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第107話 終止符①

 そして理玖くんとそんな話をしていると食堂に到着。


 なんとなくパラパラと席が空いてそうなので、注文してから席見つけるのでも良さそうだな。



「席空いてそうだし、先料理注文しちゃう?」


「そうだな。あ、ちょっと待って。向こうに仕事で確認しておきたい人間いるから、先行ってて」


「わかった。料理来次第、空いてるとこ探して適当に座っておくね」


「了解。適当に探すわ」



 理玖くんがそういって知り合いの人の元へと移動していく。



 あたしはそんな理玖くんを見送って、変わらず種類豊富な食堂のメニューの中でどれにするかワクワクしながら選び始める。


 そして今日もやっぱり魅力的だった日替わりランチを選んで、それを乗せたトレイを持ちながら、空いてる席を探す。


 ちらほら空いてるものの、いくら仕事上のペアとはいえ、理玖くんと二人だから、なんとなくたくさんの人がいる場所より、少し空きが多い奥の方の席を選んで、そこまで移動する。



 そして席を探していると。


「楠さん!」


 すると奥の席にいる早川くんがこちらに手を上げて合図しながら、あたしに声をかけてくれる。


「こっち!」


 早川くんは少しどうしようか迷っているあたしに、更に自分の方へと来るように促す。



 う~ん、この状況では、さすがに断れないよな……。


 さすがにあたしもそんな早川くんを無視出来なくて、とりあえずそっちの方へと足を進める。



「うわ~楠さんと会えるなんて今日食堂来て正解だな~。オレ今一人なんでぜひ前座ってください!」



 早川くんは、キラキラした笑顔で爽やかにあたしに伝える。



 うぅ~ごめん理玖くん。


 いくら理玖くん一緒とはいえ、さすがにあたしはこんな早川くん断れないよ~!



 心の中で理玖くんに断れを入れ。



「じゃあ、おじゃまします」


「はい! どうぞどうぞ!」



 あたしは早川くんの向かい側に座って、テーブルにトレイを置く。



 てか、よく考えたらこれっていい機会なのでは?


 周り人いないし、様子見てさりげなく伝えること出来ないかな?


 この状況理玖くんには申し訳ないけど、でも逆に断ると不自然だし、これは絶対仕方なかった!……はず。


 まぁこの状況見て理玖くんも嫌なら今日は来ないでしょ。


 さっき早川くんのこと話してたとこだし、それは理玖くんも納得してくれるはず!


 とりあえず何気ない話をしながら、話せるきっかけ探そうかな。



「楠さんも一人ですか?」


「えっ、あっ、もしかしたら一緒に来た人がここに来るかも……?」


「あっ、誰かとご一緒だったんですね! すいません!それなのにオレ引き止めちゃって」


「いや、全然」



 あたしは笑って答えるも、実際理玖くんがどうするかはあたしも正直わからない……。


 うん。これは理玖くんにお任せしよう……。



「あっ、楠さんも今日日替わりにしたんですね~。オレもなんです。めちゃ美味しいですよ!」


「あっ、そうなんですね~。これあたしの好きなものばっかり入ってるから、メニュー見て迷わずすぐに決めちゃったんですよね~」


「あっ、オレもです! オレは昨日から実はその情報仕入れてて、絶対今日は日替わり食べようと思って楽しみにしてきたんですよ!」


「えっ、そうなんだ!?  そこまでとかすごいね(笑)」


「はい。オレもうかなりここの食堂制覇してきてますよ」


「え~すごい!  あたしも絶対制覇したいんです~!」


「じゃあどっちが先に制覇するか勝負しません?」


「えっ? 勝負?(笑)」


「はい。それでもし勝負に勝った方は――」



 早川くんがその続き気を言おうとしたら……。



「こんなとこにいたのか」



 隣から理玖くんがトレイを持ってガタンと勢いよくテーブルに置いて、そのままあたしの隣に座る。



「あっ……」



 そうだ。理玖くんと一緒だった。


 確かにこんな奥で背中越しに座ってるとか、理玖くんにはちょっと見つけにくかったかも。



「てかどこにいるかわかんないから、すげぇ探したんだけど」


「す、すいません……」



 あ~やっぱり……。


 どことなく話しかける声が冷たく聞こえる。



「あっ、お疲れ様です。一緒だったの高宮さんだったんですね」



すると、早川くんが隣に座った理玖くんに気付いて声をかけてくれる。



「オレのこと知ってるんですね」


「そりゃもちろん! 営業でのエースの高宮さんは有名なんで。自分が入社した当初も高宮さんの活躍ぶりはたくさん聞いてきましたし、一番参考にすべき人だと教えられてきました」


「そりゃどうも」


「そういえばこの前は失礼しました」


「え?」


「居酒屋で楠さんと一緒だった時。まさかあの高宮さんだとは思わなくて……」


「あぁ~。いや、こちらこそ」



 必要以上喋ろうとしない理玖くんに対して、早川くんは自分から話しかけてくれる。



「あれ? でも、あの時、楠さん、高宮さんのことお兄ちゃんみたいな人だって……」


「あぁ! そうなんです。実は今はたまたま同じ部署であたしの指導係なんですけど、元々は高宮さん、兄の親友で。なので、あたしも小さい頃からの顔見知りなんです」


「あぁ~! だからお兄ちゃんみたいなもんだって。なるほど。納得しました」



 早川くんはそう言って、安心したかのような表情をする。



「でも、そんな人と一緒に仕事なんてすごい縁ですね~。もしかして楠さん、高宮さん追っかけてこの会社に入った、とか……?」


「いや! まさか!」



 あたしは手と首をブンブン振って否定する。



「ホントにたまたまなんです! たまたま入社したらまさかの先輩だったってだけです。しかももう何年も全然会ってなかったんで! この人のこと全然忘れてたくらいです!」


 ホントはずっと理玖くんのことはずっと頭の片隅にあったけど、そんな頃から重い自分だと思われたくなくて、思わず大袈裟に否定をしてしまう。



「そっか。じゃあ二人は偶然の久々の再会だったんですね。でもなんかそういう運命的なの羨ましいな」



 早川くんはホッとしたように微笑みながらそんな言葉をかける。




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