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No.07『未知なる村』

「なんだか、女性が多いなぁ。」


 タケルが『トニス村』について、最初に思った事だった。

 『トニス村』に入って、周りを見渡す限り女性しかいなかった。


「もうすぐ夜になりますし、依頼は明日にして、宿を探しに行きませんか?」


 エルスが後頭部に手を置きながらそういった。

 タケル達はそれに同意し、最初に見つけた宿へと入っていった。


 ──────────


「男1人。女性3人ですね。それでは1泊3万モガンです。」


 黒い服を着た中年ぐらいの女性の店員がそう言った。


「思ったより高いな…。」


 タケルがそう呟く。

 前いた、『スタト村』で同じぐらいの大きさの宿は、1人1泊で5千モガン。4人でも2万モガンなので、タケルは少し高いことに驚いた。

 しかし、サービスが良かったりするのだろうと思い、納得しようとした。その時。


「文句があるのなら、泊まらなければいいんじゃないですか?」


 店員がそう返してきた。


「え、えぇ。」


 あまりにも無礼なその態度に、タケルが若干引いていると、チリが文句を言った。


「なんて失礼な店員なんでしょう。タケルさん。この宿やめましょう。」


 それに、デュランも同意する。


「うむ。他人の戦い方には文句は言わぬ主義だが、さすがに接客として良い態度とは言えぬ。そういうことには、文句もでるぞ我は。」


 チリとデュランは、エルスとタケルの手を引き、宿を出る。


 ──────────


「ほんと、無礼な方でしたわ。もう、適当な店でご飯を食べて、野宿でもします?」


 チリが頬を膨らませながらそう怒る。


「で、でも野宿って危険じゃないか?」


 タケルがそう心配するが、それにチリが答える。


「私も冒険者の端くれ。多少の野宿は経験済みです。警戒すべきことは分かっておりますし、夜の私はそこそこに強いですから。ある程度の魔物なら蹴散らしてやりますよ。」


 そう胸を張るチリ。

 タケルが、「そ、そう言うことじゃなくて…。」と何かを言おうとするが、デュランもチリの意見に同意した。


「うむ。まぁこの村に長居せぬのならそれもありだろう。魔物の襲撃なら我がお主らを守ってやろう。」


「い、いや。だから。魔物もそうだけど…。」


 タケルの煮え切らない言葉に、チリとデュランが文句を言う。


「まったく。タケルさんは何が言いたいんですか?」「若者よ。言いたいことは、はっきり言え。」


 それに、エルスが呆れたように言う。


「どうせ、ご主人様はボンボンだから、野宿なんてしたことないし、したくないんじゃないんですか?」


 タケルはその指摘に「うっ。」と反応する。

 それを見て、チリが不満そうな顔をしつつ言う。


「じゃあ、いいです。先にご飯食べてそのあと2つか3つぐらい他の宿も見てみましょう。それでもああいう店ばっかりだったら野宿ですからね?」


「う、うん。ありがとう。」


 タケルはチリの意見に感謝し、その後『トニス村』のギルドで食事を注文しようと、メニューを確認する。


「あれ?このメニュー表。値段が書いてない。」


 タケルはメニュー表を見ながらそう言う。


「本当ですね。どこのメニューにも値段が書いてありません。」


「うむ。一切書かれてないと不安になるな。」


 チリとデュランも、タケルの言葉に同意する。

 そして、エルスは…。


「ご主人様。私はこの『アサルトバイソンの高級ステーキ』が食べたいです。」


 あからさまに最も高そうな料理を真顔で指さしていた。


「おい!あからさまに高そうなもんを選ぶな!!」


 タケルがすかさずツッコミを入れる。

 その様子に、周りがガヤガヤし始める。

 その雰囲気に、タケルが「(声が大きすぎたか…。)」と思い恥ずかしくなる。

 そして、タケルのその姿を見たうえで、エルスがあえて言う。


「あ~あ。ご主人様がうるさいから、周りに迷惑をかけちゃったじゃないですか。」


「いや、誰のせいだよ!!」


 さっき、恥ずかしがってたとは思えない速度で、エルスにツッコミを入れるタケル。

 しかし、その光景を見て、周りにいた女性客が文句を言う。


「さっきから、聞いてたけど。アンタ五月蠅いのよ!周りの迷惑だって分からないの?これだから男は…。」


「ほ~んと、男って周りの迷惑を考えないよねぇ~。」


 2人の女性客に文句を言われ、タケルは頭を下げる。


「ご、ごめんなさい。」


 ──────────


 結局、タケル達は『自分の頼んだ物は自分で払う。』という約束の元、タケルは安そうな『ハンバーグ』チリは『スパゲティ』エルスは『サラダ』デュランは『そば』を頼んだ。

 途中、タケルが呼んだ時は店員が来ず、デュランが呼んだ時は来たり。タケルの食事だけ、異様に遅く来たりなどあったが、4人は食事をとる。


「しかし、以来の孫がおらんな。」


 デュランが、食事をしながら言う。


「青い髪の齢16の男性…。」


 デュランが目をキョロキョロさせて言う。


「元より、この村に来て、タケル殿以外の男性を見ていないぞ。」


 そう、この村に来てから、どこを見渡しても女性しかいなかったのである。

 タケル達はそこに疑問を少なからず抱いていた。


「とにかく、今日は寝て、また明日探すとしようか。」


 デュランのその意見に、皆が同意し、タケル達は会計をし始める。

 しかし、その会計で、問題が起きた。


「はぁ!? 俺の頼んだハンバーグだけが1万モガン!?」


 タケルが驚きの声を上げる。

 タケルが頼んだ、ハンバーグは、『スタト村』ではよくて、千モガンをちょっと過ぎる程度の物。

 10倍ものの値段を言われ、驚かないはずがない。


「しかも、俺以外はタダってどういうことですか!?」


 タケルの言葉に店員が呆れたような態度を取る。


「なに言ってるんですか、アンタ。女性は無料、男がその代わりに多く払うなんて常識じゃないですか。」


「いやどういう理屈!?」


 タケルがツッコミをいれると、周りの女性がタケルの方に集まってくる。


「アンタさっきからうるさいのよ!それに非常識にもほどがあるわ!! 今まで不当に苦労させてきた女性の為に男が金を払うなんて常識だし、男の分際で女性の言葉に意見するなんて。女性が奴隷として働くのが当たり前だった古臭い考え方の時代遅れ野郎?」


 女性客のあまりもの勢いに、タケルは圧倒される。


「(おおう…。なんか差別思想の強い人だなぁ…。元いた世界にもいたなぁ。こういう人。結構どこにでもいるんだなぁ。)」


 タケルがそんなことを思っていると、チリが突然。女性客に詰め寄った。


「ちょっと、お前ら!いい加減にしたまえ!さっきから聞いていればタケルを悪く言い過ぎではないか!確かに、こいつのツッコミは度々うるさいと思わないことは無いが。」


「おい!」


 さらっと言われた、チリのツッコミ批判にタケルがツッコミを入れる。


「だが、女性が無料は嬉しいとしても、その分の負担をタケルにさせるのが当たり前というのは許せん。奢ってもらったらうれしいが。」


「ねぇ。かっこいいシーンで定期的に本音がポロリするのやめない?」


 チリはタケルのツッコミを無視して続ける。


「それどころか、タケルを時代遅れ野郎なんて言い過ぎだぞ!元より、吾輩が生まれた頃ですら女性のほとんどが奴隷のように働いてた事なんてなかったぞ。お前ら、そんな気建ての良い服を着て、奴隷であったことなどあるのか?」


 チリの言葉に女性客が再び怒り出す。


「何あんた!男の味方なの?男に媚び売って、自立も出来ないのね!それに私が奴隷だった過去があるとかないとか、どうでもいいじゃない!!」


 女性客の言葉に、チリが鼻で笑う。


「なんだ、お前ら当事者でもなんでもないじゃないか!それなのにあんな差別的な発言を当事者の代弁のように。当事者に無礼と思わんのか。」


 チリの言葉にエルスが賛同する。


「そうだそうだぁ。奴隷の私に謝れぇ!」


 エルスの言葉に、周りが余計にザワザワする。


「あの子、奴隷だって。」「というか、あの男の周りの奴ら全員あの男の奴隷なんじゃないの?」「きっと制裁が怖くて男の味方をしてるんだわ。」


「ちょっと待て!俺、そんなことしてねぇから!!」


 周りの批判に、タケルが否定すると、再びエルスが賛同する。


「その通りですよ。ご主人様は、『奴隷の扱い』のの字もないような愚か者ですよ!私に〇〇ピー〇〇ピー〇〇ピーもしないんですよ!!」


 エルスの言葉に、さらに周りがザワザワする。


「あの子、あんな下品な言葉を。」「きっと、あの男に教え込まれたんだわ。」


 タケルの、周りからの評価がどんどん下がっていく。それに気づいていないのか。エルスがとどめを刺す。


「あ、でもお風呂覗いてきたか。」


「おいーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!??????!?」


 今まで以上に大きなツッコミをエルスに向けるタケル。


「いや、本当のことじゃないですか。ねぇ?チリ様?」


 エルスに急に言葉のボールを投げられたチリは、慌てて「ま、まぁ…。」っとそれを肯定してしまう。

 それによって、周りのざわつきはどんどん大きくなっていく。


「い、いや。あれには理由があって…。」


 言い訳をしようとするタケルに、デュランが声をかけた。


「タ、タケル殿…。そ、そういうのはいけないと思うぞ。うん。」


 憐れむ目で見てくるデュランに、タケルが慌てる。


「ま、まって…。」


 タケルが、何かを言おうとした時、急にギルドのドアが空く。


「なんだ!? なんの騒ぎだ!!」


 そして、黒い短髪に、黒い目、黒い服を着た、腰に赤い剣を持つ人物がギルドに入ってくる。

 背が高く、中性的な顔と格好からは性別が分からないが、声の高さや、まつ毛の長さ、胸の大きさがその人物が女性であることをハッキリとさせる。


「あ!フミエ様!! この男が、その周りの女性にあんなことやこんなことを、した挙句。風呂まで覗いたらしんです。しかも私達にも迷惑行為をしてきて、困っていて。」


 女性客の言葉に、長身の女性。フミエと呼ばれた彼女が、タケルを睨みつける。


「なんだと…。」


 づんづんと近づいてくる彼女に、タケルは慌てる。


「ま、待ってくれ!俺は、不当な支払いを求めるこの店に意見を言っただけで…。」


「不当な支払い?ここはタダだろうが。まさか、私が。お前らみたいな男の言葉を簡単に信用すると思ってるのか?」


 そう言ってフミエは、タケルに手錠をかける。


「え!?」


「迷惑行為疑惑、さらに、覗きの疑惑。そして、私に嘘をついた罪で、お前を逮捕する!!」


「ま、まって!!」


 タケルの抵抗虚しく、彼はフミエに担がれながら連行されてしまった。

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