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バトルルール:殲滅戦
残りタイム:4分10秒
プレイヤー1:ハクト
残HP:157
rank:1
スロット1:インパクト (残りE:0/10 残りCT:3/3)
スロット2:バランサー (残りE:-)
VS
プレイヤー2:キテツ
残HP:206
rank:1
スロット1:メタルボディ (残りE: 1/3)
スロット2:メタルボディ (残りE:2/3)
==============
「ハクト君、大丈夫?」
「大丈夫じゃ無いな。正直、かなり追い詰められてる……」
残り試合時間4分。
この状態で、殆どの時間【メタルボディ】二重掛け状態のキテツに対して、大ダメージを与えられる自身は、今のハクトには存在しなかった。
「カグヤ、呼び出したって事は、何か案があるのか?」
「ええ! 大丈夫よハクト君! 今こそ、アレを使う時よ!」
「アレ?」
アレって何?
そう思ったハクトに対して……
「そう、”真必殺技”を!!」
「そんなのないよ」
「……………………」
「……………………」
無言。2回目。
「…………え。ないの、新技?」
「むしろ何で持ってると思ってるの? ”ラビットスタンプ”と”クイックラビット”の二つだけだよ……?」
「だって、ほら。ハクト君って技10個や20個くらい持ってておかしくないし……」
「君の俺に対してのイメージってどうなってるの?」
「……………………じゃあ、案が尽きたわ」
「……そのためだけに呼んだの?」
「……………………何よ!! 案なんて出さなくったって、ハクト君本気出せば多分勝てるじゃない絶対!!」
「逆ギレ!? とっくに本気だよこっちは!! さっきから得意技全部出し切ってるんだよずっと!」
「得意技とかじゃなくて、手段選ばないから目潰しとか金的とかやってここまでダメージ与えてきたんでしょ!! もっとエグい手段思いついてるんじゃないの!?」
「俺のことどう認識してんの!? カグヤの中の俺ってどうなってんの!?」
「……それ、さっきまでのキテツ君の試合振り返って本当に聞ける?」
「…………うん。カグヤの中の俺ってどうなってんの? 」
「ごめんなさい。本当に聞けるとは思ってなかったわ」
カグヤの逆ギレに対し、反論して謝罪を引き出すことが出来たハクト。
いや、引き出せたかこれ? 別の論点になってない?
「……実際どうなの? ハクト君本当に何か思いつかないの? 相手の防御を超えるんじゃなくて、もっと別方向とか」
「うーん、そうだなあ……」
そう言って、ハクトは唸り……
「────口の中に砂とか詰めての、窒息攻撃」
「それよ!」
『それだ、じゃねええええ!! ちょっとそこの二人いい加減にしろ!!』
「「あっ。怒られた」」
名案が浮かんだ、といったノリで口に出した攻撃方法に、解説の風雅からツッコミが入った。
実は実況、解説席とカグヤ達のいる場所は割と近く、聞こうと思えば互いの声は聴こえる位置だった。
解説側から声を掛けるのはどうかと思い今まで自重してきたが、とうとう風雅にとって見逃せない様だった。
『さっきから思ってたがいい加減にしろ!! ルールギリギリのダーティプレイとかどんどんやるようになっちゃって! いいか、マテリアルブーツはあくまでスポーツ!! 少なくとも大会ではそうなってんだ!』
解説の風雅曰く、スポーツは結局の所エンタメ要素。
選手はもちろん、観客にも楽しんでもらう事が最優先。
特に初心者大会は新規プレイヤーに参入してもらうために開いている側面もあるため、ルール的に問題無いとしてもあんまりスポーツマンシップに乗っ取らない側面ばっか見せてもらうのは辞めてほしいとの事。
頭を蹴るくらいならともかく、それ以外があまりにも度が酷くなってきそうだった為、今の内にハクトの考え方を直す為にわざわざ指摘してきたらしい。
『ハクト選手!! お前は大会に勝ちたいだけなのか!? 少なくとも、攻撃用のギアを全然積んでないのを見るとそうじゃ無いはずだ! 君の戦いは普通にやっても見てて楽しいんだから、それをメインに戦うだけでも十分だろ! カグヤ選手も変な方向に誘導するな!! 極論スポーツは遊びだ! 勝ちにこだわるなとは言わないが、せめて自他共に楽しめるような戦いをしろ! 』
「「ご、ごめんなさい……」」
『まさかの自称プロとは思えない発言。遊びって言い切っちゃってるけどいいんですか?』
『自称じゃねえし、ちゃんとプロだし!! けどこの発言だけは撤回する気ねえぞ俺は。自分を含めた多くの人を楽しませる事、それが大事だと思ってるからな! もちろん、勝つ事が一番楽しいと言う人の意見も否定しない。俺自身雪女選手に勝ちたいしな! けど楽しむと言う目的が、手段と入れ替わってるならそれは指摘するぞ!』
会場に、風雅選手の熱い言葉が流れる。
流石にアナウンス越しに選手を怒るのは褒められない事だが、指摘している内容自体は真っ当だった。
カラー実況の弄りに対しても態度を崩さず、真っ直ぐに風雅自身の持論を述べていた。
「あちゃー……全然否定出来る要素無いや。まあ、確かにちょっと冷静になって無かったかもしれない。さっき、不良達とバトルしてて何でもありって考えが残っちゃってたかなあ……」
「そうね。ちょっと熱くなりすぎちゃったわ。ごめんねハクト君、冷静に考え直しましょうか……」
気を取り直して。
「じゃあどうしましょうか? さっきは怒られたけど、発想を変えるという事自体は悪くないと思うのよ。真正面からぶつかるんじゃなくて、何かしら弱点を突く方面とか?」
「弱点か……そうだな。状況が変わったし、もう一回現状確認を兼ねて整理しよう」
ハクトは冷静になった頭でキテツの特徴を整理する。
①メタルボディで鋼鉄並みの耐久。
②ギア適応中、体重が重くなり機動力はほぼ無い。
③ギアの二重適応中、ほぼ完全に打撃無効。
④ギアのEと短縮CTの関係上、1分半の内、30秒間だけ単体適応の時間がある。
⑤ある程度の急所への攻撃は手や腕で防がれる可能性がある。
⑥下手な攻撃は、パンチや掴みによりカウンターされる恐れがある為注意。
「っと、大体こんな所? この中で弱点と言えそうなのは、②と④位だけど……」
「③がそれを補うくらいの強みになってるわね。HPが向こうが高い以上デメリットがほぼ無意味ね。⑤もあるから、殆ど大ダメージは期待出来なさそう」
「くそう、やっぱ最初のマウントポジションからの連打が痛すぎたか……」
今更になって、最初の様子見の一手のつもりで油断していたのが響いてくる。
キテツ戦は、最初からクライマックスのつもりで挑むべきだったのだ。
「事前準備と、対戦相手への個人メタ。あとは大会ルールの理解度の差ね。そこら辺が全体的にキテツ君が上ね」
「あいつ、絶対初心者じゃない……」
ふとハクトがそう愚痴を漏らす。
キテツのハクトへの対策方法がガチすぎる。
間違いなく初心者の考える事ではない。
「……あ。そうだハクト君、キテツ君のプロフィール欄見てみたら?」
「えー? ただの自己紹介プロフィールでしかないでしょあれ。今役立つ?」
「ほら、キテツ君何かと目立ちたがりというか、自分の事を分かってもらいたいって性格が強いじゃない? 何か戦い方とか考え方のヒントを書いちゃってるかもしれないと思って」
「んー。まあ、一理あるか……」
特に他のアイデアがある訳でも無し。
ひとまず、確認して損は無いかと思い、HPグローブでキテツのプロフィールを確認してみると……
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プレイヤー2:キテツ
生年月日:8月20日
出身地(または出身校):龍宮町→未来町(なんか町の名前知らない間に変わったらしい)
趣味:リハビリ兼ねた筋トレ ゲーム
特技:“鉄拳” “丸亀防御” “陸亀大車輪” ”陸亀応援旗”
資格:特になし
マイブーム:レトロゲーム漁り
メッセージ:長年の病院入院生活から復帰! 人生楽しみまくるぜ! 恋人募集中!!
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「あいつ、ほとんどの特技プロフィール欄に書いてるじゃん! まあ、名前だけだからそこまで詳細が分かるわけじゃ無いからあんまり意味ないか……」
「ハクト君。そんなことよりチラホラ気になる部分があるのだけど」
「ん? ああ、恋人募集中って点かな? 最初にキテツに会った時絡んできたの、本当に羨ましかったんだねあいつ」
「いや、そこでは無く」
突っ込まないよ。ハクトはそう固く誓っていた。
いやチラホラ不穏な文章あるのは分かるけど。
怪我か病気で長期入院してたっぽいのはめっちゃ伝わってくるけど。
町の名前変わってること気づかないレベルで入院してたっぽいけど。
けどもう不穏っぽいプロフィールはアリスで一杯なんだ。
なんでどいつもこいつも闇っぽいの抱えてるの? いや、寧ろキテツは経歴の割りにカラッとしてるか?
そう思って、ハクトは一旦キテツのプロフィールを忘れようとする。
キテツにも人生苦労していそうなもの経験しているのだろうが、大会では関係無い。
そう割り切るくらいのメンタルはハクトには備わっていた。
「結局、プロフィール欄を見ても大した情報は無かったか……4つ目の特技は見れたけど、大方あの地面に叩きつける技とかだろうし。多分人を旗に見立ててるね、あれ」
「そういえば一応、⑥もされる恐れがあるのよね。もうキテツ君にとってはそこまでやる必要はないけど、開始直後のマウントポジションからの連打をまたやられたら、ハクト君今度こそ終わりよね。決着急ぎたいならやってきそう」
「ああ、あれは完璧にやらかした。【インパクト】で脱出しようにも、目潰ししてない状態だと完全に固定されてて、むしろ自分の体が衝撃のせいでダメージが……────っ!?」
……そう言おうとした時、急にハクトが口元を抑えてしゃがみ出す。
その両目は思いっきり開かれており、何か驚愕しているようだった。
「は、ハクト君どうしたの!?」
『ハクト選手一体どうした! 気持ち悪くなったのか!?』
『試合中に大衆の前で怒られたから、遅れてショックが湧いてきちゃったんじゃないですか?』
『え、俺のせい!? やっぱりアナウンスで注意するのは不味かったか!? ごめん!!』
「いや、そうじゃないんで!! 別件なんで気にしないでください!!」
カグヤ達がどよめき出したのを、片手を振って問題無いことをアピール。
そしてそのまま、しゃがんだ状態のままハクトは思い返す。
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────があ!? 抜け出せない!! 何で!?
────アッハッハ!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
キテツの重さのせいで、【インパクト】を使っても抜け出せず、逆に自分の体にダメージが入った時。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
────ぶっ飛べ! 【インパクト】!!
────うぐお!?
────ぐうっ!? ちょっと押し返される!
────なんか違和感があった?
────……ん? 9ダメージ?
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
上手く攻撃はヒットしなかったのに、思ったよりダメージが何故か入っていた時。
────ひょっとして、とんでもない勘違いをしていた?
「そっか……そっか! これがまだ違和感があった理由! 必要なのはキックじゃなくて、”衝撃”そのものだったんだ!!」
「え? 衝撃? どういうこ……ハクト君?」
「”クイックラビット”は加速は凄いけど、自分のキックのブーストに使ってる際その分ロスが発生してるのか。ということは、衝撃を逃さず、全部キテツに叩きつけること……いや、けどさっきまでならまだしも、ギア二重掛けのキテツに対して今は効く? 逆にもうこっちが押し返される。一重になった時を狙って鳩尾あたりに……ダメだ、時間が足りない。もっとデカイ一撃が欲しいけど……くああああぁぁぁァァァ────ッ!!」
「ハクト君!?」
突然頭のフードを掻きむしりながら大声をあげたハクトに対し、ビクッとカグヤは驚く。
側から見ると、ハクトが突然発狂したように見えたからだ。
『ハクト選手、突然奇声を上げたー!? そんなに怒られた事ショックだったかー!?』
『え、いや、やっぱガチで俺のせい!? え、え、どうしたらいい!?』
「おおい!? 白兎、ガチで大丈夫か!? お前マジで棄権した方がいいんじゃねえの!?」
実況と解説も動揺し、遠くで黙って待っていたキテツですら、様子がおかしくて声を掛ける程。
そんな様子に気づかずに、ハクトは再度声を上げる。
「後少しなのに!! 後もうちょっとだ、キテツの謎は全部分かった! だから試合の決め手を見つければいいのに、少し足りない!! なんかこう、もうちょっとで出かかってるのに、喉ぐらいで引っかかってるようなそんな違和感!!」
「あ、それちょっと分かるかも。なんか知ってる筈なのに、思い出せない時のような感覚」
「そう、それ! 思い出せない時、”多分自分もう知ってる”! この状況なんとか出来そうな情報知ってる筈なのに、それが何か分からない感覚! 絶対面白くなりそうな、そんな予感がしてるのに! 多分絶対楽しいアイデア!」
「面白くなりそうな? それってもしかして、二回戦のアリス君との時見たく、なんか新技思いついていたとか?」
「新技、アリス戦……手持ちの技は全部思いついた筈だけど、うん、そうだ、”アリス戦”!!」
カグヤのその言葉に、ハクトは引っ掛かりが少し晴れたような気がした。
多分アリス戦に答えがある。
「多分カグヤとのその時の会話で、なんか無意識に引っかかってた別のことが……カグヤ!! 二回戦の時、俺達なんて会話してたっけ!? 」
「え? えーっと、確か……
プロフィール欄見えるよ
相手のギアの詳細とエネルギー残り分かるよ
ギアどっちの足からでも発動出来るよ
フォームギアは靴の形態変化だよ
無言でもギアは発動出来るよ
別名にしてもイメージあれば発動出来るよ
だったかしら? 順番は分かんない!」
「こう聞くと結構あったな説明された内容!?」
改めて整理されると、5、6個くらいアリス戦だけで説明された点があった。
割と数は多かったが、その中で一番引っかかって気になるのは……
「”ギアどっちの足からでも発動出来るよ”……?」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
────えええぇぇぇ!? ハクト君両足で大ジャンプしてたんじゃないの!?
────”両足"じゃねえよ! "右足"だけだよいっつも【インパクト】出してたのは!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
……あ。分かった。
これもしかして……
あの時の会話を思い出したハクトは、ある事に気づく。
……自分のギア発動のルーティンの条件は、足が地面か天井などにつく事。
つまり、これからやることは、”ある意味理論上は条件を満たしている”ことに気づく。
────どうする。カグヤに確認するか?
そう思ったが……辞めた。
だって、今出来ると自分で思ってしまったから。
ギアはイメージが大事。だから下手に聞いて万が一、実際は無理、と言われてイメージが壊れるより、この出来る、というよりやりたいイメージのまま突っ走る!
そう誓ったハクトは、急に立ち上がり立体ディスプレイを表示させて何かを確認し始める。
==============
残りタイム:2分00秒
プレイヤー2:キテツ
スロット1:メタルボディ (残りE: 2 → 1/3)
スロット2:メタルボディ (残りE: 3 → 2/3)
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「キテツのエネルギーは……よし、片方切れるまで後30秒ほど。残りタイム1分半が勝負!!」
「ハクト君、何か思いついたの!?」
「ああ! ばっちし!」
「本当! ということは、キテツ君の弱点か、何か裏をかく方法を思いついたの?」
「いや、むしろ逆かな……」
「逆?」
うん、とハクトは頷き……
「────正面突破」
「へぇ!?」
そう、苦笑いのような、冷や汗を書きながら楽しそうな表情を浮かべていた。
その言葉に、カグヤは変な声が出ていた。
「解説の人! 確か風雅さんだっけ!!」
『はい!? 何、やっぱさっきの事傷ついたか!?』
そんなカグヤを一旦無視して、ハクトは解説席の方に向いて声を上げる。
風雅はさっきの事で苦情を入れに来たのかと身構えたが……
「さっきはごめんなさい! すみませんでした! お詫びに、ここからはお望み通りすっごい面白いものを見せるんで、それで許してください!!」
『お、おお? そ、そうか! スッゲー自身だな、ああ! じゃあ見せてみろ、ハクト選手!! ウサギパーカーのルーキープレイヤー!!』
ハクトの言葉に最初戸惑い、しかしその宣言を聞いて受け入れて、ハクトが何をするのか改めて楽しみ始める解説の風雅。
「白兎!! テメエ、今戦ってるのは俺だって忘れてねえよな!!」
「忘れるわけない!! ラスト1分半、それでお前を倒す!!」
「っは! そうかよ、そんな軽口叩けるくらい元気だったか!! 体調が悪くなったかと心配したぜ!!」
解説に声をかけていて、自分の事を忘れたのかと声をかけてきたキテツ。
離れたところからずーっと様子見していたキテツは、そう返してきたハクトに対して、気にしていた本音を少しだけ漏らした後笑みを浮かべていた。
何事もなさそうで安心したのと、このままじっとして試合が終わるのも少し詰まらないと思っていたからだ。
それに対して、ハクトは改めて追加で宣言する。
「キテツ、今からお前に勝負を挑む! それにもしお前が勝ったらそっちの勝利確定だ!」
「勝負? 試合中に? ……なんの勝負だよ」
「────ああ、”耐久勝負”だ!!」
「……は?」
そのハクトの言葉に、キテツはポカーンとした表情を浮かべる。
会場中もざわめきが発生していた。
『こ、これはなんという事だー!! 先程面白いものを見せる宣言したハクト選手が、今度はキテツ選手に向かって、よりにもよって耐久勝負宣言ー!! ヤケになったか、それとも本気で言ってるのかこの白兎パーカーはー!?』
『おいおい、会場盛り上げるどころかざわめき発生してるじゃねえか。だけど、確かにこれだけでも面白い。本当にやる気なら、どんな事を思いついたんだ?』
「……本気で言ってるのか、それ」
「ああ。大真面目だ」
「そうか……」
無表情に近い顔でキテツが確認を取り、ハクトはそれに対して肯定した。
それに対して、キテツは段々ニイっと笑みを浮かべる。
「おもしれえ……面白えぞ白兎!! よりにもよって、この【メタルボディ】中の俺に対して、比較的貧弱なお前が言うとはな!! いいぜ、やってみろ!! ギア一個の時間でも、耐え切ってやるぜ!!」
「貧弱かどうかは、試してみなよ!!」
両拳を合わせて、気合を入れたキテツがそう声を上げる。
キテツのギアのエネルギーの残量が、丁度変わる。
==============
残りタイム:1分30秒
プレイヤー2:キテツ
スロット1:メタルボディ (残りE: 1 → 0/3 残りCT:0 → 3/3)
スロット2:メタルボディ (残りE: 2 → 1/3)
==============
その変化を合図とし、ハクトは一直線に、全速力でキテツに向かって行った。
☆★☆
────さあ、どうくる?
キテツは向かってくるハクトに対して、そう思考を巡らせていた。
あんな宣言をした後だ、また金的みたいな真似はしないと思うが、念の為頭と下の急所はいつでも庇えるよう準備はしておく。
しかし、ハクトが言った”耐久勝負”という点に関しては、どうするのか全然思い付いていなかった。
ずっと蹴り続けるなどして、互いのスタミナを削るという意味での耐久勝負なら意味は分かるが、それだとハクトに勝ち目が無いのは分かっている筈。
ともあれ、どこから来ても対処出来るようにハクトから目を離さないようにしよう。
そうキテツは注意し、目を逸らさないでいると……
────回り混む気配無し、だと?
移動に一切の工夫無し、本当にまっすぐキテツに対してそのまま走ってくる。
最低でも背中側に回ったり、横に移動したりして攻撃を捌かれないようにするかと思っていた。
しかし、このまま真正面から来るのではさっきまでと同じ、普通に蹴りを防いで……
「喰らえ!!」
その掛け声と共に放たれた蹴りは、今までのボールを蹴るようなシュートのような形ではなく。
“足裏”をキテツ側に見せる、伸ばす蹴りだった。
「別の蹴り方!?」
軸足を地面に固定し、180度開脚する勢いで、もう片方の足を伸ばして放つ蹴り。
今までのシュート型と違って、相手を本当に蹴り飛ばす力なら確かにこっちが上だろう。
但し、ギアによるサポートを考え無いのであれば、だが。
「蹴り方を変えても同じだ!! 普通にガードが間に合うぜ!!」
念の為、一応両腕を交差してガンっ!! とその蹴りをガードするキテツ。
【インパクト】による加速が足の形状出来ない以上、スピードも威力も全然足りない。
防ぐ事自体は簡単だった。
まさか【インパクト】をこのまま撃って普通にキテツを飛ばすのかと思ったが、重さの関係上そこまで飛ばず、あんまり意味が無いだろうと……
「こっちもギア二重掛けだ!!」
「は?」
そのハクトの言葉に、キテツは意味が分からず。
そして、対するハクトはカグヤに聞けなかったことを思い返す。
────……ねえ、カグヤ。
────なんで、”俺が【インパクト】を両足で出してたって勘違いしてた”の?
そして、恐らくカグヤから返ってくる答えはこれ。
「両足! 【インパクト】!!」
だって、一つのギアで”両足から同時発動”出来る事が当たり前だったから。
「二倍飛べ!! “ラビットバスター”ぁっ!!」
そのハクトの宣言後、“とんでもない衝撃が、腕越しにキテツに襲いかかる”。
「が、はぁっ?!!」
「ぐうっ!」
キテツがそれを認識した時、辺りにゴゴウッ!! という今までで最大の空気が炸裂する音が響く。
そして、重い筈の体が、腕ごと鳩尾越しに吹き飛ばされていくのを感じていた。
しかし、それを行ったハクト側も苦しそうな表情を浮かべている。
『き、キテツ選手まさかの大吹っ飛びー!? 【メタルボディ】が一個はまだ適応中の筈なのに、【インパクト】で10m……いや、15mは吹っ飛んだー!? しかも……』
==============
プレイヤー2:キテツ
残HP:206 → 105
スロット1:メタルボディ (残りE: 0/3 残りCT:3/3)
スロット2:メタルボディ (残りE: 1 → ギアブレイク!!)
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『100点越えの大ダメージ!! 更に残っていた【メタルボディ】が強制解除のギアブレイク!! 一体彼に何があった!? ハクト選手、一体何をやったーっ!?』
『面白いものってこれか!? まさか、【インパクト】のギア一個だけで両足同時発動!? 上級テクだぞアレ?! この土壇場で思いついて実行したのかよ!?』
試合終了間際、ハクトは起こした現象に実況と解説がとんでもなく驚く。
会場中も信じられない光景を目にした事で、大盛り上がりし始めた。
ハクトがやった事は、至ってシンプル。
180度開脚した状態で、両足からの【インパクト】。
ハクトのルーティンの関係上、足が地面に付いてさえすればリセットされるので、片足地面、もう片方を”キテツという壁”さえついていれば、高速で二連続でギア発動が出来るという理論だった。
それにより、地面側の衝撃でハクトを押し出し、キテツ側の衝撃で相手を計2倍の衝撃で吹き飛ばすという、脳筋で固めたような戦法だった。
さらに言うと、キテツは体重が重いせいで、衝撃を受けても吹っ飛びにくい。
しかしそれは、受けた衝撃を逃せないと言う弱点にも繋がっていた。
【インパクト】は本来吹っ飛ぶだけでダメージは発生しない、極論エアバックのようなギアだった。
しかし、たとえエアバックでもその衝撃を一切逃せないなら、ただの爆発にぶつかったのと同じだ。
そのお陰で、キテツの【メタルボディ】を解除する程の瞬間ダメージを叩き出せたのだから。
しかし……
『理屈は確かに納得出来るが、無茶をする!! 衝撃逃さないのはハクト選手の両足も同じだろ!? リピートギア化してるわけでも無いのに、自分にも負担デカい筈だ!!』
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プレイヤー1:ハクト
残HP:140 → 92
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『確かにハクト選手も、半分程のダメージを受けています!! “ラビットバスター”、ド派手な新技だが、これは諸刃の剣だー!!』
「けど、このおかげでダメージレース的に背中は見えた!! このまま追い抜くだけだ!!」
「くそ!!」
ハクトの言葉に、キテツは悪態をつく。
何もせずあとは待ち続けるだけだった筈の戦術が、完全に瓦解した形だ。
しかし……
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プレイヤー2:キテツ
スロット1:メタルボディ (残りE: 0 → 3/3 残りCT:3 →→→ 0/3)
スロット2:メタルボディ (残りE: 0/3 残りCT:1/1)
==============
「だが、スロット1の【メタルボディ】は戻って来たぜ!!」
そう言って、キテツは再度両拳を目の前で合わせる。
ギア発動のルーティーンだ。
「けど、もう意味は無い!! それごとブチ抜いてやる!!」
そんな事は関係無いとばかりに、一気にキテツにハクトは近づいて、トドメを放つ。
「二倍飛べ!! “ラビットバスター”ッ!!」
「つおっ!?」
2回目の同じ技。
キテツはそれをモロに喰らい、吹っ飛ぶが……
「っ!? 反動が軽い!?」
”先程よりはるかに飛び過ぎている”。
==============
プレイヤー2:キテツ
残HP:105 → 102
==============
今度は、あまりに手応えが無さ過ぎた。
ハクトは一瞬だけ電光掲示板に目を通す。
またたったの3しかダメージを与えられていない!!
「っはっはあ!! その技の対策はシンプルだろ!! あえて【メタルボディ】を発動するフリをした! 結局の所【インパクト】なんだから、下手に堪えずに自分から吹っ飛べばほぼノーダメージだ!!」
吹っ飛びながら、キテツはそう声を上げる。
先程のキテツのルーティーンは、ただの偽動作(フェイク)。
ハクトの攻撃を誘発する為だけにした動作だったのだ。
『こ、これはキテツ選手も負けていない!! ハクト選手の新技を、二発目にして完璧に対処したー!?』
『いや、キテツ選手も判断の早さが光るな!? 状況が変わったと見るや、すぐ様対処法を思いつくのは中々凄いぞ!! よく立て直そうと出来るな!!』
キテツ側の対処法に対し、実況と解説も驚きながら褒める。
試合はまだまだ分からないと、会場中が思い始めた。
────まだオレは負けていないぜ!! 【メタルボディ】ループで時間切れを狙えなくなったとしても、マウントポジション拘束からの連打はまだ有効な筈だ!! 素の状態のまま捕まえて、その後再適応すればまだ十分勝ち目は……
『……だからこそ惜しかったな、キテツ選手』
「……は?」
吹っ飛びながらキテツが脳内で立て直す算段を組み立てていると、風雅のアナウンスが響く。
つい出てしまったような声が聞こえて、その内容に疑問に思っていると……
ゴンッ!!
「がはあっ?!」
『最後の最後で、ハクト選手の詰み手が上だ』
“キテツの背中が壁にぶつかった”。
吹っ飛んだ先は、既にステージの端っこだった。
「か、壁!?」
「なるほど、確かに自分から吹っ飛べば、“ラビットバスター”は全くのノーダメージになるね」
「っ!!」
キテツが驚く暇も無く、彼の前には既に白い姿が────
「けど、背中が壁なら関係無いよねえっ!!!」
「いや、待っ!?」
「トドメ!! “ラビットバスター”ああああああ!!!」
「ぐあああああぁぁぁぁっっっ!?」
咄嗟に腕でガードされても、関係無いとばかりに撃ち込まれる大衝撃。
逃す場所の無い衝撃は、全てキテツの鳩尾に叩き込まれ……
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バトルフィニッシュ!
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==============
バトルルール:殲滅戦
残りタイム:0分42秒
プレイヤー1:ハクト
残HP:92 → 13
rank:1
スロット1:インパクト (残りE:4/10)
スロット2:バランサー (残りE:-)
VS
プレイヤー2:キテツ
残HP:102 → 0
rank:1
スロット1:メタルボディ (残りE: 3/3)
スロット2:メタルボディ (残りE: 0/3 残りCT:3/3)
==============
==============
キテツの残HP0
よって勝者 ハクト!
==============
3回戦 第一試合。
ギリギリの戦いを乗り越え、見事に勝利を飾ったのはハクトだった。