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第85話 番外編⑬-1 学び始めたもうひとり





「おめでとう、ラウラさん。昇級試験は合格、今日から晴れてA級魔法使いだ」


「ありがとう。ボロミア先生のお陰ね」


 ロハンドール帝国魔法学院にて、冒険者向けの短期錬成コースを優良成績で修了したラウラは、発行されたA級ライセンスを受け取った。


「いや僕はただ、君がわからないと言ったところを教えてただけさ。ここまで向上心が高い人は、そういないよ」


「先生、いつもそんなこと言ってない? あたしだけじゃなくて、色んな生徒の勉強にも付き合ってて、いつ寝てるのって感じなんだけど」


「そこはコツがあるのさ。それに、助けを求められたら助けずにはいられないよ。そうすることで、また人を助ける魔法使いが生まれるなら、特にね」


「またノエルさんの話?」


 ボロミアは基本的にはいい先生なのだが、彼が好意を寄せる女性の話になると時々早口になって、その女性の魅力について長々と語ることがあった。


 まあ、そのノエルさんのお陰で、この短期錬成コースが開かれることになり、実際に何人ものA級魔法使いを輩出しているのだ。


 会ったことはないが、ノエルさんには感謝だ。ボロミアが熱心に語る人物像が本当なら、どんな苦難にも負けず、人助けのために魔法を使う天才だとか。尊敬に値する人物だ。


 ラウラは魔力回路構築をこれからの生業にしようと考えていたが、どうせなら自分や仲間のためだけでなく、世の中のためになにかしたいと思うようになった。


 だからボロミアのちょっと気持ち悪いノエル語りも、最近はいい感じに受け止めている。


 ノエルさんには会ったことがないが、彼女を見習って力を尽くしているボロミアも、やはり尊敬できて、魅力的だとラウラは思う。恋心のようなものはないが。


「……ところでラウラさん。君は美人だ」


 いつものノエル語りが始まると思ったのに、ボロミアは妙に真面目な顔でラウラを見つめて、そんなことを言った。


「えっ、なに急に!?」


 ラウラは不覚にも胸が高鳴る。悪くないと思った男から不意打ちされたのでは仕方がない。


「顔だけじゃなくスタイルも良い。話していてもサバサバしていて気持ちがいい。向上心にも溢れていて、人助けの尊さも理解してくれてる。うん、適任だ」


 ラウラは口説かれているのかと思ったが、なにか違う。適任ってなんだ、適任って。


「よし、ラウラ。ノエルを紹介するよ。君は彼女に教えを請うといい!」


「??? あのさ先生、話が見えないんだけど」


「ああ、ほら、うちはA級に昇級した魔法使いが望むなら、僕ら講師陣と一緒にS級昇級のために学ぶ機会を与えているだろう?」


「ああ、あたしも希望するつもりだったけど」


「ちょっとそれはやめたほうがいいと思ってね。最近、南のほうで、きな臭い動きが見られるんだ。なにか起こるかもしれない」


「なにかって……戦争?」


「……ここは本来、帝国軍人としての魔法使いを養成する機関だ。平時ならいいが、戦時ともなれば生徒たちにも戦ってもらうことになるかもしれない」


「だから学ぶ気があるなら、学院を離れてノエルさんに師事しろってこと?」


「そうだ。でも君に言うのは、それだけが理由じゃない」


「あたしが適任って話ね?」


 ボロミアは熱心な瞳で頷いた。


「ノエルが想いを寄せるショウって男がいるんだが……是非とも君の魅力で、やつをメロメロにして欲しい! そしたらノエルも目が覚めて、やつへの愛想が尽きるだろうさ! そこで僕が再びアタックして、ノエルのハートを射止めるのさ!」


「…………」


「君はノエルに学べる。僕はノエルと恋仲になれる。一石二鳥だ!」


 ラウラは深く長いため息をついた。


「ボロミア先生さぁ〜、そういうとこがなきゃ、割とモテると思うんだけどさぁ」


「僕はノエル以外にモテる気はないぞ」


「いやそのノエルさんに振られ続ける原因、絶対そこだから」


 ラウラの意見にボロミアは納得しなかったが、結局ラウラはノエルへの紹介状を持たされ、ボロミアの期待と共に学院から送り出されることになる。


「ショウさんねえ……。いい男ならあたしも考えちゃうけどさぁ……」


 でも恋愛のことを思うと、べつの男性を思い浮かべてしまう。


 ドキドキするとか、顔が熱くなるとか、一緒にいて幸せだ、とか。そういう感情とは違うと思うのだけど、ふとしたときに、彼とふたりで旅した日々を思い出してしまう。あの日々は、なぜだかこれまでで一番楽しかった。


「……エルウッド、元気でやってるかしら」

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