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第56話 彼女を怒らせると怖い



 そう、俺は今再び瑠璃の家に来ている。


 やはりこのソファ、座り心地がいい。

 内心とてもお気に入りなので前と同じところに腰をかけている。

 彼女もさっきまでは以前と同じ配置に座り、話を聞いてくれていたが、今は台所で家事をしており、俺はソファごしにその姿を眺めているのだ。


「まぁたしかに周りには聞かれちゃダメだけどさ、仮にも可愛い女の子が二度も同じ男を連れ込んで大丈夫なのか? しかも……エ、エプロン姿で料理まで作ってくれちゃって……」


 トントンッと見事な包丁さばきを披露しながら、


「そんなのこの家に呼ぶなんて先輩だけですよっ! 他の男なんて気持ち悪いし……」


 瑠璃は顔を引き攣らせながらそんなことを言う。

 そういえば出会った時も俺とおじさんに対して彼女の態度は明らかに違うかったよな。

 どんだけ他の男の人嫌いなんだよ。


「な〜んて他の男の話なんてやめましょっ! 今は私と先輩二人だけなんですからっ」


 再び笑顔になった瑠璃はテーブルへ出来上がった食事を運んでいる。


「あ、俺手伝うよっ!」


 俺もソファから立ち上がり手伝いに向かうと、エプロン姿の瑠璃が俺のそばに来て、


「大丈夫ですよ〜。先輩はここに座っててくださいっ!」


 そう言って俺が座れるよう、テーブルにセットされている椅子を引いてくれた。

 えらく歓迎されているようでなんだか気恥ずかしい。


「あ、それと」と言って彼女はその場でぐるりと体を一周させ、その後エプロンの裾を指でひらりとさせて


「エプロン姿の瑠璃はどうですか? そういえば感想聞いてないですっ」


 少し恥ずかしそうに頬を赤く染め、チラチラと視線を向けてくる。


 うう……。

 見ないようにしていたのに。


 エ、エプロン姿もそうだけど、そもそもその下に着ている部屋着が問題なんだよ。

 なんというかパジャマなんだろうけどその薄いピンクのショートパンツがもう太ももの上2割くらいしか隠せてないんじゃないかという短さで、どうしてもその透き通るほど白く触らずとも分かる弾力のあろう太ももに目がいってしまう。

 それにエプロンという普段見ない家庭的な瑠璃の様子を見ると、イケナイ欲望が内から湧き出てくる、そんな感覚を覚える。


「むぅ……先輩?」


 俺が欲望を脳から抹消させようと俯いていると、彼女は下から顔を覗かせてきた。

 瑠璃は頬を膨らませて拗ねているような顔をしているが、そういう仕草が男心を刺激するのだと分かっているのだろうか。


「か、可愛いよ」


 くそぅ……。

 つい目を逸らしてしまった。

 冒険者になって少しは強くなったと思うが、女性への耐性は相変わらず童貞のままだな。


 自己嫌悪に浸っている俺の心と裏腹に彼女は、溢れるような笑顔を見せ、


「素直でよろしいっ!」


 そう言って再び料理を運び始めた。



 ◇



「もうお腹いっぱい……。美味すぎた……」

「先輩、ちょっと食べすぎでは?」

「仕方ない、こんな機会滅多にないんだし」

「手料理くらいいつでも作りますよ? 先輩のためならっ」


 おいおい……。

 そんなの付き合ってるみたいじゃ……なんて言ったら気持ち悪がられるな。

 だってこんなの勘違いしちゃうって。

 しかし職場恋愛は揉め事しか生まない、あくまでも俺の偏見ではあるが、全くの的外れということでもないだろう。

 きっと俺の性格上、彼女なんて作ったら仕事に集中出来ないしな。


 ここは話を切り替えよう。


 俺はコホンッと咳払いをした後、


「瑠璃、話の続きなんだけど、失踪の件で」

「先輩はそうやってすぐ話を逸らす……」


 少し彼女の不機嫌さが伺える。

 話の途中で話題を変えることに関して、瑠璃はよく思っていないんだな。

 次からもう少し気をつけるか。


 はぁーっと大きく息を吐いた瑠璃は、


「で、先輩はその失踪とニューロヴォアが関係してると?」


 真面目な雰囲気を醸し出し、話を再開させた。


「あぁ。だって本部からはダンジョン攻略中に戦死したって聞いたのに、その痕跡が何もないっておかしいだろ?」

「そうですね。先輩の言う通り、これは明らかにおかしい」


 やっぱり。

 瑠璃もそう思っているということはこれは黒に近い。


「この件、健斗さんに相談してもいいかな?」

「……それはやめた方がいいかもです」

「え、なんで?」

「失踪の件を上層部が隠しているということは冒険者の中にもニューロヴォアと繋がっている人がいると考えた方がいいと思います。なら健斗さんも信用できるかどうか……」


 そうか。

 健斗さんは武闘家の責任者。

 それにそれだけでなく、おそらく社内での立場もかなり上位の方だと容易に想像がつく。

 たしかにリスクが高いか。

 ……しかし俺は彼を信用したい、そんな気持ちも少しある。


「わかった。なら内密に調査するよ。せっかくだし、調査のために瑞稀から隠密のやり方でも教えてもらおうかな〜」

「先輩……。また女ですか?」


 突如空気が凍った。

 と同時に絶望的な恐怖という非具体性に溢れる感情が押し寄せてくる。

 まるでピラニアのいる川に飛び込んだかのような。


 目の前を見ると、笑顔の瑠璃がいた。

 彼女の笑顔って可愛いはずなんだけどなんだろ、目の奥が笑ってないというか……闇を抱えてそうというか。


 そうだ、何故だか彼女の前で他の女の人の話題をしてはいけないんだったな。

 そういう謎のルールが俺の中であったんだけど、久しぶりに会ったのでド忘れしてしまっていた。


 それからなんとか瑠璃を宥めることができたが、大変だったので次から気をつけよう、うん、ほんとに。



 ◇



 そして俺はこの研修中、本格的に地下5階、立ち入り禁止区域について調べることになったのだ。


 しかしこの数日聞き込みをしたり、地下5階をチラッと覗いてみたりしたが何も見つかることは無かった。

 まぁそんな簡単ではないわな。


 そんな中もうすでに忘れかけていたイベントが始まろうとしていた。


 本部主催の『武闘大会』だ。



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ここから⬇️『ハロワ冒険者』をお読み下さっている方は必ず最後まで目を通してください🙇

最後に重要事項お伝え致します。


皆様、『ハロワ冒険者』をいつもお楽しみ頂き、ありがとうございます。

もうご存知の方もいらっしゃると思いますが、昨日より新作の『未踏のダンジョンで育ったボクが父から引き継いだ竜の力を使って最強のハンターを目指す話~ハンター養成学校の令嬢を助けた姿が配信された結果、地上でシルバー様と崇められることになった~』を連載始めております。

そのこともあり、少し『ハロワ冒険者』のストックがかなり少なくなってしまいました💦


度重なるわがまま申し訳ないですが、新連載にも集中するという意味で『ハロワ冒険者』を1週間お休みさせてもらえたらと思います。

その間の箸休めといってはなんですが、どうぞ新作の方目を通して貰えると嬉しいです。

⬇️


https://kakuyomu.jp/works/16818093078305405964/episodes/16818093078319143139



そして1番重要な件。

本作品に関しまして、現在著しくPV、作品フォロワー低下傾向にございます。

私作者としましては長期目標として商業化ということを視野に入れております故、現状の『ハロワ冒険者』を3章の本部研修編で一旦完結にさせてもらおうと考えています。

ここまで応援して下さった皆様、本当にありがとうございました。

読者様がいらっしゃるからこそここまで書き切ることができました。

これからは新作に力を入れていくため、少し更新が遅れることもあるかもしれませんが、どうぞ最後まで『ハロワ冒険者』をよろしくお願いします!

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