「……お? あれは……」
目の前には見慣れぬ武装をした者達。
それらは皆立派な甲冑を身にまとい、統率の取れた動きで真っすぐに東へと向かっていた。
男は出陣したという信長の後を追って近道をしていたら、こんな所に遭遇してしまった。
「織田家でも……今川家でも無い……あれは一体……」
「あれ? もしかして……」
すると、背後から声をかけられる。
振り向くと、そこに居たのは女性であった。
「藤吉郎君? だよね?」
「……おお! あなたはいつぞやの! ……そういえば、あの時名を聞いておりませんでしたな」
「そうだっけ? 時田光だよ。改めてよろしく」
時田は藤吉郎の格好を見る。
「……その格好、織田家に仕えたんだ」
無論、藤吉郎が織田家に仕えていることは知っている。
恐らく、歴史通りに草履取りから取り上げられ、あの有名な逸話もやってのけたのであろう。
しかし歴史が変わっている可能性もあった。
時田は探り探り行くことにした。
「ええ! 信長様の草履取りとして下働きをしておりまして! 信長様の草履を懐で温めて居た所、その温かさから尻に敷いていただろと怒られてしまいましたが、懐の汚れを見てもらうことで信じてもらえて、信長様に気に入られましてな!」
藤吉郎は楽しそうに話す。
どうやら、史実通りに進んでいるようだ。
「ところで、時田殿はこのような所で何を?」
「え? あぁ……たまたま通りがかっただけだよ」
しかし、その実は違った。
報告により不審な者が近くにいると言うので、不安要素を確実に取り除くべく直接確認しに来たのだ。
「戦も始まってるみたいだし、私はおさらばするつもりだけど、君は?」
「ええ! よくぞ聞いて下さいました!」
藤吉郎は胸をドンと叩き、意気揚々と語り始める。
「この木下藤吉郎、信長様が出陣なされたと聞いたので、お助けに参るべく、こうして単身、出陣したのでござる!」
「ふぅん……」
木下藤吉郎。
つまり、豊臣秀吉が桶狭間の戦いでどう活躍したのか、詳しい事は分かっていない。
諸説あり、というやつである。
「まぁ、頑張ってね! それじゃ!」
そのまま時田はその場を去る。
「よろしかったので?」
物陰に潜んでいた小次郎と合流する。
念の為、すぐに助けに来れるように待機していたのだ。
「うん。彼は後の豊臣秀吉。つまりは明智光秀を討って天下を統一する人物。ここで死ぬことは無いって事」
「……」
しかし、小次郎は藤吉郎の後ろ姿を見ていた。
「どうしたの?」
「……彼が後に天下を統一するかどうかは置いておき、実はあの男はかつて今川家に仕えていたという調べはついております。もし時田殿が干渉した事で歴史が変わって居たのだとすれば……」
「……まぁ、史実でも今川家に仕えていたみたいだし大丈夫だとは思うけど……」
時田も戦場へと向かう藤吉郎の背を見る。
「一応、警戒しておいて」
「はっ!」
不安の種は増えるばかりであった。