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カンニングペーパーのススメ
カンニングペーパーのススメ
無月兄
現実世界現代ドラマ
2024年10月27日
公開日
2,555字
完結済
追試が決まり、留年の危機となった俺。 暗記がどうしようもなく苦手は俺は、とうとうカンニングペーパーに頼る事にした。

第1話

 ヤバイ!

 ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!

 もうヤバすぎて、ヤバイがゲシュタルト崩壊起こすくらいヤバイ!


 俺がこんなにも焦る理由は、明日に迫った追試にあった。

 どこもそう変わりはないと思うが、俺の通っている高校では、テストで赤点をとったらその後追試が行われ、もしそれでも既定の点数が取れなければ、その生徒は容赦なく落第となる。

 そして俺は、つい先日のいくつかのテストで赤点をとってしまっていた。


 もちろん留年なんてごめんだ。そう思い追試に向けて勉強を始めたのはいいが、いくらやっても上手くいかない。

 一応言っておくが、俺は何も全ての教科が苦手と言うわけじゃ無い。数学なんかはむしろ平均より少し上なくらいだ。論理的思考ってやつ?そんなのは得意なんだ。ああ、こう言うとなんかカッコいい。

 ……なんて言ってる場合じゃない。俺は論理的思考が得意な反面、暗記が物凄く苦手だった。一度にたくさんの事を覚えようとすると、まってポロポロと取りこぼしてしまう。


 これを話すと、集中して覚えれば忘れないと言われた事がある。確かに、それはある程度納得できる。俺は何かを覚えようとする時も、どうしても集中力と言うやつが散漫になってしまうんだ。だから逆に言えば、きちんと集中さえできれば覚えられるはず。


 …………って、それができれば苦労しねーよ。「集中してください」「はい、集中します」なんて、そんな都合よくできるわけない。

 今だって追試前日なのに、こんな事を長々と考えているのが集中できていない何よりの証拠だ。


 このままじゃ追試も間違いなくダメになる。

 くっ、仕方が無い。これだけはやりたくなかったが、もはやアレに頼るしかないのか。

 留年に悩む奴らの最後の切り札、カンニングペーパーに。


 いや、待ってくれ。どうか引かないでくれ。

 俺だってこれが悪い事だって言うのは分かってる。だけどしょうがないだろ。こっちは進級が掛かっているんだ。もう手段なんて選んでいる場合じゃない。

 と言うわけで、早速俺はカンニングペーパー作りに取り掛かった。


 だが、いざカンニングペーパーを作ると言っても、そう簡単な話じゃない。隠し場所は、いつもはめている腕時計の裏に決めていた。幸い監督役の先生は相当耄碌した爺さんだから、ちょっとやそっとの事じゃバレないだろう。だが問題は、用意した紙の大きさだ。

 腕時計の裏に隠れるくらいなのだから、大きさなんてたかが知れている。果たしてこの小さな紙に、どれだけの量を書き込むことができるだろう。もちろん、できるだけたくさんの内容を書き込むことが望ましいのだが。


「よし、文字を小さくしよう」


 一文字当たりの大きさを小さくすれば、その分空いたスペースにたくさん書き込むことができる。その分見難くなるだろうが、自慢じゃないが、俺の視力は2.0。どんな小さな文字だって見える自信がある。

 実は、既にそのための用意もしてあった。


「超極細ペン~(ドラ〇もんの声で言ってみよう)」


 このペンの太さはなんと僅か0.3ミリ。さらにインクが滲むこともない。この日の為にいくつものペンを試し書きして見つけた至高の逸品だ。まさにカンニングペーパー作りのために生まれたペンだと言っても過言じゃないだろう。きっとこれを開発した人も、学生時代俺と同じ思いをしていたに違いない。

 そうして早速、カンニングペーパー作りを始めたのだが…………


「くそっ、また書き間違いだ!」


 いくらペンが細くても、それだけ小さい文字を書くとなると簡単にはいかない。何度も書いては、その度に僅かにズレてしまい書き損じになる。ちょっとの書き間違いくらいいいだろうと思ってはいけない。なにしろこれをそのまま書き写すのだから、ほんの些細な誤字だって許されない。


 おまけにポイントを絞って書かなきゃいけないから、書くべき内容のチョイスも重要だ。あれこれ試行錯誤を繰り返しながら、真に書くべき価値のある用語を探した。


 何度も失敗を繰り返しては、その度に書き直す。今度は間違えないように、慎重に慎重に、書く。


(カンニングペーパー作りって、意外と大変なんだな。いや、そんな事言ってるとまた失敗するぞ。集中、集中)


 そうして、追試前日の夜は更けていった。



 そしてついに、追試の時がやってきた。もちろん、腕時計の下には昨夜一生懸命作ったカンニングペーパーが仕込まれている。

 そう思って確認したのだが……


「ない! なくなってる⁉」


 仕込んでいたはずのカンニングペーパーは、どこにもなかった。

 どうやら何かの拍子に落としてしまって、小さいからそのことに気づかなかったみたいだ。


「どこだ。どこに落とした」


 焦って辺りを見回すが、もう試験は始まる。とても、探している時間なんてなかった。


「おい、なにやってる。さっさと机に向かえ」

「は、はい。すみません」


 監督役の爺さん先生に注意され、しぶしぶ探すのをやめる。まさか、カンニングペーパーを探してるなんて言えないよな。


(終わった。何もかも……)


 絶望的な気分の中、試験が開始される。もう無理だと諦めて、それでも一応、問題文に目を通す。

 だが、その時だった。自らの身に起きた異変に気付いたのは。


(なになに、これは確か、これで良かったな。次は――これだな。あれ?)


 おかしい。もちろんオレは、カンニングペーパーなんて見ていない。なのに答えが分かる。教科書の内容を、バッチリ暗記している。


(何でだ? 昨夜はカンニングペーパー作りしかやっていなかったのに。むしろそれに全身全霊をかけて集中していたというのに。いや、まてよ?)


 そこまで考えて、俺はある仮説に行き当たった。


(カンニングペーパーを作るために集中してたから、それで内容を全部覚えたんだ!)


 何度も教科書に目を通し、重要な用語を書き綴った。大切なカンニングペーパーをつくるため、全身全霊を込めてだ。

 それらの行為が、普段はダメダメだった俺の集中力を極限にまで高め、見て書いた内容を、全て脳に焼き付けていたのだ。



 そうして追試は終わり、後日、採点の終わった答案が返ってきた。結果は見事合格。俺の留年は、何とか回避できた。


 ありがとうカンニングペーパー。必死になってお前を作ったおかげで、何とかなったよ。


 暗記が苦手だという君、是非ともこのカンニングペーパー勉強法を試してみないか?

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