そして買ってきた材料を取り出し、一つずつ練習してきた料理を準備し始める。
用意してきた料理はエビアボカドのサラダ・ミネストローネ・エビマカロニグラタン。
これでもかってくらいのエビ尽くし!
どうせ理玖くんのために作るなら理玖くんが好きなエビを使いたかった。
そしてあたしの好きなアボカド。
更にそのエビとアボカドのコラボサラダ!
この前話してた時に、これは自分でもこの時に絶対作りたかったんだよな~。
このグラタンもトーストで作れるしミネストローネも煮込むだけで、比較的どれも失敗する可能性少ないから絶対最低限美味しく出来るんだよね!
だから理玖くん的にも絶対美味しいと言わざるを得ないメニューなのよ。
ハッハッハ。
これで理玖くんのご褒美はいただき!
「理玖くんの家、対面キッチンなんだね~」
料理を作り始めながら、向かい側のダイニングテーブルでパソコンを広げながら座っている理玖くんにそう声をかける。
「あ~。なんかそうみたいだな。料理あんま自分でしないからそういうのよくわかんないけど」
「え~もったいないね~。ここなら料理けっこう作りやすそうだよ~」
「なら。またお前の練習がてらオレにも作りに来てよ」
「えっ!?」
あたしを見て微笑んでサラッとそんなことを言う理玖くん。
特に深い意味なく話してるのはわかってるけど、無意識にそんな風に言われるとドキッとしてしまう。
その微笑んでる表情も、ただからかっているのか本気でそう思ってるのかもわからない。
だけど嫌じゃないからそう言ってくれてるはず。
「多分今日理玖くんがあたしの料理食べたら自分からそうお願いしてくると思うよ~。だから、そうなったらしょうがないから作りに来てあげるね」
「いや、オレがまたお願いするのかよ(笑)」
フフ。嬉しい。
食べる前からそうやって言ってもらえるのも。
たとえ彼女になれなくても、理玖くんとあたしの関係なら、彼女みたいな感覚味わえそうな気がする。
そんな風な幸せな気持ちになりながら、料理に集中していると……。
「何作ってんの?」
気付いたら背後に理玖くんの気配を感じる。
しかも、背後から手元を覗き込むようにあたしのすぐそばに顔を近づけて。
この前の颯兄と同じシチュエーションなのに、顔を近づける距離も雰囲気も全然違くて。
颯兄の時は同じことを聞かれてもこんなドキドキしなかったのに、理玖くんはこの距離感にもドキドキしてしまう。
いや、だってこんなカップル的な近い距離。
「沙羅?」
あまりの近さにあたしは手を動かしながらも後ろを向けずにそのまま身体は動けずにいると、そんな距離で隣から理玖くんが覗き込んでくる。
いや、無理無理!
自宅だとこんな距離感緩くなるのかよ!
相手あたしだって忘れてんじゃないの!?
いや、こんな距離感あたしが勘違いしちゃうから~!
「えっと……。秘密!」
そしてそんな動揺を悟られないように、あたしはなんとかそんな言葉にして誤魔化す。
「え~秘密かよ~」
拗ねるように言う理玖くんが背後からも可愛いが伝わってくる。
何これ何これ。
あたしにでもこんなラブい雰囲気出してくれるの!?
違うとわかっていても単純でチョロいあたしは素直にニヤけて喜んでしまう。
すぐそばにいる理玖くんにバレないように必死に表情は出ないように抑えて。
「知らない方が楽しみ倍増するから期待してていいよ」
そしてあたしは照れながらもそう伝える。
「ん。わかった。なんか手伝うこととかある?」
すると、そんな優しい言葉まで声かけてくれる。
「うーうん。大丈夫。ありがと。……てか、あたしが料理作る練習してるのに理玖くん手伝ったら意味ないじゃん(笑)」
そして本来の目的であることをあたしも思い出して笑いながらそう伝える。
「あー。そっか。すっかりそれ忘れてたわ。普通に沙羅がオレのために料理作ってくれてる感覚になってた」
と、また無意識にラブメーターを上げるような爆弾を落とすこの男。
くーっ! なんだよ! これが手かよ!
これで世の女性たちは、この男に落ちていくのか―!
あーもうこんな姿他の女性にも見せてるのかと思うとめちゃめちゃ嫌だけど、でもこういうとこを見てやっぱり理玖くんがモテる理由もわかってしまう。
こんなのキュンキュンどころじゃない。
理玖くんへの好きがどんどん増えていく。
あたしは理玖くんのために作って、ホントに自分だけで妄想お家デートをしてるようなもんだから、理玖くんの言葉は悶えるくらい嬉しい言葉で。
そうだ、たまにこの男はわかってないのか天然なのかこういうキュンとする優しさを見せてくるんだよな。
あー、もうこれ以上好きにさせてどうする!
こんな感じの理玖くんなら、このあと料理を食べる時、今以上絶対あたしは期待してしまう。
美味しいって言って食べてくれる理玖くんがすでにもう想像出来る。
ヤバい。もうこれだけで幸せなんですけど。
すると、背後から更に近づいて、両手を広げ囲うようにキッチンに手をついてホールドする理玖くん。
えっ! 何!? あたし捕まえられた!?
そして、片側からそのまま更に顔を近づけて下から覗き込み……。
「なら、出来上がるの、楽しみにしてる」
そう言って色気を帯びた目であたしを見つめ、フッと微笑む。
あたしは、上からその理玖くんを見た瞬間、心臓がキューッと切なくなって好きな気持ちと幸せな気持ちが溢れてくる。
「あっ、うん。期待してて」
そしてあたしはその気持ちがバレないようになんとか笑って返す。
そして、理玖くんは満足そうにまた元居た場所へ戻っていった。
あーダメだ。距離を縮めてくる理玖くんにドキドキとトキメキが止まらない。
こんな距離を縮めてきてくれるのなら、やっぱり気持ちを伝えなくてもこのままの関係でいいと思えてしまう。
少しでもそんな気持ちを本物じゃなくても味わえるのなら、それだけでいい。