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淡夢の時間

 それから少女と青年は何度か会いました。




 青年は少女が言葉を失ってしまったことに、はじめから気づいていてーー。




 青年の用意したスケッチブックでお話をしました。透明なポットに入ったレモネードを飲みながら。




「オレはツキシロ。全然売れてないけど、一応童話作家だよ。キミは?」


(ユシア。ツキシロはどうして童話作家なの?)


「好きなんだ子ども向けの物語が。オレ、外で遊ぶような子どもじゃなかったんだ。物語ばかり読んでたし。だからあたりまえのように、大きくなったら童話作家になろうって決めてた」


(物語かくのって、楽しいの?)


「楽しいよ、物語は自由にしてくれる。旅人になれる。どこにだって飛んでいけるーー明けない世界に嫌気がさしてたまに出ていくけど、やっぱり自分の生まれ育ったここが一番好きだ。箱庭の中で生きてる限りは気づかない幸せを、旅は気づかせてくれる。だからここは美しい」



(……あなたは。ーーとてもきれいだわ)



「キミの方が綺麗で、澄んでいると思うよ――まるでこの世界の月のようだ」




 話は一冊の物語になるくらい続いて。




 終わりのみえない物語のようで。




 いつまでも話していました。




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