目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報

第91話 また新しい物が生まれます





「ショウ様、ソフィア様! 今日も参りましたわ!」


 正直なところ、サフラン王女の裁縫の腕前はなかなかのものだった。


 素直に褒めたのが、よほど嬉しかったのだろう。なにか新しく仕立てたら、おれたちに見せに来るようになった。


「今日はソフィア様のお召し物を仕立ててみたのですよ。さあさ、お着替えくださいまし」


「は、はい……」


 王女に背中を押され、メイドに別室へ連れられていくソフィア。


 やがて着替えてきた姿に、おれの目は釘付けになる。


 ソフィアの髪色に合わせた、淡い青色を基調としたゆったりとしたドレス。ソフィアの淑やかな雰囲気によく似合っている。


 天使とか小悪魔とか思ったことがあったが、今日は女神かな?


 見つめるだけのおれに、ソフィアは困ったように上目遣いになる。


「ショウさん、なにか、言ってください……」


「え、ああ……綺麗だよ。凄く……」


 ソフィアは顔を赤らめた。


「ありがとうございます。でも、あの、わたしではなく……王女様が作ったこの服について、です」


「あっ! そうか、そうだよね!」


 するとサフラン王女は楽しげに微笑んだ。


「いいえ、お言葉にしなくても結構ですわ。ショウ様の今の反応こそ最高の褒め言葉ですもの」


 弾むような歩みで、ソフィアの周囲を回って着衣の様子を確認。サフラン王女は、満足げにうんうんと頷く。


「このドレスはソフィア姉様に差し上げますわ。ショウ様とデートの際にでも、着てくださいな」


「ありがとうございます。ですが、あの……今?」


 王女はすぐ自分の言い間違いに気づいた。


「申し訳ありません。わたくしったら、つい、姉様と言い間違えてしまいましたわ……」


 恥ずかしそうにするサフラン王女に、ソフィアは目をきらきらさせて迫った。


「もう一度、呼んでくださいますか?」


「はい?」


「是非、ソフィア姉様と……。あるいは、ソフィアお姉ちゃんでも」


「えぇと……では……ソフィア姉様?」


「〜〜♪」


 ソフィアは言葉にならない喜びの声を上げた。


「すみません、王女様。わたしには兄弟がいなかったものですから、少々、そういった関係に憧れがあるのです。大変、失礼いたしました」


「いえ、謝らないでくださいまし。わたくしも、その……ソフィア様のことは、実の姉たちより、お慕いしておりますから。わたくしのほうこそ、ご迷惑でなければ……姉様と呼ばせていただけたら嬉しいです」


 ソフィアは本当に嬉しそうに目を輝かせる。


「もちろんです……! 嬉しいです、王女様」


「あら、ソフィア姉様。王女様だなんて他人行儀ですわ。サフランとお呼びくださいな」


「はい。サフラン……いえ、サフラン様」


「もう。仕方ありません。それで許して差し上げます」


 互いに笑い合うふたりを見て、おれは兄様なのかなぁ、とか思ったりする。


 夫婦水入らずの休暇とはいかなくなってしまったが、妹ができたみたいで、これはこれで楽しいものだ。


 そんな日々が続いたある日。


 おれとソフィアは、なにか新しい物作りのアイディアはないものかと、ソフィアの生家に備え付けの工房で新素材をいじっていた。


「新素材ってさ、なんか、違う使い方ありそうだよねー」


 のんびりと、溶けた新素材を棒でつついたりする。


「はい。射出成形インジェクションでも作れない物はありますし、他の活用方法も見つけておきたいところです」


 とかふたりで話していると……。


「あら、おふたりとも今日はこちらでしたのね?」


 今日も今日とて、サフラン王女が来訪する。もうすっかりお馴染みだ。


「それが噂の新素材ですの? 独特な匂いと……まるで図鑑で見たスライムのようですわね」


「そう見えて高温ですから、お気をつけください。触ったら火傷してしまいますから」


「もし興味があるようでしたら、この棒でつついたりするといいですよ」


 ソフィアが火かき棒をサフラン王女に手渡す。


 王女は興味深げに、溶けた新素材をつっついたり、伸ばしたりする。


「不思議な感触ですわ……あら、引き伸ばすと糸のように伸びていくのですね」


 くるくると回転させて、糸のように伸びきった新素材を棒に巻き付けていく。


「この糸で布を織ったり、服を縫ったりはできませんの?」


「……!?」


 おれとソフィアは、その発言に息が止まった。王女を見つめて固まってしまう。


「お、おふたりとも? どうかなさいましたの?」


「それだ!」


「それです!」


 おれたちは顔を見合わせて、にんまりと笑顔になる。


「どれですの?」


 ソフィアは首を傾げるサフラン王女の手を取った。


「糸です。新素材で糸を作るのです」


「ソフィア、すぐおれたちの工房へ行こう! ノエルやアリシアにもすぐ声をかけよう」


「はい! サフラン様もご一緒しませんか? また新しい物が生まれます」


「よくわかりませんが、姉様が行きますのならご一緒しますわ」


 おれたちはさっそく馬車を手配し、アリシアの屋敷へ向かうのだった。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?