今日は待ちに待った誕生日!! 勉強漬けの日々でストレスが溜まっていただけに、このお出かけは、すごく楽しみ!!!
「んふー、どう似合う?」
「良い感じです。私はどうですか? あんまりモノトーンでコーディネートはしないんですけど……」
「違和感なし!! しいて言えば少し重め? 丸メガネかけたら? 今日はワイドタイプのテーパードなんだね~~」
楽しく如月と話していると、兄が憤怒の形相で割り込んできた。
「黄色のワンピースはどうしたぁああぁあぁあ!!! なんで2人でモノトーンで服合わせてるの!!」
これは相当なお怒りだ。
買ったよ、買ったさ。黄色のワンピース。次の日すぐに届いた。でも遊園地へ行くなら、双子コーデとかやってみたいな~~って思っちゃったのさ。
「双子コーデ、よくない?」
「よくないわ!! 如月もなんでもかんでも買い与えるな!!」
怒りの矛先が如月に向いてしまった。
「自分が服モノトーンじゃないからって八つ当たりやめてくれます?」
如月に呼ばれそばによると、如月の目の前に座らされた。如月は私の髪にそっと触れ、櫛で解く。兄は私たちの様子を見るなり、さらにイライラしている。
如月が私の髪に何かつけ始めた。甘い香りがして、良い匂い。髪によく馴染ませ、更に櫛で解いている。髪通りがよくなってきた気がする。
「何を付けてるの?」
「ヘアオイル。低めのツインテールにしようかなって」
「ほぉ~~」
温めてあったヘアアイロンが髪にくるくると巻きつけられる。おおよそ、10分程度で、カントリースタイルの編み込みツインテールが完成した。
如月から鏡を渡され、見てみる。
「かわいいーー! 早く星奈に見せたい!」
「俺も双子コーデしたいんですけど~~」
兄が羨ましそうにこちらを見ている。結局、八つ当たりだったのか。最初からそう言えばいいのに。
「卯月さん、睦月さんと場所チェンジお願いします」
今度は兄のヘアアレンジをするようだ。私は兄と場所を入れ替わる。
「卯月さん、私のオーバーサイズの白Tと睦月さんの黒のチノパン持ってきてくださ~~い」
「り!!」
私は和室に隣接する洋室へ向かい、頼まれた服を探しに向かった。
「痛かったら言ってください」
「はぁい」
洋室から戻ると、如月が兄の左耳の上から編み込みをしていた。兄がおしゃれに見える。
「持ってきたよぉ~~」
「ありがとうございます。ほら、出来ましたよ」
「あ、ありがとう……」
耳に沿って、上から下へ編み込みがされていた。兄が恥ずかしそうに俯いている。頼んでおいて照れるなよ。
「星奈がもうすぐ来るから早く着替えて」
「う、うん」
私は持ってきた服を兄へ渡す。兄は渡された洋服を持って脱衣所へ足早に向かった。
「如月、写真撮ろう~~」
その隙に、如月と一緒に自撮りをする。星奈に言われてから知ったけど、如月はイケメンだ!!!!
そして私にとって、仲の良い友達ポジションになりつつある。
たんたんたん。
軽やかに階段を駆け上がる足音がした。
「星奈、きたかも」
「卯月ちゃーーん!! 来たよーー!」
星奈の大きな声がドアの向こうで聞こえる。玄関まで走り、ドアを開けた。
「星奈! 一緒に行けて嬉しいよ! 楽しみだね!」
「うん!!! いっぱい楽しもうね!!!」
私たちは話しながら、リビングへ向かう。兄は脱衣所から戻り、首を傾けた。
「なんかチャラくね?」
「その見た目でチャラいとか気にします? なんですか? そのシルバーチェーン。なんでパンツに付けるんですかぁ~~」
「カッコいいでしょ!!!」
星奈は3人をみるなり、怒りで肩を震わせた。
「なんでみんなモノトーンなのよ!! 双子コーデするなら私にも連絡入れなさいよ! 黄色のワンピース着るんじゃなかったの?! 流れ的に黄色のワンピースだったでしょ!! おかしいでしょ!! 相談してよ!! 私だけデニムのワンピースとか変でしょ!! ホウレンソウしなさいよ!!!」
ごもっともである。
「「「すみませんでした」」」
3人は土下座して謝ったが、星奈に職員室のスリッパで順番に叩かれた。
【fashion】
卯月 ビッグフリル白ブラウス×黒テーパードパンツ/兄からもらったネックレス
睦月 オーバーサイズ白Tシャツ×黒チノパン/謎のシルバーチェーン
如月 オーバーサイズ白シャツ×黒ワイドテーパードパンツ/睦月から奪ったピアス
星奈 デニム半袖ワンピース×白カーディガン肩掛け/連絡を怠った罰として、如月にやらせた編み込みハーフアップ
私たちはレンタカーで遊園地『アルゴルスーパーランド』へ向かうべく、家を出発した。
運転は兄だ。如月も免許を持っているが、もう、10年くらい運転していないらしく、任せるのをやめた。事故られても困る。
車で2時間ほどかかり、アルゴルスーパーランドに着いた。
「やっと、車とめれた~~」
「お兄ちゃん! 早くいこ!!」
「はいはい……」
運転の疲労で兄がぐったりしている。でもそんなのお構いなしに急かす。早く行きたい!!!
しばらく歩くと、入園券のチケット売り場までたどり着いた。ゴールデンウィークだけあり、大行列だ。如月はショルダーバッグから封筒を取り出し、見せた。
「全員分の入園券とフリーパスを用意しました~~」
「ぉお~~!!」
ぱちぱちぱち~~。
「睦月さんは社会人なので、後で私にお金を返すか、私と1日デートするか、どちらか選んでください」
睦月はケチだった。
入園券とフリーパスを足すと一万ちょっとかかる。如月にお金を返すよりも、デート(仮)の方が安く済むのでは?
例えば、割り勘にしたり、家でご飯を食べる(?)など、ちょっと工夫して、プランを組んで、デート(仮)をすれば、お金を返すよりも節約になってお買い得!!
「
「へぇ~~、約束しましたからね」
如月は不敵な笑みを浮かべる。良いのか、兄よ。それで。
「私はママからお金もらったから、払います」
「星奈さんは、半分でいいです。残りは遊園地で美味しいものたべましょう」
星奈はごそごそと財布から一万円札を取り出し、如月に渡す。如月はニコッと笑いかけ、星奈から一万円札を受け取ると五千円札を返した。
私たちはフリーパスを身につけ、遊園地へ乗り込んだ。色んなアトラクションが目にとまり、迷ってしまう。私はパンフレットを見ながら口を開いた。
「どれから行く?」
「星奈はお化け屋敷に行きたい!」
私にウィンクをしてきた。これは協力要請だろうか。
「じゃ、お化け屋敷行こう!!!」
星奈に同意したものの、お化け屋敷が苦手だ。人の悲鳴や、暗闇、混沌とした雰囲気が、まるで予期せぬ事態が起きたように錯覚してしまう。
鬱々としながら、並んで待っているうちに、あと2人中へ入ったら自分の番、というところまで来てしまった。
「卯月さん、顔青いですけど大丈夫ですか?」
「得意ではない……」
心配そうに如月が私を見てくる。そんなことお構いなしに星奈はまた私にウィンクをした。
(お兄ちゃんと2人で行かせろってことかな……)
「お兄ちゃん、星奈、先入っていーよ」
どちらにしろ今入る勇気がない。
「そう? じゃ、先入るね。行こっか、星奈ちゃん」
暗闇の中へ消えていく2人の背中を見つめる。
「星奈はお化け屋敷怖くないのかな?」
「お化け屋敷に入る目的が睦月さんに近づくためだから、お化けとか興味ないでは? 大事なアシストアイテムみたいな感じかと」
お化けがアシストアイテムって……。
「如月はお兄ちゃんと入りたかったんじゃない?」
「いえ全く。今日はダブルデートですよね? 女性をリードしないといけませんからね」
如月はクスッと笑い、私の手を取ると、指を絡め、お化け屋敷へと足を進めた。