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第32話 鑑定できないとしたら


 二手に別れて少し経った。

 俺達が進んでいる道は広いトンネルの一本道という感じだ。

 薄暗いが、周りはある程度見えるくらい。

 まぁモンスターが出ても対応できるだろう。


 それにしてもまぁ……気まずいったりゃありゃしないな。

 本部組は2人の空気が出ていてなんとも会話に入りづらいし、浦岡は言わずもがな一言も口を開かない。


 紗夜さん、大丈夫だろうか。

 池上に何もされてないよな。

 もちろん彼が『ギルティ』ってのもあるが、アイツも1人の男だ。

 あんな可愛い女性と2人だったら、いつオオカミさんになってもおかしくはない。


 うーん、ソワソワする。

 彼女がサークルの飲み会に行っている間ってこんな気持ちなのかもしれない。


 いや、きっと紗夜さんなら大丈夫だ。

 別れ際にあんなメッセージだって送ってきたし。


 そう、彼女は

 『何かあればすぐ電話できるように 』

 そんな文章を送ってきていた。


 俺はすかさず、

『紗夜さんもね 』

 と一瞬で文字を打ちこんで送信した。


 だから俺はポケットに入れたスマホを着信画面にしてある。

 沙耶さんもきっと何かしら対応してくれてるはず。


 俺はこの遺跡探索に集中しよう。


「にしてもマジでモンスターいないな」


 そうボソッとつぶやくと、


「ですねー!」

「あまり強いのが出てこられても困るけど」


「まぁいないに越したことはないですよね」


 お? 意外と会話になるぞ。

 なんか気まずかったからちょっと安心した。


「実は僕とヒナ、このダンジョンをクリアしたら冒険者辞めて結婚しようと思うんです。2人ともここまで頑張ってきましたが、このとおり戦闘には不向きで……でも結婚するには色々資金もいるし、最後に大型ダンジョンをクリアして大金を手に入れようって」


「ちょっとヨウスケ、改めて言われると恥ずかしいっ!」


「それはおめでとうございます! なら絶対に生きて戻らないと行けませんね!」


 ……ってフラグ立てるのやめて。

 いや、これをフラグと思う自分がいけないのか。

 アニメや漫画じゃないんだし。


 というかそもそも大金手に入るの?

 そういえば冒険者の給料的な部分、聞かされてない。

 ここ2週間忙しすぎてそれどころじゃなかったし。

 このダンジョン帰ってから紗夜さんに聞こう。


 ……いや、あれもフラグならこれもフラグか。


「……敵!」


 この声は、浦岡だ!


 ドスッドスッドスッ――


 戦闘の彼に目を向けると、遺跡の奥から無数の足跡が聞こえてくる。

 しかもかなり大きな音だ。


「ゴ、ゴーレム!?」


 ヨウスケが初めに声に出した。

 彼のその例えは概ね正しい。


 もちろんだがソイツには頭や胴体があり、四肢はいくつもの岩を連ねて形作っているようだ。

 そして大きさ自体は俺達大人と大差ないが、岩によって作られたその手はかなりの長さで、地面に引きずっていることも気にせず向かってきている。


「どんだけいるのよ!!」


 ヨウスケに続き、ヒナが叫びを上げた。


 その言葉のとおり、この薄暗い中で正確な数を判明するのは難しい。


 けどおそらく10体近くはいるだろう。


 ここは、鑑定眼を使う!


「……は!? 視えないんだけど!?」


 ついビックリして声を上げてしまったが、こんなことは初めてだ。

 今までモンスターや冒険者のステータスは視えていた。


 もちろんここで出会ったモンスターも例外ではない。


 あのゴーレムはこの眼の対象外ってことか。

 もしかして人工的に造られたものだったり?


 そして十数体にもなるゴーレムは少しずつ速度を上げながら迫ってきた。


「ヤバい! でも浦岡さんもいるし、なんとか……」


「土上級魔法【 土弾アースバレット 】」 


 ドゴンッ――


 浦岡は腕全体を大量の土で覆って頑丈な手を創り出した。

 そしてその手でカマしたラリアットは鈍い音を遺跡内に響き渡らせる。


 その技を喰らったゴーレムは粉々に崩れ去ったが、いつもの様にポリゴン状にはならなかった。

 やはり人工物なのだろうか。


「ヨウスケくんっ! こっちにもきたっ!」


 浦岡の技は間違いなく威力絶大。

 しかし大振り故に抜け穴も多く、すり抜けた残党がこちらへ迫ってくる。


 ヨウスケは腰に刺していた長刀を抜き、 


「ヒナ! 任せろ!! 剣技【 妖刀炎舞ようとうえんぶ】」


 そう唱えた途端、その剣身全てに青い炎が宿った。


 ザシュッ――


 ザシュッ――


 ゴーレム一体一体を一瞬で真っ二つにしていく。

 一体目は縦に、二体目は斜めにと、まるで剣と踊っているかのような華麗さで次々と倒していった。


 おお……。

 さすがD級冒険者。

 そして平日の公園で、堂々と魔法剣士だと自己紹介をするほどのことはある。

 彼もしたくてあんな挨拶した訳ではないだろうが。


「ヨウスケくんカッコイイっ!」


 そう言ってヒナは彼の胸に飛び込み、熱い抱擁を交わしている。


「君を守れてよかったよ」


 それから彼もまた彼女を強く抱き締め返している。

 無事で良かったけど俺は一体何を見せられているんだ。


 そして俺の足元にはゴーレムの残骸。

 近くで見てもこの正体はよく分からない。

 ただいつもの様に消えないということは、ここのシステムと何かしら違うのだろう。


 カタカタッ――


「え? なんかこの残骸まだ動いてるんだけど」


 俺の一言にヨウスケとヒナもゴーレムに目を向ける。


「うわっ! 本当だっ!」

「ヨウスケくんっ!」


 そしてそのゴーレムだった欠片達は再び身を寄せ合い、元の形に戻ろうとしている。


 これもしかして何度も復活する系のやつ?

 1番めんどくさいタイプの敵じゃないか。

 こういう時って大抵術者が居たりするんだよな。

 アニメや漫画の知識だけど。


「とりあえず復活する前にっ! 【 正拳突き⠀】!」


 シンプルな殴り技。

 普通に殴るよりは威力が高いらしい。

 そんな一撃を俺は、目の前で一生懸命元の形に戻ろうとしているゴーレムに叩き落してやる。


 俺の拳が目標にぶつかろうとしたその瞬間、


(専用パッシブスキル【魔力吸収】を発動します)


 いつもの音声が鳴り響いた。


 ……なんで!? 

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