「でもまぁ新たに理想の素敵な人と出会えたらその方がいいしね。まぁせっかくだし今日は楽しもう」
一葉が少しずつあたしが沈んでいくのを察知して、空気を切り替えてくれる。
うん、そんな身近な理玖くんとか相手にしなくても、絶対素敵な人いるはずだもん。
あたしをちゃんと相手にしてくれる素敵な人、今日出会えればいいな。
あたしは一葉のさっきの言葉が少し引っかかるも、そのあとは理玖くんを意識しないように、その場を楽しむことにした。
ってことで、せっかくの歓迎会。
美味しい料理と美味しいお酒を前にして、それからは気持ちがそっちに持ってかれ、しばらく堪能していると。
「こんばんは。ここ、いいかな?」
すると、少しイケメン風の男性二人組が空いてる席に同席しようと声をかけてきた。
「あっ、はい」
あたしは絶賛美味しい料理をひたすら堪能してる最中で、口をモゴモゴさせながら口を抑えて対応する。
「どうも。企画部の浦野です」「同じく企画部の神田です」
すると同席したその二人組の男性が爽やかに挨拶をしてくれる。
「あっ、営業部新人の楠です!」
「同じく新人の星川です」
そして、あたしと一葉も同じように挨拶。
「すいません。今全力で食べちゃってて」
「ハハ。だよね~。美味しそうに食べてんなぁと思って、つい話したくなっちゃってさ~」
と、浦野さんって男性が明るく返してくれる。
「え、見られてたんですか!?」
うわっ、恥ずい!
今ホントに食べるの美味しくて、こっちに集中してた。
まさかのこんなタイミングで来るのか。
「さっきの新入社員の挨拶の時から気になってたんだよね~。元気そうでいいなぁと思って」
と、爽やかに笑顔を向けながら浦野さんがスマートにそんなことを伝えてくる。
え、最初っからこんな感じなの!?
歓迎会が始まった最初の方に、新人は全員軽く挨拶をする流れで。
その時に相変わらず、あたしは張り切った元気な挨拶をしていたからだろうか。
まさかそんな感じでこの人の目に留まるなんて。
フフ。さすが大きい会社。
やっぱ出会いなんてゴロゴロしてるのかも。
「お酒は飲める方?」
「あっ、強くないけど好きです。特にこういう場では楽しくなっちゃってめちゃ飲んじゃいます」
「おっ、いいね~。どんどん飲んじゃおうよ。ならさ、オレのおススメのお酒あるんだけど飲んでみる?」
「あっ、はい!」
スマートな話し方で、どんどんこの男性のペースに持っていかれる。
勧めてもらったお酒も飲んだことない大人なお酒って感じするし、隣でどんどんいい感じに話しかけてくれるから、あたしも嬉しくなっちゃってどんどんお酒が進む。
一葉は元々年上の彼氏がいるせいか、もう一人の男性と話ししてても、軽くあしらいながらうまく適当にかわしてる感あるけど、あたしはそういうのわからなくて、気付けばずっとその人とかなり話し込んだりして。
しかもこの男性と同席する前に、すでに理玖くんにちょっとイラついてお酒の量がすでに進んでいたから、気付けばかなりのほろ酔いになってきているのがわかる。
あぁ、あたしお腹いっぱいになっちゃってお酒入るとすぐ眠くなるんだよな……。
この人の話聞きながらも、かなりうつろうつろしてきて、今にも瞼が落ちそうになる。
なんだろ。すごくこの人話しかけてくれるんだけど、すごく軽い感じがして、中身が全然薄っぺらく感じるんだよな。
だから全然頭に入ってこない。
しかも見た目がタイプだとか言われても、絶対違うだろってすでに心の中でツッコんでる自分もいたりして。
そんな見た目でどうこう言われるほどの魅力特にないのもわかってるから、そこを褒められても全然響かない。
あ~この人こういう感じで声かけるの慣れてるんだろうなぁとか思いつつも、でももし気に入ってもらえるなら嬉しい、とかも単純に思っちゃう。
恋愛に慣れてない自分にとったら案外こういう人のがいいのかなぁとか。
この人とずっと話してたら、付き合ったら彼女にだけ優しくするって言ってるし、そうなったら絶対他の女性が目に入らないっていう一途さもあるし。
顔的にはドストライクのタイプってわけじゃないけど、でもありっちゃあり。
だとしたら一途に自分を想ってくれるって面では、理想に近い人かもだし。
そこから付き合うかどうかは置いといても、この人ともう少し仲良くなりたいかも……?
と思ってるのに、やっぱりフワフワして今にも寝ちゃいそうでヤバい。
「あっ、あの……ごめんなさい。ちょっとトイレ……」
その男性がずっと隣で話しかけているのを一旦制止して、フラフラとトイレに向かう。
あ~ヤバい。ここまでなるのは予想外。
そんな強くないからお酒控えめにするはずだったのに、どこでこんなにお酒回ったんだ?
勧められたお酒結構強めだったのかな……?
一旦トイレに逃げ込んで、なんとか意識を取り戻す。
だけど、かなり眠い。
どうしよっかな。ここまで眠いと、あんまもう頭回らないかも。
結構もう歓迎会、皆バラバラになってきてるみたいで帰ってる人ももう増えてきたから、このまま帰ろっかな。
そう思いながらトイレを出た少し歩いたとこで、さっきの浦野さんが立っていた。
「楠さん。大丈夫?」
「あっ、はい」
「かなり酔ったんじゃない?」
優しくその浦野さんが声をかけてくれる。
「へへ。少し酔ったかもです。しかも、あたしお腹いっぱいになってお酒入るとちょっと眠くなる習性があって。今もちょっと……」
眠くなるのを必死にこらえながら浦野さんに説明をする。
そして、あまりにも眠くてつい身体がふらついてしまう。
その勢いで浦野さんが手を貸してくれて身体ごと支えてくれる。
「もうかなり限界っぽいね。オレ家まで送ってくから、そろそろ一緒に帰ろうか?」
顔を上げられないあたしは、俯いたままで耳元で囁かれるその声を聞いて「はい……」と頷く。
正直もう限界だな。
それなら一緒に送ってもらった方があたし的には助かる……。
と、ちょっと安心しかけた瞬間。
「おいっ!」
すぐそばで大きな声がして、空いている片側の腕からグイッと引っ張られる。
えっ!? 何!? 何が起きた!?
さすがの身体の激しい動きに、一瞬目が覚め辺りを見回す。
「は? 何?」
すると浦野さんが誰かに話しかけている。
「ん?」
眠い中、目を必死に開け、腕を掴まれてる側に目をやると。
え! 理玖くん!?
さっきまで浦野さんに支えられてたかと思ったら、今度は目の前に理玖くんの顔と身体が。
引き寄せられてるせいで、思ってた以上に近くにいたことで、さすがにあたしの酔いも一瞬醒める。