目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

「共犯者を手に入れた」③

 「俺のことを教えろ、って……」


 自分語りを求められて、カイラは言葉に窮してしまう。自分のこと…特に学生を卒業してから現在の自分についてを教えるのは、非常に気が引けることだった。話したくない、という気持ちが真っ先に浮かんだ。


 「……………」


 しかしながらと、カイラはその考えに待ったをかける。自分のことを知りたがっている目の前の相手は、カイラが忌み嫌うような有象無象の人間ではない。

 彼女になら今の惨めな自分のことを話しても、引かれたり軽蔑されたりしないのでは、と期待もする。


 「分かった。教えるよ、俺のこと」


 何よりも噓偽り無い今の自分のことを、誰かに知ってもらいたい、その上で自分を受け入れて欲しい、認めて欲しいという欲求がカイラにはあった。故に自己紹介の続きを話すことにした。


 「まず、今の俺は無職だ。ニートだ。一年もそれが続いていて、貯金もそろそろ尽きようとしてる。明日食う飯にも困ってる状況に陥ってる、まさに底辺の人間、世の中の負け組ってやつだ。財力も地位も人望も無い、どうしようもない奴だ」

 「……………」


 自虐気味に自分を紹介していくカイラの話を、彩菜は黙って聞き続けていた。それからもカイラは子どもの頃、大学の陸上部で活躍していた頃、そこから挫折して就活にも落ちぶれたこと、民度が低い人間が集った(カイラの中ではそうだった)ロクでもないとこで勤めていた頃、無職になった時とそれからの日々のことなど、全て話していった。


 (何だ?気が付けば彼女に全部話してた……。途中から何だか話しやすくなってて、べらべら話してたな。彼女がそれだけ聞き上手だったからなのか……)


 自分の半生を喋り尽くしてしまっていたことを、カイラは不思議に思う。話を聞いている間の彩菜はずっと黙ったままで、時々興味ありげに頷いたり話の内容に合った表情を見せたりと、カイラが予想した通り、話の聞き上手っぷりを発揮していた。


 「……桐山さんなりに辛い思いをしてきたのですね。周りが悪いせいで、桐山さんが悪い人扱いされて除け者にされてしまった…。私を助けてくれた、とても優しい人なのに」


 さすがに彼女の中で自分に対する美化補正がかけられ過ぎてると、カイラはそうツッコむのは止めておいた。


 「……真部さんも話してよ。俺だけ話すってのは不公平だし。あんたがどんな人生送ってきたのかも聞いてみたくなった」

 「あ、はい……。あまり面白くない話になると思いますけど、それでもいいなら、話します」


 そうして今度は彩菜の自分語りが始まった。


 真部彩菜 23才。実家がかなりの金持ちで、彼女自身も自力でかなりの資産を有している。現在も投資で生活費を稼いでいる。

 小学・中学・高校と勉学では常に学年トップレベルの成績を修めていたが、運動は得意ではなかった。

 成績優秀な彼女だったが、友達は全然いなかったとのこと。されど虐めには遭ってもおらず、どの学年でもクラスでは空気のような存在だった。

 去年高校を卒業したが、大学へは進学しておらず、今はカイラと同じ無職の身となっている。

 大学へ進学しないことについては両親と揉めて、それが原因で家を出て(その際ある程度の資金をもらった)、一人暮らしを始めた。それ以来実家からの経済援助はなく、仕送りもされていないのだが、資産運用で成功し続けていることが奏して、彼女は今でも豊かな暮らしを続けられている。


 「親が大手会社の社長で、その親たちはあんたを次期社長として迎える為に進学を勧められたけど、あんたはそれに反対して、親たちと喧嘩したんだな?」

 「はい……」

 「それでも一人で食っていけてる…大成功している投資家、か。俺と違って勝ち組なんだな」

 「え……あの、ごめんなさい」

 「いや謝る必要はないけど……。それよか学生時代はそんなフリフリの可愛い感じじゃなかったんだな。いつからそんな格好をするようになったんだ?」

 「えと……高校を卒業してからです。その頃に観てたアニメの女の子に影響されて、イメチェンしてみたんです。この髪も元は黒で、この瞳もカラーコンタクトでこんな色にしてるんです。

 まぁ、イメチェンした自分を見せる友達なんていなかったから、ただの自己満足に終わったんですけど……」


 そう答えて彩菜は自嘲して暗い表情を見せる。そんな彼女にカイラは何て声をかけていいか分からず黙ってしまう。空気を重くしてしまったと思った彩菜は慌てて取り繕いだす。


 「あの、私も人望が無くて、会って遊ぶ友達も全くいなくて、一日のほとんどを家で過ごす日々ばかりしてますけど、私はそんな今の暮らしを割と気に入ってると言いますか……。元から親とも仲は良くなかったから、家から出て行って後悔もしていませんし。生活も自分一人を食わせる分には困らないレベルで安定させてますし……」

 「……うん。何か過去のことを気の毒とか思えなくなってきたな。あんた凄いなぁ。まだ23才でそこまで安定した暮らしの土台をつくれてるんだから」

 「そ、そうですかね……」


 カイラに褒められたと思ったのか、彩菜はにへらと照れ笑いする。


 「てか、今日はどうして外に出歩いてたんだ?家に引きこもってる日々を送ってるんだろ?」

 「単に数日分の食料を買い溜めするために外出してたんです。けれどスーパーかコンビニに行く途中で、あんなことが起こってしまって……」

 「そっか。それは災難だったな。お互い、外に出ることにおいてロクな事しか起こってないな。

 ……そうだ、あんたも晩飯まだだったよな?手痛い出費になるけど今から何か出前取って、ここで一緒に食べないか?俺金少ないから、悪いけど割り勘にさせてもらうけど」

 「あ、それでしたら私が全部出します!今日助けていただいたことのお礼の追加ってことで」


 カイラの遠慮を押し切って、彩菜のお金で二人は夕食(ファストフードチェーン店のハンバーガー)をも共にした。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?