すると。
ガシャン!
隣で何かが落ちた音がする。
その音に気付いて、理玖くんの方を見ると。
「悪い。スプーン落とした」
「えっ、スプーン!?」
「ちょっとそっちの足元行ったっぽい」
理玖くんがあたしの足元の方をチラッと見て言う。
「えっ、こっちですか!?」
そう言いながらあたしは椅子を引いて頭をテーブルの下に潜り込ませて自分の足元を覗き込んで確認する。
すると、ホントに自分の足元の取りにくい場所にスプーンがあったので、さっき以上に椅子を引いて更に下を覗き込む。
そしてそのスプーンを取ろうとすると……。
急に覗き込んでいる片側の手を引っ張られる。
すると、そこに理玖くんも覗き込んでいるのに気付いて、一瞬そこで目が合ったことに驚く。
かと思ったら、そのまま理玖くんの方に引き寄せられて、そのまま理玖くんの顔が近づいてきて唇が重なる。
――!!!!
えっ! 何してんの!? こんなとこで!?
あたしは予想もしないその理玖くんの行動に、そのまま驚いて大きく目を見開いて一瞬固まってしまう。
「あんま嫉妬させんな」
すると理玖くんが小声でそう言ってあたしを見つめる。
あたしはまだ今起きたことに動揺したまま、そんな理玖くんを見つめたまま何も言えずにいると。
更にあたしの耳元に顔を寄せてきて。
「わかんねぇならいつでもオレのもんだって伝えてやる」
誰にも聞こえないように耳元で、そんな甘い言葉を囁く。
そしてあたしの顔を見て、意地悪く、だけど甘く微笑む。
あたしはそんな連続の甘い衝撃に一瞬で心を鷲掴みにされる。
何これ、何この上級テクニック。
絶対会社では何もしてこないと思ってただけに、こんな場所でこんなことをしてくるなんて予想外すぎて……。
てか、こんなん会社までされたらあたしの身が持たないんですけど――!!
「あぁ~。あった。あった」
そんな動揺しまくってるあたしを当の理玖くんは気にも留めず、そのまましれっとあたしの足元のスプーンを拾って、身体を起こしそのまま元に戻る。
「随分奥の変なとこまでいったんで探しちゃいましたよ」
「楠さんの足元にあったんですか?」
「はい。なんかこいつ無意識に蹴ってたんで見つけにくくて」
頭上で理玖くんが早川くんに話しかけている声が聞こえる。
え! あたし!?
今自分がこんなとこで、……すごいことしてたからじゃん!
理玖くんが早川くんと余裕に話しているのを聞いて、あたしはしゃがみ込んだまま一人じたばたする。
「楠さん? 大丈夫ですか?」
すると、早川くんが同じように覗いできて話しかけてきたことにビックリして。
「あっ、はい! 大丈夫です!」
と、そこで返事をしながら勢いよくその場で頭を上げる。
「いったー!!」
その瞬間、テーブルの下を覗き込んでいたことを忘れて、勢いよくそのままテーブルの下で頭をぶつける。
う~動揺しすぎて忘れてたー!
もう痛いー!
「えっ!? 楠さん!? 頭ぶつけました!?」
見えないままの早川くんの心配そうな声が聞こえる。
「はい~。頭ぶつけました~」
涙声でぶつけた頭をさすりながら、ようやくそのまま身体を起こして早川くんに返答する。
「ホントに大丈夫ですか!?」
「ブッ。お前何やってんだよ(笑)」
必要以上に心配してくれる早川くんと、ぶつけたあたしを見て吹き出しながら笑う理玖くん。
このー確信犯の悪魔めー!!
あたしはさすがに態度にも言葉にしないものの、心の中で理玖くんにそんな感情をぶつける。
今のあたしにはこの二人が天使と悪魔に見える……。
「あっ、スプーン落ちたんで、ちょっとオレ新しいのもらってきますね」
「はい」
そして理玖くんはそう言ってそんなあたしを余所にスプーンをもらいにいく。
もうなにこのからかい方!
付き合う前も今も、結局こんな振り回されて、あたしの扱いなんも変わってないじゃん!
でもまぁ、めちゃめちゃドキドキしたけど……。
こんなとこでもあんなこと言ってくるくらいなんだって、すごい嬉しかったけど……。
って、あー、こんなに相変わらず翻弄されて理玖くんの思うツボじゃん!