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第11話 突発チーム戦! 対決、鮫田三兄弟!

「っは! やっと来たか! テメエらたった二人とも、ボッコボコだ!! 行ってこい弟達!!」

「「おう!!」」


 フリーバトルの部屋に入ると、不良達が既に準備万端の状態で待機していた。

 ハクト達を分からせようと、気合十分のようだ。


 ハクトはチラッと部屋全体の様子を、改めて確認する。

 カグヤと模擬戦をした時の部屋より広く、天井も高い。高さは15mはあるだろうか?


 ーーーー【インパクト】じゃ届かない高さになってるな。


 天井まで衝撃一回だけでは、どうあがいても届かない。

 これではカグヤとの模擬戦時の様に、天井を利用しての"ラビット・スタンプ"は出来なさそうだった。

 室内だから使えるかと思ったが、それは出来なさそうだ。それを考慮して戦法を組み立てる必要がある。


 そういえば、よく見るとリーダーらしき男は部屋の端っこの方に立っている


「……あれ? そっちの相手は二人だけ?」

「おい。多分長男らしき男が参加しようとしてないんだが」


 電光掲示板の表示を見ると、後から入って来たハクト達はともかく、不良達が二人分しか登録されていなかった。

 名前の表示パターンを見るに、恐らく長男が登録されていないと思われるが……


「っは! いいんだよ、コイツはハンデだ。そっちが一人少ない分のな。雑魚相手に最初から全力出すのも馬鹿らしい。なあに安心しろ、テメエらが雑魚じゃねえなら、ちゃーんと途中参加してやるぜぇ」

「つまり、最初は様子見して。相手の戦術が分かってからじっくり参戦すると」

「女の子追いかけてる割には、随分臆病な判断じゃねえか。なっさけねー感じだぜ」

「っは! 何とでも言え。雑魚に幾ら言われても、痛くも痒くもねえな!」


 ハクト達の挑発に、不良長男は軽く流す。

 気にしていないそぶりをしている、というわけでは無さそうだ。

 少なくとも不良長男にとっては、ハクト達の事は本当に雑魚だと認識しているのだろう。


「けど、途中参加が本当に可能なんだ。だから追加登録可能って表示がされているのか。最大8人まで……ちょっと待って。これもしかして、負けたプレイヤーも枠あるなら復活可能なんじゃ?」

「……ん? あ!! そうじゃねーか、というかフリーバトルなんだから勝敗関係無く、何度でも参戦可能じゃねーか!? おい、お前らまさか負けたとしても、それを認めずずっと戦い続けるつもりじゃねーよな!!」


 バトルを開始する前に、根本的なことに気づいた。

 カグヤを逃すために先程は挑発しておいたが、仮にこの戦いで決着が付いたとしても、不良達がそんな結果知らないと言い張れば結局の所、何の意味も無いからだ。


 ーーーーまあ、そうなったらケンジ兄仕込みの心を折らせる拷問紛いな方法をするべきか


 最悪それをやればいいと想定していたハクトだったが……


「それはこっちのセリフだ! テメエらなーんにも考えて無かったのな。っは、だが安心しろ、それについてはちゃーんとこっちで考えてあるぜ」


 そう言って、不良長男がハクト達に向かって何かを二つ投げてくる。

 ハクト達はそれを難なくキャッチすると、それはメモリーカードに近い形をしているようだった。

 但し、表面の色が赤々しく、まるで血の色のようだった。



「”アンリミテッド・カード”。ちょっと裏社会に潜れば手に入るカードだ。そいつをブーツに差し込め。今装備しているメモリーカードと重なるようにな」

「なんかめっちゃ怪しいな、このカード。付けるとどうなるのさ」

「なあに。ちょっとブーツの機能を暴走させる機能がついているのさ。普通に使えば問題ない、だが……HPが0になった時、”直ぐにブーツが脱げない”」

「っ!!」

「当然、そこの急速チャージする床に立っても、チャージも出来ず外れない。確か12時間は脱げない仕様だったかな?」

「その場合、ギアの発動は?」

「当然、それも無理だ。つまり、負けた方は何の効果も発揮しない靴を半日履き続ける事になるのさ!!」


 不良長男の言葉に、ハクトは成る程と肯く。

 これを付けた状態で戦えば、負けた方は実質マテリアル・ブーツを半日行うことが出来ない。

 確かに分かりやすいリスクだ。連戦される恐れは無くなる。


「確かお前ら、大会に参加中でまだ勝ち残ってるんだったな? 俺達に負けたなら、実質それにリタイアだ。……それに、競技場以外でブーツを履き続けるのは、ランクが高く無いと普通禁止でな? その状態で出歩くと、場合によっちゃサツの世話になる。俺達に喧嘩を売ったんだ、それぐらいのリスクは背負ってもらうぜ」

「このカードが本物であると言う証拠は? それに、そっちが同じものを取り付けてくれると言う保証は無いよね?」

「疑い深いな。ビビったか? 何なら、今この場で弟達が取り付けてる方の分と交換してやろうか? 俺達は慈悲深いからな、雑魚の喚きも少しは聞いてやろう」

「そう。じゃあ遠慮無く交換して貰おうかな」

「っは!! 流石白兎パーカーを着ているだけはある、度胸もウサギ並みにビビってるって訳か!」

「別に。女の子を3人がかりで追いかけるような男達に、信用も何も無いってだけだね」


 そう言って、ハクトと不良長男が互いにバチバチやり合っていると……



「え? もう取り付けちゃったんだが。え、これ履き直しか?」

「キテツ。君、素直過ぎない?」

「言っといてなんだが、よく直ぐ取り付けたなおい」


 何の疑いも無く、既に取り付け完了していたキテツがいた。

 無警戒過ぎて、逆に心配して来た。

 不良長男も逆に冷や汗を垂らしていた。


 それはともかく、”アンリミテッド・カード”を取り付け直すため、再度プレイヤーの登録を全員やり直した。

 念の為キテツのもちゃんと交換して貰っていた。



 ========

 フリーバトル

 ========


 ==============

 バトルルール:バトルロイヤル・ハーフHP制

 残りタイム:無制限


 プレイヤー1:ハクト

 残HP:500

 rank:1

 スロット1:ーーーー

 スロット2:バランサー


 VS


 プレイヤー2:キテツ

 残HP:500

 rank:1

 スロット1:ーーーー

 スロット2:ーーーー


 VS


 プレイヤー3:鮫田次男

 残HP:500

 rank:1

 スロット1:ーーーー

 スロット2:ーーーー


 VS


 プレイヤー4:鮫田三男

 残HP:500

 rank:1

 スロット1:ーーーー

 スロット2:ーーーー


 VS


 プレイヤー5:追加登録可能

 プレイヤー6:追加登録可能

 プレイヤー7:追加登録可能

 プレイヤー8:追加登録可能


 ==============



「キテツ、準備はいい?」

「あったり前だ!! 白兎、気をつけて動けよ!! 割と乱暴なプレイされる事も覚悟しておけ!!」


 HPグローブとギアのチャージを完了し、軽く柔軟をしながら会話をするハクト達。

 キテツからアドバイスがされ、それを頭にいれているとバトル開始のブザーが鳴り響いた。



 =========

 バトル・スタート!

 =========


「「いくぜ! スロット1、フォームギア、【ショート・ソード】!!」」


「っ!! 二人とも同じギアを発動か!!」


 バトル開始直後、いきなり不良達が全員ギアを展開し始めた。

 3兄弟らしく、仲のいい事だなとハクトは場違いな感想が頭によぎった。


「でも、そのギアはアリス戦で見た!! 一気に行く!」


 直前に同じギアを持った相手との対戦経験があるおかげで、特に恐怖なく走り出すハクト。

 アリスの時のような一瞬だけ展開ならともかく、事前展開された状態で短剣を生やしただけなら遅れることは無い。


 不良達の内、 次男、いや三男? どっちでもいいや、とにかく片方もハクトに向かって走ってくる。

 しかしその走り方は、片足だけ短剣が邪魔そうでヒョコヒョコ歩きで拙い動き。

 アリスに比べたら、お粗末すぎる移動速度だった。


「喰らえぇ!」

「当たるか! “クイック・ラビット”!!」

「ぐはあっ!?」


 ==============

 プレイヤー3:鮫田次男

 残HP:500 → 422

 rank:1

 スロット1:ショート・ソード (残りE:3) 

 ==============


 相手の足の振りを喰らう前に、後出しで技を放つハクト。

 電光掲示板の表示を見るに、ダメージを与えたのは次男だったらしい。

 綺麗に相手の頭にヒットし、いきなりクリティカルダメージを叩き出す。


 ただし、ギアの展開の瞬間を狙ったわけでは無いため、相手の【ショート・ソード】のEは減りはしなかったが。



「後ろがガラ空きだ!!」



 そのハクトの背後から、残りの兄弟が挟み撃ちで攻撃してきた。

 成る程、次男が引き付けて、もう片方が相手の背後を陣取る形か。

 確かにチーム戦として、この動きが出来るなら強い。


「よっと」

「「何!? ぐはぁっ!?」」


 しかし、その攻撃を冷静にバックステップで躱すハクト。

 途中で逆立ちを挟む余裕すらある始末。

 なんだかんだ、ギア無しの喧嘩なら慣れていると言うだけの事はあったのだ。

 不良兄弟の当たるはずだった攻撃は、逆に同士討ちになってしまっていた。


「このぉっ!!」


 避けられた事に怒った三男が、今度は真正面からハクトに斬り掛かってくる。

 しかし、アリスの攻撃の精度に比べたら、遥かに遅い。


「ぶっ飛べ、【インパクト】!!」

「何ぃ!? ぐげぇっ?!」

「ぐげぇっ?!」


 不良三男の攻撃にカウンターするように、ギアを発動。

 衝撃を発生させて、三男を蹴り飛ばすと、その先に次男もいてビリヤード見たく衝突。


 完全にハクトのペースだった。


 ==============

 プレイヤー1:ハクト

 残HP:500

 rank:1

 スロット1:インパクト (残りE:10 → 8/10)

 スロット2:バランサー (残りE:-)

 ==============


 ==============

 プレイヤー3:鮫田次男

 残HP:422 → 390

 rank:1

 スロット1:ショート・ソード (残りE:3 → 2/3) 

 ==============


 ==============

 プレイヤー4:鮫田三男

 残HP:500 → 491

 rank:1

 スロット1:ショート・ソード (残りE:3 → 2/3) 

 ==============


「「ちぃっ、思ったよりやるじゃねえか……」」

「そう。そっちはあんまり大した事ないね」


 不良兄弟の言葉に、ハクトは挑発の言葉で返す。

 今のところは順調に進んでいた。

 チーム戦と聞いていつも以上に警戒していたが、思ったより一人でなんとかなっていて、ハクトは内心拍子抜けだった。

 素直にいきすぎて逆に怖いほどだった。


「「舐めやがって! ……へへ、しかしお前は俺たちの恐ろしさをまだ何もわかっちゃいねぇ」」

「よくそんな綺麗に合わせて喋れるね? まあいいや、このまま決めさせてもらうよ」


 相手の言葉にそう返しながら、しかし言葉とは裏腹にハクトは警戒を残しておく。

 不良兄弟の残りのスロット2がまだ判明しておらず、更に長男がまだ参戦していないからだ。

 ここまで上手くいっているとは言え、まだマテリアルブーツ自体は自分もまだ初心者。

【インパクト】の残弾数に気をつけて、ハクトは再度不良達に向かって走り出す。


 不良兄弟が二人とも向かってきて、同時攻撃を仕掛けて来るのかと思ってたが……


「「はっ! 喰らえ!!」」


 今度は兄弟同時の短剣の蹴り……では無く、”何かを投げてきた”。


「っは!?」


 マテリアルブーツで、手元から何かを投げられる。その攻撃は想定外だったハクト。

 何か尖ったもの……カッターナイフだ!


「あっぶな!」


 顔面に向かって投げられる刃物というのは、人間誰しも恐怖する。

 カッターナイフ刃物に驚き、二つとも反射的にギリギリ躱すことは出来たが……


「「スロット2、フォームギア、【チェーン・ロック】!!」」

「っうわ!?」


 不良兄弟の残りのギアで、それぞれ片足ずつハクトの足に何かが取り付けられる。

 それはよく見ると、手錠のような輪っかがついた鎖だった!


「「オラァッ!!」」


 そして、そのまま不良達に両足を引っ張られ、ハクトは180開脚状態で地面に座りこまされた。

 両足が開いた状態だと、【インパクト】を使ったとしてもジャンプが出来ない!


「し、しまった!」

「はっはっはぁ! どうだ、これが俺たち鮫田三兄弟の恐ろしさだ! 俺達が相手の両足を固定し、そのまま限界以上に引っ張るという”股裂、鮫田ロック”の刑だ!!」

「本来なら股裂の時点で相手は痛がるもんだが、足めっちゃ開くなおい! 体柔らかくてよかったなあ!」


「っは。案の定簡単に引っ掛かってら。やっぱり雑魚だな」


 両横の不良弟達も固定したハクトを見て、ニヤニヤしてさぞご満悦だった。

 遠くから見ていた不良長男はそれを見て、予想通りという表情だった。

 ハクトは急いで、不良弟達の二つ目のギアの情報について調べる。


 ==========================

 プレイヤー3:鮫田次男

 プレイヤー4:鮫田三男


<スロット2>

 ギア名:チェーン・ロック

 GP:1   最大E:3  最大 CT:3

 残りE:3

 ギア種類:フォーム

 効果分類:単体持続

 系統分類:-

 効果:自身の靴から鍵の付いた50cmほどの鎖を発射し、相手の腕か足に取り付ける。

 ==========================


「くそ! 相手を拘束するギアも存在するのか……けどこっちのギアの効果はともかく、さっきカッターナイフが見えたけど、武器の持ち込みってどうなのさ」

「あーん? 何寝ぼけた事言ってんだ、これはフ、リー、バ、ト、ル。審判がいるわけじゃねえし、何でもありだ」

「これは喧嘩だ、恨むんなら想定しなかった自分自身を恨むんだな!!」

「……なるほど。確かにそれは、競技としてしか見てなかったこっちの落ち度か」


 両隣の不良弟達の言葉を否定せず、寧ろ納得したように静かに呟くハクト。

 更に、チーム戦という事で役割分担をしているところを見れて、寧ろ感心していた。

 それは追い詰められた少年の姿には見えず、それが不良弟達に逆に苛立ちを発生させた。


「……何落ち着いてんだよ、状況わかってんのか? ”股裂、鮫田ロック”が決まった時点で、テメエは詰んでるんだよ」

「俺たちもまだ片足ずつ自由に使える。つまり、テメエは攻撃出来ず、俺たちに一方的に嬲られるだけだってことをな!」


「……」

「「チィっ! その余裕、すぐに後悔するんだなぁ!」」


 黙ったままで、何も言わず静かに見つめているハクト。

 その姿にとうとうブチ切れ、大きく短剣の付いた足を振りかぶった不良弟達にーー




「ーーオレを、忘れてんじゃねえぞ」


「「……あん?」」



 その彼らの横から、”ハクトチームの二人目”の声が聞こえて来た。



「全力! ”鉄拳”!!」

「ぶべらぁっ?!!」

「さ、三男ッ!?」



 振り返った不良三男の顔面に、キテツの全力パンチが放たれる。

 綺麗に決まったそれは、殴られた不良長男を地面に叩きつけていた。



 ==============

 プレイヤー3:鮫田次男

 残HP:491 → 350

 ==============


「よくも三男を! テメェッ!!」


 不良三男を殴り飛ばしたキテツに対し、すかさず次男が起動しっぱなしだった短剣でキックを入れる。

 放たれたそれは、攻撃直後のキテツ少年には回避不可能な攻撃だったが……


「へっ!」


 キテツ少年は、それを”片腕”だけ立てた状態で、構えて受け止める。

 たとえ腕だけだとしても、短剣が確かに斬り付けられたのなら、そこそこのダメージをキテツに与えると不良弟達は確信していた。


 ガキィッ!!


 っと、金属同士がぶつかったような音が鳴り響かなければ。


 ==============

 プレイヤー2:キテツ

 残HP:500 → 493

 rank:1

 スロット1:メタルボディ

 スロット2:ーーーー

 ==============


「はあっ!?」

「【メタルボディ】、それがオレの装備しているギアだ。そして……」


 そう言いながら、キテツは不良次男の短剣を片手でしっかり握りしめる。

 その後、二つ目のギアの宣言を開始する。


「装着2、【パワー・バフ】開始! おらあっ!!」


 そう宣言したキテツは二つ目のギアを適応後、不良次男の短剣を強く握り。

 その短剣はバキィッ!! っと粉々になった。


「「なあっ?!!」」

「おらあっ!! ”鉄拳”!」

「ぶべ?!」

「ついでに、そっちの短剣も踏みつけてっと。てい、バキッとな」


 ==============

 プレイヤー3:鮫田次男

 残HP:390 → 251

 スロット1:ショート・ソード (残りE: 2 → ギア・ブレイク) 


 プレイヤー4:鮫田三男

 残HP:350 → 212

 スロット1:ショート・ソード (残りE: 2 → ギア・ブレイク) 

 ==============


 あっという間に、不良弟達を対処したキテツ。

 キテツが不良を殴っていた隙に、ハクトは一瞬だけキテツの情報をグローブで確認した。


 ==========================

 プレイヤー2:キテツ


<スロット1>

 ギア名:メタルボディ

 GP:1   最大E:3  最大 CT:3

 残りE:3

 ギア種類:バフ

 効果分類:自身持続

 系統分類:-

 効果:自身の体の表面を、鋼鉄のように硬くする。ただし、耐久以上のダメージを一度に受けると強制解除の恐れあり。


<スロット2>

 ギア名:パワー・バフ

 GP:1   最大E:3  最大 CT:3

 残りE:3

 ギア種類:バフ

 効果分類:自身持続

 系統分類:-

 効果:自身の筋力を上げる。

 ==========================


「ギア種類がバフ。カグヤが言っていた、"身体強化”とかの効果があるギアか!」


 以前話された、5種類のギアの内の一つ。

 ハクトの装備している、【バランサー】と同じ種類のギアだった。


 しかし、キテツの装備している方は、効果分類が自身持続になっている。

 普通に考えたら、効果時間が決まっている分、強力な効果を発揮するのだろう。

 だから、不良弟達を殴っただけで大ダメージが発生したのかと、ハクトは納得した。


「よし。大丈夫か白兎! 悪りぃな、さっきまで全然参戦してなくて!」

「いや、ありがとう。さっき遠くから大きく回り込んでいたのは見えてたから、気にしてない。にしても凄いね、さっき短剣素手でぶっ壊せたの! あれそもそも壊せるものなの?」

「へへーん。フォーム持続型ギアによくある弱点だな。オレに言わせりゃ、さっきの短剣なんか耐久チョロいチョロい」


 キテツ曰く、フォームの持続型ギアは特性上、靴の形を形態変化させるシステム。

 しかし、その形態を壊したりなどして物理的に維持出来なくなったら、強制的にエネルギーが0になるリスクがあるとの事。

 他にも似たようなリスクがあるギアはいくつかあるらしいが、この何らかの手段で強制的にギアをCTに入れることを”ギア・ブレイク”と呼ばれる。と、付け加えていた。


「なるほど。じゃあこの鎖、俺の両足についているこれも、なんとか壊せる?」

「出来るけど……あとちょっと待ってくれるか? よいショット」

「はい?」


 そう言いながらキテツは、上半身を起こしたハクトを自分側に向けてうつ伏せになるよう動かす。

 そのままその上から、ハクトの脇の下あたりを両手で掴むようにしてガッチリ握る。


「ちょーっとキツイかもしれないが、耐えろよ白兎!」

「ちょっと待て何するつもり嫌な予感めっちゃするけどまさか」


「「て、テメェ!! さっきは良くも……」」


 先程殴り倒された、不良弟達が起き上がろうとする。

 自分達を殴ったキテツに対して、仕返ししようと考えていたが……行動が遅かった。


「お、おぉ!! おおおおおおおおらららあああああぁぁぁッ!!!」

「いや、キテツおま、ああああああぁぁぁッ!?」

「「あ、あ? ああああああぁぁぁッ?!!」」


 ハクトを掴んだキテツは、そのまま自分事その場で回転し始め。

 ハクトと、それに繋がれた不良弟達ごと、ジャイアントスイングを行い始めた。

 最初は引きずった状態、そこから徐々に円の外側が浮き上がり、回転速度がどんどん上がっていく!!


 ブンッ! ブンッ! ブンブンブンブンブンッ!!


「必殺、”陸亀大車輪”!! ぶっ飛べええええええ!!」

「キテツお前えええええ!!」


 そしてそれに留まらず、キテツは十分勢いがついたハクトをそのまま手放す。

 不良弟達ごと、ハクトはそのまま室内の壁に向かって投げられた!


 ゴゴンッ!!

 ダンッ!


「「ぶぎゃあああああッ??!」」

「だあっ!? 着地!」


 頭から投げられた不良弟達はそのまま壁にぶつかる。

 そして、足元から投げられた形のハクトは上手く壁に着地するように衝撃を吸収し、その後地面にスタッと降りた。


 ==============

 プレイヤー1:ハクト

 残HP:500 → 480


 プレイヤー3:鮫田次男

 残HP:251 → 55

 スロット1:ショート・ソード (残りE: 2 → ギア・ブレイク) 


 プレイヤー4:鮫田三男

 残HP:251 → 48

 スロット1:ショート・ソード (残りE: 2 → ギア・ブレイク) 

 ==============


「え、遠心力だけでちょっと体引きちぎれるかと思った……キテツ! 何すんだお前っ!!」

「「う、うごぉ。おえぇ……」」


 HPを確認すると、直接的な攻撃は喰らってない筈なのに、20程ダメージを受けていた。

 代わりに不良兄弟の方はその10倍の200前後のダメージが入っていたので、効率的と言えば効率的だが、流石に文句を言いたくなったハクト。

 それを受けたキテツは、頭をポリポリかきながら苦笑い。


「いやあ、悪ぃ悪ぃ。結構大ダメージ与えられそうな案思いついたから、ついな! というか白兎、お前良く平気そうだな? 三半規管どうなってオボロロロ……」


「いや、お前も酔ってるんかい!」


 隣の不良弟達が酔っていると思ったら、投げた張本人がむしろ一番グロッキー状態になっていた。

 両膝ついてガクッとした状態にキテツはなっていて、ハクトは思わずツッコんでいた。


「「ぐ! おら!」」

「うわっと!?」


「あ、やっべえ!」


 そしてキテツに気を取られていたら、酔った状態ながらも不良弟達が再度ハクトの両足を引っ張る。

 両足のチェーンはまだ繋がれたまま。

 再度開脚状態にさせられて、ハクトはまたジャンプが出来ない状態に固定された。

 それを見たキテツは慌てて駆け寄ろうとするが、どう見ても間に合わない。


「「お前だけでも、喰らえ!」」


 短剣はもう無いが、そのまま普通の蹴りをハクトに両側から叩き込もうと、不良弟達が振りかぶる。

 再度、ハクトにはどうしようもない状態に見えたが……


「真横! そのまま【インパクト】!!」

「「ぶべっ?!」」


 ハクトは開脚した状態で、そのまま片方の足からギアを発動。

 ジャンプはしないながらも、真横に打った【インパクト】の衝撃で、スライディングの形で横にズザーっとスライドする。

 不良弟達は、片方は足払い、もう片方は引っ張られる形で転んでしまっていた。


「ていっ ていっ」

「「ゴッ!? ガッ?!」」


 その後ハクトは立ち上がり、まだ転んでいる不良弟達をそのまま蹴り始める。

 特に首元辺りを容赦無く蹴りを入れられ続け、不良弟達のHPはそのまま尽きた。


 ==============

 プレイヤー3:鮫田次男

 残HP:55 → 0

 スロット2:チェーン・ロック (残りE: 2 → ギア・ブレイク) 


 プレイヤー4:鮫田三男

 残HP:48 → 0

 スロット2:チェーン・ロック (残りE: 2 → ギア・ブレイク) 

 ==============


「なるほど。バトル中にHPが0になっても、適応中だった持続ギアはギア・ブレイクして強制的に解除されると。うん、理解した」

「いや白兎……お前さっきオレが助けなくても、自力で切り抜けられたじゃねーか……」

「あ、キテツ。こっちは片付いたよ。残りはアイツだけだね」

「何事もなかったかのように振る舞えるお前が、オレ少し怖くなって来たわ……」


 近づいてきたキテツの言葉を軽く聞き流し、ハクトはパンッパンッと先程引きずった際に付いた

 ズボンのホコリを払う。

 これで一旦、2対2の戦いは一時終了し、残りは様子見だった不良長男だけだ。


「一旦、ギアの持続を解除するか。エネルギーが勿体ねえし。装着1、装着2、解除発動」


 ==============

 プレイヤー2:キテツ

 スロット1:メタルボディ (残りE: 3 → 2/3)

 スロット2:パワー・バフ (残りE: 3 → 2/3)

 ==============


 そう言って、キテツは両拳を合わせた後、マッチを擦るような動作で拳をずらした。

 その直後、キテツのギアの適応状態が解除された為、恐らくその動作が解除ルーティンとして彼の中で決まっているのだろう。

 キテツのギアのエネルギーは残り2ずつ。まだまだ彼は戦えそうだ。


「さて、と。残りの不良長男なんだけど、正直弟達を倒されたのを見てさっさと撤退してくれると話が早いんだけど……」

「ん? げっ!? 白兎! 避けろ!!」

「っ!! 【インパクト】!!」


 キテツの焦った言葉に、ハクトは反射的にギアを発動、その場から離脱した。

 ハクト達が固まっていた位置に、何かが撃ち込まれて爆発する!!


 ドゴオオオオォォォンッ!!


「ぐああっ!?」

「「ぎゃあああ!?」」


 逃げ遅れたキテツと、倒れていた不良兄弟達が爆発に巻き込まれてダメージを受ける!!


 ==============

 プレイヤー2:キテツ

 残HP:493 → 443


 プレイヤー3:鮫田次男

 残HP:0 → 0


 プレイヤー4:鮫田三男

 残HP:0 → 0

 ==============


「キテツ!! 大丈夫!?」


 不良兄弟達の表示は変わっていないが、キテツが丁度50のダメージを喰らっている!

 爆発の影響で煙が辺りに舞い、それが晴れた頃にキテツが悪態をついて現れる!


「っち! いってえ! ちょうど【メタルボディ】解除した瞬間に攻撃して来やがった!」

「キテツ、そこの不良兄弟達HP0の状態で攻撃喰らったんだけど、あれって大丈夫なの!?」

「ああ!? 大丈夫だろ!! HPグローブは”元々余裕もって倍以上エネルギー持ってる”らしいからな! あれくらいじゃ気にする必要もねえ!」


 あ、そうなんだ。一応そこは疑問に思ってたんだよね。


 キテツの言葉に、一応ハクトは一安心をする。

 薄々思ってはいたが、やはりHP0になったとしてもある程度はギアからの攻撃を守ってくれるような仕組みになっていた。

 そうじゃなければ、大会でもHP0にした直後は危険過ぎると思っていたのだ。

 まあ、アリス戦の時にそんな余裕ないままボレーシュートで止め刺してしまって、一瞬ヤベッと思っていたからだったが。


「んなことより、今の攻撃は当然……」



「……よお。随分弟達を可愛がってくれたじゃねえか。ええ?」


 ……今まで部屋の端で見ていただけだった、不良長男がそう言いながら歩いてくる。

 その片足からは煙が出ており、恐らく彼の先程の攻撃で出てきた煙なのだろう。


「よく言うぜ!! 今まで様子見だった上に、その倒れた弟達に最後追撃したのテメエだろうが!!」


「ああ、そうだな。そんな手段を俺に取らせてくれた、テメエらに対して怒りが湧いてくらあ!!」


「む、無茶苦茶言ってやがる。あいつこっちに責任押し付けて来やがった!?」


 正論を吐いていたキテツに対し、不良長男は逆ギレで返してくる。

 はっきり言って、理不尽だった。


「ったく。わざわざテメエ達見てえな雑魚に、俺が出張るまではねえと思ってたのによ。結局俺が片付けなきゃいけねえか……」


「まだそんな事を言ってやがんのか! テメエの弟達はあっさりぶっ倒した! 一体なんの根拠があって、執拗にこっちの事を雑魚扱いなんてしやがんだ!」

「キテツ、そんな事よりアイツの使ったギアの情報を……」


 不良長男とキテツの会話を他所に、ハクトは先程不良長男が使って来たギアの情報を調べようとしていた。

 グローブで立体ディスプレイを開き、入って来た不良長男の情報を見ようとして……



「……っは?」


 信じられないものを見た。



 ==========================

 プレイヤー5:鮫田長男

 残HP:500

 rank:2

 スロット1:スーパーミサイル

 スロット2:ーーーー

 スロット3:ーーーー

 スロット4:ーーーー

 ==========================


「ランク……ランク”2”!?」

「はあ!? マジか!?」 


 ハクトの驚きの言葉に、キテツが聞き返して来る。

 ランクの表示欄が”1”以外の人物なんて、初めてリアルで見た。

 ある意味見たことあると言えば、カグヤと動画で見たプロの試合の人達位で……


「しかも、スロットの表示欄が4つ?」

「そりゃあそうだ! “ランクの数*2が装備出来るスロットの数”になる!! つまり、あいつは”ギア4つ使ってくる”って事だ!!」


「クックック、はあーっはっはっはぁっ!! 驚いたか雑魚ども! そうだ、それが理由だ!! テメエらはランク”1”、俺はランク”2”!! 文字通り格が違えんだよぉ!!」


「っく!!」


 不良長男の言葉に、ハクトは唸る。

 執拗な相手の雑魚扱いの理由がやっと分かった。

 ランク違いというハッキリ分かりやすい理由が、あいつには分かっていたのだ。


「なんでそんな奴が初心者大会の会場に来てんだ!! しかもお前、普通に大会出て負けてただろーが!!」

「うるせえ!! ただの弟の付き添いのつもりだったんだよ! しかも俺の対戦相手が"あの人"で……」

「あの人?」

「ち! 何でもねえ!!」


 口を滑らせた様に話したことに気づいたのか、不良長男が会話を打ち切った。

 多少気になるが、今はそこは気にしてる場合じゃ無い。


「けど、実際ランク2で格上か……油断出来る相手じゃ無いね」

「まあ、そうだな……くそ、めんどくせーな」


 改めて、相手を警戒するように言ったハクトの言葉に、キテツはだるそうに同意する。

 確かに、元々人数差はあったとはいえ、相手が全員ランク1だと思い込んでしまっていた。

 これは仕方ないが、不良だからと言って舐めていたツケが来てしまった形だ。


「いつまでべちゃくちゃ喋ってやがる! 俺にビビったのは分かるが、攻めて来ねーならそのまま突っ立って倒れてろ!!」



 不良長男のその言葉と共に、バトルが再開される。


 ハクトにとって初めての、ランク2との対戦が開始だーーーー




 ★因幡白兎(イナバハクト)


 主人公。

 白兎パーカーを着た、空を飛びたい夢を持った少年。

 実は喧嘩慣れしていた。



 ★浦島亀鉄(ウラシマキテツ)


 3回戦のハクトの対戦相手。

 性格は熱血漢で早とちり、けれど正義感は強い。

 硬い体で、攻防バッチリ。




 ★鮫田長男(さめだちょうなん)


 プロローグ前に、カグヤにしつこく絡んでいた不良。

 章ボス。実はランク2だった。



 ★鮫田次男(さめだじなん)

 ★鮫田三男(さめださんなん)


 鮫田三兄弟の次男、三男。というか双子。

 戦闘不能中。

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