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第55話 相談できる人がいてよかった


「立ち入り禁止の立ち入りを命ずるっ!!」


 彼の矛盾した一言に対して耳を疑う。

 立ち入り禁止、入ってはいけないから立ち入り禁止。

 だと言うのにこの命令。


 とは言っても地下5階の立ち入り禁止エリア、俺自身気になっていないと言えば嘘になる。

 例え何かが起こっても久後渉、健斗の最強冒険者兄弟が後ろ盾になってくれることを考えればいい機会かもしれない。

 ちょうどニューロヴォアの調査にもなるし。


 なんて思っていると瑞稀が、


「リーダー、あそこに入った人は生きて出られへん……なんて噂があるのに入れと!?」


 怯え口調でそう言葉を吐いた。


 え、そんな怖いところなの……。

 さっきまで少し前向きだったけど、やっぱやめようかな。

 いや……でも健斗さんはなんで俺と瑞稀にそこまでのリスクを背負わせてまでそんなことさせようとしているんだ?


冬馬とうまが行方不明になった原因があるかもしれないんだ」

「……!? 冬馬はダンジョンで亡くなったんとちゃうんですか!?」

「表向きにはそうなっている。だがあいつは失踪直前、地下5階の監視カメラに写っていた」

「リーダー、だって冬馬のレガシーはダンジョンにあったって、そう管理課の人だって言っとったやん。それが嘘やとでも言うんか?」

「そうだ。冬馬はダンジョン攻略前になぜか地下5階にいた。そこで失踪したってことはそもそもダンジョンに行っていないということだ」


 そう言い放った健斗さんは俺の方をチラッと見て、


「海成くん……そいつは失踪したうちの一人なんだが、この話どう思う?」


 どうってこれニューロヴォアに話つながってるんじゃないか……なんてそんなことこの場では言えない。

 いや、むしろここで話をしている方が協力者も増えていいんじゃないか。

 うーん……でもまず瑠璃に相談した方がいい気も……。


「すまん、悩ましてしまったようだな。無理にとは言わん。できれば、で大丈夫だ」

「……健斗さん、なんで俺なんですか?」


 これは気になるところだ。

 自分で言うのもあれだが、今俺は『伝説の冒険者』やら『冒険者キラー』やらと変な通り名が付いている。

 そんなやつが本部でこっそり潜入みたいなことができるのだろうか。


「本部の冒険者は、その日その日である程度役割が割り振られている。ダンジョン攻略に行くやつ、作戦会議をするやつ、今日は非番のやつそれぞれだ。もちろん上層部が割り振るんだが、その情報はこのIDカードに登録されてるってわけだ」


 彼が手元にチラつかせているのはどうやら社員に配られる個人のIDカード。

 免許証みたいに顔写真と個人情報が記載されている。


「つまり本部の人はそれで管理されてるってことですか?」

「そうだ。だから本部の冒険者が少しでも不自然な動きをしていたら怪しまれる」

「だけど、瑞稀も一緒にってマズイんじゃ……?」

「せやっ! 海成くんの言う通り、いくらウチが隠密上手くなったからってあかんのちゃいます?」


 すると健斗さんは少し目を逸らして、


「ま、まぁ海成くんがいるんだ。研修の案内とか見学とかでまかり通るだろ」

「え……」

「リーダー、マジで言ってます?」


 ……このテキトーな感じ、間違いなく久後さんの血縁だ。

 そう思わざるを得ない。


「と、とにかくだ! 1ヶ月ある。さっきも言ったが、できればで構わない。いけそうなタイミングがあれば2人で声をかけあってみてくれ」


 ということで急遽、研修中に任務が課されたのであった。



 ◇



 そんなこんなで研修2日目は終わった。

 濃密だ、ここまで日々が濃いのなら体もたないよ?

 疲れた……。

 早く帰ってベッドで横になって寝たい。


「それはそれは忙しい1日でしたね〜。さすが先輩っ!」

「褒めてるのか貶してるのかどっちだよ、瑠璃……。俺はもうクタクタだ」


 そんな俺だが、仕事が終わったのにもまだ自宅へは帰れていない。

 じゃあどこにいるのか?


 それは少し遡ることになる。

 ひと通り今日の仕事を終え、帰宅しようとしていた俺は会社の1階フロントで、見覚えのある人物と遭遇した。

 俺を「先輩」呼びする人物などただ一人、西奈瑠璃だ。


 彼女はまるで待ち合わせでもしてたかのように俺を見つけたと思えば、大きく手を振ってくる。


 まぁ疲れてはいたけど、今日聞いた失踪の件について話したいと思っていたしちょうどよかったとは思っていた。

 さすがに1人で抱えるにしては話の規模が大きすぎてしんどいし。


 ということで全て今日のことを打ち明けようと決めた。

 ……もちろん話が話、誰かに聞かれでもしたらマズイ。

 そう思って「我らが秘密基地へ移動しましょうっ!」なんてご機嫌な様子で瑠璃は言葉を放ってきて、それに従って移動したわけだが、まさか再びやってくることになるとは思わなかった。


 そう、俺が今いるその場所とは『西奈瑠璃の自宅』だ。

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