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5話(2)話を聞いていなければお化け屋敷はRPG?!



「お化け屋敷って入ったことないんですよね」

「そうなの?」



 私を和ませようとしているのか、唐突に如月が話し出すが、既に怖くて怖くて堪らない。如月の腕にしがみつく。



「えぇ。どういう世界観なのか楽しみです」



 大丈夫かな? と少し心配になる。だがそれ以上に怖さが上回る。如月に気遣う余裕など私にはなかった。



「で、何するんでしたっけ?」

「え? なんか供養してこいみたいなこと言ってやあぁあああああ!!!!」 



 突然倒れてきた首のない人間に驚いてしまう。



「卯月さん、人形です。危ないですね~~。座らせておきましょ」



 ばきばきばき。



 如月が柵の向こうから人形を引っ張り出して、体育座りにさせている。いいのか、それ。



「なんか、首がないことに落ち込んでいるようにみえる」

「哀愁漂っていますね」



 不思議と怖くない。人形の前にしゃがみ込み、見つめると、如月もまた、人形の前にしゃがみ見つめた。



「供養しよう」

「持って行きますか」



 如月が人形を脇腹に抱え、歩き出した。



 パーティに首なし人形が加わった。



「重……」

「如月頑張って!! 供養のためだ」



 少し歩いて行くと、血塗られた平台に木箱が置いてあった。私はお化け屋敷ここがどういうところか忘れ、木箱を開けた。



「ぎゃあああああああああ!!! 生首ぃいいいいい!!」



 ひっくり返りそうになる私を、如月が片手で受け止める。不意打ちで密接する身体に鼓動が速くなる。



「何やってるんですか。あ、卯月さん、人形の頭が見つかりました」

「女のひとだね……」


 木箱の中に入った生首を如月が片手で取り出した。躊躇いなく取り出す如月に少し引く。



「そうですね。なんか箱に書いてあります。【おふだを探し、魂の供養をせよ】ですって」

「これ持って探すの? なんか大荷物~~」



 私は如月の持っている生首を両手で抱えた。



 生首を手に入れた。



 お札を探し、辺りを探索する。薄暗いせいもあり、中々見つからない。見逃しているのだろうか。



 ガタッ。



 後ろから物音がした。咄嗟に振り返ると、白い服に髪の長い女が少し離れた場所からジリジリ近寄っていた。



「いやぁああああああ!!!! 如月ぃ!!! なんかきたぁああああ!!!」

「貞子ですね。追いかけてきても、コンプライアンス的に触ってはこないので大丈夫ですよ」



 なんだその解説!!! 私は冷静さを取り戻す。



お札がおふだが全然見つからないので、貞子に聞きましょう」



 私は如月に手を引かれ、貞子へ近づいた。



「お札がありません、どこにありますか?」



 如月に話しかけられても貞子は何も喋らない。



「一緒にお札探してくれません?」



 貞子は堂々と無視をしてくる。中々の鋼メンタルだ。如月は少し考えて口を開いた。



「もっと明るいところで貞子さんに会ってみたいな。きっと綺麗な顔をしているんだろうな」



 如月は目尻を下げ、貞子の耳元で囁いた。



(こいつ貞子相手に何やってんだ!!!)



「行きます!! 一緒に探します!」



 貞子がパーティに加わった。



「お化け屋敷のマップは頭に入っているんですよね?」

「ぇ……まぁ……」

「部屋の案内をお願いします」



 貞子に案内されながら、一部屋ずつお札を探していく。地道な作業。



「卯月さん!!! 何かありました!!! 世界観に似合わない洋風宝箱です!!!」 



 如月が宝箱を手に持ち、私へ差し出した。



「開けてみよう……って開かないんだけど!!」



 ガチャガチャ。



 宝箱を無理やり開けようとするが、全く開かない。なんじゃこりゃ。



「鍵が必要です……」

「面倒くさいな~~もーー!」



 私はこんなおかしな状況に、恐怖なんかすっかり忘れた。



「鍵はどこにあるの?」

「いつも、違う人が隠すから知らない……」



 貞子の言葉に私と如月は目が淀んだ。



 行ってない部屋は貞子によるとあと3部屋。そのうちひとつは供養する場所と仮定すれば、2部屋のどちらかには鍵があるはずだ。



「探そう」

「その宝箱持って行くんですか?」



 私はキャベツ一玉くらいある宝箱を持ち、部屋を出た。



「持っていった方が鍵を見つけたときすぐ開けれるじゃん」



 頭が邪魔になったので、如月に頭を渡す。



「なるほど」



 如月は頭を受け取ると貞子へ渡した。



 残った部屋を探していると、鍵を見つけることが出来た。鍵を、宝箱に差し込む。ガチャ。宝箱の中には大量のお札が入っていた。



「お札いっぱい!!」 



 むふー。ひらひら。大金持ちのようにお札を両手に持つ。 



「これって、全部供養に使うんですか?」

「沢山使った方が供養されるんじゃない?!」



 宝箱の中にお札を戻し、再び宝箱を持ち上げる。最後の部屋は小さなお墓がひとつ置いてあり、お墓の上にはたくさんお札が並べられていた。



「この人形はどうやって供養するんです?」

「墓の隣に座らせておく?」



 如月が人形を墓の前に体育座りさせた。なんでいつも体育座りなの?



「未練があって、残ってるって感じ……」

「う~~ん」



 今度は人形をお墓に抱き付かせている。



「どうですか?」

「ホラー過ぎん?」



 怨念を感じる。私は貞子から頭を受け取った。



「う~~ん」



 如月が人形を立たせ、お墓に寄りかからせている。どういうセンスしてるの。



「なんか首ないのに気取ってる」



 私は墓の上のお札を全て回収し、頭を置いた。



「感動の再会」



 如月が体の向きを正面から横向きに変えた。



「有り難き幸せ」



 私は人形の頭を正面から体へ向かせ、頭部と身体を見つめ合わせた。



 宝箱を墓の前に置き、蓋を開け、先ほど回収したお札を全て宝箱の中へ入れる。果たして、これであっているのか。



「なんか再会なのにさびしい」



 いや、そもそも、自分の頭部に再会も変な話か。



「三つ編みでもしますか」



 如月が人形の髪を両サイド三つ編みにしている。心なしか人形も嬉しそう。



 貞子は遠い目で私たちを見ている。



「ハッピーエンドですね」

「だねーー! 結構面白かった」 



 私たちは供養を完遂し、満足気に部屋を後にする。再び如月と手を繋ぎ、外へ出た。



 暗闇からの外はとても眩しい。どれくらい、あの中にいたのだろう。結構待たせてしまったかな? 2人の時間を作ったのだから、最善を尽くしたはず!!!



「遅ーーい!! てか誰それ!!」



 星奈が後ろから付いてくる貞子を見て引いている。



「あー、貞子? 如月、巻いた種はちゃんと最後までよろしく」

「あ~~そうですねぇ」



 私は貞子を指差し、如月の手を離すと、面倒くさそうに貞子の元へ話しをつけに行った。



 如月は貞子と10分程度話し、戻ってきた。



「大丈夫だった?」

「連絡先の交換だけしてきました」



 絶対、釣った魚に餌をやらないパターンでしょ。



「如月、手繋ご」



 私は自分の手と如月の手のひらを触れ合わせ、指を絡めた。



「今すぐその手を離せ」



 私達の様子を見て兄が如月を睨みつける。如月は呆れたように兄を見つめた。



「別に食べたりしませんよ。卯月さんに言えば」

「私ジェットコースター乗りたい~~」

「せめて、恋人繋ぎ、やめろ」



 兄は如月を睨みつけながら、ジェットコースターへ足を運ぶ。意外とシスコンなのかな。世間的に見れば私と如月は恋人同士に見えるのだろうか。



 まぁ、そう思ったのは最初だけで、今は何も気にならない。



 世の中は私が思うほど私に興味がない。だから年の差など気にせず、如月と手を繋ぐことにした。



 如月がいくら恋愛対象外でも、中学生の私からしたら、恋人繋ぎも、不意に触れた身体も、少しドキドキしたものだった。吊り橋効果かもしれないけど。




 ジェットコースターの順番を待ちながら、兄は口を開いた。



「お札探して供養するだけで、お化け屋敷って簡単なものだったね」

「ひたすら荷物の増える場所だった」



 はぁ、肩凝った。首を左右に傾け、鳴らす。荷物、結構重かった。



「荷物? あったっけ?」

「大変だったよ~~。人形デカかったし、宝箱重かったし~~。如月は貞子をナンパするし~~」



 もはや、愚痴。でも如月と入ったお化け屋敷は楽しかった。



「いや、あれは貞子さん居ないと困ったでしょう~~。まぁ結果的には頭と体の感動的な再会でしたね」

「キミたち、お化け屋敷で何やってきたの?」



 兄が眉を顰め、引いている。私と如月は顔を見合わせ、笑った。



「「んーー、供養?」」



 後ろを振り返り、お化け屋敷の方を見る。お化け屋敷はいつの間にか赤いコーンが置かれ、封鎖されていた。



 まぁいっかぁ。





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