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4話 友達と一緒に勉強は長くは続かない!



 4月27日土曜日。今日は友達がうちへ遊びに来る。一緒に勉強をする予定!!! そのため、兄が朝早くから家の掃除をやっている。



「掃除終わった~~」

「お兄ちゃんたちは今日家にいるの?」



 三角巾にエプロンという姿は、もはやお母さん。兄がお茶を飲みながら、一息ついている。



「いや、今日は隣町で特売があるから、まとめ買いをしに行く!!! 家に居ても邪魔だろうし。あと男手が欲しいから如月も一緒にきてもらうつもり~~」

「え」



 突然振られ、リビングで寝転がりながら本を読んでいる如月が、振り返った。勝手にご指名だもんね。



「ふーん」



 机の上に勉強道具を並べ、友達が来る準備をする。まぁ、お兄ちゃんたちが居ない方が友達も気を遣わず、ゆっくり出来るからいっか。



「今日は暑いから、ちゃんと水分取れよ?」

「わかってるって、うるさいな~~」



 それにしても今日は本当に暑い。暑くなるたびに『今年1番の暑さです』とテレビから流れる。一年に何回言うつもりなのだろうか。



 黒の半袖Tシャツにチノパン姿の兄と相変わらずなテーパードコーデの如月が玄関に向かう姿が見えた。



「もう、行くの?」

「うん。売り切れちゃうからね!」

「卯月さん、ごゆっくり」



 軽く手を振り、玄関から出ていく2人を眺める。



「なんか仲良いな……」



 これが男の友情? いつもバカみたいにじゃれあってる2人をみて、少し羨ましく思う時はある。女同士にそういうのはあまりないし。



 2人を見送った後、パーカーを脱ぎ、ロングTシャツに着替える。誰も居ないから、気を遣わず着替えることが出来て、楽だ。一応これでも女子中学生。若い男が2人、家に居ると少し着替えづらい。



 ハーフパンツから、デニムのショートパンツへ履き替えると、自ずとテンションが上がった。



 肩より少し長い黒髪を左にかき集め、シュシュで束ねる。勉強なんか、やめてしまい、このまま外に出かけたいくらいだ。



 ーーピンポーン



 来た!!!



 玄関へ向かい、相手の確認もせずにドアを開ける。ドアの向こうに髪の長い女の子が1人立っていた。



「急に開けるからびっくりした!」

「迷わずこれた??」

「経路案内で来たからバッチリよ!」

「暑かったでしょ~~お茶飲む?」

「飲む! お邪魔します!」



 友達の志田星奈しだせいな。私は学校であまり多くは喋らないため、友達が少ない。私の唯一の友達である。



 星奈と一緒に部屋へ上がる。リビングに向かって歩きながら、星奈は口を開いた。



「お兄さんは?」

「お兄ちゃん、如月と買い物へ行った」

「誰? 如月って」



 初めて聞く名前に戸惑っている。



 星奈には両親が居ないこと、そして兄と2人暮らしであることは話してあるが、最近家へやってきた如月のことは、全く話していない。戸惑うのも無理はない。



「あ~~なんだろうね、友達?」



 如月のポジションってなんだ?



「お兄さんの友達ってこと? 居候してるってこと?」

「まぁ、そんな感じ……」



 少し事実とは異なるが、嘘と真実を混ぜて話せば、本当になる的なことを、如月が言っていた気がするから良いでしょ。知らんけど。



 質問攻めを聞きながらキッチンへ向かい、麦茶をコップに注ぐ。2人分のコップを持って、リビングに戻った。



 床に座る星奈にコップを渡すと、星奈は麦茶を一気に飲み干し、机をパンパンと叩いた。



「まだ質問がある!!!」

「お兄さんってどんな感じ??」



 ぉお!! 恋を求めてる瞳だぁ!!!



「う~~ん、ツーブロックにツイストパーマで、アッシュブラウンに染めてる。あっ、二重。背が高い、24歳」

「それ、ただのイケメンじゃね?」

「イケメン違う! イケメン足臭くない!」

「それ関係ないって」



 星奈は机に両肘をつき、手のひらに顎を乗せ、卯月の顔をまじまじと見た。



「卯月ちゃんも二重だよね~~!! そしてくりくりおめめ!!」



(お兄ちゃんがイケメン?)



 自分の兄がイケメンだなんて考えたこともなかった。そもそも、一緒住んでいると顔なんて見慣れすぎて、イケメンかどうかよく分からない。彼女とか、連れてきたことないし、モテるかどうかもよく分からない。



「如月さんはどんな感じ?」



 ここまで来ると、星奈の目がハートに見えてくる。



「ミディアムっていうの? 男性にしては髪の毛長いかな~~肩につくか、つかないか。サラサラなのに毛先うねってる。アレ、パーマなの? あ、時々丸メガネ。切れ長の目! お兄ちゃんより少し背が高い! テーパードパンツいつもはいてる! 30代に見える42歳!」


「それ、ただのイケメンじゃね?」

「イケメン違う! イケメン冷凍庫に頭突っ込んだりしない!」

「イケメンに囲まれて生活してるの?」

「いや……そんなはずは……」



 思わず口籠る。如月もイケメンなの?



「ま、見ればわかる!」



 星奈が勉強道具を広げ始め、私も釣られて、教科書を開いた。



「学校で、卯月ちゃんがなんて呼ばれてるか知ってる?」

「掃除の神様、焼却炉の女!!」

「ちっがーう! いや、違わないけど! 隠れ美少女って呼ばれてるんだよ」

「は?」



 思わず、怪訝な顔で見つめる。



「もうもう~~!」



 星奈が机を拳でとんとん、と叩く。



「卯月ちゃん、可愛いんだからね!」

「星奈の方が可愛いよ、おめめぱっちりだし」



 私は星奈の頬を引っ張った。星奈は目をキラキラさせながら続ける。



「お兄さん達がイケメンだったら好きになっちゃうかも! 私にチャンスあるかな?!」

「いや~~あの2人は……ううん、なんでもない」



 これはただの憶測に過ぎない。なんの確証も、証拠もない。本当に、もしかしたら、でしかない。だからその先の言葉は言わない。



「でもでもぉ~~こういう生活って、卯月ちゃんが如月さんに恋して、ラブラブ展開じゃない?!」



 両手を頬に当て、嬉しそうに話している。



「ないない! いくら如月が若く見えても、30も年上の人に恋とか無理ぽよ。もっと年近くないと恋愛対象にならない~~」



 これは本当のことだ。如月と恋愛とかマジで無理。私たちは2人のいないところで言いたい放題だ。



「だよね! やっぱお兄様かな?」

「お兄ちゃん彼女居ないと思うよ~~だからチャンスアリ! 知らんけど」

「知らんのかい! 卯月ちゃんはどういう人がタイプなの?」


「えっ! 家事とかやってくれる人? 尽くしてくれる人?」

「それ、お兄ちゃんじゃね? ブラコンかよ」



 星奈が呆れ、ため息を吐いた。



「違うってば~~!!!」



 私は教科書で星奈の頭を叩いた。



 星奈が完全にお兄ちゃんをロックオンしているのが分かる。妹としては少し複雑だけど、恋をすることは自由だから、そっと見守ることにする。



「そういえば、隣のクラスの金森くんが、卯月ちゃんのこと好きらしいよ」

「誰それ、話したことないよ~~」



 私たちが勉強したのは5分程度で、恋バナばかりしていた。このままだと、お兄ちゃんに、怒られてしまうかな。帰ってくる時に、勉強しているフリをすればいっか。



 私たちは恋の話に花を咲かせた。





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