コボルトロードにより放たれた斬撃。
それに合わせるように突如俺の身体は強く光り出し、脳内ではAI音声もといステータスが話し始める。
(専用パッシブスキル【魔力吸収】を発動します)
へ?
すると、さっき飛んできたはずの咆哮が跡形もなく消え去っていた。
それからなぜか力がみなぎっている、そんな気がするのだ。
よく分からないが、どうもあの咆哮は俺には効かないらしい。
そうとなれば反撃だな。
そういえばいくつか攻撃スキルを覚えていたっけ。
「ステータス、今使える攻撃スキルを教えて」
(はい、今使える攻撃スキルはこちらです)
【疾風烈波】
広範囲の物理技。武闘家の専用スキル。前方広範囲に疾風の如き連撃を放ち、対象を切り刻むことができる。
【アークスマッシュ】
単体への物理技。マジックブレイカーの専用スキル。吸収した魔力をエネルギーへと変換し、対象に叩き込むことができる。魔法で創られたバリアにめっぽう強く、打ち砕くこともできる。
ほぉ。強そうなスキル手に入れてんな――。
さっき魔力吸収かなんかしたわけだし、その技使ってみるか。
一方、コボルトロードは自分の咆哮が効かないと分かってか、自ら突進してきた。
「とりあえず、スキル名呼べばいいんだよな。【アークスマッシュ】」
すると、今回は身体が自動に……というわけではなく、半自動的に誘導される。
感覚としては、自分の動きに対してスキルが補助してくれている、といった感じだ。
お互いの距離が近づく――
そして直前となった時、振り出してきた敵の右ストレートをなんなく躱わし、空いた無防備な腹部へ自らのスキルによって輝きを放っている右拳でカウンターのストレートをぶち込んだ。
そして今度は姿勢を保てずに後方へぶっ飛びながら、ここでいう消滅、という形となって消え去っていった。
《レベルアップしました》
その通知がきたことで、ようやく戦いが終わったと感じることができた。
「ふぃぃ……。まじで疲れた―― 」
思いの外緊張していたのか、突然力が抜け、その場にへたり込む。
バタバタッ――
何やらまた通路が騒がしい。
ここのボスらしきものを倒したのだからもう休まして欲しいところだ。
とりあえず戦闘に備えて立ち上がるか。
「……成くんっ!」
え? なんか通路から人の声が聞こえる。
だが、何を言ってるかまでは聞き取れない。
だけどモンスターではないようなので安心した。
「海成くんっ!」
俺の名前だ。
そしてこの声、 この可愛い声は……!
間もなくその声の主は通路から抜け出てきた。
「やっぱり! 紗夜さん! どうしてここに? そしてなんでそんなに息を切らしてるんですか?」
どうやらかなり急いできたみたいだ。
もう膝に手をついて呼吸が乱れまくっているし。
「はぁ……はぁ……ふぅ――っ! って海成くん、あの……もしかしてだけど、1人でクリアしたの!?」
「え、多分ここのボスっぽいの倒してクリアなのであれば、そういうことになりますかね?」
紗夜さんは俺の言葉を聞くとすぐ目を丸くして、
「は――――っ!? ここに来るまでモンスターに出会わなかったから、まさかとは思ったけど本当に倒したなんて」
あれ、紗夜さんのその反応……俺はいけないことをしたのだろうか。
例えばE級ダンジョンを初めて入ってソロクリアをしたら危険人物と判断されて、即刻社長に喰べられるとか。
いや、それなら瑠璃がダンジョンに行かせないはず。
「紗夜さん……俺、ヤバいことやっちゃいました?」
「うん、ヤバいことだよ……」
やっぱりヤバいことなんだ。
しかも紗夜さん、心なしか表情がムスッとしている。
そしてゆっくりと俺の目の前まで近づいてきた。
もう手を回せば抱き寄せられそうな距離に紗夜さんがいる。
いい匂いがするし、俺の心臓の鼓動すら聞こえてしまいそうな近さでドキドキが止まらない。
「あの、紗夜さん……? うがっ!」
突然のことで一瞬何が起こったか分からなかったが、俺は今紗夜さんに抱きしめられている。
2日連続で美女とお近づきになれて光栄だけど、今回は瑠璃の時と違い俺が守られている側のような抱きしめられ方だ。
「海成くんは今日から冒険者だから知らなくて仕方ないけど、E級ダンジョンに1人で行くなんて自殺行為。正直……もう間に合わない、そう確信してたの。でも君は生きてた。どうやって攻略したのかは分からないけど、本当に生きててよかった」
彼女がこんなに近い……。
一瞬やましい気持ちが出てきたが、すぐに考えを改めた。
どうやら俺は相当ヤバい状況だったらしい。
彼女から感じたのはもちろん異性に向けたそれではなく、仲間、同僚、後輩に向けた心からの心配だ。
「紗夜さん、ごめんなさい」
すると、紗夜さんは俺からパッと離れて、
「なんで海成くんが謝るの! 悪いのはあなたじゃない。元凶が誰かは久後さんから聞いてるから!」
「元凶……?」
誰のことだ?
もしかして本部のことだろうか?
「ううん、大丈夫! 私があなたのことを守るから」
紗夜さん、イケメンすぎる。
もうキュン死してしまうレベルです。
しかしその本部には脳を喰べる化け物がいる。
だから紗夜さんにはできるだけ関わってほしくない。
だからこそ、このことは紗夜さんには口外しない方が良いんだろうな。
俺は彼女に手を引かれるままダンジョンの外へ脱出した。
帰りは簡単、元の道へ戻って入ってきた空間を通るだけだ。
そして脱出したと同時に、その入口が閉じていく。
これで攻略完了ってことなのだろうか。
外に出るともう日は暮れていた。
スマホで時間を確認すると、もう17時過ぎ。
あれ、そんな時間経ったのか。
というかダンジョン入った時間何時だっけな。
そんなことを考えていたら、
「先輩っ! お疲れ様です〜!」
俺のダンジョン帰りを待ってたかのように私服姿の瑠璃がそこにいた。
ちょうどいい、こっちは聞きたいことがあるんだ。
「あ、瑠璃! ちょっと……」
紗夜さんがそんな俺の言葉を遮る。
「ちょっと西奈さん? あなたが私の後輩をダンジョンに送り出したみたいだけど、どういうつもり?」
紗夜さん、めっちゃお怒りのようだ。
ど、どうしよう……。
「あら〜別にあなただけの後輩じゃないと思いますけど。まぁそもそも私の先輩でもありますし?」
瑠璃は彼女を煽るような笑みを向けている。
え、これ修羅場ってやつ?
恋愛初心者だから知らんけど。