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鬼龍と凛々子の恋物語⑤

Side.鬼龍




「次は…モネちゃんのご両親への手紙な?」


「あ…うん。わかった」


淡いグリーンのタイトなドレスを着た凛々子。


数年ぶりに再会してからずっと思ってたけど、こんなに綺麗な子だったかな。


2人で打ち合わせをしながら、どさくさにまぎれて聞いた。

…どうも、付き合ってる奴はいないらしい…




「…新婦、桃音さんから…ご両親に向けて、お手紙が届いております」


BGMが静かな音楽に変わり、モネちゃんと吉良が、両親の席へと歩み寄り、スポットライトがそれを追う。



「お父さん、お母さん…桃音は今日、お嫁にいきます…」



…それだけ言って、モネちゃんは胸がいっぱいになったようだ。


はじめから全部読める気がしないと言ってたモネちゃん。

その場合、続きは…


「大好きな人の隣に立つ幸せを噛み締めながら、これまで支えてくれた家族に…家族に…」


マイクに、鼻をすする音が入る…


ヤバいな。ピンチヒッターの凛々子まで泣いてる…


「ありがとう…と、心からの思いを、伝え…ます」


震える涙声で、凛々子がなんとかそこまで読む。


見ると…モネちゃんや両親はもちろん、招待客のほとんどがハンカチを目に当てていた。


思えば、凛々子の両親はすでにこの世を去っている。

両親への感謝の手紙なんて読ませるのは、酷だったか…



「…もういいよ、凛々子」


背中を少し撫でて落ち着かせてから、マイクに向かう。


手紙は全部読めていないが、もしもの対応は考えてある。



「新郎新婦からご両親へ、感謝の花束贈呈です」


…意外にも、吉良の母親もハンカチを目に当てている。継父の二階堂さんも緊張した面持ちだ。


2人から両家への花束贈呈は、割れんばかりの拍手が巻き起こった。


最後に吉良が締めくくる。



「愛して、大好きで、惚れて、愛しくて…桃音と共に歩める幸せを、噛み締めております。これからの人生は彼女のために。ここに宣言して、お開きとさせていただきます。

本日は私たち2人のためにお集まりいただき、本当にありがとうございました」


ベタ甘なことを平然と言って…うまいこと盛り上げながら、スッキリ終わる吉良の口のうまさに笑ってしまう。


頭を下げた2人が向き直るのを待って、俺たち司会進行も招待客にお礼の言葉を述べ、その役割を終えた。



「…ごめん。ちゃんと読めなかった…」


俺に、吉良たちに謝る凛々子。


「いいんです!…あの辺で終わってくれなかったら、本当に涙が止まらなかったからちょうど良かったって、お母さんも言ってました!」


笑う2人に、まだ眉を下げている凛々子。


普通に可愛いし、性格いいな…って思ってる自分に気付いた。





「上に部屋取れるらしいんだ…どうする?」


その後のパーティーを伝え、今夜の宿泊について聞いただけで、変な意味で言ったわけじゃない。


けど、もしかしたら…勘違いを期待してたのかもしれないと、今なら思う。



「泊まりたい。…鬼龍と」


そう言われた時は、久しぶりに心臓がびっくりしたように飛び跳ねるのを感じた。


一応、そんな意味で言ったわけじゃないと言ったのは、別に保身のためじゃなく…確かめたかったから。



「だから、鬼龍と同じ部屋に泊まりたい」


赤くなってる…

2度も言わせた自分を少し反省した。


凛々子の赤みの刺した顔を見て、跳ねた心臓が大きく鼓動を早めたのは言うまでもない。



「…凛々子がいいなら、断る理由は、俺にはない」


もっと知りたい。凛々子を。

それに…凛々子に、知ってほしい。

俺の体のこと。



…お互いに、とっくに大人だ。

取り繕うほうがカッコ悪い。


そういう目で見たことがなかった同級生に、今の俺がどう見えているか、気になったけれど…


凛々子の素肌を見て…触れて、冷静でいられるはずがないと、早々に負けを認める。


…人肌なんて、何年ぶりだ。


柔らかくうねる体は、俺の心を大いに乱した。


それは…欲だけではなく、確実に愛があると、胸の高鳴りが教えている。



…正直、もしかしたら…という思いはあった。


あれから数年たち、心の傷はとっくに癒えたはず。


思い出すこともなかったし、思い出しても、冷静でいられた。

モネちゃんに、例え話として話せたくらいなんだから、とうの昔に起きた出来事でしかない。





「…凛々子のせいじゃないから」


体は、機能を取り戻せなかった。




せめて、自分のせいだなんて思ってほしくない。



「いろいろと、自分の感情を無視してきたツケが回ってきたってことらしい」


「無理しなくていいよ…」



優しい声に、確かな愛を感じた。

でもまさか…男としての機能をなさない俺に、本気で言ってるのか…



「凛々子…?」


「裸になってくれてありがとう…」


俺の胸に頬を寄せる凛々子。

どこか冷えたままの体に、早々に気づかれていたのか…



「…抱き合えるだけで幸せなの…こうしてるだけで、いいよ」


凛々子は自分から俺の首に腕を絡ませ…甘くて激しいキスをしてきた。


それは…驚くほどの官能で…



「あぁ…凛々子…」


ほんの少し唇を離して…その名前を呼びたくなった。

俺を抱いているのが誰なのか、確かめるように…


答える代わりに、触れてくる唇は熱くて…自分でも知らなかった感情が湧いてくるのを感じた。



「…ヤバい、クセになる…」


俺の機能を救ってくれるかもしれないとか、そんなんじゃない。


そんなこと、忘れるほど…凛々子に触れたくなった。


俺には見せて欲しい。

昂り、果てる表情を…



「…っ…鬼龍…好き…大好き」


甘いのに、苦しそうな表情で…好きだと言われた衝撃は大きかった。

俺に、わずかな変化が起きた。



「凛々子…可愛いよ…」



まさか凛々子が、俺の運命の女神だったなんて…。



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