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第82話 さぁて、次はなにを作ろうか?





「おれはシュフィール。ショウ・シュフィールと名乗りたい」


「ショウさん? その家名は、わたしの……」


 おれは王に一礼してから、目を丸くするソフィアと向かい合った。


「ソフィア。この前、君に贈ると約束したアクセサリーだ。受け取って欲しい」


 取り出した物をひと目見て、ソフィアは口元を手で覆い、頬を紅く染めた。


 おれはソフィアの左手を取り、薬指にその指輪を通す。


「おれと結婚してくれないか。君を幸せにする」


「ショウさん……」


 ソフィアは目を細めてゆっくりと指輪を眺める。


 やがて微笑みを浮かべる。


「めっ、ですよ?」


「あ、あれ?」


 おかしいな。想像と違う流れだ。


 断られちゃう……?


「急にこんなこと言い出すなんて、ずるいです。ドキドキが溢れてきてしまいます」


「嫌だった、かな?」


「はい。嫌です」


「えぇ……」


「わたしばかりショウさんに幸せにしてもらうのは、嫌です。わたしにも言わせてください」


「う、うん?」


「ショウさん。わたしと一緒に、幸せになってください」


「おれなら、君と会えたときからずっと幸せだよ」


「わたしだって、本当はずっと幸せでしたよ?」


「なら……これから一緒に、もっと幸せになろう」


「はい、一緒です。求婚を、お受けいたします」


 ソフィアはおれに体を預けてきた。優しく抱きしめ合う。


「ふたりとも、おめでとぉおお〜!!」


 ノエルが勢いよく飛び込んできて、おれたちふたりに抱きついてくる。


 三人揃って倒れそうになるのを、アリシアが抱き止めてくれる。


「おめでとう、ふたりとも。我が事のように嬉しいぞ!」


 それを見ていた王が笑顔で拍手を始めると、その場にいた親衛隊や医療班、観戦者たちも手を叩き始めた。


 祝福が降り注ぐ中、王は愉快そうに口を開く。


「めでたいことは重なるものだな。ふふふっ、お前たち、ますます気に入ったぞ。式の手配は余に任せよ。希望があれば、なんなりと申すのだ」


「でしたら、場所だけ希望があります」


 言って、ソフィアはおれに綺麗な黄色い瞳を向ける。


 その仕草だけで、おれにも意図は伝わった。同じ気持ちだ。


「それはどこだ?」


「ガルベージ領のディブリス教会です」


「おれとソフィアを結びつけてくれた人と剣が眠る教会です」


「わかった。あとは任せておくがいい」


 そして王は両手を高く掲げて、周囲の者たちを煽った。


「さあ、我が国の新たな家族に再び祝福を!」


 万雷の拍手と歓声は、いつまでもおれたちを祝ってくれていた。



   ◇



 決闘場からの帰り道、おれたちは朗らかな気持ちで歩いていた。


 これから射出成形インジェクション技術が国内で普及し、メイクリエ王国は経済危機を脱することだろう。


 職人ギルド長が変わったことや、汚職貴族筆頭のヒルストンが叩きのめされたことで、職人や貴族を取り巻く状況も、きっと良い方向に変わっていくだろう。


 あとはおれたちの話だ。


「ところで、貴族になるにあたって、ノエルとアリシアにも話があるんだけど……」


「えっと、その話はまた今度にしない?」


 ノエルは頬を染めて両手を振った。


「今日はさ、ショウとソフィアが主役でしょ。アタシたちのことなんて気にしないで、しばらくはふたりで幸せな時間を過ごして欲しいの」


「そうだな。水を差したくはない」


 アリシアも同調し、微笑む。


「でも待ってるから。アタシの気持ち、知ってるでしょ?」


 ノエルは情熱的な視線を少しだけおれに向けて、すぐ笑って目を逸らす。


「……わかった。ありがとう」


 アリシアはばあやになにか言われているようだったが、赤面しながら慌てて否定している。


「ふふ……っ」


 珍しくソフィアが声に出して笑った。


「わたし、みなさんと過ごすこういう優しい空気が、大好きです」


「おれもだよ」


 おれは空を見上げて、崖から投げ落とされた日を思う。


【クラフト】技能スキルでひとりで物作りを続けていたら、決して作れなかった空気がここにある。


「さぁて、次はなにを作ろうか?」


「まずは家庭を。それから——」


 ソフィアは満面の笑みで、楽しげに口にした。


「——またなにか、新しい物を」


 その響きに、おれの胸にはまたわくわくが宿るのだった。

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