって思ったのが本音だけど。

「姿が見えないが有栖さんは何処に行ったんだ?」

「連絡の為にちょっと本部へ戻るってさ。明日には帰ってくると思うよ」

私はそうはぐらかした。この話題に言及して勘付かれるのは嫌だったから。

そうして自己嫌悪に陥った私は気分を変える為に窓の方に寄ると全開にした。

「うん、ちゃんと晴れてる。お陰で今日は星空も綺麗に見えるね」

偶然にも空が晴れていたので理由に使わさせて貰った。

「君も見るべきだよ。こんな綺麗な景色を見ないのは損してるからね」

理由にしたにしては無駄に綺麗だと感じそう弘乙に声を掛けた。

「推理からそんな評価が落ちるなんて相当なんだろうな」

不満を述べるかなと思ったけど意外にも素直に反応して寄ってきた。

「ね、言ったでしょ?」

あぁ、そうだな。そう窓の外を見て呟く弘乙に私の心は少しだけ安らいだ。

「この景色を見れて本当に良かったよ。ありがとうね、弘乙」

「その為に俺を泊らせたのか?」

「うん…。流石に弘乙くんにはバレちゃうよね」

舌を出しながら本音が出ないように私は弘乙の隣から離れベッドに倒れ込んだ。

「ほら、君も見終えたらこっちに来なよ」

ベッドから手招きしながらそう述べると弘乙は私にジト目を向けた。

「…頼むから襲うのは止めてくれよ。まだ、俺は青春をしたいんだ」

そう突っ込む弘乙に私は黙って手招きすると黙って横になってくれた。

「君も随分と素直になったものだね。良い傾向だと思うよ」

「…誰の所為だと思ってるんだ?」

「私の所為だね」

笑みを浮かべながら弘乙の方に向き直すと

「どうしたんだ?急にこっちに向きを変えて」

と少し慌てた表情を浮かべる弘乙を見てると無性に揶揄いたくなった。

「どうせなら君の腕に抱かれて寝ようかなと思ってね」

「…本当に襲う気じゃないよな?」

そう疑惑を目を向ける弘乙に構わず私は腕の中に抱かれると目を閉じた。

彼の身体は凄く温かくて胸の鼓動の音がして心が軽くなるような感じになった。

そうして、私は改めて理解する。彼だけは何としても守らないと行けないと。

「おやすみ、弘乙」

そう声を掛けて私は彼の頭を撫でた。彼が少しでも良い夢を見られるように。

そうして彼が寝静まったのを確認すると私は身体を起こした。

本当はもっとこの時間を大切にしたいしずっとこうして居たかった。

でも、私にはやらないと行けないことがある。だから_。

「もう、君とも会えないのか。残念だな」

そう言葉に表しても何処か理解出来ていない自分も居た。

でも、そんな煩悩に囚われて意志が曲がるのだけは許せなかった。

だから_自分の意志が揺らぐ前に。私は私の部屋にお別れをしたのだった。


どうだった?私との日常は。楽しんでくれたら私としても本望だよ。

ー何で助手に君を選んだのかって?それを聞かれたら困るな。

でも…私が君を選んだのは私自身の選択ってことだけは覚えてて欲しいかな。


私はね、探偵として事件を解決する義務があるんだ。

だから、私に依頼された内容は命を捨ててでも解決するって決めてるんだ。

探偵というものはそういう存在だと私は思ってる以上、それは絶対なことだから。

だから…ごめんね。私は弘乙助手の隣には居れないんだ。

探偵が助手の隣に居れないなんて可笑しなことかもしれないけどさ。


でも、大丈夫。君のことだけは私が絶対に守ってみせるから。

だから、君は君の求めた日常を思う存分に追って欲しい。


じゃあ、またね。助手


※ ※ ※ ※ ※ ※ 


「タイトルは未記入だった。センスのない奴だし当然と言えば当然か」


無駄に締まりの悪い手紙を懐へしまうとカップの中身を飲み干した。

「無駄に長文を書く余裕があるなら…タイトルまで考えるべきだったな」

手紙はタイトルがあってこそ完成するものだと俺は思っている。

なのに、彼女が彼へ宛てたと思われる手紙にはタイトルがなかった。

それは初めから仕組んでいたことなのか、それとも…。


俺は思わず推理に尋ねたくなった…が残念かな。それは俺の役目じゃない。

どれだけ渇望しようともと推理が彼に対して宛てた手紙なのだ。

本人の居ない目の前で勝手に手紙を見るなんて余りに失礼、と言うべきだ。

どんな気持ちで俺にこの手紙を渡したのかの真相を知る資格なんてない。

「…俺はどうすれば良いんだろうな」

立ち尽くそうとしたその時、ふとあの日の出来事が蘇った。


『君はまだ死ぬ番じゃない。地獄という今を生き朝日を浴びるのは君の役目だ』


どうやら俺は忘れていたらしい。あんなに大事な記憶のピースだと言うのに。

「そういや、師匠も同じような選択をしてたじゃないか」

始めから師匠は読んでいたのだ。この状況に俺が立たされるという未来を…。

「推理。お前はまだこっち側に居て貰うことにした」

例え、お前がどんな難癖を付けて断ろうとも俺自身の正義を師匠が教えてくれた。


「…作戦変更。推理を助けることにした」


俺は、俺自身の正義を貫くのみだ。

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