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バトルルール:殲滅戦
残りタイム:10分00秒
プレイヤー1:ハクト
残HP:157
rank:1
スロット1:インパクト (残りE:10 → 4/10)
スロット2:バランサー (残りE:-)
VS
プレイヤー2:キテツ
残HP:487 → 456
rank:1
スロット1:メタルボディ (残りE: 0/3 残りCT: 2/3)
スロット2:メタルボディ (残りE: 2/3)
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「"クイックラビット"!! "クイックラビット"!! "クイックラビット"ォ!!!」
「よっ! ほっ! はっ! アッハッハ、効かねえ効かねえ!!」
「くそ! 跳ね上げろ、【インパクト】!!」
得意技を連続で叩き込んでいたハクトだったが、しかし全てキテツの両腕に阻まれた。
残り【インパクト】のEが1になった時点で、離脱用にそれを切り、キテツから距離を取っていく。
HPの差がまだまだあるせいで、キテツ側から追いかけてくるような事はまだ無い。
それでも、俄然ハクト側が不利である事は変わらないが。
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プレイヤー2:キテツ
残HP:456 →450
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「うっし! ワンヒット平均2ダメージ! 更にダメージ減少抑えられたな!」
キテツは自分の体力を確認し、ハクトの攻撃をいかに捌けているか実感する。
今の所、かなりキテツ側に順調だった。
しかし油断はまだしない。仮にも優勝候補だったアリスを倒した相手だったのだから。
そもそも、今の状況は大幅にキテツが有利ではあるが、一歩間違えば逆に彼が追い込まれていてもおかしく無かったのだ。
「試合ルール上、HP1でも相手より上回れば、時間切れの場合勝ちのルール。つまり白兎が、"もし最初の3ダメージだけこっちに与えて、ずっとガン逃げ戦法をされていたら、オレの勝ち目は無かった"……」
だから最初の攻防は、思った以上に大事な衝突だったのだ。それこそ試合の決着がそれで着くほどに。
それはハクトも薄々分かっていた筈。
だからハクト側は全力の初撃を打ってくることを予想し、その為にクイックラビットが右足で来ることに山を張り、左腕で頭をガードした。
そしてその賭けにキテツはまず勝った。
怯んだハクトに追撃を掛け、完全に押し倒して拘束し、あとはそのままマウントポジションでダメージを与え続ける。
これで勝ち確のルートが出来ていた筈だった。
実際大ダメージは稼げたおかげで、ハクトにずっと逃げられ続けるという状況は無くなったのだから。
まあ、まさか脱出されるとは予想外だったが……
それでも、念の為の【メタルボディ】無限ループコンボは役に立ち、脱出されたとしても俄然こちらが有利のままだ。
ハクトも、キテツに再度捕まることを遅れているためか、攻撃も慎重でリズムが比較的ゆっくりな為、十分捌きやすい。
────実は、この無限ループコンボのために、キテツはある懸念点が存在していたのだが、それにハクトはまだ気づいた様子は無い。
このまま不敵な笑みを浮かべ、タイムアップまで乗り切ろうとキテツは目論んでいた……
☆★☆
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プレイヤー1:ハクト
スロット1:インパクト (残りE:0/10 残りCT: 3 → 2/3)
スロット2:バランサー (残りE:-)
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「くそお!! 全然クリーンヒットしない! 大半が捌かれまくる!」
「とんでもない防御力ね……本人のバフギアによる硬さも勿論だけど、攻撃を捌く動きが異常に上手いわ」
【インパクト】のEが尽きたハクトは、避難と休憩を兼ねて観客席のカグヤの近くに戻ってきていた。
このギアのCT時間も勿体なく思うが……恐らく通常攻撃はノーダメージになることを考えると、大人しく休憩するしか無かった。
既に一回【インパクト】のエネルギー切れは起こし、フルチャージは経験した。
エネルギー切れの際、本当に【インパクト】が一切発動しないことに感心したが……それは特に気にする要素では無い。
その後10回弱程攻撃してきたが……その大半が綺麗に防がれてしまっていた。
『キテツ選手、ハクト選手の攻撃を華麗に捌きまくるー! これは凄い、まさに不動の銅像のようだー!』
『つってもこれ、どちらかと言うとハクト選手の攻撃も悪いがな。捕まらないよう警戒しているし、あの"クイックラビット"とかいう技は、そこまで強い技じゃ無い』
『ほう! つまり、ハクト選手の"クイックラビット"に不満があると?』
『不満っつーか。あれは“完全不意打ち用”だろ』
相手のギアの発動に合わせて、先にこっちのキックを頭に当てて不発にさせる技。
確かに決まれば強いが、相手のギアの発動時に頭を蹴る必要がある以上、蹴られる場所が分かりやすいし、何かに防がれたらそのまま攻撃を止められず、ダメージを受けるリスクがある。
いくら高速の後出しと言っても、攻撃がくる場所が分かっているようじゃ対処は簡単なのだ。
それこそちょっと腕を頭の横に置いておくだけで、多少のダメージはともかく、ギアの発動を遮られる事は無い。
ちょっとキテツのように、手や腕を使ったハンドワークの防御方法を知っているプレイヤーには、防ぐのは簡単だと言う事。
しかも、ある程度の経験者ならそれくらいの技術力は当たり前のように持ってるらしい。
『あの技は懐刀として持っておくことに意味があって、決してメイン技に据えるべき性能じゃ無いんだよ。と言っても、加速して蹴る以上多少ダメージアップはするから、それ目的で今は使い続けるしか無い状況だけど』
『ほう。じゃあそれでは、キテツ選手が次の【メタルボディ】を発動する瞬間に、その技を使いに行くようにすれば良いのでは? それなら2回戦のアリス選手の時みたいに、一気にギアのEを減らすことが出来るのでは?』
『無理だ。その程度の事はキテツ選手も承知済みで、ギアの発動の際は両腕で頭をしっかり守っている。空いた胴体とかにダメージは受けるが、あれだけしっかり守ってると発動を失敗する恐れは無い』
「完全に、こっちのメタの準備は整えてきてたというわけか……」
「キテツ君、本当にハクト君に勝つために準備してきたのね」
悔しいが、解説のいう通りだった。
ハクトの今使える技は"クイックラビット"しかない以上、それを分かっていても使い続けるしかない。
"ラビットスタンプ"もあるにはあるが、天井が無い以上加速が足りず威力も出ない上、いくら体が重くて動きづらいとしても、自由落下の間に逃げられる可能性が高い。
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プレイヤー1:ハクト
スロット1:インパクト (残りE:0 → 10/10 残りCT: 2 → 1 → 0/3)
スロット2:バランサー (残りE:-)
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「再チャージ完了だ! それでもいくしかない! アリス戦の最後に使ったあのコンボを試す!」
「ハクト君!」
【インパクト】が再度使えるようになり、ハクトは再度キテツに向かってダッシュをする。
それを見てキテツは再度防御の構えを取り、再度捌こうと準備していた。
「っは! 何度来ても無駄だぜ! 全部防ぎ切ってやる!」
「それは、どうかな!」
そうしてハクトは、再度"クイックラビット"を放……つように見せかけて、通常の【インパクト】を発動。
「ぶっ飛べ! 【インパクト】!!」
「うぐお!?」
「ぐうっ!? ちょっと押し返される!」
それをキテツに向かって放ち、キテツを真上に打ち上げる。
だが、あまりにキテツが重いせいで、少しハクト自身も逆に吹っ飛ばされそうになってのけぞった。
……?
なんか違和感があった?
……それはともかく、キテツは3m程しか浮かび上がらなかったが、【バランサー】のお陰か丁度キテツの頭が真下になって落ちてくるように調整出来ていた。
このまま地面に叩き落としても良いが、ダメージを少しでも稼ぐため追撃する!
「喰らえ! "クイックラビット"、ボレーシュート版!!」
アリス戦の決め手になった、打ち上げからのボレーシュート。
これならガードする体制も取れない筈!
そう信じて放った技だったが……
「舐めるなぁ!!」
「うそ!?」
この落下中の体制からでも、腕で頭をしっかりガードして防いでいた。
そしてその後頭から落下しても、両腕で上手く防ぎ、回転しながら受け身を取って着地をしていた。
「オラ、"鉄拳"!」
「い、【インパクト】!!」
これ以上ダメージを受けるわけには行かない!
そう反射的に判断したハクトは、咄嗟に離脱のため【インパクト】を自分に放つ。
距離を取る事は出来たが、このコンボでも攻撃が防がれてしまった。
これでまたダメージは2か3くらいしか……
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プレイヤー2:キテツ
残HP:450 → 441
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……ん?
9ダメージ?
思ったより稼げていることにハクトは驚いた。それでも雀の涙だけど。
頭は防がれたけど、思ったより"クイックラビット"が効いたか?
それとも実は、頭からの着地の際の受け身にちょっと失敗したとか?
多少の偶然かもしれないが、それが何故かとても気になり……
「オレの前でよそ見とは、いい度胸してるじゃねえか!! おらあ!」
「っ!? あっぶな!」
少し考えに没頭している間に、キテツがいつの間にか接近してパンチを放って来ていた。
そうだ、HPが相手の方が遥かに多いから勘違いしがちだが、キテツにはハクトの少ないHPを削り切るという勝利ルートもあるのだった。
だから、目の前でボーッとしていたハクトを見逃す理由は無いわけで……
────待て。だからこそだ。何故普通に攻撃して来た?
ハクトはここで、違和感が更に強まった。
アリスに見せてもらった、キテツの二回戦の映像。まるで猫(○ム)と鼠(ジェ○ー)のような、カートゥーン漫画のように相手を捕まえて、ビッタンビッタン叩きつける技。
あれを使えば勝ち確定の筈なのに、何故キテツは捕まえにこない。
だってそうだろう、腕でも体の一部どこかでも捕まえれば、ハクトはキテツの力で一切逃げられないのに、捕まえるどころかグーの形でしっかり握りしめた手で……
「……いや、捕まえないんじゃなくて、捕まえられない?」
「っ!? ちいっ!!」
ハクトがふと呟いた言葉が、酷く気に障ったのかキテツの攻撃が激しくなる。
HPはまだまだ余裕がある筈なのに、まるで決着を急ぎたいかのような動きだ。
それをハクトは上手く躱し続け……
「そっか……そういう事か! 【インパクト】!!」
「ぐあ!?」
「からの、"クイックラビット"、"クイックラビット"、【インパクト】、"クイックラビット"、"クイックラビット"!!」
「ぐ、お、っごお!?」
『おおーっと!! ここに来てハクト選手、"クイックラビット"と【インパクト】を組み合わせたコンボの猛攻だー!』
『なんだ? ダメージはまだ微々たるものだけど、攻撃に慎重さが無くなって大胆なって来たな? 何があった!』
ハクトの動きが変わったことに気づき、実況と解説が動揺する。
そうこうしているうちに、【インパクト】をほぼ使い切る。
「よし、離脱! 打ち上げろ、【インパクト】!!」
そうして、最後のEを切って悠々自適に離脱。
離れた場所で、再度キテツのHPの残量を確認する。
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プレイヤー2:キテツ
残HP:441 → 413
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「やっぱりまだそんなにダメージは稼げないか……でも、調子は出て来たし、勝ち目も見えてきた!!」
「はっ、勝ち目だと! まだこんなに差があるのによくそんなことが言えるな!! 感心するぜ!」
「それはどうかな? お前だって気付いていたんでしょ、さっきの俺の呟きに慌ててたんだから!」
「っ!!」
ハクトの言葉に、しっかりとキテツは表情を変える。
恐らく向こうもバレたと思ってると、まず間違い無い。
「敢えて聞こうか。俺を捕まえなかったのは何故だ? 適当に腕か足を捕まえて、地面に叩きつけまくるだけでお前の勝利は見えていた筈。それこそ、不良達との戦いの時にジャイアントスイングをしていたお前の筋力なら!」
「そ、それは……」
「答えてやろうか? 今は出来ないんだろ!! だって【パワーバフ】が無いからな!! 人間一人を持ち上げる筋力……いや、俺を捕まえた時に逃さない握力!! 」
「くっ……」
まるで探偵に真相を突きつけられた犯人の様に。
キテツはハクトの言葉に悔しそうに顔を歪めていた。
「【メタルボディ】はあくまで自分の肉体の表面を鋼鉄の様に硬くする能力!! それで勘違いしてたけど、筋力そのものが上がるわけじゃ無い!! お前は体重が1.5倍になった上に、自分の力だけでその重さを支える必要がある! だから元々【パワーバフ】を装備していたんでしょ! 重たい体を支える筋力を補う為に!!」
そしてそれは、握力の話にも関わってくる。
例えば、キテツがハクトの蹴りを止めて捕まえた時。
当然キテツはハクトの足を掴んでいるだろう。
しかし、そこで適当に【インパクト】を放ち、衝撃で無理やり足を動かしたら、握力がそのままのキテツには止める力が足りない。
それがバレたくなかったから、キテツはずっとパンチ中心で、ハクトを殴り倒して体重で拘束する方法に拘っていたのだ。
「更に追加で質問してやろうか。お前は試合開始からずっと体重1.5倍の重さで行動し続けていた。お前、HPグローブじゃなく、"お前自身のスタミナ"はあとどれくらいだ? ……アリスが言ってたよな、疲れてくると受けるダメージは当然増えてくるって」
「……は! オレの事がよく分かって来たじゃねーか。素直にありがとうって言っておくぜ」
ここまで言い当てられたキテツは、開き直ったのか激昂するのではなく、寧ろ笑みを浮かべて返事をする。
いや、よく考えたらキテツは元々自分の試合を見にこなかったことに怒っていた。
自分の事を知ろうとしている相手に対しては、寧ろ歓迎だったのかもしれない。
とにかく、これでキテツの隠している事は暴き出した。
ハクトの中の違和感はこれで消えた。
────本当にそうか? なら何故まだ違和感が拭えない?
しかし、ハクトはこの様な疑問が湧いて来ていた。
キテツの隠し事はもう無い、筈。
という事は、キテツもハクトも、両方気付いていない内容がどこかに……
「けど、それを知ったところで何になる。状況はまだ俄然こっちが有利なままだぜ!」
キテツのその言葉に、一旦思考を打ち切る。
今は、とにかく目の前の状況に集中すべきだ。そう判断した。
「結局の所、このHP差が有る限り白兎の勝利は無い! いくらスタミナが少なくなって来たと言っても、残り8分ちょい!! このまま逃げ切ってやる!」
「でも、もうそっちがこっちを捕まえる事は無いと分かった!! 遠慮なく、ほとんどの【インパクト】を回避じゃなく攻撃用に割り当ててやる!!」
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プレイヤー1:ハクト
スロット1:インパクト (残りE:0 → 10/10 残りCT: 3 → 2 → 1 → 0/3)
スロット2:バランサー (残りE:-)
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「リチャージ完了!! 行くよキテツ!!」
「こいよ、白兎!!」
そう互いに声を上げ、再度二人はぶつかり合いに走った……
☆★☆
『再度ハクト選手とキテツ選手のぶつかり合いが勃発ー!! ハクト選手のさらなる猛攻が、キテツ選手に襲いかかるー!!』
『フェイントも兼ねて、通常攻撃も混ぜる様になって来たな。これは回避しづらいぞー、まだまだ勝負は分からなくなって来たな』
実況と解説のカラーと風雅は、楽しそうにそう放送していた。
先程のハクトによる推理ショーも面白く、会場は湧き上がっていた。
『……キテツ選手の、対ハクト選手用にメタ構成のギアで組んできたのは間違いというわけじゃあ、無い』
ポツリと、風雅がそうマイクに呟く。
静かに呟かれたそれは、しかししっかりと会場中に流れる。
『特定の選手に対して有利になる様にギア構成を変える事は、プロの世界でもよくある事だ。……しかし、装備出来るスロットの数は限られている。メタ用のギアを積めば、当然自分の得意ギアを乗せる枠が減ることに繋がる』
例えランクが上がって使えるスロットが増えたとしても、相手も同様に増えていることが多い。
その分、結局の所相手のギアに対応する枠が増える必要があるのだ。
『自分の得意ギアを削ってしまったせいで、自分のリズムを作れず逆に自滅することも多い。初心者から中級者に上がる頃によくあることだな。相手を封じ込める構成にするか、自分の戦いを貫くのか、あるいは両方のいいとこ取りか……』
マテリアルブーツは、本来自由にギアを組み換えることができる。
ギアの種類だけ、組み合わせは無限大だ。
自分や相手、時にはフィールドを確認して、状況に応じて組み替え続けていくことが大事だと風雅は言う。
『大事なのは、常に自分のギア構成と向き合い続けることだ。マテリアルブーツは性質上、ジャイアントキリングが発生しやすいスポーツだ。ずっと同じ構成で戦い続けられる奴はいない。常に自分を見つめ、相手を見て、世界を見て。それでもと選択した、自分だけのギアの構成をその時々によって決め続けなければならないんだ……』
『おおーっと! ハクト選手、再度ギアのチャージが完了したのかまたしても突っ込んでいく! 1分半の休憩をとっての30秒間のツッコミ! 白いパーカーが棚引いていくー!』
『……ねえ。俺割と良いこと言ってたと思うんだけど。何でこんな時に限ってコメント全然出してこないの?』
『え。いや、まさにそのコメントをものすごく求められている様な気がして、めんどくさいなーって思ったから』
『実況って言葉知ってる?』
『今の状況を説明するための人でしょ。だから今まさに戦ってる選手のことを言ってるんじゃ無い。誰も解説の自論なんか興味無いわよ』
『解説者の意味否定になってないそれ、ねえ!? いるよ、俺の言葉聞いてくれる人いるよ会場の中で少しくらい!! ねえ、そうだよねえ!!』
実況と解説の漫才が始まったとともに、再度ハクトとキテツの戦いに観客の視線は集まっていく……