え、突然説明もなくダンジョンって言われたんだけど?
でもその辺は本当に想像通りの冒険者だな。
「海成、まぁ不安なのも分かる、よく聞け! E級ダンジョンはみんな通る道よ〜!」
「は、はぁ……」
違う違う、ダンジョンの難易度どころか何にも知らないのが怖いんだって。
そうだ、思い切って聞いてみるか。
「あの久後さん、ダンジョンってのはいいとして、俺肝心の戦い方とか知らないんすけど」
「あー戦い方ねぇ……。こーゆーのはいつも
そう言って事務所の入口をチラチラ見ている。
どうやら久後さん、新人の指導には直接関わっていないらしいが、もしかしてめんどくさいだけか?
そうだよね?
ちょっと嫌そうな顔してるし。
ガチャッ――
するとタイミング良く事務所のドアが開いて、
「久後さ〜ん、
「おっ! ナイスタイミングだ。海成! あいつに教えてもらえ。ちょっと口うるさいけど良い奴だから」
「もぉ〜誰が口うるさい三十路おばさんですかっ! レディーに失礼ですよ!」
「いや、そこまで言ってねえ。勝手に悪口付け足して、俺を圧倒的な悪者に仕立て上げないで?」
「いつもそうやって言ってくる久後さんが悪いんです〜 」
久後さんにそう言った後、彼女の視線は俺の方へ向く。
なんだ、この界隈は美人な人しかいないのか?
彼女は本部の人達のようにスーツを着ており、さらには服越しにも分かるほどのナイスバディ。
可愛い系に極振りしたような整った顔立ちに、黒髪ショートボブといった可愛さをさらに強調したようなヘアスタイル。
瑠璃といいこの紗夜さんといい超絶可愛い人が揃いすぎている。
しかし俺は社内恋愛をしない主義。
つまり彼女達と結ばれることはないんだろうな。
だが一方的に想うの自由だ。
しっかりと目の保養にさせて頂こう。
そんな彼女に見惚れている間に、当の本人は目前まで来ておりニコリと微笑んでくれている。
しまった、俺から挨拶せねばと思い、立ち上がって
「お世話になっております。今日から働かせて頂く戸波 海成と言います」
「えっと海成くんでいいのかな? ちょっと堅いってばぁ。ここの職場もうちょっと緩いからさ、気楽にいこ? 私は相羽紗夜ですっ! 気軽に紗夜でいいよ〜!」
「じゃ、じゃあ紗夜さんでいいですか?」
いや〜名前呼びされるのもするのも照れる!
さん付けがギリだ。
「紗夜……さんか。うん、そうだね、私先輩だもんねっ! よろしく海成くん!」
「はい、お願いします!」
こうして俺に可愛い先輩ができた。
そして同時に紗夜さんがいる限り、この職場に居座り続ける決意をしたのだった。
「まぁまぁ海成くん、お互い座りましょうよ」
「あ、はい!」
そう言って、彼女は俺の向かいの席に腰を下ろした。
「それで冒険者はどう? 頑張れそう?」
紗夜さんはソファテーブルに肘を置き、可愛く頬杖した姿勢で俺を見てくる。
眩しすぎて直視できないっ!
ただこの質問はありがたすぎる。
「あの、俺まだ戦い方とか冒険者のこととか何にも分からないんですよ」
すると、彼女はおでこに手を当て大きくため息をつく。
これはきっと呆れたというやつだ、そう思うほど深いため息だった。そして社長用デスクに向かって、
「ちょっと久後さん〜! まだなんの説明もしてないんですか!?」
そんな呆れられている張本人はというと、コントローラーを握り、ガチャガチャ操作している。
「あっ! ちょっと待って! 今忙しいからっ! ほら、負けちゃう!」
ブチッ――
テレビの電源が切れた音だ。
事務所内はゲームの音以外静かだったためそんな小さな音すら聞こえた。
そして紗夜さんの手にあるのはコンセントから引き抜いたのであろうテレビの電源プラグだ。
「久・後・さんっ!」
両手を腰に当て、仁王立ちしている紗夜さんは彼の名前を強い口調で呼称する。
すると、社長イスに座ったまま彼女へ身体を向けて、
「だから紗夜、お前に頼んだんじゃねーの」
そう言って完全に紗夜さんに丸投げしている。
「私だって自分の後輩指導したいですよ! でもまだひとつダンジョン攻略が残ってるんです――っ!」
頬をぷくっと膨らませながら彼女は不服な気持ちを表しているけど、それただ可愛いだけですよ……。
そのまま彼女は急いで事務所の出口に向かい、ドアに手をかけてから何か思い出すように振り返る。
まず久後さんに指を差して、
「ちゃんと私の後輩、海成くんの指導をしっかりすること!」
そしてその次は俺に、
「海成くんしっかり教えてもらいなね。また終わったら帰ってくるから。それと、【 ステータス 】って言ってみ? 久後さんが教えてくれなくても、それでなんとかなるから、ねっ!」
この可愛い先輩はそう言い切ると同時にウインクをして外へ向かった。さらに可愛いことしやがって……。
そしてこの事務所に残るは、むさ苦しいおっさんが2人。
そのうち1人のおっさんは社長用デスクから離れ、再び片割れのおっさんである俺の向かいのソファに腰をかけた。
「まぁなんだ、西奈からは試験でレベルラビット捕まえたって聞いてる。ならステータスも表示されるだろう。紗夜のいうとおり【ステータス】って言ってみ?」
久後さんは真面目モードに戻った、そんな雰囲気だ。
あのウサギを捕まえたことで何かが変わるってのか?
まぁやれば分かることだ。
そう思って俺はその言葉を唱えた。
「わかりました。ふぅ……。よし、【ステータス】」
すると目の前にウインドウ画面が現れたのだ。