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3章…第2話

「あー…気持ちよかったぁ…」


洗面室で顔を洗っていたところへ、腰にタオルを巻いた姿の聖也がバスルームから出てきてギョっとした。


聖也がうちに来て1週間。

朝シャワーが定番らしいが、ここで出くわすのは初めてだ。



「吉良さん、おはようございますっ」


「あぁ、おはよう」


挨拶を返しながら、その姿を目の端でもう一度見る…


…なんだかすごいぞ肉体美。


筋肉なら、俺だって程よくついている自覚はある。正直俺も、半裸になればこのくらいの色気は出るんじゃないかと思うものの…


確かまだ…18だったよな。

なのにこの、匂い立つような色気はなんだ?


「んー…髪伸びたなぁ…」


気づかれないようにチラ見したのはバレてない。聖也は濡れ髪を手櫛で整えながら、俺の横で鏡を覗き込んだ。


「吉良さんてぇ…髪、どこで切ってるんですかぁ?」


「俺は、青山の方で」


「そこって俺も行けますぅ?」


「まぁ…紹介すれば、予約は取れると思うけど」


チラリと時計を確認して、俺は聖也より先に洗面室を出た。


すると聖也も追いかけてきて、また質問を繰り返してくる。


「ねぇねぇ…そこって女の美容師さんいます?」


「どうかな。俺の担当は男性美容師だよ」


「えー…!髪って女の子に触ってほしくないですかぁ?」



聖也はそう言いながら、バスタオルを巻いたままの姿でソファに座って、足を組む。


そんな格好でそんなに大きく足を組むな…と言いたくなる。

モネが起きてきて、こんなあられもない姿を見せたくない。


「聖也くんさ、服を着たら?…そろそろモネが起きてくる」


「えっ!モモちゃんまだ起きてないの?」


「あぁ。女性にその姿を見せるのは失礼だろ?いくら従兄弟でも…

って、おい…っ!」


ソファから立ち上がる気配がして振り返ると、腰にタオルのままリビングを出ていく聖也。


何してんだアホなのか?

…俺は慌てて追いかけた。


「モモちゃ〜んっ!朝だよぉ」


ためらいなく俺たちの寝室のドアに手をかける聖也。


「ちょっ…待て待て待て!」


昨夜はしないかわりにいっぱい触った。俺の記憶が確かなら、モネは下着(下だけ)の状態で寝ているはずだ!


追いついて俺も寝室に入ると、ふんわりしたベージュのワンピースを着て、髪をクリップで無造作にあげた姿のモネが、ベッドの縁に座ってモコモコの靴下を履いている。


セーフ…!


が、聖也がモネの横に、ちょこんと座りやがった。


「…聖也!なんて格好してるの?早く服を着ないと風邪引いちゃうよ?」


「うん…今日寒いか暑いかわかんないから、モモちゃん一緒に服選んでぇ…」


またあざと可愛い顔でモネを見ている聖也。


どうやら…バスタオル1枚の姿に、モネはいい反応を見せてくれなかったらしく、作戦変更したとみた。



「しょうがないなぁ…確かに3月は、暑かったり寒かったりするもんね…」


聖也は嬉しそうにうなずいて、立ち上がったモネの手を、ドサクサに紛れて握った。



おいおい…そこ、手を繋ぐ必要あるのか?目の前の部屋へ行くだけだろうがよ?!


心の声は表情にも現れたらしく、モネは俺に「聖也の服選んだら、朝食のおにぎり作るね?」と首を傾げて見せた。


さっきの聖也のあざと可愛い姿と違い、モネの首を傾げる姿はひどく可愛い…。





キッチンでコーヒーを落としながら…ベーコンエッグでも作ろうかと思ってやめた。


ここにいても聞こえてくる…聖也の甘えた声に、耳を澄ませてしまう。


もしかして、選ぶだけじゃなく、着せてくれとか言ってるんじゃないだろうな…?!


悶々としながらドリップコーヒーの仕事を眺め、たいして広くないキッチンをうろつく。

そのうち、2人がこちらへやってくる気配がした。



「お待たせ…それじゃ今日は、チーズとたくあんを具にしたおにぎり作るね?」


「あぁ…新作だな」


この際、チーズとたくあんの掛け合わせがどんな味を生むのかはもう…関係ない。

モネが唯一得意なおにぎりを嬉しそうに握る姿を見ることが、俺の出勤前の楽しみだからだ。



そして俺は、なんでもない風を装い、フライパンに火をかけてベーコンを焼き、卵を落とす。



聖也に目をやってみれば、オーバーサイズの白いセーターに黒のパンツ姿で、すでにテーブルに座っていた。


…足の長さが際立っている。



「あ…吉良も座ってて。ネクタイに油飛んじゃうから…」


俺の横でおにぎりを握りながら、モネが少し赤い顔をして言う。


「うん…なんか顔赤いけど、どした?」


「…えぇっ?!」


思いがけず驚かれて後ずされば、テーブルに座っていつの間か頬杖をついてこちらを見ている聖也が、知った顔で話に加わった。


「モモちゃん、スーツ姿の吉良さんがあんまりカッコいいから、緊張してるんだよ?」


「ちょっと聖也…よけいなこと言わないでよ!」


「だってさっき言ってたじゃん。俺にズボン履かせながら…!」


いまだに俺にドキドキしてくれて、頬を染めるモネは本当に可愛い。

…可愛いが、今の俺は、聖也の言葉のほうが聞き捨てならない。


ズボンを履かせてやっただと?

聖也はバスタオル1枚だったはずだ。

もしかして、下着まで履かせたとか言うんじゃないだろうな…?



「もういいから!聖也は明日からちゃんと自分で服を着ること!」


やっぱりか…このあざとクソ男子が…



出来上がったおにぎりとベーコンエッグ、そしてあり合わせのフルーツをカットしてヨーグルトに混ぜた3品をテーブルに運んでゆくモネ。


テーブルについた聖也と、何やら話をしている。


その表情は至って平然。

まったくテレはない。


ほぼ裸の聖也に服を着せてやったのにテレはなく、スーツ姿の俺には赤い顔になる…


まぁ…悪くない朝だと思ったのは、俺だけの秘密だ。



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