「なるほど……探索者の方々が活躍できるようになれば、商売相手も増えるのは道理です」
おれが説明すると、フィリアは納得してくれたようだ。
「そうそう。人数は『特殊害獣狩猟士』を持ってる人よりずっと多いんだ。なのにみんな、美幸さんみたいに中を進めなくて仕事ができてない。これは大きいよ」
「確かに……。
「探索者が活躍するのに必要なことを探る、いいチャンスなんだよ、これは」
「それならわたくしも賛成です。一条様に下心がなくて良かったです」
「いや、下心は正直あるよ。今後、顧客になってくれるかもって下心がね。ま、単に人助けがしたいっていうのもあるけど」
「それなら、ますます良かったです。そういう下心は大歓迎です」
にっこりと笑うフィリアである。その笑顔にひと安心だ。
「よし、話は決まった。美幸さん、おれたちと一緒に行こう。もともとの用事があるから途中、一旦抜けるけど、その間はフィリアさんと紗夜ちゃんが守ってくれる」
美幸は心底嬉しそうに手を叩いた。
「ありがとう! えぇと、フィリアちゃんと紗夜ちゃん? ふたりとも、よろしくぅ!」
「はい、よろしくお願いいたします」
「あ、あたしも、よろしくです。勉強させてもらいますっ」
話もまとまったところで、おれたちは4人で
◇
「わあっ、これが鉱脈ってやつ? 初めて見たぁ!」
探索をして1時間弱。鉱脈を見つけて、美幸ははしゃいでいた。嬉しそうに体を揺らすたびに、胸元がぽよんっ、と弾む。
いやほんと視線を持っていかれて、周辺への警戒がおろそかになっちゃうから勘弁して欲しい。
「見すぎですよ、一条様」
「いやでも、護衛対象だし、貴重な探索者のサンプルだし、目を離しちゃダメだよね?」
「末柄様はわたくしが見ておりますから、一条様は葛城様と一緒に周辺警戒をお願いいたします」
「はーい」
美幸はハンマーとタガネで鉱脈を砕きにかかる。砕いた鉱石をスコップですくい、厚手の袋に詰めていく。それが一杯になったらバックパックへ。
鉱脈が全然割れない様子や、すぐ汗まみれになる姿、鉱石を詰めた石を持つとふらつくあたり、やはり体力がない。
そんな女性が、なぜわざわざ
「理由は、あれかな……?」
美幸の左薬指には、指輪のあとが残っている。あくまで
だが彼女が話そうとしない限りは、詳しく知る必要はないし、知ろうとも思わない。彼女は自分の意志でこの
「先生、これちょっと厳しいですぅ〜!」
採掘の音に引かれて、絶え間なくエッジラビットがやってきている。
対処は難しくないが、さすがに疲れが出たか、紗夜は弱音を上げている。それでもナイフ1本でよくやっている。
おれは天井から無音で迫るステルスキャットに対処しつつ、紗夜の援護に入った。
「紗夜ちゃんは一旦下がって、フィリアさんと交代だ。美幸さんをそばで守ってあげて」
「わ、わかりましたっ」
下がった紗夜の代わりに、フィリアが前に出てきて肩を並べる。
「美幸さんは、どんな様子だった?」
「ちらちらと見ていたので、知っておいででしょう?」
「ヤキモチ妬かないでよ。観察は冒険者の基本で、癖みたいなものなんだ」
ぼっ、とフィリアは頬を赤くした。
「や、ヤキモチなんて! もうっ、戦闘中に冗談はやめてくださいっ」
多数のエッジラビットの対処は面倒だが、幸いなことに、ウルフベアまでは出現しない。あの
逆に、こうして長く一箇所に留まっていると現れるのは……。
「先生! 初めて見る
おれとフィリアがカバーしていない方向から、のそのそと四足の
ミュータスリザードだ。頭から胴まで1メートル以上、尻尾を含めた全長は2メートルを超えようかという大型のトカゲだ。
インドネシアに生息するコモドオオトカゲに似ているが、この
「ひゃあっ!?」
ミュータスリザードの吐いた粘液をモロに喰らい、紗夜はひっくり返った。
「熱っ、うっ、え!? うごっ、動けないです〜! わあっ、やだやだやだっ、来ないでぇ!」
「トカゲさん、来ないで! 来ないで!」
凝固した粘液で動きを止められた紗夜に、ミュータスリザードが迫る。美幸が手元の石を投げつけるが、当たらないし、当たってもびくともしない。
「美幸さん下がって! おれがやる!」
他の
すぐさま粘液を吐かれるが、よく観察すれば回避は容易い。
粘液を充填するため喉が蠢くのだ。それから口を開け、息を吸うような間のあとに吐き出される。
数回も回避していれば、吐く動作をしても粘液が出てこなくなる。生成していた分を使い果たしたのだ。次に吐けるようになるまで、数時間はかかる。
こうなれば、もはや大きいだけのトカゲだ。
おれは一気に距離を詰め、一息に首を切断した。
「よし、そろそろ休憩にしよう。美幸さん、いいかな?」
「う、うん。それはもう……やっぱり格好いいのね、リアルモンスタースレイヤーって」
「一条拓斗ですよ」
「ええ。素敵よ、一条くん」
フィリアはすでに他の
「それより先生、助けてください〜っ!」
身動きできなくて涙目の紗夜である。懸命にジタバタしているのが不憫だが可愛い。
「ちょっと待っててね。気持ち悪いかもだけど、すぐ助けてあげる」
おれは撃破したミュータスリザードの腹を裂き、とある内臓器官を取り出した。