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第12話 鮫田長男の恐ろしさ

 ==============

 バトルルール:バトルロイヤル・ハーフHP制

 残りタイム:無制限


 プレイヤー1:ハクト

 rank:1

 残HP:480

 スロット1:インパクト (残りE:6/10)

 スロット2:バランサー


 VS


 プレイヤー2:キテツ

 残HP:443

 rank:1

 スロット1:メタルボディ (残りE:2/3)

 スロット2:パワー・バフ (残りE:2/3)


 VS


 プレイヤー3:アカウント・エラー

 プレイヤー4:アカウント・エラー


 VS


 プレイヤー5:鮫田長男

 残HP:500

 rank:2

 スロット1:スーパーミサイル  (残りE:? /?) 

 スロット2:────

 スロット3:────

 スロット4:────


 VS


 プレイヤー6:追加登録可能

 プレイヤー7:追加登録可能

 プレイヤー8:追加登録可能

 ==============


「喰らえ! スロット1、【スーパーミサイル】!!」


「おっと!!」

「あっぶね!!」


 とうとう痺れを切らした不良長男が、攻撃を開始した。

 先程キテツ達に当てた攻撃と同じだ! 

 それをハクトとキテツはギアを使わず、横ステップで回避する。

 真後ろからならともかく、目の前で発動の瞬間を見せられたなら回避は楽だ。


 二人のいた場所に攻撃が着弾後、ハクトは急いで先程確認し切れなかった相手のギアを確認する。


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 プレイヤー5:鮫田長男


<スロット1>

 ギア名:スーパーミサイル

 GP:2   最大E:5  最大 CT:3

 残りE:5 → 3

 ギア種類:フォーム

 効果分類:単体攻撃

 系統分類:ミサイル

 効果:射程15m届くミサイルが飛んでいく。威力はやや強いが、弾数が少し少なめ

 ==========================


「ミサイル!! そんな攻撃のギアもあるのか……って、フォーム!? 種類フォームって事は、あれも靴の形態変化の一種なの!?」

「ああ! フォームギアの中にも、弾数性で管理されてるギアがある! そいつは靴の素材から生成される扱いで、素材によって威力と効果が変わる! それも一応一種のフォーム扱いだ!!」


 立体ディスプレイに表示されている情報と、キテツの説明にハクトは大層驚く。

 剣が靴から伸びるのはまだ分かるが、ミサイルのような発射して爆発するものも、フォーム扱いとしてギアが存在するのかと。


 少なくとも、まだまだマテリアル・ブーツは常識で判断してはダメだとハクトは実感した。

 幸い、相手の履いているブーツはハクト達と同じくノーマル・ブーツ。ひとまずはギアの情報を鵜呑みにして判断していいとの事。


「ちっ、白兎! 一旦オレはギアのエネルギーを節約したい! 最初にアイツに近づいて、撹乱を頼めるか!?」

「分かった! 跳ね上げろ! 【インパクト】!!」


 キテツからの頼まれごとに、一言了承で返してハクトは飛び上がる。

 一気に距離を詰めようとしたが……


「空中じゃ逃げられねーだろ!! スロット1、【スーパーミサイル】!!」

「一発ぐらいなら耐えて……うわあっ!?」


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 プレイヤー1:ハクト

 残HP:480 → 428

 スロット1:インパクト (残りE:6 → 5/10)

 ==============


 カグヤとの模擬戦の時見たく、敢えて一発だけ受けてそのまま近づこうとしたハクト。

 しかし予想よりミサイルの爆発の衝撃がやや大きく、予定より押し返されてそのまま墜落してしまった。

 一気に距離を積める作戦は失敗だ。


「まだまだいくぜ!! スロット2、【クラスターミサイル】!!」


 追撃とばかりに、不良長男が二つ目のギアを発動する。

 先程より大きめのギアが、彼の靴裏から展開されて1発発射される! 

 それは大きく山を描いて、ハクトやキテツの真上までやって来て……


「……あれ? 落下しない?」

「なんだあれ? 不発弾かよ」


 その巨大なミサイルは、爆発するでも落下してくるでもなく、急に慣性が停止して空中に漂ったままの形となった。

 何も起こらず、逆にただ浮かんだままだというのは不気味に感じた。


「あのギアの効果は……」


「よそ見してる余裕あるか!! スロット1、【スーパーミサイル】!!」


「っやば!? 【インパクト】!!」


 相手のギアの効果を確認しようと思ったら、その隙を突かれるように次のギア発動の宣言をされる。

 咄嗟の判断でギアを発動して回避出来たが、相手のギアを調べる時間が無い。


 当然といえば当然だ、戦闘中に悠長に画面を見続ける事など普通は無いのだから。

 目の前でそんな隙を、不良長男にとって見逃す訳などなかった。


「っけど! これで相手のギアの一つ目は、エネルギー残り1の筈!」


 なんとかしてそれを回避したら、一気に再度相手に近づける。

 残りの二つのスロットは気になるが、とにかく目標の撹乱のためにも近づかなくては、とハクトが思っていると……


「っはっはぁー!!」


「っはあ!? 向こうから近づいて来た!?」


 遠距離攻撃を持ってる不良長男が、逆に走って向かって来ていた。

 態々向こうから近づく理由など無いはずだ。

 それとも、残り二つのスロットのギアの関係か? 

 相手の狙いが読めない……


「よく分からねえが、近づいてくるなら好都合だ! 装着1、【メタルボディ】! 装着2、【パワー・バフ】再開始!」


 不良長男の動きを見て、エネルギーを節約していたキテツも再度ギアを適応開始する。

 そうだ、狙いが読めなくてもこっちは今2対1。

 キテツと二人がかりで攻めればいい。


 そう判断し、走ってくる不良長男に対してハクトは先手を打った。


「喰らえ! “クイック・ラビット”!!」

「おっと! 危ねえなぁ!」

「躱された!?」


 丁度不良長男の頭を蹴り飛ばせる位置に対して、自分の得意技を放ったハクトだったが、不良長男はそれを少し上半身を反らせるだけで躱していた。


「さっき弟に放っていたやつを見たからなぁ! 分かってるなら避けるのは簡単だぜぇ!」

「くっそ! 一回使っただけなのに!」


 たった一回で、ハクトの得意技を見切ったと言う不良長男。

 流石にランク2で格上と自称するだけの実力はあるらしい。

 少なくとも、ただ頭を狙うだけでは当たらないのだろう。ならば……


「オレを忘れんな! “鉄拳”!」

「っは! そんな大振りの攻撃当たるかぁ!」

「今だ! “クイック・ラビット”!!」

「っグゥ!」


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 プレイヤー5:鮫田長男

 残HP:500 → 463

 rank:2

 ==========================


 キテツの攻撃を先にさせて、それを回避した直後の不良長男に追撃で放つようにする。

 更に頭ではなく、胴体を狙う事でダメージ効率は下がるが、確実に攻撃が通るようにした。

 結果はハクトの思った通り、今度は攻撃が通って初めて鮫田長男にダメージが入った。


 これを繰り返していけるなら、このままなら不良長男を倒せるだろう。問題は、残りのスロットが不明なのと……


 ==============

 プレイヤー1:ハクト

 残HP:428

 スロット1:インパクト (残りE:5 → 2/10)

 ==============


 ────残り【インパクト】のエネルギーが少ない! 


 ハクトの懸念点はこれだった。

 残りの【インパクト】の発動回数が、たった2回しかない。

 ハクトは何気に、マテリアル・ブーツの戦闘でギアのエネルギーが尽きた経験が無かった。

 本当にギアのエネルギーが0になってしまった時、実際どうなるか分からないが気になるが……


「”鉄拳”! 白兎今だ!!」

「っ! “クイック・ラビット”!!」


 それでも今は攻めるしかない。

 今はキテツも近くにいて、間違いなく有利な状況。今のうちにダメージを稼ぐべきだ。

 この後相手のギアの回避手段がかなり少なくなるが、それは自力で避けるしかない。

 ハクトはそう考え、不良長男に追撃を行った。


 更に、続けてキテツの攻撃も今度はヒットした。

 流石にクリーンヒットしたわけでは無いが、ハクトとキテツ、計2回分のダメージを追加した形だ。


 ==========================

 プレイヤー5:鮫田長男

 残HP:463 → 427 → 351

 rank:2

 ==========================


「ちぃ! スロット1、【スーパーミサイル】!!」

「跳ね上げろ! 【インパクト】!!」


 やや近距離からのミサイルを、最後のエネルギーを支払ってハクトは躱す。

 これで、相手の【スーパーミサイル】とこっちの【インパクト】は使い切った形だ。


 ==============

 プレイヤー1:ハクト

 rank:1

 スロット1:インパクト (残りE:2 → 0/10 残りCT: 3/3)

 スロット2:バランサー


 VS


 プレイヤー2:キテツ

 rank:1

 スロット1:メタルボディ (残りE: 2 → 1/3)

 スロット2:パワー・バフ (残りE: 2 → 1/3)


 VS


 プレイヤー5:鮫田長男

 rank:2

 スロット1:スーパーミサイル (残りE:2 → 0/5 残りCT: 3/3)

 スロット2:クラスターミサイル (残りE:? /?)

 スロット3:────

 スロット4:────

 ==============


「よっしゃ! 白兎、一回さがれ!! しばらくオレが抑える、距離をとって体勢を整えろ!!」

「分かった、ありがとう!!」


 キテツの指示に、ありがたくハクトは従った。

 不良長男とキテツの戦いから、10m程距離を取れる位置まで下がった。

 その後ハクトは、落ち着けた今の状況を利用して現在の互いのエネルギー残量を確認していく。


 エネルギーを使い切った、ハクトと鮫田長男のスロット1が、互いにE0となっており、更に”残りCT: 3/3”と表示されている。


 恐らく、この表示の”残りCT: 3/3”が、次にそのギアが使えるようになるまでの残り時間扱いなのだろう。

 このCTがだんだん減っていき、0になったら使えるようになる筈だ。


「……けど、だったらなんで不良長男は一旦下がらないんだろう?」


 不良長男のスロット1も、同様の表示になっていた事は確認出来た。

 だとしたら、ハクトと同様に距離を取って下がってもいいはずだ。


 しかし、未だに不良長男とキテツは蹴りあったり殴りあったりとした状態だ。

 残りのスロットのギアが二つあるからかもしれないが、そっちを発動する様子も無い。


「そういえば、さっき発動されたあのギア。結局あれは一体……今の内に確認を」


 丁度キテツが時間稼ぎをしてくれている最中だ。

 さっきは見れなかった、【クラスターミサイル】の情報を見よう。

 そう思い、立体ディスプレイを操作して……


 ==========================

 プレイヤー5:鮫田長男


<スロット2>

 ギア名:クラスターミサイル

 GP:3   最大E:2  最大 CT:3

 残りE:2 → 1

 ギア種類:フォーム

 効果分類:範囲攻撃

 系統分類:ミサイル

 効果:射程20m、巨大なミサイルを飛ばす。指定箇所の上空で暫く留まった後、一定時間経過で破裂。小型爆弾をばら撒き、広範囲にダメージ約150を与える。

 ==========================


「【クラスターミサイル】……広範囲攻撃!? 」


 説明文を読んだハクトは、バッと上空の例のミサイルを見上げる。

 色が先程の鉄色から赤くなり始め、今まさに破裂しそうだ!! 


「キテツ!!」

「え、なんだ!? 今急に不良長男が走り去って、ある意味丁度良いからこっちも休憩しようと……」

「上のミサイル!! 爆発する!」

「なにい!?」


 そうキテツに忠告したが、遅かった。


 バァン!! っと、巨大な風船が破裂するような音が鳴り響き、そこそこ大きめの筒状のものがばら撒かれる。

 数は恐らく10個前後、広くばら撒かれる! 


「げえ!?」

「い、【インパクト】……あっ」


 あ、駄目だ。だからエネルギー尽きてるんだった。宣言しても、うんともすんとも言わなかった。

 癖で咄嗟にギアで避けようとしたのが失敗で、全力で範囲外に逃げるべきだったが、もう遅い。

 散らばった筒状のものが地面に衝突し……


 ボボボボボオオォオォンッ!! 


 ==============

 プレイヤー1:ハクト

 rank:1

 残HP:480 → 326

 スロット1:インパクト (残りE:0/10 残りCT: 3 → 2/3)

 スロット2:バランサー


 VS


 プレイヤー2:キテツ

 残HP:443 → 343

 rank:1

 スロット1:メタルボディ (残りE: 1 → 0/3 残りCT: 3/3)

 スロット2:パワー・バフ (残りE: 1 → 0/3 残りCT: 3/3)

 ==============


「っげっほごほ!! キテツ、大丈夫!?」

「げーっほ!! ごほ! アイツ、やりやがったな!! さてはこれ当てる為に足止めしてたな!!」


「あーっはっはっはぁっ!! まんまと引っかかりやがったな雑魚どもが!! これが俺の切り札、【クラスターミサイル】だ!!」


 切り札の攻撃もモロに喰らった二人を見て、高笑いを上げる不良長男。

 ハクトは悔しながらも、相手の使ったギアに関して考察を始める。


 恐らく筒状の爆弾1個で半径5m程。それが10箇所前後に範囲が重ならない程度にばら撒かれ、一斉爆撃された。思った以上の広範囲だ。

 あの巨大なミサイル状態で、ばら撒かれる前に距離を取るべきだった。

 そうすれば回避は簡単に出来たのに、恐らくそれに気づかせない為に不良長男はわざと自分から接近して、移動とギアの情報を見せないように立ち回っていたのだ。


「やってくれたぜ……まだ【メタルボディ】で少しは軽減出来たが、丁度今ので時間が切れた。白兎、お前もギアのエネルギー尽きた筈だよな。暫くは距離を取って、様子見と時間を稼ぐぞ。あのでかいミサイルが見えたら、次は常に走り回ってろ。不良長男(アイツ)が近くにいたとしてもだ」

「分かった」


 キテツの提案に素直にコクッと肯く。

 今までの様子から、キテツは恐らくハクトよりマテリアル・ブーツの戦闘経験は高い。

 言っている内容もハクトにとってはほぼ同感で、それに素直に従うのが良いと、そう感じていた。


 ……そのまま30秒間ほど、何もしない睨み合いが続く。

 一呼吸をつく事で、互いに体の疲労を落ち着かせる事ができた。

 ギアのCTも1減少し、もう30秒ほどで再度【インパクト】が使えるようになるが……


「っは! おじげついたか。なら、もう一度喰らえや!! スロット2、【クラスターミサイル】!!」


「っ!? 二発目の【クラスターミサイル】!?」

「この中途半端なタイミングでか!? いや、とにかく回避だ! さっさと距離を取れば問題ねえ!」


 膠着状態に痺れを切らしたのか、不良長男が最後のエネルギーを使って、再度切り札を切って来た。

 相手の【スーパーミサイル】のエネルギーが戻って来ていないが、ハクトの【インパクト】も使えるようになることを警戒して、今撃って来たのかもしれない。

 とにかく、相手の狙いは詳しくは分からないが、さっさとこの場所を離れた方がいい。

 また不良長男がこっちを妨害しようと走って来ている! 


「また走って来やがったな!! もう【クラスターミサイル】の特徴は分かってんだ、お前に付き合う気はねえ!!」

「っは! そうかよ、これを喰らってもか?」


 そう言って、不良長男は走りながら、彼の上着のポケットから何かを取り出そうとする。


「気をつけてキテツ! またカッターナイフか何かかもしれない!」

「はあ!? お前も結局ギア以外の持ち込み使うのか! ランク2なのにちっせえなあおい!!」

「へぇーへぇー。負け犬の遠吠えは気持ちいいなあ、おい!!」


 キテツの言葉を気にしていないように、ポケットの中身を準備する不良長男。

 それを見たハクトとキテツは、より注意を払う。

 大丈夫、タネは既に分かっている。

 また刃物が飛んできたとしても、よく見て躱せば問題ない。


 だから二人はじっと、不良長男の手を見て、缶状の何かを取り出したのを見た。

 催涙スプレーか何かか? 

 そう思って、よりそれに注意を払って……”それを投げられた”。


「は? 投げた? スプレーか何かを、なんで……」

「まさか!?」


 直前に気付けたのは、ハクトだけだった。

 警察官の兄(ケンジ)に育てられたハクトだけがその正体にすぐ思い当たる事が出来たが、キテツに注意をするには遅すぎた。


 既に投げられた缶が、光と爆発音を響かせる!! 

 スタングレネードだ!! 



 ピガアアアァァアアアアァァアァッ!! 



「目がああああああああああぁぁぁぁぁぁっ?!!」

「キテツ、大丈夫!?」


 ギリギリで腕で防げたハクトだったが、キテツは缶に注目していたのが裏目って、モロに光を見てしまった。

 HPグローブでダメージは防げるとしても、目潰しや騒音に対して効果があるか知らなかった。

 実際どうなるのだろう、ダメージ扱いでは無いので防げないか、それとも復帰が早くなるだけなのか、ハクトにはこの場で判断は出来なかった。


 それより、スタングレネードを投げて来たと言う事は、投げた本人は当然対策しているわけで……


「っはっはぁ!! さっきの仕返しだぜオラ!!」

「ぐう!!」

「キテツ!? このおっ!!」


 目眩しで動けないキテツに対し、殴り倒した不良長男。

 ダメージはそれほど出ないが、先程殴られた仕返しと、倒して足止めには十分だった。

 そんなキテツを庇う為に、ハクトは不良長男と蹴り合いに発展する。


 まんまとまたこの場で足止めされている形だが、まだ【クラスターミサイル】の爆発まで猶予がある筈。

 それまでに離れ切れれば……そう思考していたハクトだったが。


「っへ! テメエも喰らえや!」

「っ!? 手を掴んで、しまっ!?」


 相手がまたポケットに手を突っ込んでいたので、目を腕で隠そうとしたハクト。

 しかしそれを読まれていたのか、その上げた腕を掴まれて無理矢理下ろされてしまう。

 そして、不良長男はポケットの二つ目のスタングレネードを、”手に持ったままハクトの顔面近くで爆発させる”。


 2度目の閃光、辺りが光に包まれる!! 

 例えただのスタングレネードだとしても、手に持ったままならただの小爆発に当たったのと同じだ。

 それでも不良長男は、HPグローブで自分のダメージは軽減される事を込みで、確実にハクトを目潰しさせる事を優先したのだ。

 不良長男はうまく顔を逸らして、自分だけ殆ど目潰し状態になっていなかった。


「くそ! お前えええっ!」

「っはっはぁ!! もう遅え、クラスターは爆発する!! オラ、仕上げだ!」

「ぐう!」


 ハクトも蹴り飛ばされて、その場で倒れる。

 不良長男はそれをした後、さっさと退散とばかりにその場を離れる。

 ハクトも急いでその場を離れようとしたが、目潰し状態だとどっちに向かったらいいか分からない!! 


 そうこうしている内に、上空のミサイルが再度色が変わり……


 直後、ハクトに”何かが覆い被さった”。



 ボボボボボオオォオォンッ!! 



【クラスターミサイル】の爆発。

 ……しかし、ハクトにはそれほどダメージの感触がしなかった。

 HPグローブのおかげか、予想より早く目潰しの状態から復帰して、視界が戻ってくると……



「いっつつ……大丈夫か、白兎!」

「キテツ!? 俺を庇って……!」

「今はチームメイトだ、気にすんな!!」


 ==============

 プレイヤー1:ハクト

 rank:1

 残HP:326 → 319

 スロット1:インパクト (残りE:0/10 残りCT: 2 → 1/3)

 スロット2:バランサー


 VS


 プレイヤー2:キテツ

 残HP:343 → 41

 rank:1

 スロット1:メタルボディ (残りE:0/3 残りCT: 3 → 2/3)

 スロット2:パワー・バフ (残りE:0/3 残りCT: 3 → 2/3)

 ==============


 ハクトに覆いかぶさっていたのは、キテツだった。

 一発目のスタングレネードを喰らっていたキテツは、ハクトより早めに目潰しから回復した後、ハクトを爆風から庇っていたのだ。

 ハクトが受ける筈だった分の大半の衝撃を庇い、キテツの残りHPは風前の灯火だった。


「ごめん……ありがとう! もうちょっとで【インパクト】が戻ってくる! そうしたら、少しだけアイツの相手をして時間を稼ぐ! そうしたらキテツのギアもまた使えるようになる筈!」

「ああ、そうだな! 時間稼ぎ任せたぜ!」


 キテツにお礼を言った後、軽く新たな作戦を練る。

 キテツのHPが残り少ない以上、ギアの無い状態の彼を突っ込ませるわけにはいかない。

 暫くハクトが中心で、キテツの復帰まで時間を……



「っは! おいおい、悠長な計画立ててんじゃねえか」


「っ! そっちこそ、のんびり声をかけてくるなんて、随分余裕じゃない?」



 離れた所にいた不良長男が、大体15m程の距離をキープして近づいて来て声をかけて来た。

 それに対して、ハクトは時間稼ぎもかねて皮肉で返す。


「余裕? そりゃあ余裕にもなるだろ、後もう少し攻撃するだけで、テメエらを倒せるんだからな。そうしたら、晴れてお前らは実質大会リタイア。テメエらのざまあを思い浮かべるだけでテンション上がってくらぁ!」

「へえ。じゃあ、さっさと攻撃してくればいいじゃん。残り二つのスロット、残ってるんでしょ?」

「っは! そう簡単に終わらせちゃあ、つまらねえだろ。じっくり追いやってこそ、俺の気が晴れるってもん……」



「────正直に言いなよ。”攻撃用のギアもう無い”んでしょ」


「……っ。テメエ……」


 ハクトのその指摘に、余裕そうだった不良長男の顔が歪み始める。

 どうやら図星のようだ。


「流石にさっきのスタングレネードの時に、他のギアで追撃が一切無いのは不自然すぎる。攻撃ギアがあの【クラスターミサイル】で最後だったんでしょ」

「あー。確かにギアって、複数積める場合攻撃オンリーじゃなくて、いくつか回避、強化用に別のギア載せる事ってあるな。多分白兎の予想正しいぜ」


 キテツ曰く、4枠も装備するスロットがあるなら、1個か2個は回避用のギアなどを装備する場合が多いとの事。

 攻撃一辺倒より、回避用のギア、または事前に強化のバフを使った方が隙が減る場合が多く、総合的に見てその構成の方が強い場合が多いらしい。

 多分残りのギアは、サポート用……最初の二人が持ってた様な拘束系か、もしくは攻撃回避、防御用のギアか。

 そうハクトは辺りをつけていた。


「……っは! 雑魚にしちゃあ勘がいいじゃねえか、生意気な。だが、それでもこの2枠が何かお前らはまだ分かっちゃいねぇ。テメエらがあまりに弱いから使う気が無かっただけだ。これを使う様になれば、あっという間にお前らを追い詰める事は出来るんだぜ」

「要は出し惜しみしていたと。ちなみに一回戦で俺は、お前みたいに出し惜しみしてそのまま倒した相手がいたから。じゃあお前もそのまま、出し惜しみしたまま倒れておいて」


 ……そう言ったハクトだったが、実際の所、相手はギアを出し惜しみしてたというより、”自分達に刺さらなかったか、使えなくなったか”のどっちかだろうと思っていた。

 出なきゃ、わざわざ持ち込みでスタングレネードを使うのを優先するとは思えなかった。


 スタングレネードは安いやつでも数千円する筈。なので、ただの喧嘩でわざわざそんなお金を積極的に消費するとは普通は思えないからだ。

 時間が経てばまた使える様になるギアを使わず、そんな使い捨てを消費する時点で、残りのギアはスタングレネードより効果が薄いと言っている様なものだ。

 もちろん、残りのギアの警戒を怠るつもりも無いが。


 なのでハクトは、相手のまだ隠し持ってるかもしれないスタングレネードを警戒しながら、常に近接で不良長男に普通に蹴り続けようと計画を立てる。

 相手が何かしらのギアを発動しようとしたら、その時”クイック・ラビット”で不発にすればいいと。


 ==============

 プレイヤー1:ハクト

 rank:1

 残HP:319

 スロット1:インパクト (残りE:0 → 10/10 残りCT: 1 → 0/3)

 スロット2:バランサー


 VS


 プレイヤー2:キテツ

 残HP:41

 rank:1

 スロット1:メタルボディ (残りE:0/3 残りCT: 2 → 1/3)

 スロット2:パワー・バフ (残りE:0/3 残りCT: 2 → 1/3)


 VS


 プレイヤー5:鮫田長男

 残HP:351 → 320

 rank:2

 スロット1:スーパーミサイル (残りE:0 → 5/5 残りCT: 1 → 0/3)

 スロット2:クラスターミサイル (残りE:0/2 残りCT: 3 → 2/3)

 スロット3:────

 スロット4:────

 ==============


「よし! 【インパクト】が戻った! 行ってくる!」

「おっしゃ、行ったれ白兎!!」


 そうキテツに応援されながら、ハクトは不良長男に向かって走り出す。

 向こうも【スーパーミサイル】が補充されてしまっているが、単発だけならギアを使わずとも回避は余裕だ。

 離れているキテツも、自分を狙われたとしてもすぐに回避出来る様に不良長男の方を注目し続けていた。


「……っは。だからお前らは雑魚なんだよ」



 ────だから、ハクトもキテツも不良長男にしか目が行っていなかった。





「「スロット2、フォームギア、【チェーン・ロック】!!」」


「っはあ!?」

「っ!! キテツ!?」


 走り出したハクトの背後から聞こえたのは、倒したはずの不良兄弟のギア宣言。

 後ろを振り返ると、キテツの両足にハクトの時と同じ様に、鎖が取り付けられている! 

両隣には、不良兄弟が立っていた! 


「なんでこいつらが!?」

「「スロット1、フォームギア、【ショート・ソード】!! くらえっ!!」」

「ぐ、おお!? 当たるかあ!!」

「「何ぃっ!?」」


 キテツの両隣から短剣を刺そうと足を振りかぶって来たが、その両方の攻撃を素手で足側を掴む事でキャッチするキテツ。

 両方の攻撃を止めるだけでなく、不良兄弟もそこから足を動かせなくなっていた。

 キテツはギア無しとはいえ、元々の腕の筋力が以上に高いのだろう。


 流石にそれ以上は出来ないキテツだが、不良兄弟達も片足を持ち上げられたまま固定されたせいで、その場から動けなくなっていた。


「なんで倒した二人が、キテツを拘束して!? HPは0にした筈、電光掲示板の表示だって……な!?」


 ==============

 プレイヤー3:アカウント・エラー

 プレイヤー4:アカウント・エラー


 ……

 ……

 ……


 プレイヤー6:鮫田次男

 残HP:500


 プレイヤー7:鮫田三男

 残HP:500

 ==============


「新規プレイヤーとして、登録されている!?」

「っはあ!? ”アンリミテッド・カード”のせいでHP0になったプレイヤーは、靴脱げない上、ギアの再発動出来ないって話じゃねーか!? 再登録もできないだろ!?」

「けど、普通にその二人はギアを発動していた……お前、どういう事だ!! さっき目の前で”アンリミテッド・カード”を装備してたんじゃなかったのか!」


 あるいは、元々そんなカードは無く、全くのデタラメだった。

 もしくは、向こうがハクトがカード交換を申し出るのを見越して、敢えて最初にハクト達に渡したカードが偽物だったか。

 もし後者だったのなら、不良長男に対する見積もりが甘かったと素直に認めるべきだとハクトは思った。


「ああ、ちゃーんとカードは装備していたぜ? 偽物ってわけでもねえ。実際弟達はさっきまでブーツを脱げなかったからな」

「じゃあ、どうやって!」


「……単純な話、”ブーツを完全にぶっ壊した”んだよ、物理的にな」


「はあ!?」


 不良長男の単純すぎる答えに、ハクトは驚いた。

 シンプルかつ、乱暴すぎる解決方法。

 つまり、不良弟達は脱げなくなったブーツを壊して、新しい靴を履いて新規プレイヤーとして参加して来たと。


「基本的にマテリアル・ブーツの施設のルームには、万が一の為にブーツが誤作動で脱げなくなった様に、巨大ハンマーが置かれている。ほら、この部屋の隅にもあるだろう?」

「うっわ、本当だ! 建物壊す時に使う様なハンマーがそこに落ちてる! あれを使ったのか!」

「流石にメモリーカード毎ぶっ壊れるがな。けどギアまでは壊す必要ねえから使い回しが可能。元がランク1の弟達なら、新規メモリーカード使っても痛手はねえって寸法さぁ!!」


 不良長男の言葉に、弟達を抑えながら堪えているキテツが怒鳴る様に追加質問をする。


「てっめえ!! ノーマル・ブーツだってそれなりに値段する筈なのに、そんな躊躇なくぶっ壊せるもんなのか!? オレ達二人を倒すのに随分大盤振る舞いすぎるじゃねえか、おい!」

「ああ、安心しろ。あの二人のブーツはちゃーんとレンタル品だから、懐は痛まない。どっかの喧嘩ふっかけて来たバカ達のせいで壊れましたって、言い訳もバッチリだ」

「コイツ、オレ達にブーツ壊した責任まで負わせようとしてやがる!?」


 そこまでやるか、こいつら……!! 

 ハクトとキテツは、不良長男達のなんでもやってくる精神に、戦慄していた。

 たった二人の人間相手に、使える手段を全て使ってくる勢いだ。

 もはや卑怯とかいうレベルでは無く、なんでもやりすぎて逆に感心してくるレベルだ。


「さて、とぉ。逃げ足の早いウサギ野郎は放っておいて、動けない亀野郎をトドメさそうかなぁ!! 弟達、そのまましっかり捕まえとけよ!」

「「おう!!」」

「あーちっくしょう!! 邪魔だ、コイツら!!!」


 不良弟達が、キテツに掴まれている方の足に力を込める。

 それに対抗して、キテツも掴んでいる力を込めて、不良弟達の片足をバレエのIの字になるくらいに持ち上げて対抗する。

 キテツの両足も拘束されてはいるが、180度開脚にされない様両足の力も負けていない。

 しかし、ギア無しだと膠着状態が限度で、その場から逃げたりするまではどうやっても出来ない! 


「くっ! やらせるか!!」

「白兎!? オレに構うな!」

「そういうわけにもいかないでしょ!」

「そーだよなぁ! 死にかけの味方がいるんじゃ、庇うためにせっかくの逃げ足も意味ないよなぁ!!」


 ギアが戻りきっていないキテツを庇う様に、ハクトは不良長男とキテツの直線を遮る様に位置どりをする。

 不良長男の位置にたどり着くには、微妙に距離がある。

 走ったり、【インパクト】で一気に距離を詰めるにしても、最低一発はミサイルを通す可能性が高い。


 そうしたら、HP50以下のキテツは一発アウト! 

 せっかくハクトに救援してくれた彼を、大会リタイアの上、警察のお世話かブーツ破壊の選択をさせるのはハクトにとって忍びなかった。


「大丈夫! 俺のHPは300近く! あいつの今使えるミサイルは、せいぜいダメージ一発50前後! 5発全部受けたとしても生き残る! そうすれば、キテツのギアも戻って……」

「そういえば、まだ俺の残りのギア使ってなかったよなぁ!!」

「っ!?」


 ハクトの戦略を遮る様に、不良長男がわざとらしく声を上げる。

 とうとう彼のギアの3つ目、その正体が明かされる。


「スロット3、バフギア、【強化弾】!!」

「バフギア! それをこのタイミングで使って来たって事は……!」

「そうさ! お察しの通り、”ミサイル威力UP”効果だ!!」


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 プレイヤー5:不良長男


<スロット3>

 ギア名:強化弾

 GP:1   最大E:3  最大 CT:3

 残りE:3

 ギア種類:バフ

 効果分類:自身持続

 系統分類:-

 効果:分類が「銃」または「ミサイル」のギアで与えるダメージが少し増加する。

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「スロット1、【スーパーミサイル】! 一発目ぇ!!」

「ぐうぅ!?」

「白兎!!」


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 プレイヤー1:ハクト

 rank:1

 残HP:319 → 250

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 強化されたミサイルが放たれ、それにハクトは自分からぶつかりに行く。

 当たった時の衝撃が確かに増加され、一発が約70ダメージ。

 元の数値が50とすると、1.5倍にもならない強化。だが……


「やばい……!? ギリ耐えきれない!」

「気づいたとしても、もう遅え!! スロット1、【スーパーミサイル】! 二発目ぇ!!」

「”クイック・ラビット”!! ぐううぅ!?」

「無駄だぁ!! 蹴り落としたとしても、大してダメージは変わらねえ!! 三発目!! 四発目ぇ!!!」



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 プレイヤー1:ハクト

 rank:1

 残HP:250 → 187 → 117 → 49

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 悪あがきで、ミサイルに直接蹴りを入れて撃ち落とそうとしても、爆発で結果は変わらず。

 あっという間に、ハクトのライフが70以下。

 最後のミサイルを受けたら、キテツよりハクトが先にダウンする!! 


「はっはぁ!! どうだ、思い知ったか!! さあ、最後の攻撃も受けてみるか! それとも、足手まといになった仲間を見捨てるか! テメエで選ぶんだなぁ!!」

「くそっ!!」

「白兎ぉ!! 避けろ!!」

「これで終いだぁ!! 五発目ぇ!!!」


 最後のミサイルが放たれる。

 真っ直ぐにキテツの方に向かい、それをハクトは避けずに受け止めようとする。

 可能性は低いが、たまたま当たり所が良くて、HPが1でも残る可能性に掛けて。


 そうして最後のミサイルが、ハクトに目掛けて……










「────楽しそうだね」







 そんな一言と共に、キテツの、ハクトの後ろから声が聞こえてくる。

 え? っという言葉を言う間も無く、ハクト前に誰かが横入り。



「”ディフェンス・エッジ”」



 その宣言と共に、飛んで来たミサイルに対して”彼”が蹴りを入れると。

 ミサイルは、綺麗に”一刀両断”された。


 分割されたミサイルは、そのまま”彼”とハクトを逸れる様に動き、彼らの両側で爆発した。

 当然、ハクト達にはノーダメージ。



「…………はぁ?」



 その光景を見た不良長男は、信じられないのか口をアングリと開けた状態で惚けた声を出し。

 それを引き起こした人物は、黄色い髪を掻き揚げて、蹴りを入れた”長剣”のついた足を地面に戻す。



「────僕も混ぜてよ」



 そんな一声と共に、現れた。

 有栖流斗(アリスリュウト)がそこに立っていた。




 ★因幡白兎(イナバハクト)


 主人公。

 白兎パーカーを着た、空を飛びたい夢を持った少年。

 流石に苦戦していた。



 ★浦島亀鉄(ウラシマキテツ)


 3回戦のハクトの対戦相手。

 性格は熱血漢で早とちり、けれど正義感は強い。

 あいつら、ゼッテーぶん殴る!



 ★有栖流斗(アリスリュウト)


 ハクトと二回戦で戦った少年。

 紳士的な態度で話しかけてきた。

 今回、華麗に参戦。




 ★鮫田長男(さめだちょうなん)


 プロローグ前に、カグヤにしつこく絡んでいた不良。

 章ボス。実はランク2だった。

 卑怯な手段を躊躇なく使う。



 ★鮫田次男(さめだじなん)

 ★鮫田三男(さめださんなん)


 鮫田三兄弟の次男、三男。というか双子。

 反則気味な行為で復帰してきた。

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