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10話 欲は見た目で判断出来ない?!彼女は私の友達です?!



 ーーオフィス外構 昼休み



「すっかり顔色も良くなっちゃって~~わかりやすいやつめ」

「色々不満はあるけどね」



 如月が帰ってきてから、不安がなくなり、夜はぐっすり眠れるし、食欲も出れば、物事に取り組む意欲は湧く。元の自分を取り戻していた。 



 はぁ。それにしても、外のベンチは暑い。2番目のワイシャツのボタンを開け、シャツの中に溜まった熱を解放する。急に神谷の目が濁った。



「うわ~~」

「え? 何?」

「なんのアピールですか、それ~~リア充爆発しろ!!」

「あ」



 首筋の痕が脳裏に浮かび、青ざめる。なんだか、恥ずかしくなり、急いでボタンを閉めた。 



「み、見ないでぇ~~えっちぃ~~」

「いや、えっちは自分でしょ! なんで僕!! でも僕ね、週末卯月ちゃんとデートするから」

「え? 人の妹に手出すのやめてくれない?!」

「大丈夫だって~~、友達もくるらしいし」



 友達? 星奈ちゃんかな? もうそれ、デートというよりお守りじゃないの?



「友達ってどんな子?」

「星奈ちゃんかな? 割と積極的な子」

「ふ~~ん、いいね。慰安旅行、来るよね?」

「行く予定」



 昼ごはんを食べ終わり弁当箱を片付ける。立ち上がって腕のストレッチをして体をほぐす。如月は来るつもりないみたいだし、会社の慰安旅行なんて、別に行かなくてもいいんだけど。



「なんか色んなことがあって言い忘れたけど、総務にすごく可愛い子が入ったんだって。慰安旅行でお近づきになりたいなぁ~~」

「へーー」

「ま、お前には関係ない話だな!」



 神谷の話を聞き流しつつ考える。週末、卯月は神谷とデートということは、如月と2人!!! つまり俺も如月とデートが出来る!!!



 『欲しがりすぎ』なんてひどいことを言われたから、如月を絶対に満足させるデートをしよう!!!



 心の中に野望と欲望が芽生えた。




 ーー週末 デート当日



 *



「やっと出番きた!」

「よく似合ってますよ~~」



 買ってもらってから一度も着るタイミングがなかった黄色のワンピースを着て、気分は最高潮!!!



「卯月さん~~」



 如月に手招きされ、当たり前のようにあぐらの上へ座る。兄に睨まれた。妹に妬くなよ。



 ねじねじねじ。



「めっちゃねじねじ」

「簡単なハーフアップですよ」



 如月が両サイドでねじられた髪をひとつに束ね、私の頭の後ろで、くるりと中へ入れ込んだ。



「可愛いヘアアクセでも付けておいで」

「ありがとう!!」



 服と髪が可愛いとテンションが上がる。脱衣所の鏡の前で、花のモチーフの付いたヘアゴムで更に縛る。完成だ。



 可愛いが全身に装備され、デートで戦う準備が整った。



 待ち合わせ場所は最寄り駅。そろそろ行かなくては遅刻してしまう。鞄を手に取り、急いで玄関へ向かう。



「お兄ちゃん、如月、行ってきま~~す!」



 慌ただしく玄関を出て、最寄り駅へ歩き始めた。



「……俺たちもデートしない?」

「えっ?」

「まだ、付き合って一度もデートしてないんですけどぉ」

「……そうですね?」



 如月は睦月の目から感じる圧力を不審に思いながら、出かける準備をした。



 ーーーーーーーーーーーー

 ーーーーーーーー

 ーーーー




 最寄り駅に着くと、神谷は既に待っていた。『友達』の姿はまだない。スマホを確認すると、遅くなる内容の書かれたメールがきていた。男性と2人とはなんだかドキドキする。



「『友達』が少し遅れるって」

「なるほど。僕の自己紹介でもしよっか?」



 チャラそうに見えて、私が不安に思うことはいつも察してくれる人だ。そんなところに少し惹かれたりする。



「うん、お願いします」

神谷湊かみやみなと。23歳。佐野とはひとつしか変わらないよ。ま、僕は転職組じゃなくて新卒だけどね。よろしくねぇ~~」



 にっこりと優しく微笑む神谷に私も釣られて笑顔になる。



「『友達』ってどんな子?」

「え?」



 思わず目線を逸らす。自分でも本当に『友達』かはわからない。仲は良いとは思っているけど。



「待たせたね。急に、桜坂先生に呼び出されてしまってね。原稿を見ていた。遅れて、悪いね」



 待ち合わせ場所に現れた人物に、神谷が驚きのあまり固まっている。まぁ、ですよね。呼ぶ人選は間違えている気がする。



「え? 嘘でしょ……なんできたの?」

「分からないのか? 呼ばれたから、来た。ただ、それだけだ」

「何当たり前のことを……腹立つな! 大体、友達か? 違うだろ! 兄貴の恋人の元カノ呼ぶか? 普通!」



 怒っちゃった。まぁね、うんうん。分かるよ。でも、呼べる人、居なかったから。



「へぇ。卯月は私のこと、友達だと思ってくれているのか。嬉しいね」

「と、友達だもん!! ほら行こう!!」



 対立する2人の手を引き、歩き始めた。



「お腹が空いたよ、卯月」

「ドーナツのお店があって、そこに行きたいの」

「このメンツでドーナツ食べるの~~?」



 イヤそうにする神谷を無視して、ドーナツの店を目指し、3人でしばらく歩いていると、長い行列が見えてきた。並んででも食べたいと言われる絶品ドーナツ。美味しいものは待たされるもの!!! 絶対に食べたい。私たちは最後尾に並んだ。



「最低でも、1時間は待つだろうなぁ。私は本を読むとしよう。2人は好きに話すといい」

「マイペースな人だな、おい」



 皐が先頭の方をじぃっと眺め、立ったまま、両手で本を読み始めた。もう本の世界に入っているのか、神谷の声は届いていない。



「まぁ、なんとなく如月が皐さんこの人とずっと一緒にいた理由はわかる気がするけどね」



 如月も手が空けば、いつも本を読んでいる。出かける時は小説を一冊、必ず持っていく。如月と皐2人はいつも一緒に本を読んで過ごしていたのかな。



 そんな様子を思い浮かべると、落ち着いた大人の恋愛に思え、落ち着きのない兄と如月が何故くっついているのかさっぱり理解ができない。



 恋とは謎だ。



「そうか? 全然分からん……」

「人の尻ばかり追いかけているような、ストーカー男には、分からないだろうなぁ」



 本から顔を上げ、皐が神谷を見た。



「ひど~~もっとなんか言い方あるでしょ~~否定はしないけど」

「皐さんはメンズに当たり強いから」

「男は弥生しか愛していないのだよ。今はね」

「…………」



 まだ執着していたのか。私と神谷は恐るべき愛に思わず黙り込み、行列に並び続けた。



 ーーーーーーーーーーーー

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 ーーーー



 2時間かけ、やっと店内に入ることが出来た。思ったより、時間がかかり、お腹はぺこぺこだ。



 店内はコンクリート調で、木材チックなテーブルの上には、色々な種類のドーナツが並べられていた。トレイとトングを持ち、食べたいドーナツを選ぶ。たくさんあって迷ってしまう。



「皐さん、どれにするの?」

「私か? やはり、まずはプレーンだろう。ドーナツへの本気度を、確かめねばならない」

「なるほど~~」



 私はプレーンドーナツをトングで取った。



「影響されるな。好きなものを食べるべき」



 神谷はお腹が空いているのか、惣菜ドーナツが中心だ。男性的に思える。



「そんなドーナツを取っているようでは、まだまだ青いな」

「青くないって、先進的だろ~~?」



 皐のトレイを見ると、ピスタチオ、カスタードなどが乗っていた。私も食べたいドーナツをトレイに乗せ、会計へ進んだ。



「皐さん、そんなにドーナツ買うの?」

「あぁ、そうだよ」



 2人分くらいあるドーナツあるけど。ドーナツは3個だけ、テイクアウト用に梱包された。テイクアウト用のドーナツを皐が受け取り、私に差し出された。



「これは弥生へのお土産だ。渡してくれ。卯月も一緒に食べるといい。あいつの分はないがな」



 テイクアウトされた3個のドーナツ。兄の分もきちんとあるじゃん。捻くれているが、優しい人。



 私たちは会計を済ませ、イートインスペースへ向かった。



 *



 一言目はやだ。二言目はうるさい。三言目は皐。



 最近の如月の態度だ。別れてから、皐、皐と口にするようになった。気持ちがないのは分かっているが、モヤモヤする。



 そんな態度を脱却すべく、充実したデート(というか、いちゃいちゃしたい)をして、今日は絶対に如月を満足させる!!!



「如月、どこか行きたいところある?」

「ありますけど、私の行きたいところへ行っても睦月さんは楽しくないと思いますよ」

「それでもいいよ。どこ?」

「ブックカフェ」



 うわーーつまんなさそう。



 思わず顔が歪む。卯月にはインドアと罵倒されたが、スポーツ観戦やアウトドアは結構好きだ。本を読む習慣がない自分にブックカフェを楽しめるとは思えない。



「ほらね、嫌なんでしょ。こういうところは皐と行くに限ります」

「はい、出た! 皐!!! 行く!!! ブックカフェ行く!!!」

「いや、無理しなくても……」

「行くの!!! 今日ブックカフェ行くんだから!!!!」



 正直、本など読める気がしないが、皐への対抗心と嫉妬心から、如月が行きたがっているブックカフェに行くことにした。





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