「せっかく今いい気分だったのに……何でまたあなた達に会うのよ」
「言った筈だ。後でテメエも覚えておけよ、ってなぁ」
「そのセリフ、回収に来るまでが早すぎない?」
先程までのワクワク高揚感から一転、カグヤは面倒臭そうに不良兄弟達に向き合っていた。
つい先ほど、およそ30分と少し前に吐かれた捨て台詞を、こんな短時間で実行されるとは流石にカグヤも思い至らなかった。
「本当なら、テメエの決勝戦が終わった後に絡むつもりで、この通路で待ち伏せしてたんだがな。予想外に早く戻って来てくれて、こっちとしても助かったぜぇ」
「ふ〜ん。それって、施設のスタッフさんに連行される恐れがあるからかしら? 多分アリス君が既に報告してくれてる筈だものね」
カグヤはまだ知らないが、実際はまだアリスは施設のスタッフに相談出来ていない。
なので、まだ目の前の不良長男が連行される恐れはないのだが、そうだとしてもどの道数十分くらいの差ではある。
しかし、その数十分の差でカグヤと不良達が邂逅する時間が出来てしまったのだ。
「ああ。だが、こうしてテメエと先にまた会うことができた。しかもウサギ野郎達もいない状態でな。これで存分にテメエに怒りをぶつけることが出来るって訳よ」
「やだ、コワーイ。あれかしら、私あなた達3人に連れてかれて襲われちゃうのかしら?」
「ああ、お望みどおり襲ってやるよ。あんな奴らを連れて来やがった礼を兼ねてなぁっ!! 」
どうやら、不良達は女としてカグヤに絡まるんじゃなく、最早ハクト達にボコボコにされた復讐のために絡むのが主目的になっているようだった。
そんな不良達を冷めた目で見渡し、カグヤはふーん、と息をつく。
「それじゃあ、この場で襲いかかってくるのかしら? 言っておくけど、通路とはいえ一応まだこの場所ならギアは発動出来るわよ。少なくとも、あなた達から逃げて試合会場に駆け込むくらいならまだ出来るけど」
「ほーう、それは”3人の”のブーツ持ちから逃げられるって意味か?」
「あら? ハクト君達から聞いてるわよ。確か長男のあなた、ランク2なんですってね。けど、偽物だけど”アンリミテッド・カード”を付けていたせいで、ブーツを使えなくなってるって聞いたけど? もしかして、そのブーツも壊しちゃった?」
カグヤは冷静に、不良長男の言葉で矛盾したところを指摘する。
確かに不良長男はブーツを履いているが、実際は使えないはずのハッタリだと。
まさかランク2のメモリーカードを壊した上でこの場にいるなら、彼の八つ当たりの怒りは思った以上に強かったことになるが……
「ああ、心配いらねえ。ちゃーんとランク2のメモリーカードのままで、俺もギアは使えるぜぇ。あのウサギ野郎達と戦った時と同じカードでな」
「……新しいメモリーカードではなく、そのままで?」
「そうだ。施設の”善良な利用者”である俺達は、不幸にも見知らぬ奴から変なカードを受け取り、性能が上がるからと言われてつけたら、ブーツが脱げなくなってしまった、と相談したら、施設のスタッフに外せてもらえたからなぁ」
見事にアリスの懸念が当たってしまっていた。
不良兄弟達は先に施設のスタッフに相談することで、長男のブーツをすぐ利用出来るよう修理してもらっていたのだ。
本来なら、施設のスタッフ程度で直せるような”アンリミテッド・カード”のデメリットではないのだが……偽物のカードの為か、問題なく出来てしまっていた。
「これで問題なく、俺はテメエに仕返しに来れた訳だ。ま、緊急事態扱いになったとはいえ、流石にレンタルブーツを壊した弟達は、あとで詳細を聞かれそうになっているが……」
「へえ。それなのに、よく全員でここに来れたわね? そのまま事情聴取で解放されなくてもおかしくなかったのに」
「ちょっとお手洗いに行ってくると行ったら、一時開放して貰えたぜ。ちょっろいなあアイツラは!」
「「チョロイゼ!!」」
「ちょくちょくセコいわね、あなた達」
ま、何はともあれ、と不良長男は構え始める。
カグヤに向かって、復讐の炎に燃えた目つきで睨みつける。
「俺達にあんな目を合わせてくれやがった元凶、覚悟しやがれ……!!」
「すっごい八つ当たり。……うーん、確かあなた達、ハクト君達と一回バトってるのよね? 彼らの試合の前に」
「ああ? それがどうかしたか?」
「……うん、じゃあこっちにもフリーバトルルームがあるから、そこに入りましょう? そこならお互い、思う存分やれるでしょ?」
「ほう? 女ひとりが俺達3人を相手出来るとでも? 諦めて覚悟を決めたか?」
不良長男は感心と言った風に納得していたが、カグヤはそれをううん、と否定する。
「だってハクト君達、連戦することになっちゃったんでしょ? ……だったら、”私もそうじゃなきゃ不公平”じゃない?」
カグヤは全然、不良達を恐れていなかった。
元々急遽、解説の風雅の提案で少し休憩時間を取れることになっていたが、既に連戦で披露しているハクトに対しては些か不公平だとカグヤ自身感じていた。
そして、不良達がまたカグヤに関わって来たのを、これ幸いと自身のスタミナを削る調整役にするつもりなのだ。
その言葉を聞いた不良達は、額に青筋を浮かべ始める。
3人とも、憤怒の形相になっていた。
「ああ……よーく分かったぜ。テメエも俺たちの事を舐めきってる事をなぁ!! あいつらとは違って、テメエはたった一人!! 今度は援軍が来る前に、さっさとケリをつけてやらぁっ!!」
そう言って、不良兄弟は逃げられないようにカグヤを先にルームに入れた後、自分達もルームに入っていた。
「さて、と……じゃあ、こっちもギア構成を少し変えさせてもらおうかしら?」
そしてカグヤはルームに入り、エントリー登録する前に、自分のブーツのギアを一つ取り外し、懐から別のギアを取り付けていた……
☆★☆
────場面は変わって、試合会場。
少し時間を巻き戻して、キテツが3位決定戦を開始する前。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
────そういえばキテツ。ギア構成ってどうするの? もしかして、今度は【パワー・バフ】2積みでもするの?
────いや、やんねえよ。今度も【メタルボディ】2積みを維持しようと思ってるな。相手の戦い方は今見たし、お前と同じ打撃の近距離攻撃しかないから、これでほぼダメージ受けないしな
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ハクトがその場から席を外す前に、会場に直接降りたキテツにそう声を掛けていた。
その問いかけに対し、キテツはギア構成を変えずにそのまま行く事を宣言。
相手のギアが2種類とも分かっている為、仮にキテツみたいに同名ギア2積みされたとしても、対処法に大差はないと判断。
ハクト戦でやり切れなかった、最初にダメージを与えて、あとは防御を固め続ける戦法をリベンジを兼ねて再度やるつもりだった。
降って湧いた3位決定戦だが、今度こそかつつもりで意気揚々と向かって行った……
────で、今。
「うおおおぉおおぉおぉおおおいいっ!? 待ちやがれえええええええぇぇぇ!!? 」
「待ちませんわあああぁぁぁああああ!! このまま逃げ切りますわああああぁぁぁっ!!」
絶賛、対戦相手に逃走され中。
しかもHP、相手の方がちょっと多め。
==============
バトルルール:殲滅戦
残りタイム:9分12秒
プレイヤー1:キテツ
残HP:487
rank:1
スロット1:メタルボディ (残りE: 2/3)
スロット2:メタルボディ (残りE: 3/3)
VS
プレイヤー2:ヒメノ
残HP:496
rank:1
スロット1:チョイス・レッグ・バフ (残りE: 4/10)
スロット2:チョイス・アタック・バフ (残りE: 3/10)
==============
『ヒメノ選手、最初の衝突以降全力でフィールド内を爆走中!! ずっとキテツ選手から逃げ続けております!! キテツ選手も追うが殆ど追いつけなーい!!』
『これもう完全にタイムアップ狙いだな! これだとキテツ選手、ハクト戦の時からギア構成変えていないから、HP負けてる状態だと完全にギアが文字通り重りでしかねえ!? 』
『やっぱり最初の衝突を、ヒメノ選手に往なされたのが致命的でしたねー』
『完全にキテツ選手、体勢崩されて一撃貰って、そこから逃走だからなー』
ある意味、ハクト戦の時実行した作戦、その失敗パターンに入られてしまった状態だった。
ハクトももしあの時初撃を入れて逃走が成功していたら、目の前の状況と似たような状態に出来る筈だった。
あの時はキテツの防御捌きが上手だった為、ずっとキテツ有利に戦えていたが、今回は逆に相手の防御捌きが上手だったようだ。
「逃げるな卑怯者おおおおおおお!?」
「勝負に卑怯も何もありませんわ!! このままお米券はワタクシのものですわああああああ!!」
『ヒメノ選手、ずっとキテツ選手に追いかけられ続けております!! いたいけな少女を、必死の形相の男が追いかけ回している風景!! これ動画に撮って、警察に届けたらおまわりさん動きますかねっ? 』
『絶対やめろよ!? あの子達ただ戦ってるだけなんだから!? 試合に警察も何もねえだろ!!』
実況の笑えない状況をよそに、試合はずっと同じ展開を繰り返し続けている。
しかし流石に、素の移動力がキテツの方が若干高いのか、何回かヒメノに接近する事は果たしていた。
しかし……
「追いつい……ッ」
「っ!! っふ!」
「たああぁぁぁううええ?!」
キテツがヒメノを掴もうとしたら、見事な移動の切り返しをされる。
勢いの余ったキテツは、そのまま止まれずすっ転んで地面にズシャーっと音を立てていた。
「今度こそ!」
「っはあ!!」
「んなぁあうえ!?」
次は再度転ばず掴もうとしたら、ヒメノ自身が急加速されてギリ届かず、再度地面にズシャシャー。
「今度は絶対ぃ!!」
「っほ!」
「おうぅああい?! ぐへえッ?!!」
3度目の正直とばかり近づくと、今度は”キテツの足の踏み込みが急に強くなり”、ヒメノを逆に通り越して壁にゴンッ! っと衝突してしまっていた。
「ちっくしょおおおおおお!? なんで捕まえられない、つかなんかめっちゃやりづら!? 何、何がおこってんだ!?」
「オホホホほほほほ!! このままワタクシの勝利は頂きですわー!!」
地面に両膝をついて、ダンダンッと地面を叩くキテツ。まるでハクト戦の直後の焼きました。
それを離れたところから見たヒメノ選手は、口元に手の甲を近づけて、イメージ通りの所謂お嬢様笑いで勝ち誇っていた。
『完全にキテツ選手、手玉に取られております! ハクト戦の時の彼はどこに行ったのか!! ……それにしても、確かに手も足も出なさすぎですね? 流石におかしいでしょうか?』
『ふむ。これ、どちらかというとヒメノ選手がかなりトリッキーな事をしているな』
実況のカラーの振りに、解説の風雅が答え始める。
おかしいのはキテツではなく、ヒメノが何かやっているとの事。
『キテツ選手に近づかれた瞬間、ヒメノ選手が無言でギアを発動している。逃走用に自分に脚力強化を掛けるのは勿論、”キテツ選手に掛けている”場合がある』
『ほう? キテツ選手に?』
身体能力の強化となるバフギアを、わざわざ対戦相手に? と実況が問いかける。
会場にいる観客も、なぜそんな事をするのか分からない人が大半のようだった。
『そもそも人は、自身の体が予想外の動きになると対処がし辛くなる。階段を踏み外したとか、ちょっとした段差につまづいた時とかにな』
それほどの威力などではないはずの、予想外の衝撃。
しかし、それにぶち当たると人はとんでもなく焦ったり、瞬間的に心臓がバクバクするほど驚いたり冷静に対処し辛くなることが多い。
それは勿論、自分自身の踏み込みの動作にも当てはまるとの事。
例えば歩き出した時、”足元がツルツル”で滑ってしまった時など。
それを言った解説の風雅は、ものっすごい実感の籠もったセリフだった。
恐らく自身のライバルのことを連想していたのだろう。
『今回で言うと、キテツ選手の踏み込みの瞬間に脚力強化を掛けているな。おかげでキテツ選手の想定した体の動きと、実際の動きにズレが生じている。そのせいで体勢を崩しやすくなってて、ヒメノ選手に捌かれてしまっている。最初の衝突でキテツ選手がやられたのは恐らくそれが理由だな』
『なるほどー! 本来自身の強化になるはずのギアを、相手に掛けているのはそれが理由ですか! いやー、とんでもない使い方をしてますね!』
『ああ。【メタルボディ】みたいに、効果分類が自身持続では無く、”単体指定”であることの利点をフル活用している。本来自分以外の味方にも一瞬強化出来ると言う差別化なだけの筈が、裏技めいた使い方で見事に相手を手玉に取ることに成功している』
しかも、ヒメノのギア発動は無言の上、大袈裟な蹴りの動作やルーティンもしていない為、ギアを使ったかどうかが判断し辛い。
自分の脚力を強化される事前提で意識して近づいても、その読みを外してヒメノ自身の脚力強化をしたりして、これもやっぱりキテツの意識と動作がずれる。
近接での体捌きじゃ、今回の参加者の殆どは対処できないんじゃ無いか? と風雅は言葉を続けた。
彼女がカグヤ戦で負けたのは、射程の差でずっと遠距離で攻められ続けていた為、体勢を崩す作戦も一切使えなかったのが原因だろう。
逆に近接オンリーのキテツでは、完全にギア構成以前に戦術面で相性負けしていた。
「くっそ!! 理由は分かったが、結局どうしろっつーんだよ!? Eが尽きた時に攻め用にも、その時間は全力で逃げられるし!! こんな事なら白兎の冗談の【パワー・バフ】2積みの方が遥かにマシだったぜ!?」
『ざまあ見なさいですわ!! ワタクシの事を分かった気になっていた、あなたの責任ですわね! 自分の試合が終わったつもりで、油断していたのではなくて?』
「ぐああ! 否定出来ねえ! チクショー、自分の事を知ってもらう事が好きなオレ自身が、こんなミスするなんて!」
頭を抱えてキテツが叫び出す。
そうこうしている内に、時間はどんどん過ぎて行ってしまっている。
このままでは残り5分に突入し、CT完了までの速度が3倍になってしまう。
そうなれば、現状一切ギアを使うメリットの無いキテツが更に不利になってしまう!!
ハクト戦と違って、逆に自分が逃げられている状況。
イメージ的にカメが追いかける側は凄い無茶振りだ!!
「くそ! こうなりゃ賭けだ!!」
そう言って、キテツは再度ヒメノに向かって走り出していく。
このままでは先ほどまでの焼き増し、しかしキテツには他に選択肢もない。
ヒメノも油断せず、迫りくるキテツに対して逃げ続け、距離が狭まってきたら……
「喰らいなさい!!」
「【メタルボディ】ィ!!」
「んな!?」
ヒメノに飛びかかる瞬間、キテツはルーティーンで例の拳同士を合わせる動作をして、ギアを適応。
その後すぐに両腕を広げた状態でヒメノに飛びかかって行った。
ヒメノが脚力強化をキテツに掛けた瞬間に、キテツも急に体が重くなってしまった状態。
脚力強化と、重さによる敏捷性の減少が相殺され、ちょうどいい感じにヒメノに飛び描かれた。
ヒメノ自身の脚力強化に使われていたら、そのまま回避されていただろう。
キテツは賭けに勝った!
「おらああああああっ!!」
「きゃああああああっ!?」
キテツに飛びかかられたヒメノは、そのまま一緒に地面にズシャーっと転ぶ。
そして彼女の上には、キテツが覆いかぶさった状態。
「よっしゃあ!! 捕まえた、俺の勝ち……ん?」
「アンッ……?!!」
──キテツが勝利を確信しようとすると、右手に柔らかい感触。
ヒメノも反射的に声を上げ、よく見ると彼女の胸に、キテツの手が……
「────いやあああああああああああぁぁぁあああああああぁあああぁあああっっっ!?!?!」
「ヘバアッ?!!」
……動揺したヒメノの全力の張り手が、キテツに襲いかかり見事にヒット。
本来【メタルボディ】中のキテツには響かない筈の攻撃が、しかし動揺している彼にはクリティカルヒットして体勢を崩していた。
急いで離れて立ち上がったヒメノは目に涙を溜めており……
「お、お……お嫁にいけませんわあああああぁぁぁアアアアッ!! 」
そう泣き声を上げながら、フィールドから走り去って行ってしまった。
『…………』
『…………』
「…………」
実況、解説も含め、会場中が冷え切ってしまっており、誰も声を発せない。
しばらく静寂の時間が続いたのち……
『…………えー。ヒメノ選手のリタイアとみなし、キテツ選手の勝利扱いと致します。勝利おめでとー』
『いっや!? いいのかそれで!?』
『じゃあどうするの? 警察呼ぶ?』
『いや、それもちょっと……ただの試合中の事故だし、まあ、えっと……』
==========
バトル・フィニッシュ!
==========
==============
ヒメノのリタイア扱い
よって勝者 キテツ!
==============
カラーの問いかけに言葉を濁す風雅を他所に、電光掲示板が光出す。
キテツの勝利が確定扱いとなった。
そして勝者の筈のキテツは、フィールドでorzの形で蹲っていた。
「お、オレはなんてことをぉぉぉ……」
『はいはい。もう決勝が始まるので、フィールドから出て行ってくださいキテツ選手』
『冷てー……けどまあ、切り替えるのは大事だと思うぞ、キテツ選手。さっきのはまあ、ドンマイ』
『まあ、さっきのヒメノ選手には、私のカンパニー側の人間で、後でフォローはさせておきましょう』
「ぉぉぉ…………」
ハクトとカグヤの中を疑って、勝手に嫉妬していたキテツが、今回は自身がラッキースケベ。
こう聞くと役得かもしれないが、当事者になったら溜まったもんじゃない。
落ち込んだキテツは呻きながらもゆっくり立ち上がり、出入り口のほうに歩いて行った。
今となっては、ハクト達3人に試合を見られなかった事が逆に良かったかもしれないと、そう思いながら……
☆★☆
「────────」←どう見ても見える、出入口ギリギリに立っていたハクト
「────────」←フィールドから戻ってきたばかりのキテツ
無言の間。
「────────よっし! 行ってくる!」←見なかった事にしたハクト
「────────」←音もなく、崩れ落ちるキテツ
キテツからのエールを受け取り(受け取ってない)、フィールドに入って行くハクトだった……
☆★☆
『──さあ! 会場の皆様お待たせいたしました!! 只今より、”rank1 ソロトーナメント大会”決勝戦を開始致します!!』
実況のカラーの言葉に、会場中がワーッと盛り上がる。
初心者の大会とはいえ、それなりの数の観客がおり、いい感じにボルテージが上がっていく。
『まずはこちらから!! 鋼鉄の体をも蹴り砕いた、ウサギの脚力を舐めるな! 真っ白パーカー、ハクト選手が入場でーす!!』
「よし! これで最後だ! 行くよ!」
アナウンスと共に、ハクトがフィールドに入っていくと、観客が更に盛り上がる。
ここまで様々な逆境を飛び越えてきたハクトに対し、観客は今度はどんな動きを見せてくれるのかと期待に満ち溢れていた。
『対するは、ここまで危なげな試合は殆ど無し!! 手堅い遠距離攻撃で一方的に勝利を納め続けてきた! 魔法の火球使い、カグヤ選手の入場だー!!』
ワーッとそのアナウンスに会場が更に盛り上がり。
…………しかし、カグヤは入って来ず。
『────? あれ、カグヤ選手? おーい、カーグーヤー選ー手ー?』
実況がそう呼びかけ続けても、一向にカグヤ選手が出てこず。
会場の観客もドヨメキが湧き上がり始めていた。
『んー? 3位決定戦が15分経たない内に終わったから、まだ休憩室にいるのか? ちょっとスタッフさんに確認してきて貰うか』
『どうしたんでしょうね? けど彼女、これまでの試合でも割と余裕を持って準備してたように見えますけど。そもそも休憩時間本当にいるって感じのタイプに見えましたし』
「まさか……!?」
実況と解説の疑問の言葉に、ハクトは嫌な予感が頭によぎる。
反対側の出入口に急いで駆け出そうとすると……
「────ごめんなさいっ!! 遅くなっちゃいました!」
『あ、来た来た。カグヤ選手の入場でーす!!』
無事、そこからカグヤが現れた。
カグヤの入場に、ハクトは嫌な予感が外れて一安心し、会場も今度こそまた盛り上がり始めた。
「さて、と。お待たせハクト君! ごめんね遅れちゃって」
「いや、いいよ。もしかして、何かあった?」
「────んーん! 特になーんにも!」
カグヤはそうニッコリ言って、さてと、と改めてハクトに向き直る。
「……さあ、ハクト君! 楽しい試合をしましょう!」