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第17話 3回戦 VSキテツ③

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 バトルルール:殲滅戦

 残りタイム:6分20秒


 プレイヤー1:ハクト

 残HP:157

 rank:1

 スロット1:インパクト (残りE:0 → 10/10)

 スロット2:バランサー (残りE:-)


 VS


 プレイヤー2:キテツ

 残HP:413 → 389

 rank:1

 スロット1:メタルボディ (残りE: 0/3 残りCT: 2/3)

 スロット2:メタルボディ (残りE: 2/3)

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「"クイックラビット"ぉ!! あっはは、すっごく楽しくなって来た!」

「ちい! 普通の蹴りまで混ぜて来やがって! そんなことしても意味ねえだろうが!」

「そうかな? さっきから1ダメージは時々通る様になってるから、意味が無いことは無いと思うけど!」

「んなことまでしたら、お前だってスタミナ尽きる筈だろうが!!」

「あっはは!! なんかアドレナリンでまくって、追いかけるのが逆にテンション上がっちゃってさあっ!!」

「この、わんぱくウサギ野郎が!!」


 絶望的な展開から、勝ち目が少しずつ見えて来たおかげで、ハクトのテンションは変に上がっていた。

 逆に追いかけられる立場のキテツにとっては、段々と心の余裕が無くなって来ている状態だった。

 時折ハクトに対して反撃のパンチを入れているが全部避けられ、重たい腕を振り回しているせいで更にスタミナが削られていく。

 しかし、一切反撃しないとそれはそれでハクトの好きな様にされる為、牽制を止めることは出来なかった。



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 プレイヤー2:キテツ

 残HP:389 → 379

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「よーし! 多分どんどんちょっとずつ削れて来た!」

「くそ! でもまだこのペースならまだまだ!!」

「ここで、ただのキーック!!」

「テメエ!」

「と見せかけて、"クイックラビット"蹴り上げバージョン!!」


 左足の普通の蹴りと見せかけて、すぐに戻して右足で加速した蹴り上げを行う。

 腹か顎あたりにぶつかれば良いと思ったそれは……



 テンションが上がって目測を誤り、



 キーンと。



 ────キテツの股間にダイレクトアタックした



「……あ。」

「こ……ぱぁ……?」


 その事実に、テンションが上がっていたハクトは一気に頭の血が下がって冷静になり。

 観戦していた観客達は、特に男性陣が股間を咄嗟に抑えて青ざめていた。


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 プレイヤー2:キテツ

 残HP:379 → 280

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 ダメージ100近く。

【メタルボディ】適応中のキテツに対して、この試合最高ダメージを叩き出していた。

 キテツは何が起こったのか把握し切れていないのか、変な言葉を発して、目を天にしている。


「……あ、ふへ……?」

「……………………」


 そんなキテツの様子に、流石にハクトは押し黙り……



「……………………………………………………………………………………"クイックラビット"蹴り上げバー」

「うううううおおおおおおおおおおおおいいいいいいいいいいいいぃぃぃっっっ???!!!!!」



 無慈悲に二発目を放とうとしたハクトを、正気に戻ったキテツが全力で両手でガードする。

 防がれたハクトは、速攻でその場を離脱した。



「は、は、白兎!! お、おま、お前ええええええ!!? 何やってくれてんだお前ええええええ!!? 」

「ごめん。わざとじゃなかった」

「1回目はともかく、2回目やろうとしてただろうが!? なんでやろうとした、言え!!」

「1回やらかしちゃったなら、2回以上やるのも変わらないかなって」

「クズ男の理論!!」


 どこぞの女に付きまとっているクズ男の様なことを言い出したことに、キテツは酷く戦慄した。

 ウサギパーカーの可愛い格好をして、とんでもねー言い訳をしやがるコイツ。


「あと、せっかくダメージが100近く出たならチャンスだなって思って」

「だからって、躊躇無く人の股間2回目蹴りに行く!? 人の痛み感じとれねえのかテメエは!?」

「別にHPグローブがあるから、そこまで痛くは無いでしょ」

「確かに痛みはそこまで無いけど!! けど違和感すげーんだよテメエ!! 浦島家の血筋俺の代で途絶えたらどーする?!」


 キテツは激怒した。

 必ず、かの邪智暴虐 (じゃちぼうぎゃく) の兎を除かなければならぬと決意した。


 そんなハクトは観客席に振り返り、カグヤに質問する。


「カグヤー。そういえば、実際金的とかの急所づきって、反則行為なの? いっつも頭とか狙ってたから気にしてなかったけど、普通のスポーツにあるその禁止行為ってもしかして無い?」


「それ女の子に聞く!? いやまあ、そうだけど! 確かにマテリアルブーツはHPグローブの関係上、結構な無茶な攻撃は許されているけど!!」


「よし。じゃあ普通に金的し続けても問題ないわけか」

「問題ないわけあるか!! とんでもねーこと確認してやがる!! 公式試合なんだから手段は選べや!!」

「取れる手段が見つかったなら、吟味した上でその手段を片っ端から使って行くのが、対戦相手への礼儀だってケンジ兄が言ってた」

「礼儀か!? それ礼儀かおい!! ……いや確かに言ってることある意味あってるのかもしれないけど、吟味か!? 吟味したかお前!? もしかしてさっきの黙ってた時間か!? 吟味した上で実行してんのお前!?」

「……"クイックラビット"蹴り上げバー」

「3回目狙おうとするんじゃねえええええええ!!? 」


 ツッコミながらも、冷静にセリフを振り返りもしかして合ってるかも……と思ったけど、やっぱりおかしいだろと指摘するキテツ。

 その彼のツッコミの隙に更に大ダメージを与えようと画策したのか、ハクトはさらっと3回目の攻撃を放っていたが、それはキテツにしっかり防がれてしまっていた。



『キテツ選手大ダメージ!! ハクト選手続けて大ダメージを与えようとするも、今度は防がれたかー! ちなみに、プレイヤーの男性陣って普通ファウルカップをつけてる人が多いらしいので、あとでスポーツショップとかで購入がオススメでーす』

『まあ、金的狙いはそこまで便利な策って訳じゃないってことだな。にしてもあの少年、一度ライン越えしたらたがが外れるタイプのヤバい奴だな……』


 実況は呑気に豆知識をつけて放送し、解説はハクトの本質に触れこちらも戦慄していた。


『いやまあ……ハクト選手にとってはこれで大ダメージを与える手段の目処が付いたわけだ。一つでも通用する武器が手に入れば、相手はそれを気にするあまり他の意識が薄くなる。これにより、他の武器もさっきより生かせる様に……』

『金的の攻撃を、大真面目に解説して恥ずかしくないんですか?』

『人がせっかく気を取り直して、何とか向き合おうとしていたところを!!』


 解説と実況の漫才を他所に置いて、距離をとった状態のキテツがプルプル震えながらハクトを睨み付ける。

 その顔は何かを覚悟していた様だった。


「ちいっ! こうなったら、アレを使うしかねえ……正直公式戦で使うのはどうなんだと、自分で封印していたあの技を!」

「え、まだ手があるの!? ……一応聞くけど、もしかしてやり返すつもり? だとしたら、まあ俺としてはやった手前駄目って言いづらいけど」

「んな事するか!? あんな血も涙もない事!! ちゃんとした技だっつーの!!」


 そう言って、キテツはその場でしゃがみ込む。

 両手も地面に付き、何かの動作の準備をしている様だった。


「見ておけ、白兎……これが俺の、”鉄拳”に並ぶもう一つの得意技!」

「……っ!!」






「秘儀! “丸亀防御”!!」



 それは、まるで土下座の体勢で固まっている様だった。



「「「「……………………………………」」」」



 それを見たハクトは、と言うか会場中が静寂に包まれる。

 正直、それになんて言ったらいいんだ……と言う状態だった。

 ……よく見ると、キテツのそれは土下座の様に見えて、頭を両手で抑え、両足も股間を狙われない様に上手く組んでいる形だった。

 だからなんだと言う話だが。


「アッハッハ!! 声も出ない様だな! これが俺の防御形態の技! 【メタルボディ】適応中で、かつ相手よりHPが多い時、そのまま相手からHPを守り切る絶対防御!! 防御力が高すぎて、あまりにガチすぎて相手への摘みになるから自重していた技だが、もう遠慮はしねえ! このまま逃げ切ってやるぜ!!」


『あー……キテツ選手より、自分の技の凄さの説明をされましたー! 側から見ると、文字通りまさに”亀”!! ……本当にうどんが食べたくなってきました!』

『”丸亀”から連想したろお前。あー、いや、まあ。確かに利には適ってるな。実際ほとんどの急所への攻撃は封じられている状態だし、たとえマジック系統が飛んできたとしても、クリーンヒットはし辛いし。絵面はアレだが』


 何とか実況と解説が言葉を絞り出している状態で、アナウンスが鳴り響く。

 キテツはそれを聞いて、更にいい気分になっている。


「あーっはっはっは!! どうだ白兎!! この形態、お前には手も足も出まい!!」

『手も足も出してないのはキテツ選手ですが』

『上手いこと言ったつもり?』


「……跳ね上げろ。【インパクト】」

「ん? 白兎、一体何をやろうとしてんだ? この形態、周りの様子が全然見えないから今どうなってるのか全然分から……」


「自由落下。”ラビットスタンプ”」

「げふうっ!?」

『そりゃそうなるだろ!!』


 地面に丸まって一切動かないキテツに対し、ハクトは躊躇無く真上からの攻撃を実行。

 本来天井が無いと加速が足りず、相手に逃げられやすい”ラビットスタンプ”だが、相手が一切動かないなら関係が無かった。

 ただ……



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 プレイヤー2:キテツ

 残HP:280 → 275

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「っ!! それでも、ダメージはたったの5か……!!」


 問題は、最大火力を出す筈の”ラビットスタンプ”でもダメージはそれでも出なかったこと。

 当然といえば当然の話。

 ”ラビットスタンプ”は、天井を足場に加速して急速落下することで、スピードと威力を共にUPする技。

 未だハクトは、地上で【インパクト】を発動した後、足場を蹴るルーティーン無しでギアを再発動する技術は無い。


 完全にキテツがギア込みで防御を固めているのもあって、威力がカグヤとの模擬戦時には100はあった攻撃が、10分の1すら届いていない。

 しかもこの”ラビットスタンプ”は、高く上がってから自由落下でダメージを与える関係上、一回の攻撃に多少時間が掛かってしまい、時間効率も少し悪かった。


「ちょ、ちょっとは驚いたが、それでもそんなにダメージにはなってない筈だ!! 電光掲示板見えないけど!! オレは絶対この防御形態を解かねえぞ!!」

「くそ、割とマジで不味いか……」


 残り時間は6分弱。もうすぐCT3分の1の時間だ。

 そうなると、キテツは恐らく【メタルボディ】の重ねがけをしてくる筈。

 ループ時間の関係上、少しは重ねがけが出来ない時間もあるだろうが、大幅にダメージを狙う時間が少なくなってしまう。


「せめて、何とかこの“丸亀防御”は解除させたい……!」


 この一見ふざけた体勢だが、実際両手足で体を支えられている状態なので、【メタルボディ】による重さのデメリットを支えるのは楽になってしまっている筈。

 せめて、自重による不可で相手のスタミナを少しでも削らせたいハクトとしては、何とかしてキテツを立たせた姿勢に戻したい。


 どうする。何とかこの“丸亀防御”をし続けるのはデメリットだと、キテツに認識させなければいけないけど……


 そう考えながら、キテツの周りを歩き始めるハクト。

 何処か隙はないか。本当に急所は全部隠れているのか確認して……





 ……悪魔じみた発想を思いつく。


 一瞬の吟味……


 実行決意。



『ハクト選手、完全に丸まった状態のキテツ選手の周りを歩き出すー! 完全に諦めたかー? と思ったら、ふと立ち止まった?』

『……いや、おい。まさか』


 キテツの後ろにまわったハクトは、思いっきり右足を振りかぶる。

 この攻撃は、タイミングが重要だ。

【インパクト】による加速の蹴りは、発動の際足首を伸ばし切る必要がある。

 しかし、今ハクトがやりたいのは、出来れば足首を90度のまま維持して、フック状にしたい。

 加速の時だけ爪先まで伸ばしきり、蹴り上げる際90度に戻す。

 やれる。やろう。


『何だ? 何考えてるか分からねえが、もうこの形態に弱点はねえ!! “丸亀防御”を崩すことは白兎、お前にはもう不可』


「フルスイング!! "クイックラビット”!!」


 再度、今までの得意技を放つハクト。

 その攻撃は、綺麗にキテツのお尻に向かい……




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 プレイヤー2:キテツ

 残HP:275 → 244

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 HP30削り。

 そして会場に、キテツのアーッと言う悲鳴が鳴り響いた。




 ☆★☆




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 バトルルール:殲滅戦

 残りタイム:5分20秒


 プレイヤー1:ハクト

 残HP:157

 rank:1

 スロット1:インパクト (残りE:0/10  残りCT: 1/3)

 スロット2:バランサー (残りE:-)


 VS


 プレイヤー2:キテツ

 残HP:244 → 221

 rank:1

 スロット1:メタルボディ (残りE: 0/3 残りCT: 1/3)

 スロット2:メタルボディ (残りE: 1/3)

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「は、白兎……お前一度ならず、二度までも……!」


 先程の”丸亀”形態を解いて、普通に立っているキテツがいた。

 自分のお尻を抑えて、プルプルしている。

 そこから10m程離れた位置に、ハクトは立っている。

 あの後も攻撃をし続け、丁度【インパクト】を切らしてチャージ中だ。


「お、お前……手段を選ばないにも程があるだろ。何なのお前? 金的してきて、今度はお尻って。このままじゃオレ、ホモになっちゃうんだけど。何、そう言う趣味? 彼女持ちって思ったオレの気のせい?」

「いやあ、俺普通にノーマルだし」

「……じゃあ一応聞くぞ。これをやった理由は?」

「ダメージ効率を考えてつい」


「”絶対許さん”」


 キテツは激怒した。

 必ず、かの邪智暴虐じゃちぼうぎゃくの兎を(以下略


 先程全く同じ決意をしたばかりだが、その近いを重ね掛けすることにしていた。

 政治とか以前に、このウサギは絶対ぶっ倒すと決意した。


「……お望み通り、もう”丸亀防御”は使わねえ。あんな隙晒すくらいなら、もう残りの時間全部普通に捌き切ってやる! そして気付いているか白兎、残りの時間を!!」

「っ!!」


 そう言って、キテツは電光掲示板の方を指を刺した。

 残り時間が、3,2,1……


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 残りタイム:5分00秒

 フィーバータイム!! 

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『とうとう来ました!! 残り試合時間5分! フィーバータイムの突入でーす!!』

『ギアのCT完了までの速度が3倍!! つまりギアの再使用感覚が短縮!!  次の【メタルボディ】が30秒後に使用可能で、ループを気にせず重ねがけが可能だ!!』


 互いのステータスの表示に変化が起こる。

 解説の言うとおり、残しCT表示の分母が大きく減った!! 


「まだだ!! まだ30秒隙は残ってる!! “クイックラビット”!!」

「いい加減うぜえ!! “鉄拳”!!」

「なっ!?」


 少しでもダメージを稼ごうと技を放ったハクトに対し、ぶちぎれた様にパンチを放ったキテツ。

 その攻撃はハクトを直接狙ったわけではなく、ハクトの蹴りに対して合わせてパンチした。

 ハクトの“クイックラビット”は、キテツの”鉄拳”と音を立てて相殺される!! 


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 プレイヤー1:ハクト

 残HP:157 → 155

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 プレイヤー2:キテツ

 残HP:221 → 218

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「つう! こっちにもダメージが!?」

「散々食らってきたからな!! もうお前の攻撃の癖は大体掴めた、ガードと言わず全部叩き落としてやる!!」

「この!?」


 流石に靴と素手の差分、キテツの方が受けるダメージは多い様だが、それでも本当にたった1点差。

 キテツのその言葉に、負けじとハクトも技を放ちまくるが、それにキテツが応戦していく! 



 ガンッ!! ギンッ!! ガンッ!! ギンッ!! ゴンッ!! ギンッ!! 


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 プレイヤー1:ハクト

 残HP:155 → 153 → 152 → 145 → 142 → 140

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 プレイヤー2:キテツ

 残HP:218 → 215 → 213 → 212 → 209 → 206

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「くそお!! 差が縮まらない!!」

「アッハッハ!! こっちもアドレナリンでまくってきたぜ!!」


 互いのHPの表示が、少しずつ切り替わっていく。

 キテツとのHP差が狭まらない事実に、ハクトは段々焦っていく。

 と言うか、途中フェイントも兼ねて通常のキックも混ぜていたのだが、普通にキテツに力負けして逆にハクトが比較的大ダメージ受けていたため、実はハクトの方が受けたダメージが多い結果になっている。

 そして……



「そして事実上のタイムアップだ、白兎」

「っ!!」


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 プレイヤー2:キテツ

 スロット1:メタルボディ (残りE: 3 → 2/3)

 スロット2:メタルボディ (残りE: 0 → 3/3 残りCT:3 →→→ 0/3)

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「来たぜ、フルスペック!! 装着2、【メタルボディ】開始!」


 キテツが自分の両手の拳を合わせた状態で、そう宣言した。

 とうとう2つ目の【メタルボディ】が、二重掛けされる様になってしまった。


「っぐ! うう!!」


 だが、発動直後のキテツの様子が多少おかしく、呻き声を少しだけ上げていた。


「体重1.5倍の二重掛けなんでしょ! 自分の体重そのまんま2倍になってる、それで戦える!?」


 元々の1.5倍とキテツは言っていたため、恐らく単純にキテツの体重半分がギア1個で加算される筈。つまり、30kg + 30kg の60kg になる筈だ。

 いくら硬くなるメリットがあると言っても、それだけ重たければ動きは鈍る筈。


「そんだけ重くなれば、逆にもう捌けないでしょ! “クイックラビット”!!」


 ハクトはその隙を逃さず、キテツの頭に“クイックラビット”を放つ。

 その攻撃に、先程まで捌けていたキテツは腕が重すぎて追いつけない。


 直後、ガキィッと言う音が辺りに鳴り響く! 


「……ああ、そうだな。”もう捌く必要は無いな”」

「っ!! くそ!」


 ==============

 プレイヤー2:キテツ

 残HP:206 → 205

 ==============


 クリーンヒットの攻撃。

 しかし、それでたったの1。

【メタルボディ】一個だけなら、10は入っていた筈の攻撃すら、とうとう効かなくなってしまった。


「だったら、跳ね上げろ! 【インパクト】!!」


 キックではもうダメージは入らない。

 ならば、真上からの重力を利用した攻撃。


「その体の重さで、上からの攻撃を支え切れる!? 自由落下、“ラビットスタンプ”!!」


 “丸亀防御”の時は、地面に丸まって全体で支えられていた。

 しかし、今はキテツの体重2倍で、真上からの人間一人分の重さが降ってきたなら、いくら自由落下分しか威力は無いといえど少しは効くはず。

 重さのせいで咄嗟の回避も不可能。

 そう思ってのスタンプだったが……


「腕を動かせないと言っても、瞬間的じゃなきゃ十分真上に構えられるっつーの!!」

「っ!!」


 ==============

 プレイヤー2:キテツ

 残HP:205 → 202

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 しかしそれも、頭の上で両腕を組んだキテツに阻まれしっかり防御される。

 確かに、ガード越しでも3ダメージは入った。

 しかし、“ラビットスタンプ”の攻撃速度でこのダメージ効率では……


 そうハクトが思っていると、キテツがガードした腕を解いて、ハクトの足を掴む! 


「相手が真上にいるなら、振り回さなくても”振り落とす”だけで地面にぶつかるよなあ!!」

「っ!? 【インパクト】ぉ!!」

「ちいっ!!」


 掴まれた足で、そのまま叩きつけられそうだったところを、何とかギアを発動するハクト。

 ギリギリ衝撃が間に合い、予想通りキテツの掴んだ手は離された。

 その勢いのまま、ハクトはキテツから距離を離していく。

 しかしこれで、また最後の【インパクト】のエネルギーは尽きてしまった。


 ==============

 プレイヤー1:ハクト

 残HP:140

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 ==============

 プレイヤー2:キテツ

 残HP:206

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「っはあ、っはあ、くそお! あとたったの60ちょい、くらいなのに……たったそれだけの差が、遠い!!」

「く、はっはっ……! どうだ、白兎。これがオレだ。これがオレ、キテツの力だ!!」


【メタルボディ】の二重掛け。

 ある程度予想はしていた事だったが、実際に目の当たりにしたその硬さの前に、ハクトは絶望感が湧いてくる。

 300以上あったHP差は、確かに大幅に減って、たった少しの差まで来ていた。

 しかしこの残り少ないHPを詰め切る手段が、ハクトには足りなかった。


「確かにオレ自身、この体重はキツイが残り5分弱なら、充分耐え切れる!! そして、お前が油断したなら十分殴り返してやる!」

「くっ!!」

「あと、もう急所は絶対食らわせないからな!! 諦めろ! もうお前に、ここから逆転出来る術はねえ!!」


 そう言いながら、片手は真下に、もう片方の手は真上に構えたキテツ。

 完全に股間への攻撃と、真上、頭への攻撃に意識を割いている。ぶっちゃっけ天地鳴動の構えだった。

 ものすごく急所への攻撃を警戒していた。


 キテツのその言葉に、返せる言葉はハクトには無かった。

 今一番ダメージがある“ラビットスタンプ”でも、たったの3が限度。

 しかも捕まって叩きつけられる可能性があると、脱出用にもエネルギーを使う必要がある為、実質2倍のエネルギー消費。

 いくら【インパクト】のCTも短くなっているからって、時間的エネルギー効率もダメージ効率も足りなさすぎた。


【メタルボディ】の二重掛けが切れて、一つだけになる時間だけ攻撃を絞るか……

 嫌、それでも時間が足りない! 防御に完全集中されたら実現味が無さすぎる!! 


 段々追い詰められた思考になってきたハクトだったが……



「ハクトくーん!! ちょっとこっち来てー!」

「っ!? ああ!」


 観客席側からカグヤの呼ぶ声が聞こえてきて、ハクトはそれに答える。

 何か案があるのかもしれない。そう思ってハクトはカグヤの方へ向かって走っていった。


「アドバイスでも貰いに行く気か? 無駄だぜ、もうこの状況を切り抜ける方法はねえ……」


 それを見たキテツは、体が重いせいもあって追いかける気もない為、そのまま見送った……


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