──それはいいけど、ハクト君勝算はちゃんとあるの? ここ天井無いし、高ダメージ出せないけどやけっぱちになって無い!?
再度アリスに向かって走っていく中、俺は思考の裏で先程のカグヤの言葉を思い返していた。
やけっぱちにはなっていない。勝算は、一応ある。
相手の首の骨を折るという事は大前提だけど、それ以外にも俺には心当たりがあった。
それは自身のスロット2に取り付けた、父さんから貰ったギア。
==========================
ギア名:バランサー
GP:- 最大E:- 最大 CT:-
ギア種類:バフ
効果分類:永続
系統分類:無
効果:これは、星の調和を掌る者に与えられしもの。星の統一者の使命の証
==========================
一見なんの効果も無いようなフレーバーテキストのように見えるけど、実際に装着した状態で試合をしていたら、その違和感を薄々感じていた。
カグヤと【バランサー】無しで模擬戦を一度やっていたのも、違和感の差に気づけた要因かもしれない。
気づいたのは、アリスから逃げる際の【インパクト】を使った時。
あの大ジャンプが、あまりにも"自分の理想通りの動き"が出来ていた。
ギアの発動にはイメージが大事とよく言われたが、これは逆に”イメージ通りすぎる”。
カグヤの予想では、"体の体幹の強化"と言っていた。
つまり、【バランサー】の真の効果とは……
☆★☆
==============
バトルルール:殲滅戦
残りタイム:9分50秒
プレイヤー1:ハクト
残HP:341
rank:1
スロット1:インパクト (残りE:8/10)
スロット2:バランサー (残りE:-)
VS
プレイヤー2:アリス
rank:1
残HP:489
スロット1:ロング・ソード (残りE:1/3)
スロット2:ショート・ソード (残りE:2/3)
==============
『ハクト選手、三たびアリス選手に向かって行ったー! 今度は大丈夫なのかー!?』
「何時来ても、結果は変わらない! 返り討ちにしてあげるよ!!」
「うっさい! 今度はそうはいくか!」
ハクトが走りながらそう反論していると、再度アリスが迎撃の準備をし始める。
右足を下げて、かつ左足でも蹴り返せるさっきと同じ型だ。
「スロット1! 【ロング・ソード】起動! 」
「また同じギア! 上等!」
「そうだね、じゃあ喰らえ!」
アリスは再度先程の再現をしようとし、しかし今度は素直に右足で蹴りを出していた。
【ロング・ソード】のEは残り少ないが、少なくとももう左足の奇襲は効かないと見ている。
さらに、ハクトの狙いは先程の会話から考えると、頭か首が狙われやすい。
避けられたとしても距離を取れる射程の長い剣を振った方が得という単純な理由だったが……
「もうその動きは飽きた! 軸足もらい!」
「何! 下!?」
アリスにとって予想外の動き。
ハクトは立ち止まったり一歩下がったりせず、そのまま飛び込むようにアリスの攻撃の下に潜り込んだ。
そのまま片足を掴まれると思い、アリスは左足の重心を逆に強めて抵抗を高めようとしたが……
「よっと」
「っ?」
予想とは反して、ハクトは両手をアリスの足では無く地面に付ける。
そしてそのまま下半身は……
「喰らえ!!」
「逆立ちで!? ぐうっ!!」
意表を突くように、逆立ちをする要領でアリスの顔面にキックを入れたハクト。
これには首を警戒していたアリスにも予想外の攻撃だった。
「でもこの程度……」
「まだまだ!!」
「っ!?」
逆立ち状態のままハクトは片足を少し縮め、アリスの"顎の下"にセット。
アリスは嫌な予感がして避けようとするが、もう遅い!
「ぶっ飛べ! 【インパクト】!!」
「ガヅゥ?!!」
アリスの顎に対して、人が吹っ飛ぶ衝撃が放たれる!!
更に不運な事に、アリス少年の舌が噛む状態で蹴られたため、更に大ダメージ!
アリス少年は、そのまま5メートルほど垂直にうえに浮かび上がる。
顎経由で吹っ飛ばされた為か、高さは半分くらいしか飛んでいない。
しかし空中ではアリスは体勢を整えることが出来ない!
「な、何が……」
「そっちが二連撃ならあ!」
「はっ!?」
いつの間にか逆立ちを解いていたハクトは、今度はしゃがんでいた。
そして、頭から落ちて来るアリスに合わせて、ハクトはその場で……
「こっちは三発目! サマーソルトキック!!」
「ぐがあっ!!?」
まるでサッカーのボレーシュートのように、アリスの頭を蹴り飛ばす!!
ゴッと鈍い音を出しながら、アリス少年は吹っ飛んでいく!
==============
プレイヤー2:アリス
rank:1
残HP:489 → 478 → 402 → 248
==============
『こ、これは凄い! ハクト選手、三度目の正直とでも言うように、アリス選手に連続コンボーッ!! 一方的に削られていたHPが、一気に逆転へー!』
『いやなんだあの動き!? 逆立ちからの奇襲もそうだけど、そこから【インパクト】一発でエッグい攻撃連続で出したな!? どんな体幹してんだあの少年!?』
☆★☆
「ハクト君、凄い…… ! あんな動き出来たのね」
ハクト君の動きを観客性から見て、明らかに私との模擬戦時より体が動いていたのがよく分かった。
確かに元から素質はあったかもしれないけど、動きの違いはハッキリ出たのはさっきの【インパクト】での大ジャンプのあと。
そこから考えると……
「なるほど。それが【バランサー】の効果なのね。"体の体幹の強化"までは予想がついていたけど、そのおかげで"どんな姿勢でも複雑な動きが出しやすくなる"。それが【バランサー】の正体」
じゃないと、急にサマーソルトを人間の頭で本番でやって、ドンピシャでうまく決まるのが分からない。
さっきの【インパクト】での大ジャンプでバク転が綺麗に決まってたのも、その影響だったんだ。
「確かにこれは、ハクト君にぴったり合うギアね。【バランサー】」
これなら、空中姿勢制御もかなりやりやすくなるかもしれない。
空を飛びたいハクト君にとっては、相性が良すぎるギアだ。
────でも、本当に効果はそれだけ?
ハクト君の試合を見ながら、私はまだ【バランサー】には何かありそうな、そんな予感が残っていた。
☆★☆
実況と解説も驚き、再度会場が湧き上がる。
そんな状態の中、吹っ飛ばされたアリス少年は状況を把握し切れないまでも、すぐさま体勢を立て直そうとしていた。
その際、展開中の【ロング・ソード】を解除もして。
「うぐ、一体何が。……いや、いずれにしても君を舐めていたのはこっちだったみたいだ」
「もう遅い! アリス! 【ロング・ソード】のEも今ので殆ど尽きた筈だ! このままHP削り切ってやる!」
「確かに、【ロング・ソード】は出来て後3秒あるかどうかかな……」
「やっぱり! 表示上はE1のままだけど、ちゃんと秒数は経過してたんだね! リチャージなんてさせない! このまま押し切ってやる!」
「……仕方ない、これは今回取っておこうとしていたけど!」
再度距離を詰めて来るハクトに対し、今度はアリスも走って来る。
さっきまでのカウンター狙いでは無く、アリスからも攻撃を仕掛け始めた!
しかも移動速度が多少速くなっている!
「足がさっきより早い! 両足フォームの展開してないからか、やっぱり邪魔だったんじゃないか!」
「少しだけどね! そっちこそこのまま終わるとは思わせないよ!」
「そうかよ、っと!」
そう言って、ハクトはアリスの頭に届くほど高い蹴りを放つ。
それを難なくアリスに躱されるが、牽制目的だったので対して驚かない。
「フッ!」
逆に今度はアリスも左足で蹴りを放って来る。
今度は足元をくぐり抜けられないよう、やや低めの攻撃だ。
「へっ! ギア無しの攻撃ならそれくらいの攻撃、当たらない────は?」
そう言いながら、アリスの爪先がギリギリ届かない位置に下がっていると……
"届いて居ない筈なのに、切られた感触"がした。
==============
プレイヤー1:ハクト
残HP:341 → 300 → 262
==============
「な、なんで……?」
「おおおっ!!」
「っ!?」
困惑するハクトを他所に、アリスは再度連続で蹴りを放って来る。
しかしギアは起動して居ない。
残っている【ロング・ソード】、【ショート・ソード】をどちらも起動宣言をして居ない以上、アリスの攻撃はただの蹴りの筈なのに……
ハクトはとにかく、さっき以上に回避に集中するが……
==============
プレイヤー1:ハクト
残HP:262 → 224 → 181
==============
「っ!? やっぱり、避けてるのに攻撃が当たる!?」
「また逆転したね!!」
「くそ、【インパクト】!!」
このままでは倒されると思い、ハクトは再度【インパクト】を切ってその場から離脱する。
正体不明の透明な攻撃。それを理解しなければハクトに勝機は無い。
☆★☆
==============
バトルルール:殲滅戦
残りタイム:8分10秒
プレイヤー1:ハクト
rank:1
残HP:181
スロット1:インパクト (残りE:6/10)
スロット2:バランサー (残りE:-)
VS
プレイヤー2:アリス
rank:1
残HP:248
スロット1:ロング・ソード (残りE:1/3)
スロット2:ショート・ソード (残りE:2/3)
==============
『これはどういうことだー!? 先程ハクト選手が逆転したと思ったら、再度アリス選手のHPが逆転ー! たまらずハクト選手は再度離脱したようですが、会場内も何が起こったのかよく分からなーい!』
「はあっはあっはあ……」
「ハクト君凄かったわね、さっきの動き! さっきまで普通に立って蹴ってただけなのに、急に動きが跳ね上がった感じ!」
「ああ、ありがとう。……でも、それで押し切れるかと思ったら、また押し返されてる。何、何が起こったんだ?」
ハクトは息を整えながら、電光掲示板と自分の手元のソリッドビジョンで、アリスの状態も確認している。
やはり、【ロング・ソード】のEは1のままでチャージタイムに入っていない。
ひとまず休憩しても、フルエネルギー状態にされる事はないのは安心だが……
「アリスはギアを使った様子は無かった。なのに、回避できる距離をとっているのにHPがどんどん減っていく。あれは一体……」
「ハクト君。もしかして避けたと思っても、切られた感触は何度かあった?」
「あ、うん。確かにそれはあったな。でもギアの使用宣言を出していなかったから、普通の蹴りの筈……」
「あちゃー……多分その思い込みを利用されたわね」
「え? あ、まさかやっぱり俺が知らないテク?」
「うーん、これハクト君が知らないテクっていうか、ハクト君に限らず殆どの人が普通出来ないっていうか……」
歯切れの悪いカグヤの回答に疑問に思っていると、解説と実況のほうで再度アナウンスが流れてきた。
『いやー。にしても風雅さん。アリス選手の謎の攻撃でハクト選手のHPが再度削られ始めていますが、一体何が起こってるんでしょうか?』
『いや、これ、まさか……謎の攻撃っていうか、シンプルに……』
『どうしました? 歯切れの悪い返事しかしていませんが』
『いや、まあ。単純にアリス選手が物凄いって事で……』
『素直に"フォームの持続ギアを高速でON,OFFしてる"って言いなさいよ』
『お前選手に聞こえる状態で、作戦実況側でバラすような事してるんじゃねえよっ!?』
「凄いわ。実況側でネタバレ来ちゃったわよ」
「いろいろいいのかそれ?」
まあ、ひとまずありがたく受け取ろう。ハクトはそう思って切り替えた。
『”まあ持続のON,OFFも正確なイメージが必要になるから、基本的には素人はどんなに急いでも数秒は掛かるけどな”っていう自分の解説が、速攻で反例になるテクを出されたからって、変なプライドで意地はって解説放棄は私はどうかと思うわよ?』
『んなわけあるか!? あれはわざわざアリス選手が隠してるようだったから、選手同士で気づくならともかく、実況側でバラすような事は選手にとって大迷惑だろうが! 見ろ! アリス選手まさに今苦笑いしちゃってるじゃねーか!』
『何を言っているの! 実況と解説の仕事は試合を盛り上げる事! 明らかに一方的になるようだったら盛り上げるためにテコ入れは必要でしょう!』
『お前とんでもねースタンスで実況やってんな!?』
「なんか実況と解説で喧嘩が続いちゃってるから、私から説明するね」
「うん。お願い」
ハクトとカグヤは切り替えた。
制限時間が迫っている以上、数秒も貴重だ。
「えっとね。まずハクト君、ギアの発動にはイメージが大事って事は覚えているわよね?」
「ああ。だからこそ発動時にギア名を言ったり、"ぶっ飛べ"とか、"マジック"とかつけて叫んで発動しているようにしているね」
これは模擬戦時にカグヤに教えられた事だから、ちゃんと覚えていた。
自分で発動するのにめっちゃ苦労した、とハクトは思い返していた。
「そう。イメージが大事。逆に言えば、イメージさえしっかりしていればそれ以外は補助でしか無くて……」
「……つまり?」
「極論。"無言でもギアは発動出来る"」
……そう言えば、自分でも最初そう疑問に思ったな。わざわざギア名言う必要ある? って……
ハクトはその時の事を思いかえしていた。
「それをアリス君はやっていたわけね。更にいうと、実況が言ってた"持続のON,OFFは素人は数秒かかる"って話だけど、アリス君は素人じゃないと思っていいわ。おそらく0.1秒単位とか、そんなレベルで出来るくらいイメージの切り替えをうまく出来てる」
「つまり、さっきの見えない攻撃は……」
「うん。ハクト君が"切られる瞬間だけフォームギアを展開して、すかさず持続を切っていただけ"ね」
……見えない攻撃の正体はシンプル。
タネが分かればなんて事はない話、だが……
「ねえカグヤ。そのコンマ単位の持続のON,OFFしてるって事はさ。例えば【ロング・ソード】が残り時間3秒までしか使えないとしても……」
「実質、後数十回は切れる。というか極論残りE関係なく切り続けられる」
「これ絶対初心者大会で出していいテクじゃないよね!!?」
ねえ! ないよねえぇっ!?
ハクトは心の中でめっちゃ叫んだ。
初心者大会の癖に、残りEが実質飾りになるテクってどういう事だよおい。
「マジふざけんな! 【ロング・ソード】切れれば、せめて接近戦で十分勝てると思ったからE減らさせてたのに、完全に意味ないじゃん!」
「いやー、流石複数の大会優勝経験者ね。そりゃあ残りE実質無制限なら、初心者相手なら無双できるわねー」
つまり残りEとか関係なく、"常に剣を出せる状態のアリスに勝つ必要があると"
改めて勝利条件を整理して、ハクトはかなり厄介だと思った。
「さっきの奇襲コンボをもう一度出来ればいいんだけど、流石に警戒されて上手く決まるとは思えないし……」
「いっそ、アリス君の攻撃を避けるんじゃなくて、迎撃したら? 相手のキックに対して、こっちもキックして蹴り返すの。それならまた体制崩せるんじゃない?」
「……いや、駄目だ。アリスのやつ、一瞬だけ剣を出してるから、足の振りがさっきより早くなってる。足が軽くなるメリットもあるんだなあのテク。多分こっちの蹴りで相殺しようにも、相手の【ロング・ソード】の蹴りが早く胴体に喰らう。そうしたら射程の差で、こっちが一方的にダメージ喰らうだけだ」
「うーん、じゃあダメかー。早撃ちガンマン的な事が出来ればいいと思ったのだけど」
「ガンマンねえ……まあその早打ちでこっちが負けてるし、何かブーストしないと……」
……ブースト? 加速?
「いや、待て。【インパクト】があって、かつ【バランサー】もあるなら……それに早撃ち……」
「ハクト君?」
急にハクトはラビットパーカーのフードを被り、ブツブツと一人で喋り続ける。
そしてある程度情報が整理出来たのか、カグヤに質問をする。
「……いける、かも。カグヤ、ギアは正式名を宣言しなくても発動出来るって言ってたよね?」
「うん。正確には、無言とかでも発動出来るって言ったけど、それでもいけるわね」
「……という事は、【インパクト】を別名にしてもイメージさえあれば発動出来るよね?」
☆★☆
「……また何か作戦を考えているのかな?」
遠くてイナバ君とウヅキさんの声がよく聞こえないけど、何かを話しているのは分かった。
先程僕が披露した、取っておきのテクに対する対策だろう。
使い慣れた剣に限って極限まで高速で持続のON,OFFが出来る。
僕はこの技術を"フォーム・クイックチェンジ"と呼んでいる。
「正直、この大会で出す気は無かった技術だけど……予想以上だったからね、イナバ君」
やはり、"彼"の言った通りだった。気軽に勧められて参加した大会だったが、"彼"が自慢するだけある相手だ。
下手に油断すると、またあのとんでもない動きからのコンボで大ダメージを喰らうところだから、油断はもう一切出来ない。
また何か変な動きを察知したら、すかさず下がって対処するつもりだ。
「……そろそろ、また来るね」
四度目の正直。恐らくこれが最後の攻防となるだろう。
残り5分になったら、チャージタイムが3倍になってギアの再使用が可能になるけど、"フォーム・クイックチェンジ"を使う僕にとってはメリットが薄い。
また途中で逃げようとしたら、今度は追いかけ続けてトドメまで刺しに行く。
☆★☆
『おおっと、いつの間にかハクト選手が再度アリス選手の元へ! 四度目の正直、今度こそこれで決着が付くかー!?』
『お互いHPは半分以下、さっきのコンボや高速テクの事を考えると、一気に勝負が付くこともあり得るぞ!』
「行くよ、アリス !!」
「来い、イナバ君!!」
ハクトが走るのに合わせて、アリスも走り出し始めた。
移動中にフォームギアを出さなくて良くなったから、アリスの移動速度も早くなっている。
それなら自分から積極的に動けるし、待ちの姿勢だったらハクトの変則コンボを喰らって逆に返り討ちにあう可能性が高かった。
なら、自分から攻撃に向かった方がマシ。そうアリスは判断した。
アリスの【ロング・ソード】が届くまで、あと8歩、7歩、6歩……
ハクトも走ってきているため、タイミングを合わせる。
3歩、2歩、1歩……
「ここだ!」
アリスは右足で蹴りを放ち、かつ【ロング・ソード】も一瞬だけ起動する。
そのままハクトを斬り付けようとして……
肝心のハクトは、更にもう一歩こちらに踏み込んできていた。
「(更に近づいていた!? しまった、【ロング・ソード】より内側に入り込んで、刃の無い部分だけ受け止める気か!? そうはいかない!)」
ハクトの狙いに気づいたアリスは、蹴り出した右足を伸ばすのではなく、縮こませる。
これなら懐に入られても、ハクトに斬り付けることが出来る。
仮に【インパクト】を使って吹っ飛ばそうとしてきたら、すぐに避ける準備も考えながら。
そうしている内に、ハクトも右足を蹴り出し始める。
「(やっぱり普通の蹴りか! でももう遅すぎる! 先にこっちの攻撃の方が入って……)」
「後出し攻撃……」
「新技! "クイック・ラビット"!!」
その時、アリスは気づいた。
彼の伸ばした蹴りの裏から、衝撃波が出ようとしている事に。
そして、もう気づいた時には手遅れだった事に。
ゴウッ!!
およそ蹴りの音とは思えない風を裂く音が後から聞こえ。
その頃には、ハクトの足が、アリスの横顔にめり込んでいた。
「グゴあっ!!?」
==============
プレイヤー2:アリス
残HP:248 → 211
==============
『四度目の正面衝突!! 最初の攻撃が決まったのはハクト選手だー! アリス選手の攻撃が先かと思ったら、いつの間にかハクト選手の蹴りがアリス選手にめり込んでいます!』
『【インパクト】だ! ハクト少年、インパクトを自身や相手の移動じゃなくて、"自分の蹴りの加速"に使っていた! 人を10mは飛ばせる衝撃を、全部蹴りの速度に上乗せしやがった!』
実況と解説の声が流れる。
ハクトは解説の通り、【インパクト】で自分の蹴りを加速していた。
これで後出しでも先にヒットする超高速攻撃、"クイック・ラビット"を思いついていた。
「く、うう、まだだ!!」
蹴られたアリスはかなりクラッと来たが、HPグローブのおかげでそこまで意識が途切れたわけじゃ無い。
そのまま【ロング・ソード】でもう一度蹴りつけようとしたが……
「っ!? エネルギー切れ!? 何故!!」
"フォーム・クイックチェンジ"で発動していた【ロング・ソード】なら、例え残り時間1秒未満でも再度発動できた筈。
なのに何故かエネルギーが完全に尽きてしまっていた。
『ここに来て、何故かアリス選手の【ロング・ソード】がエネルギー切れー! 無制限の剣とはなんだったのか』
『あー。高速切り替えに頼りすぎていたな。あれはかなりのメリットがあるが、同時にリスクもある。それは"発動の瞬間意識を途切れさせられると、発動失敗の上、持続のエネルギーが無駄に消費されてしまう"』
持続型も弾数型も関わらず、ギアのON,OFF時って特にイメージ力が大事だから、脳味噌揺らされたりするとHPグローブ越しでも致命傷なんだよなー。
そんな追加のアドバイスも流れていた。
「アリス。もうお前の攻撃は届かない」
「っ!!」
「ずっと俺のターンだ!」
その宣言通り、ハクトは残りの攻撃を連続で放ち続けた!
「"クイック・ラビット"!! "クイック・ラビット"!! "クイック・ラビット"ォ!!!」
「べッ!! ぐう!! があッ!!」
==============
プレイヤー2:アリス
rank:1
残HP:211 → 173 → 132 → 94
スロット2:ショート・ソード (残りE: 2 → 1 → 0)
==============
残っている【ショート・ソード】を発動しようにも、その前にハクトの攻撃が飛んできて、ギアの発動が失敗してしまう。
ピンポイントに発動しようとしたタイミングで、3回全て攻撃を喰らってしまったため、【ショート・ソード】のEすら尽きてしまった。
もうアリスには、発動出来るギアが一切ない!
「打ち上げろ! 【インパクト】!」
「かはあっ!!」
そのアリスに対し、ハクトは無慈悲に打ち上げる。
真上に飛ばされたアリスは、今度は10mの高さまで打ち上がった。
そして一番高くまで上がったアリスは、そのまま自由落下してくる。
「トドメだあッ!! "クイック・ラビット"ォぉぉっ!!!」
そして落ちてきたアリスをボールに見立てて、今度はボレーシュート。
しかも"クイック・ラビット"による超高速蹴りが、ドンピシャでアリスの頭に当たった。
「あああああああぁぁぁああああっ!!!??」
そんな叫び声を上げながら、アリス少年は吹っ飛び。
そして地面に何回か擦れた後、完全に停止した。
==========
バトル・フィニッシュ!
==========
==============
バトルルール:殲滅戦
残りタイム:5分23秒
プレイヤー1:ハクト
残HP:181
rank:1
スロット1:インパクト (残りE:0/10)
スロット2:バランサー (残りE:-)
VS
プレイヤー2:アリス
残HP:94 → 0
rank:1
スロット1:ロング・ソード (残りE:0/3)
スロット2:ショート・ソード (残りE:0/3)
==============
==============
アリスの残HP0
WINNER ハクト!
==============
2回戦 第一試合。
優勝候補を降し、勝ち抜いたのはハクトだった。
★因幡白兎(イナバハクト)
主人公。
白兎パーカーを着た、空を飛びたい夢を持った少年。
勝った!! やったあああ!!
★卯月輝夜(ウヅキカグヤ)
ヒロイン。
空から降ってきた系女子。
ハクト君、おめでとうー!!
★有栖流斗(アリスリュウト)
ハクトと二回戦で戦った少年。
紳士的な態度で話しかけてきた。
負けちゃったか……と、敗北を噛み締めている。
★風雅(ふうが)
マテリアルブーツプロ選手。
解説者。
これ絶対初心者大会で見せていいテクじゃないだろ……と思っている。
★カラー
実況の女性。性格は破天荒。面白ければ何しても良しなタイプ。
盛り上がる試合が見れて満足。