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第36話 その頃紗夜さんは


 二手になったのはいいけど、海成くん大丈夫かな。

 池上さんだけでなく、あの浦岡って人もヤバい人ってのは間違いないと思うし。


 んーでもあそこで出したベストな二手だと私は思う。

 私なら1人でB級冒険者を相手できるし、向こうはD級が2人もいる。

 3人いれば、あの浦岡さんにも対応できるはず。


「紗夜さん、どうしました?」


 相変わらず池上は不自然なくらい満面の笑みをしている。


「あ、いえ何も」


「彼、海成くんのことが心配ですか?」


「えっ! いや、そんなことは……」


 顔に出ていたのか思っていたことを当てられたので少しビックリしてしまった。


「紗夜さんっ! モンスターです!」


「あっ! はい!」



 ナイト L v 24 HP 550/550 MP 25/25


 《スキル》

  【光の剣】【一文字斬り】



 西洋の全身鎧を着た騎士という感じのモンスターが数体。

 全員、腰に剣を差している。


「池上さん! ここは私が!」


「ではお言葉に甘えて」


 実のところここまではモンスターが現れても、池上さんの魔法で概ね倒してもらっていた。

 しかし魔道士系はほとんどの攻撃スキルにおいてMPを消費するため長期戦においてはやや不利となる。

 それに比べて剣士系は、ただ斬る分にはMPも使わない。

 体力的には疲れるけど。


 《アークナイト》


 これは私の職業だ。

 魔法剣士の最上位職。

 つまり魔法も使えるし、剣も振れちゃう。

 実に便利である。

 ただ欠点を挙げるのであれば、同レベルの魔道士系、剣士系に比べて威力は少し控えめなこと。


 ここまで池上さんに戦ってもらっておいて私は見ているだけ。

 そんなの申し訳なさが勝ってしまう。

 やっぱりもらった恩は返さないとね。


 ザシュッ――


 ザシュッ――


 ザシュッ――


「さすが紗夜さん。スキルを使わずに一刀両断とは」


「いえ、D級ダンジョンなのでこれくらいは」


「残り半分のナイトは僕が倒しましょうか? あまり連続で戦うとお疲れでしょうし」


「いいえ、ここまでは池上さんに戦ってもらっています。あなたこそゆっくりしてて下さい」


「紗夜さん、あなたは優しいお人だ。では僕はここでゆっくりさせて頂きますね」


 そう言って池上は少し地面が凸ったところに腰をかけた。


 ザシュッ――


 引き続き私はナイトを斬り続けた。

 これくらいの相手ならなんの問題もなさそうね。


 よし、最後の一体っ!


 ザシュッ――


「ふう……。ちょっと身体を動かすと気持ち良いわね……痛っ! 何!?」


 戦い終わって剣を鞘に仕舞った途端、膝裏にチクッとした感覚が走った。

 例えるなら注射針が刺さったような……。


 一体何が刺さったの?


 ゆっくり触ってみると、たしかに何かが刺さっている。

 それは細くて長い針そのものが膝裏にはあった。


 何か毒が塗られている可能性もある。

 慎重に抜かないと。


 スッ――


 はぁ……抜けた。


「紗夜さんどうしました?」


 池上は座ったままこちらをニコニコと見つめてきている。


「いや、私の足に注射針みたいなものが刺さっていて」


「あなたは本当に優しいお人ですね。自分のステータスを見てみて下さい」


「え? ステータス? まさか…… 」



名前 相羽 紗夜(神経毒)

階級 B級冒険者

職業 アークナイト

レベル 75


HP  840/840

MP  229/229


攻撃力 239

防御力 124

速度  116

魔攻  239

魔防  124


マナポイント 0


▼ 通常パッシブスキル

【鑑定Lv5】【痛覚耐性 Lv3】【自動回復 Lv3】


 専用パッシブスキル

【マジックバリア Lv2】【エナジーフォース】


 専用攻撃スキル

 【スピリットバースト】 【水上級魔法】 【水王の剣撃】



「神経毒……!?」


「僕を怪しんでいるところまでは良かったですよ? チーム分けも良かったですし。ただその相手に背を向けるのは如何なものかと思いますね」


 あの針を飛ばしてきたのは池上……。

 彼をよく見ると、吹き矢みたいなものを咥えている。

 くそ、油断したわ。


「やっぱりあなた本当に《ギルティ》だったのね。何が目的?」


「何って紗夜さん、あなたほどの冒険者なら知ってるでしょう? 死んだ冒険者からもアイテムがドロップすることを!」


 冒険者は亡くなると、モンスターと同様に粒子となり消えていく。

 亡骸が残らないのがこの力を手に入れた唯一の代償と言えよう。


 そして冒険者が亡くなったその場所には、その人の魔力を帯びたキューブ状の物質がドロップしているらしい。

 私達はそのキューブを《レガシー》と呼んでいる。

 ただ私は実際に見たことがない。

 本部ではそれを回収する部署があるからだ。

 そして回収した後は、各個人の石碑を建てその中に魔法で封じ込める。

 これが冒険者の追悼方法だ。


 レガシーにはその冒険者が集めたアイテムや余ったスキルポイント、マナポイントの全てが詰まっている。


 それなら他の冒険者がそのレガシーを使えばドンドン強くなれるんじゃ?

 って思うが、それは倫理的な面で行っていない。

 その人が存在したという唯一形に残るものだからだ。


 つまり池上はそれが目的。


「池上さん、あなたはこのダンジョンにきた私達のレガシーが目的ってわけね」


「うん、半分正解ですね」


「半分……?」


「レガシーが目的というのは合っていますが、僕達の狙いは紗夜さん、あなたのレガシーだけです。残りのザコを回収するために全員を殺しても本部にバレやすくなるだけですから」


「私だけ殺したとしてもバレるわよ。きっと久後さんがあなた|翠楼組《すいろうぐみ》を見つけ出す!」


「ハハハッ! まさか本当に僕と浦岡が《|翠楼組《すいろうぐみ》》に所属してると思ってるんですか? どこまであなたは素直な人なんだ!」


「うそでしょ……」


 そりゃギルティが証拠を残すわけないか。

 今考えたら簡単に分かることだった。


 あれ、身体が痺れてきた……?

 それに足元もふらふらする。


「おーようやく毒が効いてきましたか? さすがB級冒険者、毒が回るまで時間がかかりましたね」


 バタッ――


 今の感覚、私倒れた?

 身体が痺れていて、自分が立っているか横になってるかも分からない。

 頭もぐわんぐわんする。


 そういえば海成くんは大丈夫かなぁ。

 自分はもう動けないし、彼だけでも無事であってほしい。


 彼は冒険者になった日にE級ダンジョンを攻略した逸材。

 2週間でE級ダンジョンを2回もソロ攻略したなんて久後さんでも成し得てないんじゃないかな。


 きっと私なんてすぐ越していくと思う。

 それであっという間にS級冒険者に……。

 私はそんな彼を最後まで見守りたかった。


 なんで私最後の時に海成くんのことばっか考えてるんだろ。


 私にとって彼はなんなの?


 生意気で冗談ばっかり言って私と話す時、胸元ばっかり見てきて……そんな頼りなくてちょっとエッチな男の子。

 それでいてとんでもない可能性を秘めた冒険者。


 そうだ、そんな彼は……海成くんは私の初めて出来た大切な後輩だ。


 ドカンッ――


 何? 何の音?


 ドカンドカンドカンッ――


 何かが壊れる音がする。


 ドカンドカンドカンドカンドカンドカンッ――


 最後にものすごい爆音が聞こえた後にその音は鳴り止んだ。


「紗夜さん!! 大丈夫!?」


 あれ、この声海成くん?

 さっきまで彼のことを考えていたから幻聴が聞こえるのかな?


「ちょっと待っててね。池上を叩きのめしてくるから!」


 ふふっ。

 私の夢の中の海成くん、とってもカッコいい。


 それがここで覚えている最後の記憶だった。


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