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3話(4)二度手間だけど、正しいカレーはやっぱり美味しい?!



 PM8:00。

 キッチンの片付けが終わる。

 なんだかどっと疲れた。自分のテリトリーに他人が入ってめちゃくちゃにされた気分。実際そうなんだけど。



 冷蔵庫を開けると、野菜と肉は全て使わなかったのか、まだ材料は残っていた。これなら、なんとかもう一度カレーを作ることは出来そう。



 手際よく、野菜の皮を剥き、包丁で切っていく。



「お兄ちゃんすご、10分で野菜切っちゃったよ……」

「何分かかったんだよ……」

「玉ねぎって4等分にするだけで良いんですか……?」

「圧力鍋で作るから」



 じゃがいもを2等分、人参を一口大に切る。コンロの下から圧力鍋を取り出す。鍋の中に油を入れ、火にかけた。鶏肉の表面を焼いていく。



 じゅ~~。



「やっぱり炒めるんですね」

「炒めないでぶっ込んでも美味しいけどね。旨みでるし。でも時間かかるから炒めるよ」



 じゃがいも、玉ねぎ、人参を鍋に加え、軽く炒める。



 計量カップで水を350ml測り、圧力鍋に入れる。俺の持つ水を見て、卯月が驚いている。



「それだけしか入れないの?!」

「圧力鍋は水分の蒸発が少ないから、水は少なくていいの」

「カレーって簡単そうに見えて難しい!」

「卯月、まだ時間かかるから、今のうちに宿題しろ」



 口を尖らせながら卯月がリビングへ向かった。宿題はしないとねー。



 鍋に蓋をして、火を強くする。圧力がかかるのを確認すると、弱火に変え、加圧した。



「どれくらいで出来るのですか?」

「30分くらいかな? ちょっと遅くなるけど、21時前には食べれると思う」



 火を止め、宿題をする卯月の元へ向かう。勉強の出来が少し悪い妹の面倒を、如月と一緒に見る。卯月は今年、受験生。塾に行かせるほどお金がないため、勉強は見なくては。




 PM8:40。

 圧力の下がった鍋の蓋を取り、中火にかける。沸騰した鍋の中の灰汁を取っていく。



「全部取らないんですか?」

「全部取るの疲れるし。大体しか取らない。全部取ったの? お疲れ様」



 ぷっと笑いながら、一旦火を止めルウを割り入れていく。



「料理とは奥が深いですね」

を守れば誰でも美味しく作れるよ」



 如月が苦笑いしている。再び、火をつけ弱火で、時々かき混ぜながら煮込む。カレーはとろみがついてきた。良い感じ!!




 PM8:50。

「カレー出来たよ~~」  



 カレーを皿に盛り、リビングへ運ぶ。



「野菜がゴロゴロしてる!」

「ルウってまだあったんですね」

「この前、中辛と甘口間違えて買ったから。甘口がちゃんとあります~~」



 スプーンを机の上に並べていく。机を3人で囲い、手を合わせた。



「「「いただきまーーす!!」」」

「美味しい、美味しいよ、お兄ちゃん!」

「そりゃ、どうも」



 さっきまで淀んた目でカレーを見ていたとは思えないカレーへの情熱を2人から感じる。



「お兄ちゃん、ゴールデンウィークどっか連れて行って」

「プールとかぁ、海とかぁ、バーベキューもいいなぁ~~3人で行きたいなぁ~~」



 卯月の目が光り輝いている。でも受験生。そんなに遊んでは居られない。



「ゴールデンウィーク明けたらすぐ中間テストだって。4月の学力テスト散々だったじゃん。ここで勉強しないと高校どこにも行けないって」



 卯月が頬を膨らませているが、俺は正論だ!!!



「まぁ、もうすぐ卯月の誕生日だし? 誕生日くらいはいいよ」



 これは俺の優しさ!!! 勉強ばっかりじゃ息が詰まるし。



「卯月さん、誕生日いつなんですか?」

「4月30日」



 カレーを頬張りながら鼻高々に答えている。自慢するようなことでもないと思うけど。



「あと5日後か」



 如月がカレンダーを見て呟く。俺も釣られてカレンダーを見る。誕生日、近いなぁ。



 気づけば、あっという間にカレーがなくなっていた。元々4人分程度しか作らなかったため、卯月がおかわりして、カレーは完食となった。



 如月と一緒に食器を流しへ持っていく。



「どこ行くんです?」

「海行きたい!!!」

「海……」



 如月と顔を見合わせる。お互い嫌そうな顔だ。



「じゃあ、遊園地!」

「遊園地……」げっそり。

「もう!! インドアなんだから!!」

「睦月さん! バーベキューも海もプールも地獄です! 遊園地へ行きましょう!!!」

「俺は水族館とかの方が…… 」

「そんなつまんないとこ行くわけないじゃん!!」



 つまらないって……。まだまだ子どもだな、と思う。半ば強引に押し切られ、遊園地へ行くことになった。



 高いところが苦手な訳ではない。ジェットコースターは乗れるし、暑さと人混みだけが懸念材料なだけで、割とこういうところは好きだ。



「あとお兄ちゃん、ゴールデンウィーク、友達呼んでもいい?」



 卯月が両手を合わせてお願いしてくる。



「……友達いたんだな」

「ひど!」

「友達と一緒に勉強するなら呼んでもいいよ。如月は予定ないの?」

「私ですか? ないので予定合わせますよ」



 今年のゴールデンウィークは波乱の予感がしてならない。だけど、少し楽しみな自分もいる。



 台所へ目線を送ると、カレーの洗い物が積み上がっていた。結局、また片付けるのも俺。はぁ。



「アレアレ~~? 思わないんですか?『家にずっといるのだから如月が』って」

「勝手に心情に入ってくるな!! 手伝ってくれるんでしょ? 如月さぁ~~ん」



 如月の首の後ろに右腕を回し、自分に手繰り寄せ、捕まえる。風呂に入る準備をしている卯月が、戯れている俺たちをじーっと見てくる。



「何?」

「きも」

「「キモくないわ!!」」

「もぉ!!! 勉強しろ!!!」



 卯月に向かって勉強道具を投げつける。



「ちょ、やめてよ! 明日も勉強教えてね! お風呂入りますぅ~~」



 逃げるように脱衣所へ走って行く卯月の背中を見つめる。まったく、もぉ~~っ。




 こうして一日が終わっていく。



 如月が来てから1日が早い。それほど楽しく過ごしているということなのだろうか。なんだかんだ、自分も如月と仲良くやっているのは間違いない。



(俺が如月にツッコミしてた筈なのに、イジられてる気がする!!!)



 いつまでこの生活が続くのかは分からない。



 如月が小説家ということ以外、何も素性は知らない。自分たちも細かい私情は打ち明けていないから、お互い必要以上に踏み込まないようにしている部分はある。



 いま、幸せを感じる時間がある限り、このまま日々を過ごしてもいいかな、なんて思う。




 PM11:30。

 和室に布団を3枚敷き、3人で川の字に寝る。左に如月、真ん中に卯月、右に俺。卯月は布団に入って5分で寝た。早すぎ。



「おやすみ」



 そっと卯月の頭を撫でる。



 起きてる時にやったら、多分キモいって言われるだろう。よだれを垂らし、寝ている顔は本当にかわいい。



「如月、おやすみ」

「おやすみなさい」




 リモコンで照明を落とす。




 暗闇の中、目を閉じた。




 明日からまた俺の戦いは始まる。






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