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「ちょちょ、ニュース! 今、星頭君が新田さんの手を引っ張って消えたって」

「キャー! 何それ何それ!」

「マジ!? アイツホンマの片思いやったん!?」

「やっば、ちょちょ、どこいきおったん!? いくいく!」


 そんな女子の会話を耳にした拓は、一目散に走り出していた。

 奈海が体育館倉庫に道具を直しに行く姿は渡り廊下から見えていた。

 誰かと一緒に歩いてんなー、と思ったが奏斗じゃないからいいや、と見過ごしていたが。


 まさかのダークホース


 奈海のことをよく見ていたが、それは演劇の間だけであって、役柄のために周りが「ああアイツ絶対白雪姫好きだな」とわかるぐらい見ていたんだと思っていた。

 まさか、ガチの片思いで素で見てしまっていただけだとは。

 引っ張った、とあれば告白するための場所移動だろう。

 なら、告白するなら。あの恥ずかしがりが告白するなら。


 裏だ


 拓の予想は見事大当たりし、変わりに誰も予想しなかったらしく、拓だけがその場に立ち会うことができた。

 しかもばっちり告白してる最中のシーンで、市郎が丁度手を差し出し頭を綺麗に下げているところだった。

 そして奈海は、一瞬戸惑った様子があったが、すぐに、笑った。


『好きな人が、いるんだぁ』


 その言葉に、拓は確信した。


 それ俺だろ。いや絶対俺。


 拓がガッツポーズしていると、まるでそれを確信づけるように「久藤か?」という言葉を投げた市郎。

 奈海を勝手に連れ出したのはむかつくが星頭ナイス、と思っていたら奈海は素直に頷くかと思いきや、笑って誤魔化していた。

 その様子に一抹の不安を覚えたが、清美情報では「間違いなく両思い」とか言ってたから都合のいいそっちを信頼することにした。


 ――それに、俺がらみですでに嫌な思いを何度もしている奈海だ。濁した方がいいと考えたんだろう。


 それに、明日は大イベントがある。

 明日のイベントが成功すれば、もう奈海を不安にさせることも、嫌な思いをさせることもなく、俺は奈海に思いを真剣に伝えることができる。

 とにかくそれを実行するまでは静観を決め込み――と思いつつ、覗き続けていたのがいけなかった。

 市郎が無理矢理奈海に抱き着いたのを見てしまったのだ。

 速攻奴は逃げたが、奈海は放心して固まっていた。

 そんな奈海を放っておけなくて、思わず踏み出した足が運悪く砂利の上で……覗いていたのが、バレた。


 ――きっと、俺たちは間違いなく、両思い、なのだろう


 でも、奈海を守るためには明日が必要。

 奈海が何も被害を受けないよう告白するには、絶対に必要なこと。

 それを思うと、今思いを伝えあうのは違う気がして俺は言ってしまった。


『人の気持ち弄ぶの楽しい?』


「アホかぁ俺ぇぇえええええ」


 脱兎のごとく奈海の元から去ってから我に返った拓は、壁に頭を思いっきり打ち付けていた。


 何で傷つけるような言葉を言ったんだ。

 ただ黙って「じゃ」とかいって逃げればいいのに。

 嫉妬で奈海に八つ当たりとかマジ最低。

 いや、これは、うわ、ああああああああ


 例え明日が来ようとこの状況はまずい。

 ひっじょーにまずい。


 取り乱した拓は涙ながらにとある人物にメッセージを打ちこんだ。

 助けがないとこの状態は挽回できない。

 挽回が出来なければ、明日が来ても意味がない。


「ヘルプ、もとむ」


 ――というわけで。

 助けの女神、清美様と帰宅することになったのだが。


「いやホント。アホか。マジで最低最悪クズ男ホント死ね」


 顔を合わせて早々、可愛らしい顔からは到底想像できないような暴言の嵐を吐かれた。

 しかもそれを爽やかな笑顔のままで言い放つのだから、怖さの迫力が10割増しであった。


「わぁ、清美さん。とんでもなく汚い言葉を使わはるんですねぇ」

「誰のせいでこんな言葉使うはめになってんやと思う? あ? ウチの親友傷つけてんじゃねぇよボケカス」

「ひぇぇぇ……」


 二人で会話を交わす間、他の生徒が横を通り過ぎるのでこの会話は小声で行っていたが、あんまり真顔だと何か怪しまれてはいけないのでせめて笑顔を作って応対していた拓であったが……流石に、恐怖で青ざめ表情が崩れた。


「奈海は一度思い込んだら考えを曲げない方やねん。それが正しいと思ったら、もう……ハァ。だから、一応私が今日奈海に相談を振るけど、何も相談しない可能性があるしね?」

「え、なんで?」

「私も拓が好きって言っちゃってるから」


 清美の爆弾発言に、拓の時が止まった。

 それに「何や、今更。どうせ知ってたんやろ」と清美が頬を桃色に染めてぶっきらぼうに言い放ったことで拓の時は戻った。


「……はぁああ!?」


 素っ頓狂なその声に清美は「しっ、目立つから」と人差し指を口に添えて、辺りをさっと見回し注目されていないことを確認すると話を続けた。


「しゃーないやん。実際好きなんやし。友達に嘘つきたくないのは当然やと思わん?」


 頬を少し膨らまし、恥ずかしそうではあるが堂々と言い切る清美に、いつしか『だからイケメンは』などとか言っていた文化委員さんに『だから可愛いとわかってる奴は』と拓は言わせてやりたくなった。


「あー……まぁ、でもその方がいいっちゃ、いいか。うん。わかった。ごめん清美。俺奈海が好き」

「知ってるから。改めて言わんでええわあほぅ」


 溜息を1つ吐いてからの拓のきっぱりとした返事に、清美は噛みつくように返した。


「あーもうっ。わかっててもショックやねんからな、最低男」

「ええー……理不尽」


 清美の目の端っこに滲んだものを見つけてしまった拓は、あえて明後日の方向を向き知らないふりをした。

 ここで申し訳ない気持ちになるのは、頑張って気持ちを持ち上げている清美にも失礼だと思ったのだ。


「……明日、全生徒の前で恥を受けるレベルで、頑張りや? 多分それぐらいの覚悟ないと無理やわ」

「もういっそ、全生徒俺の敵に回すつもりでいくわ」

「……頑張って。あんな奈海見たことないんやから。大切にしてよ。ウチの大事な友達っ!」


 バシ、と背中をたたかれた拓は、その小さな体からは想像出来ぬ力に腕の痛みがちょっと響いたが、「俺、頑張る」と気合を入れ直すのだった。



 ――全ては

 文化祭、2日目のために。

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