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第19話  3回戦終了 カグヤの得意技

『決着ーっ! 3回戦第一試合を勝利したのは、ハクト選手だー!』

『いやすっごい戦いだったな! 最初にデカい差を付けられてからの、スローペースでのHPの削り合い。そこからの試合終了ギリギリでの新技での逆転劇! かなり見応えあった! 宣言通り、面白いものを見せて貰って楽しめたな!!』


 実況とアナウンスがコメントを残している中、とうのハクトはと言えば。


「あっぶな! あっっっぶなああ!?」


 試合終了直後の、ハクトの口から出た最初の言葉がそれだった。


 ==============

 プレイヤー1:ハクト

 残HP:13 

 ==============


 残りHPがたったの13。

 新技を思いついて放ったのは良かったが、思ったより反動があり、危うく自滅しかける所だった。

 あれしか手は無かったとは言え、ギリギリの勝負だった。


「“ラビット・バスター”便利な技だけど、もうちょっと使い方に工夫が必要そうだなあ……」


 地上で放てる高火力技という点で便利だが、もう少し改良の必要があるだろう。

 ……そういえば、今回の状況だと相手を逃さない為とトドメの為に完全にキテツと壁を密着させ、その反動が自分にも来た形だ。

 という事は、敢えて相手を壁に密着させずに、敵を吹っ飛ばして壁にぶつける方法はどうだろうか? 

 少しダメージ効率は下がるが、自分に反動ダメージが殆ど来ないのでこれはこれで便利になる筈。


 まだまだ【インパクト】で工夫しがいがあるなあ、と思っていると……


「ウガァ────────ー!! くやっしぃ────────!!!」


 壁際で膝立ちで立っているキテツが大声を上げる。

 頭をワシャワシャと掻きむしり、とても悔しがっていた。


「殆ど勝ってたと思ったのに! ダメージレース的にも!! 最後の白兎の新技も、完璧に二発目以降は対処出来たと思ってたのに!! 最後の最後でやられた────ー!!」

「ふふん、俺の勝ち♪」

「チックショ────────!!!」


 キテツは上体を倒して、地面にダンっダンと拳を叩きつけ始めた。

 よっぽど本気で悔しかったらしい。

 そのまま30秒程殴り続け……


「はあ────────ー…………スッキリした」


 いろいろ吐き出して落ち着いたのか、そう呟いた後ヨッコイショっと立ち上がった。

 パンッパンっとズボンや服についた汚れをはたき落とすと、そのままハクトに近づいて手を差し出した。


「完敗だったぜ白兎。オレの負けだ」

「ありがとう。こっちも良い勝負だったよ」

「途中で人の股間蹴り続けようとしてきた時は、どうしてくれようかとマジで思ってたけどな……」

「それについては本気でゴメン。次からしないから、怒られたし」


 差し出された手にハクトも握り返し、握手をしながらそう会話する。

 試合中のことを謝りながらも、キテツは話を続けた。


「ったく、まさかあんな技を持ってたとはな。隠してた訳じゃ無いんだろ? だったらもっと早く使ってただろうし、土壇場で思いついたのか?」

「うん。さっきアリス戦の時のカグヤとの会話を思い出して、それをヒントにね」

「そう言えば、アリス戦の時も途中で思い付いてたような様子だったっけな? その事をもっと頭の中で意識しておくべきだったか……」


 キテツは試合を振り返って、結局の所はハクトの急成長を考慮出来てなかったのが自分の敗因だと結論付ける。

 ガンメタをしたつもりだが、それを乗り越えてくるだろうとは考えれていなかった。

 握手していた手を離し、キテツはハクトにエールを送る。


「次で決勝だな! オレに勝ったんだから、このまま優勝狙えよ!!」

「いやー、今日が初めてマテリアル・ブーツやったから、そこまでいくのは出来過ぎじゃ無いかなあ」

「え……? オレ、今日が初めての奴に負けたの? ランク2経験者なのに?」

「いや、やっぱりキテツもランク2経験者だったんじゃん!」


 キテツがハクトの言葉に大ショックを受ける中、そんな彼にやっぱり初心者じゃなかった事を突っ込むハクト。

 アリスといい、キテツといい、初心者大会と銘打っておきながら、何故上級者ばかりと自分は対戦するのか……

 不良長男もランク2だったし、格上ばかりと対決する1日だ。

 自分の運が悪いんじゃ無いかと疑いを持っていた。


「それに、次の決勝相手って多分……」


「ハクトく────ーん!! 勝利おめでと──────っ!!」


 ハクトが目線を後ろに向けると、そこには観客席側からカグヤがこちらに向かって手を振っていた。

 満面の笑みを浮かべていて、とても嬉しそうな表情だった。


「ああ……次の試合って、卯月が出るんだっけか? てことは、次の試合が終わったら、白兎と戦う事になるのか」

「確定じゃ無いけど、まあ多分そうなるかなって思ってる。だとしたら、勝つのはちょっと厳しいなと」

「あーん? 自分の彼女が相手だからって、手を抜く気か? やっぱ戦いづらいのかおい? っち! イチャイチャしやがって、羨ましいぜ」

「そう言えば、元々そういう理由で絡んで来たっけお前……ちなみに正直に言うと、彼女じゃないよ」

「はあ? 何言って…………え? マジ?」


 そんな会話をしながら、ハクト達はステージから離れていった。

 次の試合は、すぐにカグヤの3回戦第二試合が始まる……



 ☆★☆



「……うーん、スタッフさんいないなあ」


 場所は変わって、施設の受付付近。

 アリスは例の不良達の件をスタッフさんに伝えようとこの場所まで来たが、生憎受付のスタッフさんは席を離脱中との札が置かれていた。

 すぐ戻ってくるだろうと思って、暫くその近くで待機していたが一向に戻って来ず。

 数十分も経ってしまい、流石にハクト達の試合が終わってしまった頃だろう、と彼らの試合を見れなかったことを残念に思い始めていた。


「大会が開催中だからというのは分かるけど……」


 確かにこの施設で初心者大会が開催中で、人手がそちらに駆り出されていると言う事は想像に難く無い。

 しかし、だからと言って受付のスタッフを一人も残さず長時間席を外し続けている事は考えずらかった。

 大会に関係なく、ただ施設を使いたいという人も少しはいる筈だから、その対応に人を割く必要があると思うのだから。


「考えすぎかもしれないけど────まさか、”先手を打たれちゃったかな? ”」


 先に部屋を出て行った例の不良達。

 こちらがスタッフさんに報告すれば、流石に厳重注意で、悪ければ出禁は出来そうかと思っていたが……

 あの不良達が嘘をついて、先にスタッフさんに相談したせいで、その対応に人手が駆り出されてしまっている、という可能性が浮かび上がってきた。


 勿論、監視カメラを確認すれば彼らの言うことのほとんどが嘘だという事は直ぐ分かる。

 しかし、監視カメラを確認する必要の無い、かつ人手を割かざるを得ない問題があったと報告すれば、不良達でも相談出来るかもしれない。



 ────例えば、“施設外で知らない人から貰ったカードを挿したら、ブーツが脱げなくなった”など……


「彼等、まさかそこまで頭が周るのかな?」


 仮にもマテリアル・ブーツに関わる施設のスタッフが、その道具に悪影響のある被害を受けている、と聞いたなら流石に対処に動かざるを得ないだろう。

 自分達の商売に関わる為、そんな不審な物がばら撒かれていると聞いたら緊急会議もあり得るかもしれない。

 その話の真実がどうあれ、実際ブーツが脱げなくなってしまっている実例がいるのは確かなのだから。


「本来の"アンリミテッド・カード”なら、そう簡単に脱げたりしない筈だけど……彼らの偽物だしなあ」


 施設のスタッフが本気で対処すれば、最低でもメモリーカードを壊さず取り出せる事が出来るかもしれない。

 そうなれば、ランク2のカードだけ取り戻して後は会場からトンズラだ。

 アリスが相談する頃には、不良達は逃げ出し終えている。後で捕まるかもしれないが。

 その可能性をアリスは否定出来ない。


 もっとも、ここまでの考察が全て杞憂である可能性もある。

 不良達はさっさと逃げ出して、スタッフさんは関係無い事で席を離れているだけかもしれない。


「……とにかく、一度試合会場まで戻ろう。その近くにスタッフさんがいるかもしれないし」


 このままじっとしているのも時間が無駄だと思い、アリスはハクト達のいる場所まで戻る事にした……



 ☆★☆



「うわー……すごいなハクト。あの子の試合」

「そうだね。多分カグヤも結構経験者なんだろうね。正直カグヤもランク2はあるんじゃないかって思ってるんだけど」


 ハクトはキテツと一緒に観客席で、そう会話していた。

 自分達の試合が終わった為、そのまませっかくなのでとカグヤの試合を見ていく事にしたのだ。


 カグヤの試合を見ながら、ハクトは薄々思っていたことを正直に口に出す。

 元々カグヤがマテリアル・ブーツにハクトを誘ったから、当然ある程度の経験者だという事は予想は付いていた。

 その上、少ないがカグヤの実際の試合を見て、ここまで危なげなく戦って来ていることから、少なくとも初心者では無いとハクトは思っていた。


 そうして互いに試合を見ながら感想を述べていると、そこにアリスがやって来た。


「やあ、イナバ君。さっきぶり。キテツ君も」

「……ん? あ、アリスおかえりー」

「おう。俺もいるぜー」


 軽いノリでアリスに返事をして、席を詰めようとハクトが移動するが、それをアリスは静止する。

 彼は直ぐ移動するから座る必要がないとの事だった。


「二人がここにいるって事は、もう試合が終わっちゃってたか。ごめんね、見れてなくて。どっちが勝ったんだい?」

「俺だね。ギリギリの勝利だった……見れてなかった事は別にいいよ、俺達の事スタッフさんに相談してたんでしょ?」

「ごめん、それについてなんだけど、まだ相談出来ていないんだ。スタッフさんが受付に戻って来てなくて……今から大会運営の方に行って、そっちで相談しようと移動中のところだったんだ」

「マジか? まあ、オレ達の試合が始まってから、30分経ってないか位だろうが……たまたまその時間スタッフが借り出されまくってただけか?」

「まあ、僕の運が悪かっただけかもしれないけど。ところで君達の試合が終わってるって事は、今は……」

「うん。カグヤの試合中、ほら」


 ハクトが指を指した場所には、丁度カグヤが他のプレイヤーと戦っている所だった。

 対戦相手も女性で、やや短めの髪で金髪ロールの髪型をした少女だった。

 年はカグヤと同じぐらいか、少し上だろうか? 



 ==============

 バトルルール:殲滅戦

 残りタイム:7分20秒


 プレイヤー1:カグヤ

 残HP:433

 rank:1

 スロット1:ファイアボール (残りE: 0/3 残りCT: 2/3)

 スロット2:ファイアボール (残りE: 7/10)


 VS


 プレイヤー2:ヒメノ

 残HP:91

 rank:1

 スロット1:チョイス・レッグ・バフ   (残りE: 1/10)

 スロット2:チョイス・アタック・バフ (残りE: 0/10 残りCT: 2/3)

 ==============


「へー。ウヅキさん、圧倒的だね。もう少しで勝てそうだ」

「うん。【ファイアボール】の遠距離攻撃で、常に距離をとって戦って相手を近づけていなかったよ。そのせいで、対戦相手は殆ど攻撃を当てられなかったみたい」

「あの相手の選手、どっちもバフギアを装備してたんだが、俺みたいな身体強化メインらしくてな。攻撃手段が完全に打撃オンリーだから、距離を取られると手も足も出ねえ」

「それでも、ちょくちょく距離を詰めて攻撃を当ててたから凄いんだけどね。けど、やっぱり総合的に見てカグヤの方が完全に有利な所」


 アリスも交えて、カグヤの戦いの戦況を考察するハクト達。

 カグヤは【ファイアボール】を2積みして、遠距離攻撃手段を切らさないように上手く立ち回り続けている。

 対する対戦相手は、エネルギーが比較的少なく、肉体強化しか出来ないバフギア系統の為、手数もどうしても足りなかった。


 ==========================

 プレイヤー2:ヒメノ


<スロット1>

 ギア名:チョイス・レッグ・バフ

 GP:1   最大E:10  最大 CT:3

 残りE:1

 ギア種類:バフ

 効果分類:単体指定

 系統分類:-

 効果:射程0~5m。指定した対象の、移動力を瞬間的にアップする。


<スロット2>

 ギア名:チョイス・アタック・バフ

 GP:1   最大E:10  最大 CT:3

 残りE:0

 ギア種類:バフ

 効果分類:単体指定

 系統分類:-

 効果:射程0~5m。指定した対象の、筋力を瞬間的にアップする。

 ==========================


 観客席にいても、対戦中の選手のギア情報が見れた為、ハクト達はそれを見ていた。

 見た所、キテツと同じ身体強化のギアと言っても、瞬間的な強化しか出来ないらしい。

 つまり、90秒間の腕力アップなどは出来ず、よくて2、3秒の強化が10回使える程度のギアだ。


 この情報だけだと、キテツの【パワー・バフ】と強さは同じぐらいだろうか? 

 キテツと戦った経験のあるハクトとしては、それなら確かに彼女も強いんだろうと思えるが……

 とにかく、真っ当に強いカグヤには分が悪かった。


「マジック!! 【ファイアボール】!!」

「っく! 当たりませんわ!!」


 ==============

 プレイヤー2:ヒメノ

 スロット1:チョイス・レッグ・バフ   (残りE: 1 → 0/10 残りCT: 3/3) 

 ==============


 カグヤの炎の球を、ギリギリで高速なステップで回避する金髪ドリルの女性。

 ギアの情報をよく見ると、いつの間にかエネルギーが減っている為、声に出さずにギアを使っていたらしい。

 アリスも使っていたテクで、彼女も無言でギアを発動出来るという事は、かなりの実力者だ。

 もしかしたら、彼女もランク2経験者なのかもしれない。


 ハクトはここまでの戦いで、ランク2の経験者は、”特定の上級テクを使いこなす”か、”ギアの知識やそれを利用したメタ”を使ってくる人なんじゃ無いかと思っていた。


 ……もし本当にそうなら、ランク2経験者いすぎじゃない? 初心者大会なのに? 

 そう思ったハクトだったが、とりあえず声に出さないことにした。一応確定した情報では無いし。


 閑話休題。


 とにかく、カグヤの試合に戻る。

 対戦相手の金髪ドリルの少女のギアは、全てEが尽きていた。


「チャンス! 見ていなさい、ハクト君! これが私の必殺技!」


 観客席にいるハクトに聞こえるよう、カグヤがそう声を上げて一瞬で構える。

 いつもの【ファイアボール】を撃っている体勢、しかし蹴り上げる前の足の位置がいつもより後ろだ。

 そこからカグヤは、勢いよく回し蹴りを放つ! 


「マジック!! “ファイアボール・ガトリング”!!」


 そうして放たれたのは、いつもの【ファイアボール】。


 但し、”三発連続”の。


「なあ!? きゃああああぁぁぁあああああっ!!?」


 動揺した金髪ドリルの少女は、ギアで逃げることも出来無い為回避仕切れず、一発目の火球が当たったと思ったら、そのまま二発目、三発目も食らってしまった。

 当然、HPは……


 ==============

 プレイヤー2:ヒメノ

 残HP:91 → 60 → 29 → 0

 ==============


 ==========

 バトル・フィニッシュ! 

 ==========


 ==============

 ヒメノの残HP0


 よって勝者 カグヤ! 

 ==============


『決着ーっ! 3回戦第二試合を勝利したのは、カグヤ選手だー!』

『終始距離を取っての一方的な展開だったな。堅実に戦って、一切の逆転の隙を作らなかった。この初心者大会、遠距離攻撃ギアを持ってる人も少なかったから、それも有利に働いていたな』


「やったー!! ブイッ!」


 勝利が確定したカグヤは、観客席のハクト達に向かってピースをする。

 にっこり笑っており、しかしその目はハクトをしっかり見つめていた。


「やっぱ卯月が勝ったか。けど、最後やってたあれって……」

「【ファイアボール】をひと蹴りで3連発。僕の"フォーム・クイックチェンジ”……ギアの高速ON,OFFと似たような技術だけど、あっちの方が実質回数は多いね。僕以上の技術があると思っていいと思う」

「つまり、最低でもアリス以上の強さと思っていいと……分かってはいたけど、そんなのと戦わなきゃいけないの、俺?」

「大丈夫だって! 耐久力はオレ以下だろ絶対! オレ達に勝ったんだから、十分勝ち目はあるだろ!」

「簡単に言ってくれるなぁー」


 まあ、やるけど。と言って、ハクトは気合を入れ直す。

 元々は、ほぼ勝手に参加を決めさせられた大会だが、だからと言ってわざと負けるのも気が引けるし、どうせやるなら勝ちたい。

 試合で経験を積めば、空を飛ぶという夢も更に近づけるだろうし、戦って損はないだろう。


 ハクトはそう考え、最後の対戦相手になるカグヤを見つめ返す。

 ハクトにマテリアル・ブーツを誘った張本人。

 そのカグヤと、決勝で最後に相まみえる事になる……


『はい! というわけで、3回戦も終わったことですし、次が決勝戦! さあ! ノンストップでゴーゴーッ!!』

『ちょっと待て。決勝戦はハクト選手とカグヤ選手になるだろ? カグヤ選手は今戦ったばっかりなんだから、せめて少し休憩時間を設けさせないと。流石に可哀想だ』

『えー……せっかく盛り上がって来たのに、何で水を刺すような事言うんですかね、この人』

『いや何でディスられなきゃいけないの俺? 確かに解説が言う事じゃ無いかもしれないけど、一応初心者大会なんだから、少しは選手に息つかせる暇あってもいいだろ』


 プロの試合でも、そこんところの休憩時間はちゃんと見てくれてるんだから、と風雅は言葉を続けた。

 確かに残りの試合は決勝戦のみ、と言う事はカグヤは間をおかずに戦わなきゃいけないわけで、流石に疲労がまだ残っているだろう。

 どうせ戦うなら、お互いに元気な状態でやりたいとハクトは風雅の言葉に内心同意していた。


『別にあの子、見た所その程度平気だと思うけど……まあいいわ。じゃあ、“3位決定戦”先に挟めまーす』

「んあっ?! オレの出番!?」

「ワタクシの方が連戦ですの!?」


 実況のその急な提案に、観客席にいたキテツと、ステージのヒメノ選手がビックリする。

 二人とも、自分の出番はもう終わってしまったと思い込んでいた為、予想外な展開だった。


『じゃあって!? 3位決定戦なんて元々決まってなかっただろ! しかもそれだと今度はヒメノ選手の方が負担だろーが!? 本末転倒! しかも実況にそんな権限ねえだろ!?』

『何よ。休憩させろって言ったり、勝手な事言ってるのはどっちだって話でしょうが。3位決定戦なんだし、そんなに体力残ってなくても、誰も気にしないって』

『スッゲーひでえ事言ってんなお前!?』

『それに3位決定戦ねじ込みについては大丈夫』


『だって、主催者私だし』

『お前だったんかい!?』


 実況と解説の漫才がまた始まったかと思ったら、解説のカラーがとんでも無いことをカミングアウトし始めた。

 横にいた風雅もめっちゃビックリして大声で突っ込んでいた。

 するとカラーが実況席の机の下をゴソゴソと弄り、今回の大会のポスターを取り出して風雅に見せていた。


『ほら。ここに”カラフル・カンパニー”主催って書いてあるでしょ? 私、そこの社長もやってる』

『名前からして薄ら予想してたけど、やっぱりお前が関係あったんかい!? ていうか、社長が自ら実況やってんの? しかも初心者大会で?』

『ええ。そりゃあ盛り上がる試合なら近くでみたいじゃない? あと、もしかしたら、とんでもない”原石”が見つかるかもしれないし。後社長室での仕事って、かなり面倒』

『とんでもねー金持ちの道楽的なことやってんじゃねーか。社長権限つっても好き勝手やりやがって。後、実は最後の言葉の割合が結構占めてるな?』


 カラーの実況やっている理由を聞いて、頭を抱え始める風雅。それと同時に納得していた。

 大会ルールでの、”使用ギア2種類まで”の項目。

 わざと主催者側がルールの抜け道を作っているなと思っていたが、この性格のカラーが作ったとするなら、確かにやるだろう、と。


『ま、とりあえずキテツ選手とヒメノ選手は準備してくださーい。今なら特別権限で、勝者には”お米券”でも差し上げまーす』

『くっそ適当かつ、社長権限めっちゃ振り回してやがるし』

「お米券!? 準備は完了いたしましたわ、さあ!!」

『そしてヒメノ選手めっちゃやる気出してるし!? お嬢様っぽいのに、あれ意外と庶民派?』


 投げやりの実況兼主催者の言葉に、予想外にやる気を出しているヒメノ選手。

 その目は連戦だと言うことを感じさせないくらいのやる気に満ち溢れていて、思わず風雅がツッコム程だった。


「なんかよく分かんねーけど、出番っつーなら遠慮なく出てやるぜ! とう!!」

『はーい。観客席から直接飛び降りないでくださーい。ちゃんと選手出入口から入ったり退場してくださいねー』


 思わぬ展開に、やる気になってキテツがその場所から直接飛び出していった。

 それを実況に軽く注意された後、ごめんなさいと誤ってペコリ。

 入れ替わりで、カグヤがハクト達の方に近づいてくる。


「それじゃあ、私はちゃんとあっちの入場口から出ていくわね。と言うか、長引いてもせいぜい15分~20分ぐらいだから、観客席に行く暇無いかも」

「分かった。じゃあ俺も、決勝戦の為に反対側で準備しておこうかな。……楽しみに待ってて」

「うん。待ってるから、覚悟してね!」

「あっと、そうだ。僕もボーッとせずに、早く施設のスタッフさんに会いに行かなきゃ。僕もここを離れるよ」


「あれ? じゃあオレの試合見るやつ居なくね? 3人とも離れるから見れないよな? また見てくれねえの?」


「キテツ頑張れー」

「キテツ君頑張ってー」

「ウラシマ君頑張れー」


「めっちゃ適当な応援台詞! チックショー!! 別にいいし、観客席に他の見てくれる人めっちゃいるし!! やってやらあ!!」


 そうヤケになりながらも、気合を入れるキテツ。

 それを他所に、カグヤは自分の入って来た入場口からその場を離れていった……



 ☆★☆



「ふう。さってと、ちょっとしか休憩出来ないけど、今の内に飲み物でも買ってこようかしら?」


 入場口の通路に入ったカグヤは、そう独り言を呟いた。

 せっかく湧いて入って来た時間だ。それほど多くはなくとも、決勝の、しかもハクトとの対戦に向けて、しっかり準備をしておきたい。


「それにしても、ハクト君思った以上に成長してビックリしちゃった。今日1日だけで、トーナメントを勝ち抜くどころか、私と決勝戦だなんて。才能ありすぎてワクワクしちゃう♪」


 ルンルン気分で通路を歩きながら、そんな事を考える。

 カグヤ自身のマテリアル・ブーツの経験から考えると、ハクトの成長率は異常と言ってもいいくらいだ。

 ハクトのその素質に、嫉妬が無いかと言われたら嘘にはなるが、それ以上に彼を見ることに楽しんでいるカグヤだった。


 ふと、とある事にカグヤは気づく。


「成長。成長かあ……うん。ハクト君は成長はしてるけど……”変わってないなあ、ハクト君は”」


 成長はしてるが、変わっていない。

 側から聞くと、意味の分からないセリフだが、カグヤはそれを懐かしむように呟く。


「まあ、”ハクト君側は覚えていない”でしょうけど……」





「……よぉ。また会ったなぁ」

「「よぉ!」」


「……うわあ~……」





 そんな独り言を呟いていたカグヤの目の前に。

 再度例の不良兄弟達が現れた。


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