パーティーが終わって…モネちゃんと吉良と、ホテルのエントランスまで一緒に戻った後…
「俺らは酔い覚ましに、ちょっと散歩するから」
吉良の言葉に、鬼龍は優しく微笑んでうなずく。
「…行こう」
背中に当てられる、鬼龍の手。
全神経が集中して、時折指先が動くのを感じる。
部屋に入って、ドアが閉まる音が、やけに大きく感じた。
「…俺は、凛々子を利用しようとしてるんだよ?」
手を引いて、まっすぐベッドに連れて行かれた。
この時はその言葉の意味なんてわからなかった。
ただ…ずっと好きだった鬼龍と2人きりだということが、嬉しくて…泣きそうで…ドキドキして。
ベッドの端に腰を下ろして、鬼龍は上着を脱いで、近くの椅子に放る。
ワイシャツのボタンに手をかけた時、私も脱ぐべきかと…背中のジッパーに手をやった。
「脱がせる…?自分で…脱ぐ?」
いつも変わらない穏やかな言い方だったけど、その言葉を聞いて、私はこれから…鬼龍に愛されることなく抱かれるんだなって…実感した。
「…じ、自分で…」
本格的に背中のジッパーに手を伸ばした。
「…届かないだろ?」
左手を私の肩に置いて、右手をジッパーにかける。それは抱きしめられるような感覚で、近寄ると香る鬼龍のコロンを初めて感じた。
すっ…と下ろされれば、キャミソールなんて着てない私の素肌が晒される…
肩から…滑るようにワンピースが落ちてきて…パープル色の服に合わせた下着があらわになった。
いつの間にか、鬼龍もワイシャツを脱いで、スラックスのベルトとボタンを外した状態で…私を押し倒した。
何度も、何度も…唇を合わせた。
優しいけれど、どこか余裕がない。
そんな鬼龍は初めてで…そんな鬼龍を感じることができる距離が、幸せだった。
触れ合って、滑り込んだ舌は熱くて、私も夢中で絡ませた。
忘れない…
鬼龍との初めてのキス。
そして多分、最後のキス。
ちゃんと覚えておきたいから…もっともっと…して欲しい。
たいして経験があるわけじゃないのに、私は多分すごく大胆だったと思う。
好きな人に触れられる幸せで、私はとっくにおかしくなってた。
でも…さすがに初めての経験ではないから、どこか熱が上がりきらない鬼龍を感じていた。
「…凛々子のせいじゃないから」
すでに身にまとうものをすべて無くしていた私たち。
鬼龍の言葉の意味はわかった。
「いろいろと、自分の感情を無視してきたツケが回ってきたってことらしい」
こうなることは予想できていたのに、鬼龍は私と同じように身にまとうものを脱ぎ捨ててくれたのかと思うと、嬉しかった。
「無理しなくていいよ…」
「凛々子…?」
「裸になってくれてありがとう…」
それは、屈辱だと思うのに…私にすべてをさらけ出してくれた。
それが、嬉しかった。
「…抱き合えるだけで幸せなの…こうしてるだけで、いいよ」
私は自分から鬼龍の首に腕を絡ませた。
そして戸惑うような鬼龍の唇を奪う。さっき鬼龍がしてくれたような…甘くて激しいキスを真似て、唇を、舌を動かしてみた。
「あぁ…凛々子…」
ほんの少し唇が離れて、切ない鬼龍の声が私を呼んだ。
「…ヤバい、クセになる…」
その言葉の意味はわからなかった。でも…何を言われても今日は嬉しい。耳に焼き付けておく…鬼龍の低い声…
体を貫く指に高められて…初めて感じる感覚を教えられた。
「…っ…鬼龍…好き…大好き」
ずっと言えなかった言葉。
気づかないふりして、なかったことにして、言い訳を付け足して…
ずっと言えなかったのに、取り繕うものがなくなると、こんなに素直に言葉になるんだって…初めて知った。
「凛々子…可愛いよ…」
耳元で言われた言葉を…私は一生忘れない。
………
鬼龍は体温が高い人なんだと知った。
いつも、体が冷えて目覚める事が多かったのに、隣で眠る人はすごくあったかい…
「…冷えなくて、ありがたい…」
ちょっと体を寄せれば、素肌と素肌が触れ合う。
たくましい腕が絡まって、私の背中にたどり着いた。
同時に、長い足も絡まってくる。
「…夏は暑いって言わない?」
「え?…鬼龍のことを?」
くすぐるようなキスをされて、反射的にその顔を覗き込んでしまった。
「暑いから一緒に寝ないとか…言うなよ?」
「なに…それ」
「…わかんない?」
まだ春になったばかりなのに、どうして夏の話?
「もう離せないって言ってんの」
「…離せない?」
ベッドで寝ながら、横を向いて顔を合わせる鬼龍の唇が弧を描く。
「凛々子が可愛すぎて、もう離せない」
…神様…こんなことが、あるのでしょうか…。
「…鬼龍、大好き…」
「うん。知ってる」
「…いつから気づいてたの?まさか…中学の時から…」
「…は?中学の時から?」
やば…そこまではさすがに遡ってないみたい…
「さっき、好きって言ったろ?イキながら…」
イタズラっぽく笑う鬼龍の胸を…叩いた!
初めての感覚に、我を忘れたみたいで恥ずかしい…
「中学の時から俺のこと好きだったんだ?…早く言えよ」
「そ…そんなの…」
「凛々子だけは椎名推しにも吉良推しにもならなかったから、こりゃ1番趣味悪く憂推しかと思ってたのに、まさかの俺とはな」
饒舌な鬼龍。
私が好きだったこと、少しは嬉しく思ってくれてるのかな…
「ずっと、言えなくて…高校も本当は、鬼龍が行くから選んだ高校だったんだよね…でもあんまり話せなくて、卒業しても忘れられなくて…ずっと、心のなかで思ってた」
頬をスルリと撫でて、熱い視線が向く。
「司会進行の手伝いに誘ってくれて、気持ちを打ち明ける最後のチャンスだと思ったの。今こんなふうに近づけるのは…最初で最後だと思ってた…」
話すうちに、涙が溢れてきた。
「なーに可愛いこと言ってんの…」
親指で涙をぬぐって、そのまま自分の腕の中に閉じ込める鬼龍…
抱きしめ合う体が、熱くなったことに気付いた。