「……案の定、ですな。」
「ええ。想定通りに御座います。」
三郎と如水は城下で喧嘩を繰り広げる黒田の兵と豊臣の兵を見ていた。
「しかし、本当によろしいのですかな?かなり損な役回りかと思いまするが。それに、一歩間違えば……。」
「ええ、構いませぬ。」
三郎と如水は城下町に降り、喧嘩を見に行く。
「では、ここでお待ち下され。」
「……うむ。」
三郎は喧嘩をする群集の元へ駆け寄る。
「何をしておる!」
「何者じゃ!関係の無い奴は引っ込んでおれ!」
黒田の兵は、三郎が豊臣方の人間だと気付かない。
三郎は群衆に入り込んでいくが、跳ね返される。
「ぐっ!」
「織田様!」
すると、すかさず群衆の中から虎助が駆け寄る。
虎助には豊臣側の人間として黒田の兵と騒ぎを起こすように指示していた。
「織田?まさか、織田の家中の者か!という事は……お前も豊臣の人間か!」
すると、黒田の家中の者が刀を抜く。
「丁度良い。織田の人間に痛い目を見せてやろう!お主等、織田家は落ちぶれておけば良いのだ!」
「……。」
黒田の兵が刀を振り上げる。
しかし、三郎は動かない。
「させぬわ!」
「ちぃっ!お前ら!やれ!」
刀を振り上げた男が虎助に抑えられる。
が、すぐさま他の者が三郎に殴りかかる。
ついには、豊臣方の者達と殴り合いの喧嘩になる。
三郎は反撃しなかった。
「待て!話を……。」
「うるせぇ!」
三郎は刀を抜く事は無く、呼びかけ続ける。
しかし、誰も応えない。
「何をしておる!」
「っ!如水様!」
そこに黒田如水が姿を表す。
すると、黒田の兵は手を止めた。
そして、黒田の兵は皆頭を下げた。
「そのお方はただの織田の家中の者ではない!豊臣方の総大将にも相応しいお方、織田三郎殿であるぞ!その気になれば、皆首をはねられてもおかしくはないぞ!お主等だけでは無い!黒田家を潰す事にもなるのだぞ!降伏し、命が助かるというのに無駄にするつもりか!」
如水がそう言うと、黒田の兵はすぐさま三郎に頭を下げた。
「も、申し訳ありませぬ!」
「いえ、良いのです。わかってもらえたのならば。」
すると、如水の直ぐ側から一人の男が駆け寄ってくる。
三郎から差し出された医者である。
「さ、こちらへ。手当致します。」
「うむ、申し訳無い。」
如水の元へ肩を貸されながら三郎は立つ。
「お主等の友を治して下さったのも、三郎殿が融通してくださったこの小寺勘助殿のおかげだぞ!」
「ま、誠に申し訳ありませぬ!」
三郎は頷く。
小寺勘助と呼ばれた男は、頭巾で顔を隠していた。
「……さて、如水殿。騒ぎも収まりましたし、そろそろ参りますか。」
「……そうですな。このお詫びは、必ずや。」
「……いえ、お詫びなんて何も。それより、あのままではもしかすると殺されていたやもしれませぬ。如水殿は、命の恩人にござりますな。」
三郎と如水は互いに見つめ合い、笑い合う。
「さて、そちらの医者は……勘助殿と申されたか。」
「は。小寺勘助にこざいます。」
「……うむ。三郎殿と栗山を宜しく頼みまする。三郎殿。傷が癒えた後、しかとお話しましょうぞ。」
三郎は頷く。
「ええ。では。」
「……勘助殿も、あとで。」
小寺勘助と呼ばれた男は軽く頭を下げ、如水の目を見て、頷く。
そしてその場を去っていった。
全ては三郎の思い通りにすすんでいた。