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3章…第7話

ベッドのシーツを触ると、まだ温かい。…ということは本当に横になっていたのか。


さっきの音は、玄関を出ていった聖也のものだろう。


とっさに俺は、携帯だけ持って聖也を追った。


マンションを出てどちらに行ったのか…賭けだったが、とりあえず少し先にコンビニがある方の道を進んでみる。


先を急ぎながら、聖也が出ていったのであとを追っていると、モネに連絡をしておいた。


風呂から出てきて俺がいなかったら心配するだろうという配慮。

…俺も多少は成長したと感じる瞬間。




…コンビニが見えてきた。


白いセーターを着ていたので、夜道でも見つけやすいと思ったが…こんなにあっさり見つかるとは思わなかった。


聖也はコンビニで誰かと落ち合ったようだ。


近づいて声をかけるつもりだったが…ちょっと待てよ。



…見るからに年上の女性。

豹柄のタンクトップに赤いミニスカート、ロングの黒い髪をなびかせていて、ちょっと派手な感じだ。


聖也は親しげに女性の腰を抱いて、駐車場に停まっている1台の車に乗り込んだ。


走り去る前に声をかけようと近づくと、恐れ入った…


決して暗がりとは言えない車の中。コンビニの明かりを存分に取り込んだ車内だというのに、ディープキスを始めたのだ。



「…アホか。こんなとこで盛るなよ…」


いくら俺でも、モネにこんなところでキスを迫れない。

恥ずかしがるだろうし、こっちもモネのキス顔を煌々と灯る明かりの下、人にさらすなんて絶対に嫌だ。


そんな思いが男の共通意識だとしたら…この女性は聖也の大切な人ではないのかもしれない…


続くキスに呆れながらも、車が発進してからでは遅いと、運転席に座る女性の方から車の前方に回った。


そして助手席に座る聖也の方へ回ったが…キスに夢中で、車の周囲をぐるりと回った俺に気づかない。


それにしても…この女は誰だ?

彼女にしては年齢差がありそうだが。


その時、ちょっと視線を動かした聖也と目が合った。

俺は片手を上げて合図をしてみせると、慌てて女と離れる。


聖也が開ける前に助手席のドアを開けたのは逃走防止のため。



「出かけるならひとこと言ってくれないと。心配するだろ」


先に答えたのは女の方だった。



「…え。誰?リッキーのお兄さんとか?」


リッキー…って、誰だ?

…嫌な予感が膨らんでくる。



「いえ、私は彼の…ちょっとした知り合いで」


チラッと目を合わせ、その後は顔を伏せた。



「だったら…チェンジしていい?こんなカッコいいお兄さん、初めてなんだけど…」


やっぱりそうか…という思いと、まさか…という思いの真ん中で、一瞬言葉に詰まる。


それは聖也より俺のほうがカッコいいと認められたから嬉しい…とかではない。




「チェンジって、どういう意味ですか?」


本当はよく知っているが、ここは認識の相違を防ぐため、相手に聞いてみることにする。



「今夜の相手をしてくれるお兄さんを変えて欲しいってこと。…え?お兄さんも「SHALALA」の人よね?」


「あー…」


とっさに「SHALALA」を検索してみると…やっぱり怪しい場所だ…


聖也はタバコをふかしはじめた。

ふてくされたように俺を見上げる姿は、子犬みたいにじゃれついてきた聖也とは、まるで別人だ。


まぁ…こっちが本性を現した姿だということなんだろうが。



「すいませんが、俺は店の者じゃないので」


豹柄の女性に断ると、ちょっとむっとしてから聖也の腕を取って揺らした。



「…どうするのよ。ねぇ…リッキー…」


俺がいて車を出せないし、リッキーと呼んだ聖也は機嫌が悪そうだし、女性も困ったのだろう。



「…わりぃけど、今日は無理だ」


「えぇ?さっきコーヒー買ってあげたのに…!?」


女性は機嫌を損ねたようで、聖也を車から乱暴に追い出すと、急発進してその場を去って行った。



俺たち2人は、コンビニの明かりの前に放り出された。


タバコを吸っていた聖也は、短くなったそれを親指と人差し指で持ち、ギリギリまで吸うつもりか…何度もタバコをくわえる。



「…なんでこんなことやってるの?」


「は?…!」


「性感?…高校出たばっかりだろ。さすがにマズくねぇか?」


「…知らねぇし」


やっとタバコを手放したが、それは当然のように道路の上。

俺は、その吸殻を足で踏み潰すと、拾ってゴミ箱に入れる。


「喫煙や飲酒は、20歳からだろ?捕まるぞ」


聖也は俺の隣で腕を組むだけで何も言わないが、その横顔には面白くないと書いてあるのが見えるようだ。


「うちで預かってる以上、酒もタバコも性感も、控えてもらわないと困るな」


モネの従兄弟で…幸せそうな顔をしていたが、実はいろいろあるのかもしれない。


ふと、当時の自分を思い出していた。



「目的は金ね?うちの母親、俺をいつまでも子供だと思っててさぁ…小遣いが少ないんだ。…で、時々東京出てきて、さっきみたいなおばさんの相手してやるわけ」


俺がちらりと目を向けると、聖也は楽しそうに話を続けた。


「性感なんてさ、拘束時間…あってないようなものなんだよね。要するに、満足させりゃいいわけ」


らくしょーよ!と笑う聖也。

…弟のように思って、一生懸命面倒を見ていたモネがこれを知ったらどう思うだろう。


それに…


「…悪いことは言わない。金になるからって、そんなバイトはやめた方がいい」


真剣に言った俺の言葉は、今の聖也には響かないだろうし、わからないだろう。

でも、言わずにはいられなかった。


「…吉良さんこそ、副業にどうっすか?絶対指名取れますよ!?」


下品な笑顔を浮かべて言う聖也。


「モモちゃんには内緒にしときますから…!」


ウィンクしながら人差し指を口元にまっすぐ立てて…秘密のポーズをつくる。


「ふざけんなっ…!」


久しぶりにカッとして、自分でも険しくなっていくのがわかる目を、隣の男に突き刺した。


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