「えっ、なんで!?」
「はぁ~。お前何帰ろうとしてんの?」
「えっ?」
すると溜息まじりで、目の前の理玖くんが冷めた声で言う。
そんなあたしはまだ片側の腕を浦野さんに掴まれたままで。
なんかよくわからない状態で、目の前では呆れている理玖くん。
えっ……? 何? どういうこと?
そうじゃなくても頭が回ってないのに、この状況もまったく把握出来ない。
「すいません。こいつオレ指導してる新人で、このあとも急ぎの用事あって会社戻らなきゃなんですよ」
すると、浦野さんに理玖くんがそう声をかける。
え……? あれ? 急ぎの用事ってなんかあったっけ?
頭が回らないながら、とりあえず記憶を辿ってみる。
「は? こんな状態で仕事とかもう出来ないだろ」
「だからってこんな状態の後輩、あなたに任せるのも心配なんで、直属の先輩のオレが責任持って送り届けるんで大丈夫です。だから、その手。放してもらえますか?」
「……。わかったよ」
そう言ってあたしの手を浦野さんが思いっきり放した瞬間、勢い余ってよろけそうになってしまう。
「うわっ!」
すると、その勢いで今度はすっぽりと理玖くんの身体に埋まってしまう。
そしてそのまま理玖くんが身体ごと支えてくれる。
あたしはまだ状況がわからないまま、そのまま頭をフル回転させる。
「あの……。急ぎの用事って……?」
だけど、その急ぎの用事が思いつかなくて、そっと顔を上げて理玖くんに確認する。
「あ?」
すると頭上であたしの顔を見下ろしながら、しかめっ面で眉毛を潜めて怒っているように見える理玖くん。
「んなのあるわけないだろ」
「……え? ないの!?」
だよね!? やっぱそうだよね!?
こんな状況でも、さすがにその記憶は間違ってなかったよね?
「こんな状況だから、咄嗟に嘘ついただけだよ」
「な~んだ。よかった」
理玖くんからそう聞いてホッとして安心する。
「は? 何がよかっただ。全然よくねぇよ」
「え?」
だけど、なぜかまだ理玖くんはご立腹のまま。
「お前何無防備にそんな酔っぱらって連れてかれようとしてんの?」
「いや、それは……」
あぁ、えっ? そっち?
そういう意味であたしに怒ってんの!?
「別に無防備じゃないよ……。ちゃんと起きてるもん……」
「は? どこがだよ。お前グダグダじゃねぇかよ」
「う~……。だから一緒にもう送ってもらおうと思ってたんじゃん……」
ちょっとイラついてる理玖くんに、思わず気弱になってそう返すも。
「は?」
「……え?」
「お前。何言ってんの?」
余計になぜかイラついてる理玖くん。
え、なんで……。イラついてる理由が全然わかんないんだけど……。
「はぁ~。お前。マジどんだけチョロいんだよ」
すると今度はまた呆れながら溜息まじりにそう言われる。
「えっ、なんで今そういう話になんの?」
またチョロ扱いされて、あたしも思わず反論。
「いや、マジでお前なんもわかってなかったの?」
「だから何が」
「はぁ……」
もうだから溜息ばっかつかないでよ……。
理玖くんのこのピリピリした感じが伝わってきて、あたしもさすがにこの状況だと、どんどん酔いも醒めて冷静を取り戻してくる。
「お前あのまま連れてかれてたら、そのままヤラれてたぞ」
「……はっ!?!?」
すると、思ってもいない言葉が理玖くんから飛び出して、さすがにあたしも完全に正気を取り戻す。
「あいつ簡単に手出すやつで有名なんだよ。特に新人であいつのこと知らないヤツをいつも狙いがちで、今までも随分あいつに泣かされてるヤツいっぱいいるの知ってるから」
「え!? そうなの!?」
いやいや、そんな雰囲気あった?
いや確かにちょっと軽いなとは思ってたけど、まさかそんな最初っからそういう感じの人とかわかんないじゃん。
そんな人なら絶対うまくそういう部分気付かれないように隠すだろうし。
えぇ……、じゃあちょっといい感じに思えたのも、違うってこと……?
「はぁ……」
思わずその現実を知って深い溜息が出る。
「え、何」
「あの人、王子様じゃなかったんだ……」
思わず口からガッカリした感情が出てしまう。
「は? あいつが?」
「うん……。もしかしたらここからなんか始まるのかなって、ちょっと期待しちゃった……」
お酒が入ってるのとガッカリ感で、つい本音が出てしまう。
「ふぅ~ん……」
理玖くんも呆れてるのか微妙な反応。
――かと思ったら、そのままグイッと腰から抱き寄せられ、更に理玖くんと数センチの距離まで顔が近づく。
……えっ?
あたしはそのままのけ反りながら、一瞬の出来事にそのまま固まっていると。
「何? こんな風に始まるかもって?」
理玖くんが顔を近づけながら、甘い雰囲気を出して甘い表情で見つめる。
「へっ!?」
理玖くんのいきなりの行動に、あたしはどうしていいかわからず変な声を出して反応したまま、やっぱりそのまま動けなくなってしまう。
……って、いや、何この顔面。
再会した時支えられた時見た時と違う、今はちょっと大人の雰囲気のままの甘い理玖くんで。
見たことない色気を放ちながら見つめる理玖くんに、思わず吸い込まれそうになる。
その瞬間感じる、胸の高鳴り。
え、いや。何!
ドキッて何!? 違うから!
と、自分に言い聞かせつつも、その距離でその甘い雰囲気で見つめられると、その高鳴りも止められなくなるほどで……。
「じゃあ……オレと、このままどうにかなる……?」
そう言いながら、理玖くんは更に色気を帯びた目と表情で、あたしに怪しく色っぽく微笑む。
その瞬間、胸が止まったかと思うほどの衝撃になって、自分でも抑えられないほどの胸の高鳴りが早く打ち付ける。
何……これ……。
知らない……、こんなの……。