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3章…第8話

「お前何言ってるのかわかってんのか?…あ?」


「別に…いくら愛しい恋人だとしても、たまには新しい女はさまないと、飽きるだろうから言ったまでですよ…!」


俺の険しい目を見て、慌てて視線を下げるくせに生意気なことを言う聖也。


「…クソガキ…がっ」


無意識に聖也の前髪を掴み、下を向いてヘラリと笑う顔を無理やり上げさせた。


俺としっかり目を合わせると、たったそれだけのことで、聖也はガタガタと震えだす。


それなのに…まだ言い足りないのか、それとも虚勢なのか。


…聖也のくだらない持論は続いた。


「モ…モモちゃんだって…もしかして裏では何やってるかわかんないじゃないっすか?」


「…なんだと?」


「結婚をする前に、見辺調査しましょうか?俺、得意っすよ」


「…お前そのぐらいにしとけよ?」


つかんだ前髪をグイっと引くと「いてて…!」と声を上げる。


「ここでどうしてモネの話になるんだ?」


「だって…吉良さんの弱点でしょ?」


俺は掴んだ前髪を離し、かわりに顎をグイっと掴んで上を向かせた。


「モネがどれだけお前を可愛がってるかわかってんのか?

…わかっててそんなクソみたいな事を言うなら…とっとと実家に帰って、もう2度と顔見せんな!」


掴んだ顎を押し出すように離すと、聖也はバランスを崩して尻餅をついた。


俺は座り込んだ聖也を無視して脇をすり抜け、マンションに戻りながら…


少しずつ冷静になった。




やべー…

告げ口されたらモネに怒られるかも…




「どうだった?見つかった?」


玄関を開けると同時に、玄関まで小走りにやってきて、早速聖也を心配するモネに出会う。



「あぁ…まぁ、ね」


ハッキリしない返事を返しつつ…ムカつくから前髪を引っ張って、顎を掴んで押し出したら尻餅をついた…とはなかなか言えない。


…すると、背後に人の気配がした。



「モモちゃん…俺、吉良さんに髪の毛引っ張られて、転ばせられたんだ」


そう来るか…

こりゃ、思った以上にクズだな。



振り向くと、そこには当然聖也がいて、目に涙をためる…という芸当をしている。


悪かった頃の俺なら一発殴っていた。…それを躊躇したから、聖也はまだ俺を舐めてるらしい。


向き直ってモネを見る。

ホントなの?!…って、怒って詰め寄られると覚悟した時…



「…なに言ってるのよ」


見るとモネは涼しい顔で、口元には笑みまで浮かべている。

余裕綽々…といった風情で、腕組みまでしはじめた。


「本当だよ…こう…急に前髪捕まえてさ、ギュウギュウ引っ張たんだ。…将来俺がハゲたら吉良さんのせいだ…」


「人のせいにしないの!私たちのおじいちゃんは髪が薄かったでしょ?聖也がハゲたら、吉良のせいじゃなくておじいちゃんのせいだよ?」


…話があらぬ方向に曲がっていく気配…


「…違うな…おじいちゃんも好きでハゲたわけじゃないもんね…ということは、ひいじいちゃん、いや…そのまた前の、前の…」


視線を上に泳がせて考えるモネがたまらなく可愛い…


このままにしといたら、どこまでじいちゃんを遡るだろう。


ニヤけながら様子を見ていると、意外にも早いところでじいちゃん問題にケリをつけ、ワタワタと話を戻した。



「…とにかく!吉良は理由もなく怒ったりする人じゃないから」


得意そうな表情で微笑むモネは、すでに女神…


後ろにいる聖也をチラッと振り返って笑いかけ、俺は悠然とモネの肩を抱いて、部屋に入った。


わかったか…?

モネの一番の愛情は、俺に注がれてるってこと。





…「ごめんなさい」と、聖也が謝罪してきたのは、翌朝のこと。



「モモちゃんが俺の肩を持たないなんて…ちょっとショックだった」


出社の準備をする俺に、金魚のフンよろしくついて回り、反省の弁を述べる。



「俺が見たことは、モネには内緒にしてやる。その代わり、1つだけ吐け」


「…な、何を?」


「お前、キミちゃんに何した?」


…モネが気にしていたことを、俺が忘れると思うか?舐めんなよ。



「そ、それは…その…キミちゃんっていうか、妹のユミに告白されて断ったんだけど、ちょっと1回…その…」


「1回…遊んだのか?」


「いや、最後までヤッたわけじゃない!」と、途中で逃げられたが、内容はわかった。



なるほど…それでキミちゃんは、あんなに怒っていたのか…。



「謝りに行けよ。ウサギゴリラって、あの雑貨屋を経営してる。もしかしたらキミちゃんが出てくると思って、昨日逃げたんだろ?」


「…」


…下を向く顔が、当たりって言ってる。


「行って、ちゃんと謝ってこい。それができたらお前からの謝罪も受けるし、モネにも内緒にしておく」


それで話を切り上げたのは、キッチンでおにぎりの準備を始めたらしいモネの姿を見たいからだ。


……………


モネは今日も、聖也の物件探しに付き合うという。


2人きりで出かけるのは面白くないが、ここはもう、仕方ない。


「行ってきます…!」


俺は異様に見開いた目を聖也に向け、無言の圧力をかける。


「行って…らっしゃい、です」


…反省はしているらしいし、キレた俺に、まぁまぁビビってはいるようなのでまぁ…いいか。




…そんな余裕がなくなったのは、会社に到着してから。


昨日任せた仕事の進捗を聞こうと、歩を探した。



「あぁ…彼女なら、今朝から出張に行ってもらったよ」


課長に告げられ納得しかけて…



「え、ということは…俺も?」


「そうだね。綾瀬くんいないと、まとまる話もまとまらないから!」


笑顔に笑顔を返しながら、俺が瞬間的に思ったのは、こっそりモネを連れて行くこと。


…当然だろう。

出張ということは、マンションにモネと聖也を2人きりにして残していくということだ。


あの豹柄タンクトップの女性とのキスシーンを思い出して、身震いする。


可愛いふりした…聖也は狼だ。


絶対、2人を残してこのまま出張に行くことはできない…!


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