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第13話 飛べ! 白兎!

 ========

 フリーバトル

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 ==============

 バトルルール:バトルロイヤル・ハーフHP制

 残りタイム:無制限


 プレイヤー1:ハクト

 rank:1

 残HP:49

 スロット1:インパクト (残りE:9/10)

 スロット2:バランサー


 VS


 プレイヤー2:キテツ

 残HP:41

 rank:1

 スロット1:メタルボディ (残りE:0/3 残りCT: 1/3)

 スロット2:パワー・バフ (残りE:0/3 残りCT: 1/3)


 VS


 プレイヤー3:アカウント・エラー

 プレイヤー4:アカウント・エラー


 VS


 プレイヤー5:鮫田長男

 残HP:320

 rank:2

 スロット1:スーパーミサイル  (残りE:0/5 残りCT: 3/3) 

 スロット2:クラスターミサイル (残りE:0/2 残りCT: 2/3) 

 スロット3:強化弾       (残りE:3/3) 

 スロット4:────


 VS


 プレイヤー6:鮫田次男

 残HP:500

 rank:1

 スロット1:ショート・ソード (残りE:3/3) 

 スロット2:チェーン・ロック (残りE:3/3) 


 VS


 プレイヤー7:鮫田三男

 残HP:500

 rank:1

 スロット1:ショート・ソード (残りE:3/3) 

 スロット2:チェーン・ロック (残りE:3/3) 


 VS


 プレイヤー8:アリス

 残HP:50 (エントリー時チャージ無し)

 rank:1

 スロット1:ロング・ソード  (残りE:3/3)

 スロット2:ショート・ソード (残りE:3/3) 

 ==============


「アリス!?」

「やあ、イナバ君。さっきぶり」


 ハクトの驚く声に対して、軽い言葉で返事をするアリス。

 先程ミサイルを叩き切った芸当をした人物とは、思えない気やすさだった。


「なんでここに……」

「あ、ちょっと待ってくれるかい? 先に彼らを、と」


 ハクトの質問を一旦遮り、今度はハクトの背後に走り出す。

 そこには一生懸命堪えているキテツと、挟んでいる不良兄弟がいる。


「「だ、誰だお前!?」」

「お前確か、白兎の対戦相手の……」

「頭を下げて!!」

「う、うお!?」


 混乱している不良長男を他所に、アリスはシンプルに指示を出す。

 それに咄嗟に反応出来たのはキテツのみで、掴んでいた不良兄弟の足を離して頭を伏せた。

 片足立ちだった不良兄弟はすぐには動けず……


「実は長剣より、意外と短剣の方がまとめて切るには便利なんだよね。体に引っ掛からなくて」

「「ぐぎゃぁっ?!」」


 ==============

 プレイヤー6:鮫田次男

 残HP:500 → 420


 プレイヤー7:鮫田三男

 残HP:500 → 421

 ==============


 そんな軽い説明と共に、まとめて不良兄弟を斬り付け終えていた。

 一回の一振りだけで、纏めて二人にダメージだ。


「「て、テメエ!!」」

「遅いよ」


 ザザシュ!! ザザシュ!! 


 ==============

 プレイヤー6:鮫田次男

 残HP:420 → 339 → 258


 プレイヤー7:鮫田三男

 残HP:421 → 339 → 262

 ==============


「「か……かはあっ?! す、スロット2、フォーム、【チェーン・ロック】解除!!」」

「あ、逃げられちゃった」


 1回ダメージを与えたと思ったら、続けてもう2回。

 あっという間に計3回のダメージを与えたアリスに恐れを成したのか、キテツの拘束を解いて不良兄弟達は逃げ出した。

 逃げた先は、不良長男のいる方向だ。


 アリスはそれを見てすぐには追わずに、しゃがみ込んでいたキテツに対して手を伸ばす。


「まあいいか。さて、確か……キテツ選手、だっけ? 大丈夫かい?」

「あ、ああ。ありがとう、助かったぜ」

「どういたしまして。僕はアリス。有栖流斗(アリスリュウト)だ。名字で読んでくれるとありがたいな」

「ああ。オレは亀鉄(キテツ)。 プレイヤーネームがキテツで、本名は浦島亀鉄(ウラシマキテツ)だ。ヨロシク」

「そうか、ウラシマ君よろしく。ところで何故イナバ君と一緒に……?」

「キテツ、大丈夫!? アリス、ありがとう!」


 アリスに引っ張り上げられながらお互い自己紹介をしていると、ハクトが戻って来た。

 キテツの様子を見て、無事な事を確認するとホッとした様だ。


「白兎! さっきは悪かったな、にしても無茶しやがって!」

「それはお互い様でしょ。そんなことより、アリス! なんでここにいるの?」

「それはこっちのセリフだよ。君達何をやってるんだい? もうすぐ君達の試合の順番だろ?」


 ハクトの質問に対し、アリスは逆に質問で返す。

 助けに来た割に、アリスは本当に困惑した表情で聞いて来ていた。


「いやあ……カグヤが不良達にストーカーされてるらしくて。今ここで足止め兼ボコボコにしておこうかと」

「オレは偶々一緒にいたから、手伝いだな。普通に許せねえし」

「そ、そう……ちなみに僕は、ただのフリーバトルルーム使用だね。遅めのお昼ご飯食べた後、時間でも潰そうかと」

「え、時間? なんか用あるの? アリスもう俺に負けたから、てっきりもう帰ったのかと」

「その僕を負かした君の残りの試合を、見ようと思ってたんだよ! せっかくだし、何処まで勝ち進むか見ようと思って……なのに、割とイイ性格してるね君」


 そう言ったアリスの顔は、笑った笑顔だが、よく見ると額に青筋が浮かんでいた。

 微妙にハクトの言葉にイラついていた様だ。


「それで、フリーバトルルームに入ったら、丁度イナバ君達がヤバそうな状況に陥っていたから。それで咄嗟に助太刀に入ったという訳さ」

「なるほど、そうだったのか……とにかくありがとう、助かったよ。最後のミサイルも庇って貰うどころか、切り落としていたし。あれ凄かったな! でも、あんな技があるなら、なんで俺との二回戦で……」



「いや、だってイナバ君、”一切遠距離攻撃してこなかった”よね」

「ごめん。自分でも言っててそう思った」



 更に青筋を浮かべたアリスにそう返されて、ハクトは素直に誤った。

 わざと言ってる? と言った表情に対して、ハクトは素で疑問に出して、後から気づいた形だったのでわざとでは無かった。


「君の”クイック・ラビット”も、完全に僕メタになっていたし。あんな技があったと知ってたなら、最初からエネルギー節約なんて考えずに、普通にフォームギアを起動しっぱなしにしておけば良かったしね」

「ああ、つまりあれか。白兎のやつ、知らず知らずの内にお前の得意技を封じるメタな動きをしていたと」


 アリスの言い分に対し、聞いていたキテツがそう簡単に纏めていた。


「実際、今思うと自分でもよく勝てたなと思うよ。だってアリス、さっき不良兄弟達を攻撃した時、複数人の上、一撃の攻撃力が80くらいで明らかに俺の時より倍以上になってたし。……もしかして手加減してた?」

「いや。あれはただ、向こうの耐久力が下がってただけだね。HPグローブで肉体的なダメージはかなり軽減してくれるって言っても、スタミナそのものは消費し続けているからね。ものすごく疲れている時に攻撃を喰らったら、そりゃあいつもよりダメージが増すさ」


 アリス曰く、マテリアル・ブーツは意外と体力使うもの。

 更に、HPグローブで肉体的なダメージは軽減された状態と言っても、実際に斬られたり、爆発を受けたりはされているわけでもある。

 生きたまま体を切られたりする体験なんて、本来かなり精神的に負担がかかる行為。

 だから、知らず知らずのうちに疲労が溜まっているとの事。


「「へー」」

「逆に、君達は何故そんなに元気なんだい? 既に最低大会で一戦はしていて、初心者なら少しは疲労してるもんじゃ……」



「後輩に付き合って、朝のフルマラソンさせられたことがあるからかなあ」

「普通に鍛えた」

「OK。とりあえず二人とも、物凄く頑張っていた事だけは分かった」


 アリスは頭を抱えた様に、難しい表情をしながら話を直ぐに終わらせた。

 キテツはまだしも、ハクトは微妙にとんでもない苦労をしていそうだと思ったので、深堀はしないで置こうと思ったからだ。


「……ん? そういえばその不良達はどうした? まだバトル中だよな!?」

「ああ。彼らなら遠く離れた位置で、こっちを見ているよ。多分ワザと声を掛けずに、ギアの再チャージを待っていたんだろうね、あれは」

「そういえば、キテツもギアのエネルギーいつの間にか戻ってるね。こうしている内に、もう時間立ってたんだ」


 ==============

 プレイヤー2:キテツ

 スロット1:メタルボディ (残りE: 0 → 3/3 残りCT: 1 → 0/3)

 スロット2:パワー・バフ (残りE: 0 → 3/3 残りCT: 1 → 0/3)

 ==============


 ハクトは手元の立体ディスプレイで確認すると、既にキテツのギアの再使用は出来る状態だった。

 これでハクトとアリスの分も考慮すると、味方チーム全員がほぼギアのエネルギーが満タンの状態になっていた。


「て、テメェ!! 一体なんの理由で横入りしやがった!!」

「「何してくれてんだぁ!!」」


 ハクト達の意識が不良兄弟の方に戻ると、もう黙ってる必要は無いと思ったのか、不良兄弟達が騒ぎ出す。

 割り込んでハクト達を助けたアリスに対して、カンカンの様だ。


「ただ知り合いを助けに来ただけだよ。僕も参戦していいよね?」


「巫山戯んなぁ!! 男の勝負に割り込みやがって、プライドがねえのかテメェ!! 第一、お前は”アンリミテッド・カード”を装備してねえだろうが!!」


「いや、何が男の勝負だよ。思いつく限りの卑怯な手段片っ端から使いやがって。プライド無いのはどっちだっつーの」

「”アンリミテッド・カード”、ねえ……」

「ん? アリス、どうかした?」


 不良長男のお前が言うな、なセリフに対してキテツが呆れてるなか、アリスは何か引っ掛かったのか、電光掲示板の方を見始めていた。

 その関連性が分からず、ハクトは首を傾げていた。

 カードと電光掲示板に、何か関係があるのだろうか? 


「……いや、なんでも無いさ。確かに、僕は君達の言ってる”そのカード”は持っていないね。代わりに、HPが50からスタートにしてるからそれで許してもらえるかな?」

「ん? 有栖、どういうことだ……って、あ!? マジじゃねーか!? なんでHP既にそれしかねーの!? お前も割と絶体絶命じゃねえか!?」

「いやあ、イナバ君と戦った後ブーツとグローブ外してなくてね。ついさっき君達がピンチな状況を見たから、チャージせずに乱入しちゃって回復する暇が無くてね」


 アハハ、とアリスは軽く笑いながら答える。

 幸い、ギアも付けっぱなしのおかげで自然回復分でギアのエネルギー自体は回復しているが、HPグローブは回復してなかったので、緊急用の最低限の設定しかされていないとの事。

 頼りになる味方だが、瀕死のメンバーが一人増えただけとも言える。


「いーや、許さねえな。あのカードはもう使い切ったし、テメエに渡す分がねえ。お前以外の全員が、ブーツが脱げなくなるリスク背負って戦ってんだ。割り込んだ挙句、テメエだけ負けてもリスクがねえなんて、こっちとしてもやる意味がねえ」


 これ以上関わる様なら、バトル自体を終わらせて、またあの女に構いに行くと不良長男は脅し始めた。

 折角ハクト達に向いたヘイトが、またカグヤに関わろうとし始めている。

 それを聞いて、ハクトはまた注意を逸らそうと挑発の言葉を考え始めて……


「────僕が負けたら、”サモン系”のギアをそっちに上げるとしても?」


 そう続けたアリスの言葉に、不良長男はピクッと反応する。

 サモン系、確か5つのギア種類の一つだった筈、とハクトは思い返す。

 それを聞いて、キテツが解説してくれる。


「ああ、サモン系? 確か、物体か生物を呼び出すことが出来るギア種類だな。もちろん、本当の生物とかじゃ無くて、エネルギーだけで構成された自立行動する存在ってだけだが」

「知ってるかもしれないけど、ギアはマジックとサモンが特に値段が高くなりやすい傾向にある。逆にリピート、フォームは安くなりやすいね。バフは中間くらいかな?」


 勿論、ギアそのもののレア度にもよるけど、と付け足していた。

 マテリアル・ブーツは元々魔法のような事が出来るという謳い文句で流行ったもの。

 だから、派手な攻撃や非現実的なことがしやすいギアは、値段が高くなりやすいとの事だった。


「それで本題だけど、僕の参戦権の代わりに、手持ちの”サモン”系ギアを賭けよう。特にサモン系は、まだ一般に出回りづらいギアでね。安いものを売ったとしても、買取価格1万は下らない筈。僕のこれなら、5,6万は付くんじゃ無いかな?」


「……ほう?」


 それを聞いた不良長男の態度が、明らかに変わった。

 5,6万円、一般的な高校生あたりが手に入れるには、明らかな大金だった。


「ちょっと待ってアリス。助けてくれるのは嬉しいけど、そんな価値のあるもの賭けさせるわけには……」

「いいさ。僕が暴れたいだけだからね、気にしなくていいよ」

「有栖、いい奴だなお前ー」

「確か、君も割と大概じゃないかい?」


 ハクトが流石に待ったを掛けようとしたが、アリスはあくまで自分の意思だから、とそれを断っていた。


「……んー、しかしなあ。その売値が本当に付くかどうか不明だし、それが本物かどうかも分からねえ。ちょ──ーっと、テメエを参戦させる理由には弱い感じが……」



「”2個セット”。更にシリーズ物だから、両方合わせることで15万は超える筈」


「っは!! いいぜ、歓迎しようじゃねえか乱入野郎! 嘘だったら承知しねえからな!」


 敢えて渋るような動作をした不良長男に対して、アリスは畳み掛けるように掛け金を上乗せした。

 それを待っていたと言わんばかりに、不良長男は大喜びで了承する。

 仮に値段が嘘だったとしても、サモン系ギアというのが正しいなら、それが二つ手に入るだけでもかなりのメリットだと踏んだからだ。


「いい気分だ!! そうだな、俺が負けたら逆にテメエらに、手持ちのギア一個くれてやっても良いぜ!」

「あれ、良いのかい? 折角掛け金がつり合ったらしいのに、逆にそっちがサービスしてくれる事になるけど」

「別にいいぜぇ! どの身に死にかけのテメエらが、勝てるわけねえんだからなぁ!!」


 敢えてハクト達が負けた時、より悔しがるように自分からもギアを賭け出す宣言をした不良長男。

 彼にとっても、もはや負ける理由は一切無く、ただただ自分がいかに満足出来るかしか考えていなかった。


 ==============

 プレイヤー5:鮫田長男

 残HP:320

 rank:2

 スロット1:スーパーミサイル  (残りE:0 → 5/5 残りCT: 3 → 0/3) 

 スロット2:クラスターミサイル (残りE:0 → 2/2 残りCT: 2 → 0/3) 

 スロット3:強化弾       (残りE:3/3) 

 スロット4:────

 ==============


 そうこう話している内に、不良長男のギアのエネルギーが完全に戻った。

 ここからバトルがまた再開される! 


「スロット3、【強化弾】再適応! 更にスロット2、【クラスターミサイル】発射ぁ!!」


「いきなり切り札撃って来た!?」

「もう戦いを長引かせる気はないんだろうね!」


 不良長男が現状出せる最大火力を放って来ていた。

 爆発まで時間は掛かるが、それを初手に撃って来たという事は……


「いけぇ!! 弟達! しがみついてでも、足止めしてこい!!」

「「おう!」」


「やっぱり! 足止め様に襲いかかって来た!」

「あいつら、最悪相打ち覚悟するつもりだぜ!?」


 不良弟達が、こっちに向かって二人とも走ってくる。

 最悪、フレンドリーファイアする結果になったとしても、まとめて倒せれば問題無いというつもりなのだろう。


「関係ないね。斬り捨てる! 先鋒は頂いたよ!」

「あ、アリス! 分かった、頼んだ!」


 それに立ち向かう様に、アリスも走り出す。

 不良兄弟達と接敵するといったところで……


「「今だ、離れろ!」」

「あ、また逃げた!」


 バッと不良兄弟達が互いに離れ、アリスとぶつからない様に二手に分かれた。

 不良兄弟達はそのまま、ハクトとキテツに向かって続けて走り出していた。


「こいつら、やられるかもしれないからってアリスをガン無視してる!」

「有栖、構うな! 寧ろ好都合だ、そのまま長男野郎をぶった切ってこい!」

「ああ、了解!」


 ハクトとキテツは、そのまま不良兄弟と相対することを選んで、アリスをそのまま進ませることを選んだ。

 アリスはそれを了承し、更に走る速度を上げる。



 ☆★☆



「来やがったな! ランクの違いって奴を教えてやる! スロット4!」


「っ!? 気をつけてアリス、最後の4つ目のギアだ!」


「【反応装甲】!!」


 不良長男のその宣言とともに、彼のブーツがメキメキと形を変えていく。

 それは彼のブーツが長靴より長くなっていき、膝、腿、胴体にまでパーツが延長していく。

 まるでライダースーツの様な形になっていった。


「なんだあれ!? めっちゃかっけえなおい!!」

「一応靴の形の変化って事は、フォームギア? 効果は……」


「ごめん、斬り付ける方が早い! 一回さっさと斬り付ける!」


 不良長男の靴の形態変化に、興奮を隠せないキテツ。

 そしてギアの効果を調べようとするハクトに断りを入れて、アリスはさっさと斬り付けに行こうと更に加速する。


「スロット1、【スーパーミサイ」

「遅い! “二連斬”!!」


 不良長男の攻撃宣言の前に、先にアリスが切り捨てる。

 ハクトと戦ったときに使った、二度切りの攻撃だ! 

 一発目の攻撃がザシュッと入り、二度目の攻撃で2回分のダメージが……


 ==============

 プレイヤー5:鮫田長男

 残HP:320 → 281

 rank:2

 ==============


「っ? 二回目が!?」


 アリスは手応えに違和感があった。

 一回目はともかく、二回目が押し返されるように感じていた。


「ハッハァ!! 驚いたか、これが反応装甲の力だ!! 一発目はともかく、二発目以降は意味ねえんだよ!」


「アリス!! そいつのスーツみたいなギア、攻撃に反応して”内部の爆破の衝撃で相殺する”効果だ!  見た目に反して、防御用のギアだそれ!」


 ギアの効果を確認し終えたハクトが、アリスに聞こえる様大声で説明する。

 アリスの”二連斬”が失敗したのは、その効果のせいだった。


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 プレイヤー5:不良長男


<スロット4>

 ギア名:反応装甲

 GP:1   最大E:3  最大 CT:3

 残りE:2

 ギア種類:フォーム

 効果分類:自身持続

 系統分類:-

 効果:攻撃がヒットした場合、内部の火薬で衝撃を発生させる。それにより、多段攻撃を相殺して最初の1ヒットのみに抑える。但し、ダメージを受ける度に持続とは別にEが消費。

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「なるほどね。攻撃一辺倒かと思ったら、意外と慎重なんだね君」

「分かったところで、もう遅え!! 【スーパーミサイル】!!」

「”ディフェンス・エッジ”!! それは効かないよ!」

「ちぃ! 近距離でも切り捨てんのか!!」


 攻撃を回避した不良長男がミサイルを放ち、アリスがそれを切り捨てる。

 着弾まで時間が短ければ、流石に当たるだろうと思ったのだろうが、それでもアリスの反応速度が上だった。


「連続斬りで無いんなら、問題無いんだよね!  “ロング・エッジ”!!」

「グゥっ!?」


 ==============

 プレイヤー5:鮫田長男

 残HP:281 → 219

 rank:2

 ==============


「一撃に威力を込めた攻撃さ。1ヒット約60のダメージ。”二連斬”の方が総合火力は高いんだけど、今の君にはこっちの技の方があってそうだね」

「やってくれるぜ、おぃ!!」


 アリスの別の技で、自分の防御ギアを対策された不良長男。

 距離を取る事は出来たが、そこそこのダメージを受けてしまっていた。


「だが、テメエも喰らえや! スロット1、【スーパーミサイル】!!」

「だから、それは効かないよって何度も……あっ!?」


 先程と全く同じ展開。そう思ったアリスは、また飛んできたミサイルを切り捨てようとして……

 そのミサイルは、アリスの足元の地面に衝突した。


「ハッハァ!! どうだ、切り捨てる事が出来るなら、切り捨てられる前に爆発させりゃいいだけだろうが!! 多少ダメージが下がるかもしれないが、テメエには十分……」

「あっぶないなあ! ちょっとカスッちゃったよ」

「なにぃ!?」


 ==============

 プレイヤー5:アリス

 残HP:50 → 45

 rank:1

 ==============


 爆発の中から出て来た、アリスは殆どダメージを受けていない。

 相手の狙いに気づいたアリスは、咄嗟にバックステップで避けていたのだ。

 不良長男の対策方法は見事だったが、アリスの方がまだまだ対応力が上だった。


「テメエ、ランク1の癖に……!? いや、待て! テメエ、本当にランク1か!?」

「……さあ? 表示がランク1ではあるからそうじゃ無いの?」


 急に何かに気づいたのか、不良長男がそうアリスに質問しだした。

 それに対し、アリスはとぼけた様な反応を返す。

 実際の所、電光掲示板のアリスの表示欄はランク1だが……


「……っは。そうかよ、だったら手加減は不要だ」

「今まで手加減してくれてたのかい? 余裕だねえ」

「黙れ。ランク1の死にかけなら、本気出すまでもねえと思ったわけだが、もう遠慮しねえ……」


 そう呟くとともに、不良長男は上着のボタンを外していく。

 そしてその上着を捲ると、カッターナイフ、サバイバルナイフ、十徳ナイフ、スタングレネード、クマ撃退スプレー、etc……


「あらら。持ち込みアイテムが一杯」

「死にかけ程度なら、ギアじゃねえ攻撃でも十分即死圏内だ。テメエだけは油断無しだ、さっさとくたばりやがれぇ!!」

「うーん、これはちょっとめんどくさくなって来たね……」


 そう呟くと共に、アリスは不良長男のなんでもありの攻防を捌いていった……



 ☆★☆



「おい、白兎! 有栖がやばそうだぜ、早く加勢に行かねえと!」

「分かってる! けど、こいつらもなんとかしないと!!」

「「行かせるかあ!!」」


 アリス達が攻防を繰り広げてる中、ハクトとキテツも不良兄弟との相手をし続けていた。

 本来なら簡単に倒せる筈だが、もはやこいつらハクト達にダメージを与える気がないのか、そこそこの距離を維持し続けている。

 何があっても対処出来る距離感を維持して、ハクト達が近づこうとしてもすぐ逃げようとしてしまう。


「今はこっちに注目してるからいいけど、下手にこいつらを背後からアリスの方に近づけたら、流石にアリスも被弾する可能性が高い! あっちは集中してるから、こっちで片付けておきたいのに!」

「けど、そもそも上のミサイルも爆発するぞ!? それこそこいつらの思う壺だぜ!?」


 確かにもう上空の【クラスターミサイル】が赤くなり始めている。

 さっき喰らったときの経験から考えると、もうすぐ爆発してもおかしくない! 


「……っち。仕方ねえなあ、もう」

「キテツ?」

「白兎、なんとかしてこいつらをオレの所に集められるか? 二人ともだ。そしたら後はなんとかなる」

「っ!! 分かった!」


 キテツの言葉を信じ、ハクトはなんとかして不良弟達に【インパクト】を当てようと計画する。

 ただ、ガン逃げの戦法をしている不良兄弟達に近付くのは、ちょっと難しい。

 なんとかして、相手の虚を衝く様な動きをしないと。

 そう考えている内に……



 ────逆に考えちゃえ。別に敵に当てる必要ないって。



 そんな心の声が脳裏に浮かび、ふと思いつく。

 あ、そうか。敵と自分だけじゃないや、当てる対象。


「よし、キテツちょっと我慢して!」

「は? なんでオレ? ちょっと待て何するつもりだ嫌な予感めっちゃするんだがまさか」

「ぶっ飛べキテツ! 【インパクト】!!」

「白兎テメエえええええええっ!!」


 不良兄弟の片方が対角線上にいるように、キテツの後ろに回り込んだハクト。

 そのままキテツの言葉を無視しながら、味方に向かってギアを使用し吹っ飛ばした。

 背中に思いっきりぶち当てられたキテツは、そのまま不良兄弟に向かって飛んでいく! 


【メタルボディ】のせいで、思ったより飛ぶ距離は短かったが十分だろう。

 キテツの叫び声がハクトの耳に届くが、正直先にジャイアントスイングしたのはそちらなので、これでおあいこだろうと考えて無視している。


「なぁっ!? グゲェ!?」

「さ、三男!?」

「そっちもぶっ飛べ! 【インパクト】!!」

「ぐわぁ!?」


 キテツが飛んでくるとは考えていなかったのか、そのまま不良兄弟の片方は衝突して倒れる。

 驚いたもう片方にも一気に近づき、ハクトはそいつもギアで吹っ飛ばす。

 これでキテツの場所に二人とも揃えた! 


「まあいい! よっしゃ、つーかまーえーた!!」

「キテツ、これで!」

「おう! 白兎、先に範囲外に逃げろ! 後はなんとかする!」

「ああ!」


 キテツの言葉を素直に聞いて、ハクトは【クラスターミサイル】の範囲外に逃げ出す。

 この位置なら、流石に当たらないだろうという距離まで取れた後、キテツの方を振り返る。


「そこからどうするの! ……キテツ?」


「……悪いな、白兎。こっちの方が確実なんでな」

「「は、離せぇ!!」」


 見ると、キテツは不良兄弟を掴んだまま、一歩も動かないでいた。

 てっきり、さっきやった”陸亀大車輪”をやるのかと思っていたが、それをやる様子も無かった。

 掴まれている不良兄弟がもがいていたが、それでもキテツは一切の不動を維持している。


「キテツ、まさかお前!?」

「「や、止めろぉ!?」」

「おいおい、そういうなよ。お前らのお望みだっただろーが! オレ一人だが、一緒に鉄製のシャワー浴びようぜ!!」


 その直後、例のバァン!! っと、巨大な風船が破裂するような音が鳴り響く!! 

 あの筒状のものが辺りにばら撒かれ……



 ボボボボボオオォオォンッ!! 



「キテツううううぅううぅううっ!!!」



 キテツは不良兄弟と共に、爆発の中に飲まれていった。



 ☆★☆



「ウラシマ君!!」

「おらあ! 隙ありだ!」

「くっ!」


 キテツの状況に気を取られたのか、アリスが一瞬隙を晒してしまう。

 その隙をナイフで攻撃されて、アリスは少しだけ、けれど今のHPではキツイダメージを受けてしまった。


 ==============

 プレイヤー8:アリス

 残HP:45 → 21

 rank:1

 ==============


 アリスは一旦落ち着くために、不良長男から距離を取る。

 不良長男も亀鉄達の方を見て、状況を確認する。


「ちぃっ!! 倒せたのはカメやろうだけか! ウサギ野郎は逃げ切ったか」

「あれが【クラスターミサイル】……強化もされてるせいか、範囲も威力もでかい。これじゃあウラシマ君はどうあがいても……」

「2:1交換はこっちの損だが、まあいい。どの道ウサギ野郎も瀕死だ。残りはまとめて片付けてやれば……アン?」


 ふと、不良長男が電光掲示板を見ると、表示がおかしい事に気づく。

 あの規模の爆発だ。3人ともHPオーバーになっていないとおかしい筈。

 それなのに、なぜ……




 ────キテツのHPが0になっていない? 



 ☆★☆



「……あー。死ぬかと思った」

「キテツ!? え、無事!?」

「おー、ばっちし。HPもギリ残ってるしな」


 ==============

 プレイヤー2:キテツ

 残HP:41 → 13

 rank:1

 ==============


 不良長男が抱いた疑問に答えるかの様に、キテツがそのまま煙幕が晴れた中立ってきた。

 HPも確かに0になっていない。


「な、なんで? あれだけの爆風、【メタルボディ】があったとしても防ぎ切れるわけ……」

「白兎、覚えておけ……」


 そう言いながら、何かを二つドサっと投げ落とすキテツ。

 それは……



「────人を”庇う”事が出来るって事はな、人に”庇わせる”事も出来るって事をな!」


「こいつ、不良達を盾にして生き残ってる!?」

「「きゅう……」」


 ==============

 プレイヤー6:鮫田次男

 残HP:258 → 0


 プレイヤー7:鮫田三男

 残HP:262 → 0

 ==============


 投げ落とした二つは、不良兄弟だった。

 ハクトのいう通り、キテツは不良兄弟を傘の様に真上に掲げて、爆風から自分の身を守っていた。

 多少防ぎ切れなかった部分もあるが、それは【メタルボディ】で十分軽減出来るくらいだったおかげで、ギリ彼のHPが0にならなかったのだ。


 ハクトを庇ってくれた人と同一人物とは思えない、外道な戦法だった。

 まあ、散々卑怯な戦法を取ってきた不良兄弟にとっては自業自得だが。

 これで不良兄弟の内、弟達は完全戦闘不能。

 バトル参加の空き枠も無くなったため、再参入の可能性も完全に無くなった。


「うわー……ウラシマ君、やるねえー」

「よ、よくも弟達をおおおおおお! テメエらあああああああ!!」

「切れる資格、君にあるの? あ、やば」


 アリスがキテツに関心し、それを見た不良長男が、激昂しながらスタングレネード三発目を投げていた。

 近くにいたアリスはそれに気づくと、目眩しにならない様に背を向けて急いでその場を離脱。

 背後でピガアアァアァッ!! っと光ったのを目に入れない様に、ハクト達の所まで走って行った。


「アリス、大丈夫だった!?」

「大丈夫、けどごめん。トドメを差し切る前に離脱しちゃったよ」

「十分! ありがとう!」


 戻ってきたアリスに対して、ハクトはお礼を言う。

 責めるどころか、十分既に活躍してくれた。


「テメエら、もう許さねえ!! スロット2、【クラスターミサイル】!!」


 切れた不良長男は、最後のエネルギーで【クラスターミサイル】を再度放つ。

 丁度ハクト達の真上に、また浮かんだ状態だ。


「もういい! HPは俺の方が上だ! 【スーパーミサイル】はまだ三発残ってる! 更に【反応装甲】も健在だ! テメエら全員近接攻撃しか出来ねえよなぁ! 相打ち覚悟でダメージを与えりゃ、俺の勝ちは変わらねえんだよおぉッ!!」


 ==============

 プレイヤー1:ハクト

 残HP:49


 プレイヤー2:キテツ

 残HP:13


 プレイヤー8:アリス

 残HP:21 


 vs


 プレイヤー5:鮫田長男

 残HP:219

 rank:2

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「確かにまずいぜ。こっちは風前の灯なのに、あいつだけHPが200越え。俺達の1ヒットで有栖で60、俺の”鉄拳”も良くて70、ハクトで40のダメージだとすると、全員相打ち覚悟でも足りない!」

「なんとかして、相手の体勢を崩す必要があるだろうね。それか、一撃で高火力を叩き込むかのどっちか……」

「どの方法を使うとしても、こっちのメンバー誰一人HPオーバーにはさせたくないな。せっかくの助っ人の二人に、損なんてさせたくない」


 折角キテツも生き残ってくれていたのだ。このまま3人とも脱落せずに勝ちたい。


 とは言っても、激昂した不良長男相手にここから無傷でダメージを与える事は難しい。

 比較的HPに余裕があるのはハクトだが、恐らく不良長男は何がなんでも近づけさせないだろう。

【インパクト】で飛んで一気に近づこうとしても、また【スーパーミサイル】で撃ち落とされるのが落ちだろうし。

 3人で一斉に襲い掛かろうとしても、誰か一人はやられてしまう可能性が高い。


 どうすれば……



「……ん? そういえば、俺が撃ち落とされた時って……」


 ハクトはふと引っかかる。

 確かハクトが【スーパーミサイル】で撃ち落とされたのは、空中で回避する手段がなかったからだ。

 なんで回避する手段が無かったかというと……


「……そっか。だったら……よし、これなら不意をつけるかも!」

「何か思いついたのかい?」

「ああ! キテツ、頼みがあるんだ!」

「お、なんだ! ここまできたんだ、なんでもやってやるぜ!」

「さっき俺と不良兄弟を、まとめて投げ飛ばした技があるでしょ?」

「ああ、”陸亀大車輪”な。あれがどうかしたのか?」



「あれ、もう一回俺に対してやってくれない?」

「え? 気が狂った?」

「ちゃんと正気だよ!」



 いいから耳を貸して! 

 そう言ってハクトは、キテツとアリスを近づけて作戦会議をする。

 それを聞いた二人は、ニイっと楽しそうな顔と、驚きの表情を浮かべていた。


「本当に正気なのかい、イナバ君!?」

「おもしれえ、オレはそれ乗った!!」

「よし! じゃあその後の事は頼んだよ、二人とも!!」


「何を考えてるか知らねえが、無駄だ!! テメエらには何も出来ねえ!! そのまま何もせず、大人しくクラスターの餌食となれぇ!! ……いや、本当に何やってんだ?」


 不良長男の言葉を無視して、ハクトはその場でうつ伏せに寝転がる。

 そして、そのハクトの両足をキテツがガッシリ掴む。


「本当にいいんだな、白兎!?」

「いいからやって! もうクラスターの時間が無い!!」

「よっしゃ、いっくぜええええええ!!」


 その掛け声と共に、再度キテツは回転し始める。

 ブンブンと、ハクトを掴んだまま回転速度を上げていく。

 振り回す人数が一人になったからか、回転速度が直ぐに上昇していく! 


 ブンッ! ブンブン、ブブブブブブンッ!! 


「2回目! ”陸亀大車輪”!! ぶっ飛べええええええ!!」

「はああぁぁぁああああっ!!」


 勢いの付いたハクトを、キテツは手放した! 

 回転速度が明らかに違うせいか、さっき以上にハクトは素早く飛んでいく! 


「ちい!! 馬鹿げた事を考えやがる! しかし関係ねぇ!! そのまま落ちろ、スロット1、【スーパーミサイル】!!」


 そして、空中から飛んで近づいてくるハクトに対して、不良長男はミサイルを発射する。

 照準はブレない。ランク2の意地からか、確実にハクトに当たる軌道!! 


「これでしまいだ! ウサギ野郎ぉっ!!」


 不良長男は確信していた。これでハクトは脱落すると。

 対して、ハクトは思い返していた。カグヤとの模擬戦時の会話を。


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 ────あとは、"ルーティーン"とか採用している人がいるわねー

 ────ルーティーン? それって、あの決まった動きをやってリセットする、テニスとかのスポーツでやるやつ? 


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 ギアの再発動には、ルーティーンで思考のリセットをする必要がある。

 ハクトが空中でギアを発動出来ないのはそのせいだ。

 ハクトのルーティーンは地上か壁、または天井に足が着くこと。

 地上でジャンプの際に【インパクト】を発動した後は、また足が着くまで再発動が出来ない。


 ────しかし。

 今ハクトはキテツによって投げ飛ばされて、空中にいる状態。

 ジャンプの際に、ギアを使用したわけでは無い。



 “つまり、【インパクト】の発動権はまだ残っている”。




「”飛ばせ”! 【インパクト】!!」


 空中で、初めてギアを発動したハクト。

 そのまま加速して更に飛んで行き、ハクトを狙ったミサイルは当たらなかった。


「な、なにぃぃぃぃいいイィいいっ?!」


「あは、あはは、あはははっははっははははっ!!!」


 ミサイルを躱したハクトは、高笑いを上げている。

 1回。たった1回だけの動作だが。



 確かにハクトは、”空を飛ぶ夢を、今の1回だけは叶えたのだ”。



「喰らえ! ”ラビット・スタンプ”!!」

「ぐううぅ!?」


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 プレイヤー5:鮫田長男

 残HP:219 → 160

 rank:2

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 そのままの勢いで、斜め落ちのまま得意技を放つ。

 大会会場では使用出来なかった、自分のもう一つの習得した技。

 しかし流石ランク2なのか、驚きながらも不良長男のガードが間に合い、与えたダメージは60程度しか無い。


 けれど、ハクトの本命はそこでは無かった。


 着地に成功したハクトは、そのまま不良長男の背後に回り込み、ギアを発動する! 


「ぶっ飛べ! 【インパクト】!!」

「て、メエ!! これでも喰らいやがれ!」

「くっ! けど、そのまま飛べええええ!!」

「ぐえええ!?」


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 プレイヤー1:ハクト

 残HP:49 → 15

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 ハクトのギアの発動に、カウンターする様に手で攻撃する不良長男。

 アリスにも襲い掛かった、持ち込みアイテムのナイフ。

 それで首辺りを切られたが、ギアによる攻撃でない為、威力は半減。

 ギリギリHPが残り、ハクトはそのまま不良長男に目的の【インパクト】を当てる事に成功した!! 

 例の防御ギアが展開されていようが、ただ衝撃で蹴り飛ばすだけなら元々無意味だ! 


「ウサギ野郎!! テメエええええええ!!? 」

「生憎、俺の役割はもう終わったよ。キテツ、アリス!!」

「っ!?」


 不良長男の叫び声を軽く流し、ハクトは仲間の二人に作戦通り後を託していた。

 不良長男の吹っ飛んだ先には、丁度キテツとアリスが待っている。


「待っていたぜ、散ッ々メチャクチャしてくれやがって……」

「確か、連続攻撃は効かなくて1ヒットしか食らわないんだっけ……」


「「じゃあ限りなく、同時攻撃ならどうかな? お前(君)の兄弟の様に!」」


「よ、よせぇ!?」


 不良長男が慌て出したが、もう遅い。

 キテツとアリスは、今までのお返しとばかりに息を合わせる! 


「全力! ”鉄拳”!!」

「切り裂け! ”ロング・エッジ”!!」


「「完全同期!! “クロス・コンビネーション”!!」」


 キテツの拳が。アリスの長剣が。

 ついさっき出会ったばかりのチームメイトとは思えないほどの精度で。

 寸分違わず、同時に不良長男に叩き込まれた。


「ゲバラアアぁあっぁあ?!!」


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 プレイヤー5:鮫田長男

 残HP:160 → 15

 rank:2

 スロット4:反応装甲 (残りE:1 → 0/2 残りCT: 3/3) 

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 キテツとアリスのコンビ攻撃に、悲鳴を上げながら吹っ飛ぶ不良長男。

【反応装甲】が残っており、思った以上に吹っ飛んで、まるで野球のファールボールの様な軌跡でキテツ達の背後に落下した。


 ガードが間に合っていても、総ダメージ145。素人でも無いランク2の戦闘経験者としては、かなりの大ダメージだ。


「ま、まだだぁ!! まだHPは残っている! 一撃、ここからノーダメージで一撃ずつ喰らわせれば、俺の勝ちだぁ!!」


 攻撃を喰らった不良長男は、なお諦めずに立ち上がる。

 そのガッツ精神は、卑怯な手段を取りまくったとしてもある意味見事。

 それを見たハクトにとって、ある意味尊敬出来る程でもあった。


「舐めんじゃねえぞ、雑魚どもがぁ!! 今度こそ全員、返り討ちにしてくれ……あん!?」

「よし! ウラシマ君撤退だよ!」

「退散退散!!」


 しかし、不良長男の意気込みとは裏腹に、アリスとキテツはその場からダッシュで離れる。

 今攻撃すればトドメがさせたかもしれないのに、トドメを刺さずにハクトの所に戻っていった。


「は、はははははハハハハハハアァッ!!! 怖気ついたか雑魚どもがあ!! そうだな、怖いよなぁ!? 俺に一撃でも喰らったら終わるから怖いよなぁ!!」


「そうだね。確かに怖いよ、最後の最後で君に相打ちにされて、仲間の二人がやられるのは」


 不良長男の言葉を否定せず、ハクトは本音を吐く。

 今の一撃でトドメをさせていれば良かったが、生憎向こうもHPがほんの少しだけ残ってしまっている。

 これでは、万が一にもアリスかキテツが相打ちでHPオーバーになる可能性が残っている。


「────だから、別の手段でトドメ刺すね」


「……あん?」


「なんで俺が、わざわざキテツ達をその場で残して、不良長男(お前)をわざわざ吹っ飛ばしたと思う? 後から攻めに来させないで」


「っ!?」


 その言葉に不良長男も気づいたのか、上空を仰ぎ見る。

 そこには、今にも破裂しそうな……


「折角だし、言わせて貰おうかな。別のギア使ったこと無いし」


 そう言って、ハクトは片手を伸ばす。

 指パッチンの形にした状態で……



「炸裂しろ。【クラスターミサイル】」



 その宣言と指を鳴らすと共に、上空のミサイルは破裂する。



「て、テメエらあああああっぁぁぁぁぁぁああっぁぁぁあッァァアッァァァッッッ!!!??」


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 プレイヤー5:鮫田長男

 残HP:15 → 0

 rank:2

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 不良長男の最後の叫び声は、クラスターの爆発音で書き消えていった……




 ★因幡白兎(イナバハクト)


 主人公。

 白兎パーカーを着た、空を飛びたい夢を持った少年。

 指パッチンが上手く決まって気持ちがいい。



 ★浦島亀鉄(ウラシマキテツ)


 3回戦のハクトの対戦相手。

 性格は熱血漢で早とちり、けれど正義感は強い。

 よっしゃあ! 正義は勝つ!!



 ★有栖流斗(アリスリュウト)


 ハクトと二回戦で戦った少年。

 紳士的な態度で話しかけてきた。

 はは、大したことなかったね!!




 ★鮫田長男(さめだちょうなん)


 プロローグ前に、カグヤにしつこく絡んでいた不良。

 章ボス。実はランク2だった。

 最後の叫び声は、ハクト達には聞こえなかった……



 ★鮫田次男(さめだじなん)

 ★鮫田三男(さめださんなん)


 鮫田三兄弟の次男、三男。というか双子。

 キテツの盾がわりにされた。

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