────私は急いで走っている。
私の代わりに、不良達の足止めをしてくれたウサギの彼の事が心配で、急いで来た道を戻っていた。
私が持ってきてしまった問題、それに彼が自分からとはいえ、巻き込まれた事が許せなかったのだ。
その為に試合をさっさと終わらせて、早く彼の元に向かおうとしている。
よりにもよって今日、彼にマテリアル・ブーツの楽しさを味わって貰おうとした日に絡んでくるなんて……間の悪さに歯軋りする。
せめて彼には、今日一日楽しかった、という思い出だけ持って貰おうとしたのに、これでは台無しだ。
だからどうか、無事でいて。
そう思って、部屋に飛び込んだ私の目に入ってきたのは……
────そこには、私の理想があった。
────不思議な国から来たような少年が、切り込み隊長のように、相手と戦っていた。
────カメのような少年が、沢山の爆発の中から、自分だけ生き残って立っていた。
────そしてウサギのような少年が、一回だけ空を飛んで、更にこの戦いの盤面を支配していた。
急いで助けに入らなきゃ行けなかったのに、その光景に見惚れてしまっていた。
中にいる人達も、入り口にいた私に気づいていなかったようだけど。
ああ、駄目だ。
もうこの人たちでイメージが固まってしまった。
私の夢・に、一緒に向かってくれる人達は、彼等しか考えられなくなった────
☆★☆
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フリーバトル
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バトルルール:バトルロイヤル・ハーフHP制
残りタイム:無制限
プレイヤー1:ハクト
残HP:15
プレイヤー2:キテツ
残HP:13
プレイヤー8:アリス
残HP:21
vs
プレイヤー5:鮫田長男
残HP:0
rank:2
プレイヤー6:鮫田次男
残HP:0
プレイヤー7:鮫田三男
残HP:0
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「よっしゃあ!! やったぜ白兎!」
「お疲れ様、イナバ君」
「ああ、ありがとう! 助かった!」
イエイッ! と、互いにハイタッチするハクト、キテツ、アリスの3人。
不良長男達を全員HP0にして、完全勝利を喜んでいた。
「白兎、お前最後に指パッチンして決めるとか、めっちゃイカすじゃねーか! 格好つけやがって!!」
「いやー、狙った作戦があそこまで綺麗に決まるとか、めっちゃ嬉しくなっちゃって、つい! 後はタイミング待つだけだったからさあ!」
「うん、あれは良かった。僕も真似したくなるね」
勝利を分かち合った3人は、決着が着く直前の状況を振り返って感想を述べていた。
その姿は側から見ても、彼らがまだ中学生だったことを思い出すようなはしゃぎ様だった。
「いや、にしてもガチでよくやったなオレ等! もう3人ともHPちょっとしかねーじゃねーか!? めっちゃギリギリだったな!!」
「いやあ、僕達全員で死闘を制した結果だね。凄い激しい戦いだったね」
「ねえ。そう言ってる本人が、一人だけHP50からのハンディキャップの状態で参加してなかったっけ?」
ついそうツッコミをしてしまったハクトだったが、気にしない気にしないとアリスに流されてしまった。
まあ、勝ったのでハクトとしてもいう事は無いが。
それにしても、誰一人落ちる事なく勝利出来て本当に良かった。
一人でも落ちたら、その時点でその人は大損する事が確定のルールだったのだから。
「ぐぅ……くそぉっ……」
「「あ、兄貴ぃ!?」」
そして【クラスターミサイル】の煙が晴れて、中から不良長男が悪態を付きながら姿を現す。
その彼の場所に、弟達が駆け寄っていった。
「さて、と……これでもう決着は付いたわけだけど、どうする? 長男のお前はもうブーツを脱げないし、使えないわけだけど」
「そんなの……!!」
「少なくとも、長男君はもうブーツを壊して再試合、って事は無いと思うよ。ランク2のメモリーカード、それを12時間待てば外れるのに、それを壊してしまうのはあまりにメリットとデメリットが釣り合っていない」
「ちぃっ……!!」
アリスの言葉に、不良長男が苦虫を潰したような表情を浮かべている。
どうやら図星のようだ。
ひとまずこれで、長男の無力化は出来たわけだが……
「「な、舐めるなよテメエら! 兄貴が戦えなくたって、俺達がまた戦う!!」」
「お前らまだ諦めてねえのか!! おい、まさか2回目の時"アンリミテッド・カード"を付けていなかったわけじゃねえだろうな!?」
「「付けてたけど、またブーツを壊せば問題ない!!」」
そう言って、不良弟達が長男を庇うように立ってハクト達に宣言する。
確かに彼らの言うとおり、不良弟達はランク1だからまたブーツを壊してもそれほど損は無い。
思ったより不良兄弟がとことん付き合うつもりのようで、ハクト達も流石に次の試合時間が迫っているはずの為、これ以上付き合うのは流石にキツイ。
そうなったら、完全に大会は諦めて、とことん不良兄弟の相手をすることも視野に入れ始める必要もあるが……
「ったく、予想はしてたけどガチで負けを認める気ねーんだなこいつら……」
「はあ、じゃあ仕方ない。ここからは僕一人で相手をしてあげるよ」
「アリス!」
「イナバ君達はそろそろ試合だろ? 既に敗退した僕が残った方が都合がいいし」
「「うっ……けど、何度も戦ったら流石にいつかは俺達が勝つ!!」」
アリスが最初から参戦する事に、不良弟達は一瞬怯むが、直ぐに立て直している。
それを見て、アリスは言葉を続ける。
「諦めないガッツは凄いね、君達。けど、次のバトルからは僕も"これ"を使わせてもらうよ」
「「ん?」」
そう言ってアリスは、懐からカードのような物を取り出す。
それはブーツに入れるメモリーカードだった。
「更に、ついでにこれも」
「テメェ!? まさかそれは!!」
そして片手に持ったメモリーカードの裏から、別のカードを見えるようにずらした。
それはハクト達もついさっき、似たような物を見た覚えがある。
但し、さっき見たものより、よりドクドクしい濃い血の色をしているが。
「テメェ!? 自分で"アンリミテッド・カード"持ってたんじゃねーか!? なんで使わなかった!?」
「だって急いで途中参加だったし。だからブーツも履き替えている暇なかったんだ。けど、次からは最初から参戦だから僕も使わせて貰うよ」
「「だったら、好都合!! 今度こそお前を倒して、ブーツを脱げなくしてやる!!」」
「さて。イナバ君達、ちょっとディスプレイ操作で"試合終了同意"押してもらっていい? ……うん、ありがとう。これで全員いなくなったから、改めてエントリー出来るね」
不良弟の言葉を無視して、マイペースにアリスは新しい試合のエントリー作業をしていく。
今度はチャージする床でエネルギーを補給することも忘れずに。
そうして、電光掲示板に新しい試合の登録選手の情報が表示された。
アリスのプレイヤー欄のランクは"2"になっていた。
「くそ、やっぱりテメェもランク2…………は?」
「「はあっ!?」」
不良長男がアリスの情報を見て、納得いったような言葉を呟いた後……呆ける。
不良弟達も同様。
それは電光掲示板の表示が、おかしかったから。
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フリーバトル
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==============
バトルルール:バトルロイヤル・ハーフHP制
残りタイム:無制限
プレイヤー1:アリス
残HP:1000
ランク2
スロット1:────
スロット2:────
スロット3:────
スロット4:────
==============
「HP1000……1000!? どうなってやがんだこれは!? ハーフHP制だから500の筈だろうが!?」
「ちなみに、通常ルールだと二倍のHPになるからHP2000スタートになるね」
「そんな事は聞いてねえ!! ランク2なのはともかく、HPをギアを使わず弄るとは、一体どんな反則手段を使いやがったテメェ!!」
「だってそれが、本来の"アンリミテッド・カード"の効果だし」
「はあっ?!」
アリスの言葉に、驚きを通り越して驚愕する不良長男。
それほど彼にとっては、予想外過ぎる情報だったのだ。
「本来、"アンリミテッド・カード"の効果は
・予備エネルギーまで使用してのHPにつぎ込み
・特定施設以外では発動出来ない低ランクでもギアを使用可能
・生身の人物、建物にもダメージを与えられるセキュリティ解除
・ギア発動までのレスポンスの強化
の、4つの効果がメインとなる。
HPが0になった時にブーツが脱げなくなるのは、その4つの効果を適応する為に無理した、副作用なだけだね」
「ちょっと待て! じゃあ俺達が手に入れたカードは……!?」
「ただシンプルに、HP0になった時に誤作動起こすだけの不良品カードにしか思えないね。もしくは、デメリット効果だけ聞いた人がそれだけ再現した偽物か」
「嘘だろ……わざわざ裏社会に潜って手に入れた意味は……」
「"あっっっっっっっっさい裏社会だね"」
「白兎。お前本っ当よく勝てたなアイツに。一応オレも見てたけど」
「自分でもやっぱり信じられなくなってきた……というかアリス、めっちゃ煽ってるんだけど」
というか、あの煽りの内容から考えると、アリスは少なくともかなり深い位裏社会に関わってるって事では?
じゃ無いと、本物のカードを手に入れる事なんて出来ないはずでは?
そう思ったハクトだったが、敢えてここでは何も聞かない事にした。
わざわざ助けに来てくれた恩人に、裏を探るような真似をするのはしたくなかったからだ。
「さて、と。確か君達、ずっと戦い続けるつもりなんだっけ? いいよ僕は、とことん付き合うよ? とりあえず、ここの施設が閉館されるまででも……」
「「ひ、ヒィッ!!?」」
「お、おい! お前ら、もういくぞ! こんなの相手にしてられっか!」
アリスの言葉に恐れをなしたのか、不良達はフリーバトルの部屋から慌てて抜け出そうとしていた。
「っあ! ちょっと待って、そういえばアリスが参戦したときの、そっちが負けたらギアを1個上げるって約束は!?」
ハクトが礼の約束を思い出し、不良長男をわざわざ呼び止める。
まあ、負けを認めずにブーツを壊してまで戦闘を続行しようとした相手だから、約束を守るとも思えず、ダメ元の指摘だったが……
「ちぃっ!! ホラよぉ!!」
「グエ!?」
「ウラシマ君!?」
「それでチャラだ!! 追いかけてくんじゃねーぞ!!」
予想に反して、不良長男はポケットから何かのギアを取り出すと、ハクト達に向かって全力で投げてきた。
それがキテツの額にクリーンヒット。
恐らく、特にアリスのヘイトを買う事を恐れていたのだろう。代わりにキテツのヘイトが少し増えたが。
そう捨て台詞を残して、不良達は部屋を出て行った。
「つぅ……なんだこれ? 何のギアだ?」
「ちょっと貸してもらっていいかい? バトル中にギアを途中で取り付けると、最大CTの状態から開始されるから、ギアがすぐに電光掲示板に表示される様になるんだ。ちょうど今僕バトル中扱いだし」
そう言ってアリスはキテツからギアをもらうと、空いているスロットにギアを取り付ける。
すると、電光掲示板にギアの名前が表示がされる。
==============
プレイヤー1:アリス
スロット3:反応装甲
==============
「【反応装甲】!! あのカッケー、ライダースーツみたいなギアか!!」
「あれ? でもあれって、確かブーツに付けてなかった? ブーツが脱げないなら、ギアも取り外せ無いんじゃ?」
「きっと多分、予備で持ってた奴なんだろうね。同じやつを持ってたから、一つを上げたんだと思うよ?」
そう言いながら、アリスはバトルをリタイアしてギアを取り外す。
そして取り外したギアをキテツに返していた。
「はい、ウラシマ君。これ君が持ってた方が都合がいいだろうから、君に上げるよ」
「え!? いいのか!? そもそもギアを賭けてたのはお前なのに、お前が貰うべきじゃねえのか? それにフォーム系だし……」
「良いさ。僕はどちらかというと、ステップで敵の攻撃をそもそも避けるタイプだし。防御して耐える君の方が、このギアは使えそうだしね。それに君、このギアめっちゃ気になってるっぽいし」
「そっか、じゃあ遠慮なく貰うぜ!! 有栖、サンキューな!!」
こうしてキテツは、親切心からの参加だったが、思わぬ収穫を手に入れた事でホクホク顔をしていた。
「でもアリス。それじゃあ君もせっかく手伝ってくれたのに、君だけ何も得してないよね? あとで何か、あらためてお礼でも。と言っても、15万に相当するものはすぐには用意出来ないけど……」
「うーん、勝ったから問題無いし、本当に特に気にしなくて良いのになあ。じゃあ今日、何処かレストランで夜ご飯でも奢ってもらおうかな?」
「あ! オレも行く! 自腹なら関係ねえよな!」
「そうだね。じゃあ今日の夜何か食べよっか!」
そうして、今日の大会が終わった後、レストランで食べる事を約束した3人だった……
☆★☆
不良達が急いでフリーバトルの部屋から出ようとして、入り口付近にカグヤが立っていた事にやっと気付く。
「あ……」
「テメエ……いや、今はいい! 後でテメエも覚えておけよ、あんな奴ら連れてくるなんてな!!」
そうカグヤに捨て台詞を残した後、不良兄弟は完全に部屋を出て行った。
そして我に返ったカグヤは、部屋の中に入って行った。
「は、ハクト君!! それにみんなも!」
「あ、カグヤおかえりー」
「おう。輝夜、ちゃんか? 戻って来たか」
「ウヅキさん、どうも」
カグヤの声に対して、男衆3人は呑気な返事を返す。
それぞれ手を振ったり、腰に手を当てて凄くリラックスしたポーズ。
「あ、そうだカグヤ。今日大会終わった後、夜ご飯レストランで食べる話ししてたんだけど、カグヤも行く?」
「え、うん。行く……って、そんな事より!」
「ん? ……って、あ!?」
そこでハクト、ようやく気付く。
カグヤが不良達と間をおかず入ってきたという事は。
「カグヤ大丈夫だった!? そういえば今不良達が部屋から出て行ったけど、すれ違いになってなかった!?」
「え、ええ。特に何もされてないから大丈夫よ。それより、ハクト君達無事?」
「うん。無事も無事、大丈夫。キテツと、それにアリスも助けに来てくれたしね」
「そっか。ハクト君、さっきは庇ってくれてありがとう。キテツ君も助けてくれたんだ、ありがとうね。アリス君もありがとう」
「いやー、照れるぜ……」
「ああ、どういたしまして」
カグヤが近づいて合流し、軽くお礼の言葉を交わす。
とりあえず、一難さって一安心といったところだった。
「ところでハクト君、さっき空を……」
「あれ? そこから見てたんだ。いやー、思いついてやってみたんだけど、キテツのおかげで上手くいったよ。たった一回だけだったけど、空を飛ぶという夢、最高の形で叶えられた気分だ」
「全く。正直、さっきのバトル中に自分から投げ飛ばしてくれって言われたときは、正気を疑ったぜ」
「ちゃんと正気だったよ。ギアの発動権を残す為に、どうしても先に浮かんだ状態になりたかったんだ」
「あ、じゃあハクト君。ちょっと自分でジャンプした状態から【インパクト】を使えば、似たような事は出来るんじゃ無いかしら? それでも空を飛べるんじゃない?」
カグヤが話を聞いて、ふと思いついたそのアイデアを出す。
しかしそれに対して、ハクトはそれほどいい顔をせず。
「うーん……多分それもいけるとは思うんだよね。ただちょっと高さが低くて満足度がそこまで上がらなそうなのと、ジャンプするだけなら普通に地面を蹴る時にギア発動した方が、初動も相待ってより高く飛び上がれそうだから、まだそこまで使わないかな」
「あー、そっかあ……」
「うん。何も知らない時にこの方法を思いついたなら、それでも感動してたと思うけど……先にジャイアントスイングでぶっ飛びながらの、空中ジャンプを経験しちゃったから、逆にグルメに……」
「"陸亀大車輪"な。でもそれが無いと満足出来なくなったって、すげえ文章だなあ……」
キテツがわざわざ名前を訂正に、ツッコミを入れながら感想を言う。
側から聞くと、確かにハクトが投げ飛ばされることを趣味のように思っている人にしか思えなかった。
「あらためて、ありがとねキテツ。君のおかげでさっきのバトルも助かった所か、自分の夢もかなり理想型を体験できたよ」
「ん? ああ、気にしなくていいぜ。アイツらが許せなかったのはオレも同じ気持ちだし、お前との協力バトル、結構オレも楽しかったしな」
「それでも、だよ。そのおかげで空中ジャンプを一回でも体験出来たから、かなりイメージは湧いてきた。後はルーティーンを工夫して、空中で更にギアを連続発動出来るようになれば、自分の夢はほぼ叶う……」
ハクトは自分の手を見つめながら握りしめる動作をして、そう呟いた。
後もう少しで、自分の夢がこの手で掴めそうな事を実感していた。
「……っと、それはそれとして。ところで、さっきの不良達あれで諦めると思う? さっきアリスが脅してたけど、ああいう奴って割としつこいからさ。ちょっとまだ警戒は解かない方がいいかな……」
「それなんだけど、まず普通に施設のスタッフさんに苦情入れればいいと思うんだよね。あの不良君達、カッターとか催涙スプレーとか投げてたし、あれ普通にこの施設だとルール違反だから、規則に則って厳重注意と監視はされると思うよ」
「あ、やっぱりあれ許されない事だったんだ」
「レギュレーション毎によっては有りの場合もあるんだけど、この施設だとフリーバトルでもダメだね」
「なあ。そういえば、アイツらの壊してたブーツって確か施設のレンタル品とかって言ってなかったか? あれ普通に報告したら注意とかいうレベルじゃなくなると思うんだが」
不良達の対処方法を、改めて相談するハクト達。
整理すればするほど、不良達が逃げられる理由が無くなっていく。
この時点だけでも、口頭で施設のスタッフに報告するだけで、大分終わると思うが……
「そういえば、この部屋あそこに監視カメラっぽいものも見えねえ? 普通にその時の映ってるんじゃねえの?」
「あの不良達、カメラある中でそんな事やってたのガチでバカじゃん……」
「え!? ていうかハクト君、カッターとかスプレーってどういう事!? まさかHPグローブ無しの状態で喰らったのそれ!?」
一応バトル中だったし、どっちも結局当たらなかったから大丈夫だよ。
そうハクトは言って、カグヤを落ち着かせようとしていた。
そうしていると、アリスがとある事に気づき始める。
「ところでイナバ君、ウラシマ君も。君達もう直ぐ試合じゃ無いかい? ウヅキさんが急いで試合を終わらせたらしいけど、あれ逆に3回戦の開始早める事になると思うんだ。君たち第一試合だろ? 特にウラシマ君は、確か入場口反対側だったから急いだほうが……」
「へ? あっ!? ガチじゃねえか! ヤッベ、急がねえと不戦敗になる!!」
そう言って、キテツはその場から走り出す。
フリーバトルルームの入り口まで行ったところで振り返り、ハクトに対して声を出す。
「白兎! さっきはオレが気に入らなかったからお前の方を助けたけどな、大会は別だぜ! 元々試合でコテンパンにするつもりだったからな、覚悟しておけよ!!」
「ああ! さっきは本当にありがとう! 全力でやろうか!」
「へ! いい度胸だ、また後でな!」
そう言って、キテツは部屋を抜けて走り出していく。
それを見送って、ハクトも準備をし始める。
「さて、イナバ君。君は入場口が近いから余裕はあるけど、早く行った方がいい。ウヅキさんも、暫くはイナバ君と離れないように、ギリギリまでいてそれから観客席に入った方がいいよ。不良君達の件は施設スタッフさんに僕の方から言っておくよ」
「あ、ありがとうアリス君。じゃあ、ありがたくそうさせてもらうね」
「あ、そうだアリス。ちょっと聞きたいことがあるんだ」
「ん? なんだい?」
「さっき言ってた、キテツの戦いの試合について何だけど……」
短い時間だが、ハクトはキテツの情報の事を聞こうとする。
助けられた相手でも、試合は試合。
本人に言われたこともあって、ハクトは次の対戦相手の事をしっかり知ろうと準備していた。
……正直言って、ハクトはここまでの成果だけでもかなり得られたから、大会は棄権しても良かった。
しかしそれは、助けてくれたキテツに対して失礼になるし、何より中途半端に投げ出す気は無かった。
次の試合が3回戦、そしてその次が決勝。
勝てるかは分からないが、まだハクトのマテリアルブーツの大会は、これからなんだから……
☆★☆
「──ふう。あー良かった。何とか試合開始までには間に合って……」
ここはハクト達のいる入り口とは反対側。
もう一つの入場口の目の前で、キテツは息を整えて立っていた。
先程正反対の位置からぐるっと回って走り込んで、何とか入場ギリギリの時間に到着していた。
「にしても、白兎。アイツ結構いいやつだったなー。さっきのチーム戦も、意外とサポート能力高かったし。これで彼女持ちじゃ無かったら、普通に友達になっても良かったけどなー」
キテツはそう呟き、次の対戦相手の事について思い出す。
残念ながら、まだキテツはハクトとカグヤの関係性について勘違いしている様だ。
そもそも、何気にハクトとカグヤが否定の言葉をまだ言ってなかった所為でもある。
二人とも、直後の不良戦のドタバタでそんな事忘れていたのも言わなかった理由だが。
なので、キテツが勘違いしたままなのは無理も無い話だった。
「不良達に絡まれてる女の子は見逃せ無い。この気持ちに偽りは無い、だからさっきは全力を出した。アイツも、それを分かってこっちを信じて一緒に戦ってくれたようだしな……」
「……まあ、それはそれとして」
切り替えるように、表情が変わる。
その後キテツは、自身のブーツから”片方のギア”を取り外す。
「ちゃーんと言ったからな。オレはお前をコテンパンにするつもりだって」
取り外したギアをしまい、ポケットから別のギアを出して、空いたスロットに装着する。
しっかり嵌っている事を確認し、準備万端と行った顔をしてる。
「……あの不良のランク2を倒したからって、油断してる様なら足元を救われるぜ?
────何故なら、オレもランク2経験者だから」
キテツはここにいないハクトに向かって、そう呟いた。
実は途中で参加したアリスと同様に、キテツもメモリーカードを入れ替えずに戦ったせいで、あれだけ苦戦してしまっていたのだ。
相手がそこまで大した事じゃ無いだろうと、カードを入れ替えずに戦って十分だと思い込んだ見積もりの甘さがあったせいだが。
そういう相手を見る目という意味で言えば、確かにキテツはまだ未熟だったのだろう。
しかし、次に戦う相手は元々観察し、ついさっき共闘までした情報をよく知った相手。
油断する気など一切ない。
アリスもランク2経験者らしかったが、彼の場合はハクトの情報と対策が甘いという理由があった。
「お前の事が羨ましいって気持ちも、偽りじゃあ無い。だからここからは……対・白・兎・用・の本気だ」
そう呟いて、試合会場の入り口に入っていく。
浦島亀鉄。
彼はどこまでも素直で、どこまでも正直な少年で。
そして、意外と強かな少年だった。
ランク1同士の戦いとは言え、ランク2経験者の一切油断の無い対策が、ハクトに襲い掛かる────
★因幡白兎(イナバハクト)
主人公。
白兎パーカーを着た、空を飛びたい夢を持った少年。
まだまだ大会を勝ち進んでいくことを決意。行けるところまで行こう
★卯月輝夜(ウヅキカグヤ)
ヒロイン。
空から降ってきた系女子。
彼女にとって、理想系が今回見えた。
★有栖流斗(アリスリュウト)
ハクトと二回戦で戦った少年。
紳士的な態度で話しかけてきた。
実は、結構裏社会に精通している?
★浦島亀鉄(ウラシマキテツ)
3回戦のハクトの対戦相手。
性格は熱血漢で早とちり、けれど正義感は強い。
……そして、意外と強かな少年でもあった。
★鮫田長男(さめだちょうなん)
プロローグ前に、カグヤにしつこく絡んでいた不良。
折角手に入れたアンリミテッド・カードが偽物と判明し、大ショック
★鮫田次男(さめだじなん)
★鮫田三男(さめださんなん)
鮫田三兄弟の次男、三男。というか双子。
長男と一緒に逃げていった。