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第37話 池上、ようやくお前をぶっ飛ばせる



 ドカンドカンッ――


「よっしゃ! やっと抜けた!」


 俺はヒナの言うとおり、最短を駆け抜けてきた。

 そりゃこの壁の向こうに紗夜さんがいるとなれば、それをぶっ壊して通るしかないだろ?


「まさか、本当に壁の先に行くなんて! 戸波さん、あなたバカなの? 助けてもらっといてこんなこと言うのもあれだけど!」


「いやいや、こっちが近いって言ったのヒナさんじゃん」


「言ったけども!!」


「まぁでも道案内ありがとう。ヒナさんの魔力感知のおかげで方向を間違えずに来れたよ! あとは向こうでヨウスケくんと浦岡を見張ってて!」


「うん、分かった! 戸波さんも気をつけてね!」


 そう言ってヒナは俺が開けた通路を引き返した。


「浦岡を見張る? まさかあなた達、あの人を倒してここまで来たのですか?」


 この声の主池上は今、倒れた紗夜さんの近くにいる。

 そして炎のエネルギーを具現化し、剣のようなものを手にしていた。

 アイツ、紗夜さんを刺すつもりじゃ……?


「そうだけど? その前に、お前の手にある剣、危ないな。【魔力吸収】」


 俺が池上に手をかざすと、ヤツの持っていた炎の剣が瞬く間に粒子へと変換され、俺の手に吸い込まれていった。


「海成くん、何をしたんですか?」


 俺の【魔力吸収】を見ても全く動じていない。

 それどころか池上は、興味津々といった顔でこちらを見ている。


「答える義理はないだろ」


「そうですね。では試しましょう。この炎魔法で」


 池上は手のひらに炎エネルギーを集め、それを足元で倒れている紗夜さんに投げつけた。


 ボォ――


 そしてそれは彼女の服に燃え移り、広がろうとしている。


「お前! バカかっ!!! 【魔力吸収】」


 火は一瞬で消し飛んだ。


 危ない。

 幸い彼女の見える部分には火傷もなく、服のお腹部分に当たる場所が焼け焦げ、肌が露出した状態になっている。


「なるほど。発動のタイミングも早いですね」


 コイツといい浦岡といい頭のおかしいヤツばかりだ。

 浦岡だって本気でヒナを殺しにかかっていた。


 コイツらが同じ冒険者?

 そう考えただけで胸糞悪い。


「もういい。黙らせてやる」


「そんなことができますかね。【雷狼刃】」


 池上は両手を前に出し、スキルを唱えた。


 その手から現れたのは大きな狼を模した雷エネルギーの塊だ。 


 バチバチッ――


 そいつが存在するだけでこの遺跡内に雷音が響き渡っており、ビリビリする感じが身体の芯まで伝わってくる。


 痛い痛い痛い――


 同じ空間にいるだけで伝わるほど莫大な雷エネルギー。

 今まで見たどんな上級魔法よりも迫力がある。


 その【雷狼刃】は俺に牙を剥けて襲ってきた。


「うん、大丈夫そうだな。【魔力吸収】」


 あんなに膨大なエネルギーまで吸収できた。

 どんだけすごいんだ、このスキル。


「アークメイジへと昇格した時に手に入れたスキル【 雷狼刃】まで吸収できるなんて……。上級魔法を遥かに凌ぐ威力なんだぞ!?」


 池上のやつ少し取り乱しながら喚いている。


 効かないものは効かない。

 仕方ないじゃないか。


「次はこっちの番でいいか? 【アークブースト】」


 俺はスキル名を叫ぶと同時に地面を強く蹴った。


 シュッ――


 その一蹴りは俺を池上の目の前へ運ぶほどだった。


 そしてまずは一撃っ!


「いつの間に!? ブフッ!!」


「まだだ! 【アークスマッシュ】」


「んぐっ!!」


 池上は大きく後方へ飛ばされた。


 そのまま俺はすかさず詰め寄り、


「もう一撃っ! 【炎帝の拳】」


「ヒィッ!」


 立ち上がろうとする池上に向かって拳を振り下ろした。


 ドンッ――


「ッ――!!」


 初撃はシンプルな打撃技、次に【アークスマッシュ】、【炎帝の拳】と連続で放ったのにも関わらず池上のHPはあと1割ほど残っている。


 B級冒険者に引けを取らず、ここまで攻撃を打ち込めたのも初めに発動した【アークブースト】のおかげだな。

 吸収した魔力を使って移動能力を向上できるスキル。


 ヒナの指示で壁をぶち破った時に得たスキルだ。

 少しでも速く移動できるスキルを――っ!!ってことでステータスさんに探して頂いた。


「海成くん……いや、海成さん。僕が悪かったです。悪ふざけが過ぎました。何も紗夜さんを殺そうとした訳じゃないんです。少し実力を知りたかったと言いますか……」


 地面にへたり込んでいる池上はつらつらと言い訳を並べている。

『ギルティ』のマーク、それに紗夜さんのステータスを見る限りアイツは神経毒を浴びさせた、そしてさらにはそんな彼女を炎魔法で燃やそうとする始末。


 これのどこが悪ふざけだ?


 実力を試そうとした?

 普通ならそんな相手に毒など使わない。


 やはりコイツは放っておけない。

 殺してやりたいが、それだと俺が『ギルティ』になってしまう。

 うん、半殺しだな。


「これ、HP無くなったらどうなんだろ?」


 単純な疑問が今浮かんだ。

 死ぬのか?

 それとも気絶するだけ?

 うーん、コイツで試すのもリスクが高いか。


「え、え、ええっとHPが無くなると意識を失います。それ以上の過度な攻撃は冒険者を死に至らしめる可能性があるということなので、HP全損は死の危険信号といったところでしょうか」


 池上は青ざめた顔をして、俺の疑問に答える。


 あれ、別に質問した覚えないんだけどな。


「待てよ? じゃあHPが無くなるまでは死なないってことか?」


「い、一応そういうことらしいです」


「ならお前のHPが無くなるまでスキルを使わずに殴り続けても大丈夫ってことだろ?」


「ヒィッ!! ご、ごめんなさいっ! 本当に……」


 バタッ――


 は?

 コイツビビって気を失いやがった。

 ステータスにも気絶中と記載されているし、演技ってわけでもないだろう。

 HPも0、精神的ダメージみたいなものが存在したのかな。


 しかし池上をこれで許すわけには行かない。

 地上に連れ出して、法的にそして社会的に終わって頂こう。


 あ、それより紗夜さんっ!

 無事かどうか確認しに行かないとっ!


 ……まぁ腹の虫も治まらないし、一発くらいいっか。


 ドスッ――


 ドスッ――


 あ、二発やっちゃった。


 池上をぶん殴った後、彼女の元へ駆けつけたのだった。

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