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第49話 社内見学も次の場所で最後か


 今日は武闘家先輩方との合同訓練の日。

 朝は少しだけ社内見学があるとか言ってたっけ。


 俺は昨日案内してもらった通り、冒険者用のエレベーターに乗って地下へ降りた。


 たしか今日は地下3階だったかな?

 ちょうど昨日行ったオフィスみたいなところだ。


 ちなみに昨日の朝、玲子さんがお話されていたあの場は週に1回行われる全体朝礼らしい。

 だから今日は自分の持ち場から始業とのこと。


 お、ちょうど地下3階に着いたな。


 エレベーターを出ると、昨日よりも多くの冒険者がその階を歩き回っている。


「ありゃ、今日は人が多いのな」


 俺がポロッとつぶやくと視線はこちらへ集まり、


「おはようございます」

「おはよー」

「戸波くんだっけ? おはよう! 今日も頑張ろうな」


 すれ違う人、目が合う人それぞれ声をかけてくれた。


「おはよーございます!」


 ビックリしながらも挨拶を返す。


 昨日の朝礼の時はもうポンポン陰口みたいなのが飛び交っていたのに、今日は一体どうなってるんだよ。


「あっ! 海成さん、おはよーございます!」

「おはよー、海成さんっ!」


 きた、俺の案内係達。


「ヨウスケ、ヒナさんおはよう! なんか今日色んな人に挨拶されるんだけど!?」


「ん? 朝はみんなこんなもんだよ? レベルアップコーポレーションは元気な挨拶がモットーだしね」


 そうなの!?

 久後さんそんなこと言ってたっけ?

 あ、でも今思えば紗夜さんと凛太郎は気持ちいい挨拶返してくれていた気がする。

 ねるさんと久後さんが例外なだけか。


「そうですよっ! 朝から声出して挨拶するのって気持ちいいものですしね」


 なんていい会社なんだ。

 スタッフは皆元気、働きやすい、休みは多い、このレベルアップコーポレーションは優良企業と言っていいだろう。


 命懸けじゃなければだけどなっ!


「たしかに挨拶された時、気持ちよかったわ。でも昨日朝礼の時、俺にグチグチ言ってたやつもいたけど」


「さすがに大人数ですし、そういう人もいますよ。ごく少数ですけどね」


 そりゃそうか。

 十人十色。

 会社の特色に従うものがほとんどだろうが、わずかにそうじゃない者もいる。

 それは当たり前の話だ。


「さっ! 社内案内午前中に終わらせないといけないし、早く行こっ!」


 ヒナはそう言って先頭に立った。


「ほらっ! 早くっ!」


 少し先で彼女は俺とヨウスケに対して手招きをしている。


「昨日あれだけお酒飲んどいて、よくあんな元気でるな」


 俺が感心していると、


「ヒナは家でも毎日お酒を飲んでるので、昨日の量くらいじゃあ飲んでないのと同じですよ」


「え、昨日ってハイボール何杯も飲んでたよな? たしかその後日本酒も何合か……」


「ああ見えて酒豪なんですよ。まぁそんなところも可愛いんですけどねっ!」


 そう言って俺にウインクをしてきた。

 全く可愛くない。

 とんだ彼女バカだ。


「へ〜そうですかい」


 俺はヨウスケをあしらってテキトーに前へ進んだ。



 ◇



 2人に案内してもらったのは、資料室や職業ごとの演習場、アイテムや武器が売ってあるショップなどなど。


 あのショップでは今持っている現金では手も出ないようなものばかりだった。

 あんなのどうやって買うんだって聞いたところ、ダンジョンで拾ったアイテムや鉱石を売ったり、日々の給料をそこに費やしたりしているらしい。


 一応この前の大型ダンジョンでアイテムとか鉱石とか拾っておいてよかった。

 それを売ってお金にするところもこの社内にあるらしいが、今日は定休日らしい。

 ったくこんな平日にお休み作るんじゃないよっ!


 仕方ない、明日以降に出向くか。


 ということでほとんどの階を知ることができた。

 残り一つの階を除いて。


「海成さん、次が最後です!」


「後は地下5階だけだな」


「まぁ私達はまず降りることないけどね」


「降りることない? それってどういうこと?」


「なぜかそこだけ立ち入り禁止なんですよ」


「立ち入り禁止?」


 こんな優良企業が立ち入り禁止にするなんてどんな危ない場所なんだ。

 だが入るなと言われると、入りたくなるのが人の性。

 研修中、どこかの合間を縫って立ち入ってみようかな。


「立ち入り禁止です。海成さん、本当に入ったらダメですよ!」 


「ダメなの……?」


「そんなに見つめてきてもダメなものはダメなんです!」


 ちっ!

 ヨウスケに海成くんの可愛いまなざしは効果がないようだ。


「海成さん、地下5階の立ち入り禁止エリアを踏み込んだものは生きて帰ってこれないってウワサだよ! 」


「えっ!? こわっ!! なにそのウワサ」


「踏み込んだ人がいないから知らないけどね」


 ヒナからめちゃくちゃ怖いウワサ話が飛んできたけど、全く信憑性がなかった。

 なんかビビって損したな。


「ま、とりあえず行きましょ?」


 ヒナのその一言で社内案内は再開した。


 慣れた足取りでエレベーターへ乗り込み、地下5階のボタンを押す。

 そしていつも通りグンッと加速し、降りるエレベーター。

 今のところ何も変わったところはない。

 そりゃそうか、まだ立ち入り禁止じゃないんだから。


「お、着いたか?」


「着きましたね」

「うん、着いた」


 それからゆっくり扉が開いていく。


 ……ここが地下5階か。


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