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第38話 さて脱出のお時間だ



「紗夜さんっ!!」


 彼女に近づいて第一声をかけた。

 傍から聞くとかなり大きな声だっただろう。

 自分でもこんな声出るんだって思うほどだったし。


 それでも紗夜さんはピクリとも反応しない。


 彼女のステータスにも神経毒、その表記が残っている。

 ということはこの状態異常が今の現状を引き起こしているのだろう。


「一体、どうすればっ!」


 すると通路から複数の足音が聞こえてきた。

 通路とはもちろん俺がこじ開けたやつだ。


 つまり、今向こうにいる3人の誰か、もしくは全員?

 複数の足音ってのも気になる。


 そしてその音の正体がひょっこり現れて、


「「戸波さん?」」


 よかった、本部の2人だ。


「2人とも、どうしたんだ? それに浦岡は?」


「浦岡はここですよ」


 ヨウスケは手にロープのようなものを持っている。

 そのヒモは金属で加工されているようだ。


 そしてその先はまだこちら側の通路まで辿り着いてない。


 グイッ――


 ヨウスケがヒモを強く引っ張り、ようやく姿を現した。


「浦岡っ!!」


 そう、そのヒモの先にヤツは括られている。

 今も尚気を失ったままで。


「さすがに起きても怖いなってことで《バインドロープ》使っちゃいました。本当は人に使っちゃいけないんですけど、今回は例外ですよねっ!」


「バインドロープ?」


「あぁ、これはモンスター捕獲用アイテムです。これで捕まえると、モンスターの動きを封じることができるんですよ。ただ無防備で且つ低レベルなモンスターに限りますが」


 そんなアイテムがあるのか。

 そもそもモンスターを倒さずに捕獲する場面なんてあるんだな。


「だからこれで浦岡も池上も捕まえれば、とりあえずは問題ないわっ!」


 そう問いかけてきたヒナは何もない手元からバインドロープを呼び出し、気を失っている池上に対して投げつけた。

 すげー! このステータスにアイテムボックス画面があるのは知っていたが、あんな感じで出てくるんだな。


 それから彼女は続けて、


「それで戸波さん、これからどーする?」


 これからどうするか、その問いは間違いなくこれから考えなければならないことだ。

 しかしその前に一つ解決せねばならない。


「紗夜さんが神経毒になっていて目を覚まさないんだっ!」


 こういった冒険者の知識が俺には皆無。

 ダンジョンで起こった事態についてほとんどのことについて対応ができない。


 こういう時、自分が新人だってことを嫌というほど痛感する。


「あぁ、その辺はヒナの得意分野じゃない?」


「そうね。ステータスに神経毒って表示されているものなら可能よ」


「それ本当か!?」


「えっ!? だ、だ、大丈夫だと思うけど?」


 ヒナは目を逸らしながら、そう返答している。

 心なしか顔を赤らめている気がするけど。


「あっ! ごめん!」


 俺は興奮のあまり彼女に顔を近づかせ、あまつさえ手まで握ってしまった。

 急いでパッと手を離す。


 ヨウスケくんからは冷ややかな視線を感じる。

 ごめん、ごめんよ〜。


「と、とりあえず紗夜さんの元へ行きましょ!」


 ヒナに続いて俺とヨウスケも紗夜さんに駆け寄った。


「ヒナさん、どう?」


「そうね、これなら治せると思う! ちょっと待ってね。【キュア】」


 彼女がそう唱えると、青色の光が紗夜さんの体を包み始めた。


「あの光は……?」


 あの魔法で神経毒が消える?

 紗夜さん、本当に治るのかな……。

 心配だ。


「大丈夫ですよ、戸波さん。ヒナのキュアはスキルレベル5。大抵の毒は治せます」


 そのレベル5がどれくらいのものを治せるのかは分からないが、熟練度が高いことに間違いない。

 今は彼女を信じるのみ。


 少し待つと、【キュア】によって放たれた青い光は少しずつ消えていった。


「終わった……のか?」


「えぇ、あとは紗夜さんが目を覚ますだけ 」


 俺は紗夜さんに目を向ける。


 ダメだ、まだ眠り続けて……!?

 今ちょっと表情が変わった?

 それに手の指も少し動いた気がする。


「ん、んっ……」


「紗夜さん!?」


「あれ……? 海成くん? それに本部のお二人も」


 彼女は倒れた身体をゆっくり起こして長座姿勢になった。


「紗夜さん、大丈夫ですか!?」


 良かった、本当に良かった。

 嬉しくて彼女に抱きつきそうになったが、そんなことしちゃダメだ。

 紗夜さんはまだ起きたてで頭もクラクラしているみたいだし。


「う、うん……。まだちょっと頭がボーッとして……。私なんでここで寝てたんだっけ?」


「紗夜さん、池上に神経毒を喰らわされて気を失ってたんですよ」


「気を失って……?」


 紗夜さんは眉間に皺を寄せ、一生懸命思い出そうとしている。

 そして何か思い出したのか彼女は急に顔をポッと赤らめた。


「紗夜さん……?」


「たしか夢の中の海成くんが……」


「え、俺がなんですか?」


「え!? ううん、なんでもないのっ! 夢の話!」


「紗夜さん、目が覚めて良かったです。まだ【キュア】をかけたばっかりなのでゆっくり動いてくださいね」


 そんな俺と紗夜さんの会話にヒナが割って入る。

 くそ、夢の話がどーとかって聞きそびれたっ!


 ……いや、紗夜さんの体調が優先か。


「あなたが私を助けてくれたのね、本当にありがとう!」


「いえ、私達は戸波さんに助けて頂いたので、お互い様ですよっ!」


「海成くんに?」


「はい、詳しい話は後でするとして……」


 ゴゴゴッ――


 ん?

 遺跡の奥から音が聞こえる?

 なんの音?


「道連れだっ……」


 目を覚ました浦岡が、何やらこっちを見てそう言ってきた。


「お前、何した?」


 俺がそう聞くと、


「すぐ分かるさ」


 ドドドドッ――


 さっきより激しい音だ。

 そしてその音に遅れて、奥から天井が落ち、砂埃が舞ってくる。


「これってもしかして!?」


 ヤツの土魔法による遺跡内崩落が始まったようだ。 

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