「楠さん……? まだ痛いですか?」
「えっ、あっ、もう大丈夫です!」
一人悶々としていると、早川くんが声をかけてくれて、あたしは目の前の早川くんに気付いて返事をする。
「ホントに、仲いいんですね」
「えっ?」
「この前から二人見てて、なんかその感じ伝わってきます」
「あぁ~。ハハ」
ここでどう言っていいかわからず、とりあえず笑って誤魔化す。
すると……。
「もしかして……。楠さんの好きな人って……、高宮さん、ですか……?」
あたしを見つめながら、静かに確信的なその言葉を聞いてくる早川くん。
「え……?」
あたしはまさかそんなことを言われると思わなくて、そのまま動揺して早川くんを見つめる。
ここでそう言った方がいいのかな。
好きな人は理玖くんで今付き合ってるって……。
っていうか早川くんなんで気付いたの……?
でもこんな流れでそんな簡単に言うのも失礼だし。
早川くんはホントにいい人だから、ちゃんと自分の気持ちを伝えたい。
「何? まだ食ってないの?」
すると、早川くんにどう反応しようか迷っていると、すぐに理玖くんが戻ってきてあたしに声をかけてきた。
「あっ、うん。食べる」
さすがに理玖くんも戻ってきて、ちゃんと言える状況でないことを判断して、あたしはそのまま料理を食べ始める。
そして早川くんを見ると、あたしにしかわからないような少し悲しげな表情をしながら笑いかける。
早川くん。もう気付いてるんだ……。
あたしはさっきの早川くんの表情が気になって、食べながら目の前の早川くんを気にかけてしまう。
チラチラと早川くんを見るも、今はもう普通にしていて。
そうだよね。そこまで気付いてるんなら、少しでも早くちゃんと伝えなきゃだよね。
「じゃあ、オレ食べ終わったんで先行きますね」
それから少しすると、早川くんがそう伝えながら、その場を立つ。
「えっ、あっ、うん」
「じゃあ、お先に失礼します」
あたしと理玖くんに挨拶をして早川くんがその場を立ち去る。
あたしはそれをその場で見送るものの。
「理玖くん。今、早川くんにあたしたちのこと、伝えてきてもいいかな……?」
どうしても早川くんが気になって、隣の理玖くんに声をかける。
「そうだな。これ以上目の前で他の男そんなずっと気にかけてんの見てんの嫌だし」
「えっ!?」
「てか、わかっただろ。あいつの気持ち」
「あっ、うん……」
さすがにさっきの早川くんを見て、あたしもわかった。
早川くんは早川くんなりの想い方で、あたしに合わせてくれてたんだなって。
軽い気持ちであんなことを言ってたなら、あんな悲しそうな表情きっとしない……。
「早川くん。あたしが理玖くん好きなこと……気付いてた……」
「そっ……。多分あいつそういうの気付いちゃうヤツなんだろうな。多分あいつ全部わかってるよ」
「やっぱそうだよね……」
「確かにあいついいヤツだわ。だからこそ、ちゃんとフッてやれ。想いを残すことさせんな。お前はどうやったってオレしか好きになれねぇんだから」
そう言ってまた余裕ぶった言い方をする理玖くんだけど、でもその言葉の反面、優しい表情もちゃんと見せてくれていて。
きっとこれも理玖くんなりの伝え方。
結局はあたしはこんな理玖くんが好きなんだってどうやったって思っちゃうし、そんな理玖くんに好きでいてもらいたいって願う自分がいる。
好きな人に想いが届かない辛さは誰よりわかるから。
中途半端にフラれたあたしが、あの時想いを残してしまったように、早川くんにもちゃんと伝えなきゃ同じようになってしまう。
あたしは奇跡的に理玖くんがそのあと好きになってくれたけど、でもあたしは早川くんのことは好きになれないから……。
「行ってくる!」
「ん。行ってこい」
理玖くんは、あたしを応援するかのように優しく微笑んで送り出してくれる。