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嫌われ者の黒髪乙女は王国退魔士に溺愛される~半吸血鬼の彼は私の血がないと生きていけません~
嫌われ者の黒髪乙女は王国退魔士に溺愛される~半吸血鬼の彼は私の血がないと生きていけません~
東雲飛鶴
異世界恋愛ロマファン
2024年10月29日
公開日
5.3万字
連載中
アカデミーで錬金術師を目指す少女ミラは、西洋人たちの中でひとりだけ黒髪の異邦人。そのため海藻頭とバカにされる日々を過ごしていた。 ある日、腰まである銀髪を持つ長身痩躯の美男子、KYな先輩シンクレアに一目惚れされて、渋々付き合うことに。 朝から晩までミラとイチャつくシンクレアの溺愛ぶりに疲れるミラ。しかし全身全霊でミラを愛するシンクレアに、いつしかミラは徐々にほだされていく。 ところがシンクレアにはどこか踏み込ませない部分があって、ミラはそこが引っかかって彼を受け入れることが出来ずにいる。 その頃、街では連続婦女誘拐殺人事件が発生しており、アカデミーにも不穏な空気が漂う。ミラの親友クリスが被害に遭い、犯人とそれを追うミラ、そして明かされるシンクレアの正体は――。 ・本作はこちらの短編を大幅改稿したものになります。 「錬金術師は眠れない」 https://www.neopage.com/book/30153394010082100

本文

第1話 白金《プラチナ》の恋人

「他の子のは絶対吸っちゃだめなんだからね?」


彼のベッドに横たわりながら、クギを刺す私。

その私を、愛しそうに見つめる彼。


「分かってる」


彼はギシ、とベッドを軋ませて私の傍らに体を寄せると、

私の首筋にプツリ、とやさしく牙を突き立てた。


「んッ」


痛い……。

彼は、痛みに耐えている私の手を握り、そして指を絡めたの。


だけど思いのほか痛みは続かなかった。

牙は皮膚を少しだけ突き破ると、その役目を終えたように去っていった。


「ごめんね、痛かったよね……ミラ」


耳元で囁くと、彼は遠慮がちに、ふたたび私の首筋に唇をつける。

そしてチュッと小さく音を立て、少しづつ血を啜りだしたの。

一生懸命横目で彼の顔をのぞき込むと、本当にうれしそうに血を吸っていた。


「初めての私の血、たくさん味わってね。今までずっと我慢してきたんだから」

「ん……」


 先輩は私の首筋から口を離さずに、短く返事をした。




      ◇◇◇




 私のふしぎな恋人、ユノスとの最初の出会いは、一か月前の錬金合成の授業の時だったわ。


 教授に助手として紹介されて、教室に入ってきた彼の第一印象は、綺麗だけど、どこか険のある人。鋭いというかなんというか……。

 でもすぐにヘラヘラ笑って、そんな印象はどこかに消えちゃった。あれって何だったのかな。



 いまも教授の横でヘラヘラしている青年こそ、先月から王立ローデア錬金術学院高等部で実験助手をしている師範科の実習生、ユノス・シンクレア、二十四歳。

 ちょっとネジが二三本吹っ飛んだ変わり者。


 長身痩躯を白衣で包み、腰まである白金プラチナブロンドの長髪を背中で束ね、整った顔には細い銀縁眼鏡、溢れる知性インテリジェンスを盛大にムダにした残念な男……。


 なにが残念かと言えば、 海藻頭で異邦人で八つも年下(見た目年齢で言えばもっとかな)の私を、人目も憚らずに溺愛するからよ。

 もーさいあく……。


 そうそう、自分のこと言うの忘れてたわ。

 私の名前は、ミラ・ヤマザキ、十六歳。ローデア王国生まれのヤシマ人。

 この春、王立ローデア錬金術学院高等部の一年B組に入学したばかり。


 私の両親は東方の小国「八州ヤシマ」の生まれで、親譲りの黒髪・黒目のために、子供のころからうとまれていたの。みんなより背が低くて童顔に見られがちな八洲人ヤシマじんの私は、クラスじゃお子様扱い。

 この国では、みんなして私の黒髪を『海藻頭』ってバカにするの。だから、いつか髪の色を変えるために、この錬金術学院に入学したのよ。綺麗な金髪になるために。


 で、学校の友達といえば、『ゴシップ大好き少女』のクリス只一人。おうちは大きな商社をやっていて、いわゆる富豪ってやつかしら。ご両親も貴族じゃないから遊びに行っても気さくなカンジね。

 彼女には、新しいゴシップのネタを仕入れると、誰かに話したくて仕方なくなっちゃう悪いクセがあるの。そのせいで、私はしょっちゅう授業中に頭を叩かれるハメに。そう、こんな風に――。


「またお前達か!」


 という中年男性の野太い声を号令に、『バンバンッ!』と分厚い本で何かを連打する音と、続いて女の子の『キャァッ』という悲鳴の二重奏ユニゾンが、講義室の高い天井に響いた。


 一拍おいて、どっと沸くクラスメート達。笑い声にまざって、『また海藻頭が叩かれてる』って悪口が聞こえてくる。


 そう。

 教授に頭を叩かれたのは、私と、親友のクリス。

 クリスが授業中、いっつも私に話しかけるから、今日も教授に叩かれちゃったんだよね。何度目かしら? これって完全にとばっちりよ!

 おまけに、ユノスも、教授の横で必死に笑いをこらえている。ひどいわ!

 当のクリスは、怒られたことも気にせず、呑気に金色のふわふわした巻き毛を指先で弄んでいるわ。


 クリスが嫌われ者の私と付き合ってるのは、彼女のゴシップに付き合えるのが私くらいのものだから。つまり、ほっといたら両方ともぼっち確定!

 そして意外なことに、彼女ってばろくに授業を聞いてないクセに成績がいいのよ。 勉強も出来て金髪だなんて、世の中なんだか不公平だわ。あーあ、クリスの髪、綺麗でいいなぁ~。



 こほん。

 話を戻すわね。


 忘れもしない、彼が一番さいしょに私たちの授業に登場した日のことよ。


 錬金合成の実習中、彼は各班のテーブルを回って、生徒たちにアドバイスをしたり、実際にやってみせたりしてた。

 そして私たちの班にやってきたとき、急に彼がおかしくなっちゃったの。まるでお化けでも見たときみたく、その場で固まっちゃって……。


 彼が私の顔を見るなり、へんなことを呟きはじめたの。

「き、君は……、いやまさか」


「あの、どうかされましたか? 助手さん」


 彼は真っ青な顔をして、

「ヤ、ヤヤヤシマ・ドールがしゃべった……」


「は? 両親はヤシマ人ですが……、れっきとした人間です!」


 ふつう怒るよね? こんなこと言われたら。

 しかも初対面の人にだよ?


「も、ももも申し訳ない! どうか忘れてください。はわわわ……」


 そう言って彼は、私に何度も頭を下げてくれた。

 ヘンな人だなあと思いつつ、まあいっかって。授業中だし。



 だけどその日以降、彼はストーカーになってしまったの!

 隠れ方が上手なのか、他の人に話しても誰も信じてくれなくて……。

 正直、怖かった。



 一週間くらい彼につけ回されて、本気で困って怖くなってきた頃――。


「ミラさん、ぼ、僕とお付き合いして下さいませんか!」

「ええええええええええ~~~!!」


 なんと彼が、学食でランチ中の私に告白してきたの!

 片膝ついて花束とか差し出してるし!

 恥ずかしいしこわいし!

 みんな見てるし!

 ももも、もう最悪!


 こんなの絶対断ろうって思ってたのに、


「僕のこの身が朽ちるとも、必ず君を護ります」


 って、真剣な顔で言われちゃった。

 普段あんなにフニャフニャした顔してるのに、こんな時だけズルい!


「え、あ、ううう……」

「ミラ、付き合っちゃえばいいじゃん。最近物騒だし」


 とかクリスが無責任なこと言ってくる。


「でもお……」


「ミラさん! お願いします! クリスさんも言うとおり、最近この街も物騒です。でも僕なら君を護れる。だから、どうか君の一番近くで護らせて欲しいんです! お願いします!」


 彼はさらに頭まで下げて、大声出すし。

 本気で困っちゃった。


「ミラは徒歩通学だし、護衛してもらったらご両親も安心でしょ?」

 ってクリスも、何故か彼をオススメしてくる。


「どうしよう……」


 でも、確かにこの街で、凶悪な犯罪が多発してるのは事実なの。

 それも、女性ばかりが狙われて……。


 彼に護衛してもらうのって、悪くないかも……?


「う~~~ん……。じゃあ、とりあえずはボディガードってことで……」

「ありがとう!! 今日からよろしく、ミラ!!」

「は、はあ……よろしくお願いします」


 彼は嬉しさが爆発しちゃったのか、私を抱いてぐるぐる回り始めちゃった。

 ああもう、恥ずかしくて死にそうだった……。

 途中でクリスが止めてくれなかったら、目が回って倒れちゃうとこだったわ。



 彼のこんな羞恥プレイのおかげで、私たちは一瞬で全校生徒の噂になってしまった。私も私で、自分の安全と天秤にかけた結果、気付いたらKYくうきよめないなロリコン男と付き合うハメに……。


 彼、私みたいな小さい子と付き合ってるからって、ロリコンって陰口叩かれてるのよ。当人は気にしてないようだけど、こっちが気になるわよ。



 こないだの夕方に彼と歩いていて、おまわりさんに職質されそうになった時には、さすがに慌てたわ。なんと彼が人さらいだと思われちゃったのよ。

 だけど、彼が身分証みたいのを見せたら、おまわりさんは急にペコペコしてすぐにいなくなった。も~、あやうく事件になるところだったわ。


 やっぱり不釣り合い、なのかな。

 私だって、すこし前までは、こんな年上の人に告白されるなんて思ってなかったもん……。



 あとになって気づいたんだけど、告白された時、なんで彼が凶悪犯と勝てるって信じちゃったんだろう?

 彼はどちらかというとスリムで、強そうには見えないのよね。

 なんだか騙されたような気もしたけど、彼がいれば犯人から逃げる時間が稼げるかも? ってちょっと思った。

 かわいそうだけど、女しか相手にしない犯人だから、彼ならきっと大丈夫よね。


 だって自分から、私を護るって言いだしたんだから。

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